インド初代首相ネルーの著書『インドの発見』のドラマ化。1988年インド製作。1話約
40-60分全53回。(全回タイト
ル一覧表はこちら)。今回はグプタ朝時代から10世紀くらいまでの間を扱う17-23話です。政治史は殆ど登場
せず、筋のある展開は、劇中劇を扱った17-19回で、それ以降の回では、筋らしい筋も無いようなので、20-23話につい
てはあまり内容がわからなかったので、概要だけ記載しました。 第17回 古典時代 60'45" (9046) この回は、最初の15分間、ネルーがサンスクリット劇について解説し、その後45分間は、4世紀の戯曲『土の小車(ムリッ チャカティカー)』のドラマ化です。 冒頭のネルーの解説では、サンスクリット劇に登場する六つの季節の解説と各季節の風景の映像が流れます。六つの季節とは、 夏雨季秋冬寒季春。最後の春(ヴァンサンタ)が、『土の小車』の主人公ヴァサンタセーナーの名前に繋がっている、ということ で物語が始まります。 この『土の小車』は、宗教や神話・王侯を題材とした古代インドの戯曲にあって、殆ど唯一市井を題材とした貴重な作品です。 邦訳が筑摩書房の『世 界文学大系〈第4〉インド集』(1959年)に収録されていて(p183−274)、文庫であれば、200頁程 度に収まりそうな中篇です。是非文庫で復刊して欲しいと願っている書籍のひとつです。こんなに面白いのになぜ復刊しないので しょうか。立ち上がり、少し入りづらいところがありますが、途中からぐんぐん引き込まれ、一気に読ませる内容です。今回のド ラマで残念なのは、筋を簡略化し過ぎている点です。通常なら、原作の戯曲を読んで、面白かったら是非ドラマも見てみてくださ い、と宣伝するところですが、このドラマについてはできそうにありません。むしろ、ドラマを見て原作を読む気が失せてしまう のではないかと心配なので、どのように紹介したらよいのか考えあぐねています。 この作品は古代インドの市井を描いていること以外にも、当時の西インド有数の国際文化都市であったウッジャイニーを舞台 としていることでも重要です。ウッジャイニー(現ウジャイン)は、グプタ朝時代を含む前後の時代、西インドの中心都市であっ た割に殆ど遺跡が残っておらず、当時のウッジャイニーの様子を知ることができる貴重な資料でもあるのです。右下画像は、その 市街。あまり大都市という風情ではありませんが、一応当時のウッジャイニーの再現映像が見れて嬉しい限りです。左の画像は、 当時のタクシー牛車。 左下は裁判所。右下は、裁判所の書記。 書記の手元を拡大。貝葉文書に記載していることがわかります。右下は、ドラマ第20回ハルシャヴァルダナ王の回の玄奘三蔵 とおもわしき僧侶が筆記しているところ。こちらも貝葉文書を用いています。古代インドの書記方法の再現映像を見ることができ て感激。 左は主人公ヴァサンタセーナーの遊女の館。左上の人物がヴァサンタセーナー。右下画像は、裁判所での裁判官(左)、証人の 女性(中央奥)、悪人サンスターナカ(中央)、主人公のチャールダッタ(中央右の白い肩掛けの人物)、チャールダッタの親友 マイトレーヤ(中央手前)。 本作の主人公は、遊女ヴァサンタセーナーと、ウッジャイニーの粋人チャールダッタです。ウッジャイニー王の義兄サンスター ナカがヴァサンタセーナーに懸想するも相手にされず、思わずヴァサンターセーナーの首を絞めてしまう。そうして、その罪を ヴァサンタセーナーの思い人チャールダッタになすりつけようとし、チャールダッタは逮捕され、裁判にかけられ、打ち首が決ま る。ところが、ヴァサンタセーナーは息を吹き返し、処刑場にかけつけるが。。。。という話に、ヴァサンタセーナーに助けられ た博打打や、ヴァンタセーナーの侍女と王になる予言をされた男アールヤカの友人シャルヴィラカとの恋愛、チャールダッタと親 友マイトレーヤーの友情がかかわり、短いにも関わらず複雑な筋立てとなっています。サンスターナとその手下の会話が掛け合い 漫才のようであったり、チャールダッタを裁く裁判官の心情が、現代人と比べても遜色なかったり、舞台を現代にもってきてもそ のまま演劇として成り立ちそうな内容です。どこかの高校の文化祭で上演とかしてくれないだろうか、関東近県であれば見に行く のに、などと思ったりしています。 第18回 カーリダーサとシャクンタラー(1) 48'18" (16124) グプタ朝時代の詩聖カーリダーサの生活が描かれ、その途中に宮廷に出仕して宮廷詩人となったカーリダーサの作品『シャクン タラー』が挿入される、という構成。この回の前半は、農村でカーリダーサが故郷の恋人とのどかに暮らす様子が描かれる。幸せ そうな生活だったが、王宮から呼び出しが来てカーリダーサは恋人を置いて都におもむき、宮廷詩人として成功する。この回の後 半は、カーリダーサの最高傑作とされる劇作『シャクンタラー』の前半が描かれる。下はカーリダーサの恋人マリカ。貝葉の手紙 を読むところ。 第19回 カーリダーサとシャクンタラー(2) 46'57" (7508) 前回に続き、前半は劇作『シャクンタラー』の後半。後半は、奢侈に乱れた宮廷生活に嫌気がさしたカーリダーサは故郷に戻る が、マリカは既に結婚して子供もいましたとさ、という話。 第20回 ハルシャヴァルダナ 48'02" (15253) ヴァルダナ朝のハルシャ王(在606−647年)は、文人王としての側面が描かれ、ハルシャの書いた演劇の上演の様子や玄 奘との交流が描かれている。玄奘はハルシャから阿 闍梨(アジャリ)と呼ばれている。ハルシャ王が北インドを統一するまでの過程など、戦場の場面などは登場しな い。 第21回 バクティ 63'41" (12490) 7世紀から17世紀頃の間思想界だけではなく、一般民衆の間でも広く栄えたヒンドゥー神秘主義思想運動バクティ運動の回。 なんというか、バクティ運動というとシャンカラという哲人の崇高な哲学を想像してしまうのですが、一応シャンカラの布教風景 も登場するものの、どちらかというと、宗教の末端の人びとの実情を描いた当時の笑劇がメインです。この劇中劇は、パッラヴァ 朝のマ ヘンドラヴァルマン1世(在600年頃-630年頃)の宮廷で上演された、王原作の 『Mattavilasa Prahasana(マッタ・ヴィラーサ・プラサハナ(酔漢の戯れ))』 という笑劇作品という筋立てです。劇中劇の部分は、普通に屋外のドラマの映像となっています。パッラヴァ朝の首都カーンチプラムを舞台に、仏教、ジャイナ 教徒、シヴァ派のカー パーリカ派、同じくシヴァ派のパー シュパタ派の僧侶達の滑稽な様子を描いた劇とのこと。 カーパーリカ派の僧サチュアソーマとその妻のデーヴァソーマは居酒屋から居酒屋を渡り歩く酔っ払いの托鉢僧で、サチュア ソーマは、骸骨(これをカパールカというらしい)を托鉢の器に用いている(下右がその酔いどれ夫妻)。夫妻はある時、骸骨を 紛失したことに気づく。居酒屋に探しに行ってもなく、町を探してうろついているうちに、酔いどれの仏教僧侶にでくわし、彼が 盗んだのだと難詰し、視に覚えのない僧侶と喧嘩になる。 そこに来合わせた素面のパーシュパラ派の僧侶が仲裁に入り一緒に探し回り、見つける、というj話。 劇を上演したマヘンドラヴァルマン王は、僧侶を風刺した内容に激怒する仏教僧やヒンドゥー僧たちを、「神は宗派を越えてあ らせられる」となだめる、という落ち。下がそのマヘンドラヴァルマン王。 パッラヴァ朝国王の名称には、シヴァやヴィシュヌというヒンドゥー教の神の名が登場していて、ヒンドゥイズムの始原ともい うべきバクティ運動が南インドから発祥したことがよくわかります。 話はこのまま劇中劇に入ってしまいます。この回の前半は、この劇中劇で構成されています。 この後タミール語のバクティ詩人アッ パル(Appar)が王宮にあがり、マヘンドラヴァルマン王の前で歌う。アッパルの歌は、僧侶の風刺をネタ に笑劇を書いていた王を感化するのだった。 第22回 チョーラ帝国(1) 39'21" (9802) 前回登場したパッラヴァ朝をしのいで、前3世紀から13世紀の間に南インドで栄えたチョーラ朝のラージャラージャ 王(在985 - 1016)の話。チョーラ朝は、特徴のある壮大な現在に残る僧院の遺 跡が幾つも残っており、この回と次回とも僧院建設にまつわる話の模様。下はラージャラージャ王の装束。肌に直接黄金のアクセサリーをつけているのが特徴 的。あと額のマークも。 カンボディアのシャイレンドラ王朝から使節がやってくる。使節はボロブドゥール
寺院の模型(と思われる)ミニチュアの寺院像をラージャラージャ王に献呈する。王はこの建築物に触発され、南インド
にも壮大な寺院建築を建設することを構想するようになるのだった。
第23回 チョーラ帝国(2) 34'33" (6135) この回では、巨大寺院建設熱に冒されたラージャラージャ王による寺院建設への輝石が描かれる。右下は、ラージャラージャ王 (右)と宰相(左)。頭の鳥篭のようなちょんまげも印象的。左下画像は、第20回でのハルシャ 王 (左)と玄奘(右)。 ラージャラージャ王の構想したブリハディーシュヴァラ 寺院の模型が完成してくる(下右)。紆余曲折の末、完成する(下左:現在の姿) IMDbのドラマ紹介は こちら |