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 最近(2014年8月)見つけたパルティア・サー サーン朝関連本など
 


 ISIS問題で、ヤズィード教徒が一般メディアでも取り上げられました。青木健氏がコメン テーターとして出てこないかなあ、と思っていましたが、今日のところまでは、まだ目にしていません。この機会に、新書版とか でヤズィード教の本を出版すれば、タイムリーなのではないでしょうか。

 さて、本日の話題です。長年探していた、イランで出版された歴史地図帳を見ることができました(以下more)。



Historical atlas of Iran / Prepared by professors of the Faculty of Letters and Humanities, Tehran University : Mohammad Ebrahim Bastani-Parizi ... [et al.] ; Editorial Board : Seyyed Hossein Nasr, Ahmad Mostofi, Abbas Zaryab

 1971年にテヘランで出版されたものです。A3版(見開きA2)で2色刷り。色はいまいちですが、見開きA2サイズは迫 力があります。一部記憶違いがあるかも知れませんが、だいたい以下の内容です。

 先史時代/メディア/アケメネス朝/セレウコス朝/パルティア/ササン朝/サッファール朝/サーマン朝/ガズニー朝/ブワ イフ朝/ズィヤール朝/セルジューク朝/ホラズム・シャー朝/イル汗国/イル汗国解体期(ムザッファル朝・クルト朝・ジャ ラーイル朝・シャバンカーラ朝など/ティムール朝/サファヴィー朝/アフシャール朝/ザンド朝/現代

 見開き2頁の解説(ペルシア語と英語とフランス語の併記)と同じく見開きの地図が交互に続き、全部で80頁程です。16年 前イランに旅行したとき、テヘランで何件かの本屋を廻り、テヘラン大学前の古書店では、そばにいたテヘラン大学の女学生が、 「カラーのイランの歴史地図帳は絶対ある筈だ」と一緒に探してくれたものの、見つからなかったものです。

 昨年オランダの世界地図出版者オルテリウスが出版した多数のサファヴィー朝の地図を知り、「もしかしたら、あの女学生の念 頭にあったのは、西欧が製作したカラーの古イランの地図なのかも」との考えに移行してしまいっていました。そうして、先日図 書館で、「近世近代西欧で出版されたイラン歴史地図」の書籍を探していて偶然、当初目的としていた、イラン自身が出版した歴 史地図帳を見付けることができた次第です。あの女学生が言っていたことは嘘でも、見当違いでもなかったことがわかり、なにか ほっとしています。

 アマゾンには現在出品されていないようですが、貴重な古書なので、出品されれば150ドル以上くらいで出そうですが、5千 円以下で出たら購入したいと思います。大きすぎてかさばるし、カラーといっても2色刷りなので、貴重な内容ですが多額をはた くほどではない、というのが私の感触です。取り合えずアケメネス朝とパルティア・ササン朝のコピーをとってきたので満足して います。このアケメネス朝とサーサーン朝の地図は、足利惇氏著『ペルシア帝国』(講談社)の冒頭に挿入されている地図とそっ くりなので、恐らく『ペルシア帝国』の地図は、本地図帳の地図を元に作成したのだと思われます。本文中のパルティアの地図 も、そっくりとはいえないまでも、輪郭は同じなので、これも本地図帳の地図を元にしているものと思われます。『ペルシア帝 国』の記載の出典のひとつを知ることが出来て嬉しい。

General maps of Persia, 1477-1925 by Cyrus Alai,2010年
 15世紀以降の西欧で出版されたイランの地図集。15世紀に復刻されたプトレマイオスの地図画像や16世紀のオランダ・フ ランスの地図業者による多彩なサファヴィー朝地図など、全ページ発色のよい美しい画像で数百枚の地図と解説が掲載されていま す。定価が約300ドルで、古書も現在286ドルと、かなり高額ですが、本書は内容に見合った価格だと思います。19世紀く らいになっても、プトレマイオス地理学の地名が描かれているイランの地図もいくつか掲載されていて、西欧におけるもはやアナ クロニズムと化したオリエンタリズムの一例を垣間見ることができます。サファヴィー朝やガージャール朝の行政区分の参考とな る地域区分の記載された地図を探していたので、大変参考になりました。


An historical atlas of Central Asia / by Yuri Bregel
 2003年に出版された中央アジアの歴史アトラス。200ドルもするのでとても手が出せませんが、評判は良さそうなので、 まずは見てみたいと思っています。以前評判のよくて安いPalgrave Concise Historical Atlas of Central Asia(2008年)by Rafis Abazov を買って失敗したのですが、15倍近い価格に期待してしまいます。最近、カスピ海とアラル海の間の地域に興味が出てきています。この地域は近世トゥルク マーン族の居住地とされているところで、現在は枯れ川沿いに転々と集落があるだけのようですが、 上記 「Historical atlas of Iran」では、湿地帯マークが描かれていたりします。カスピとアラルの間は殆ど歴史の舞台となったこともないので、どうしてこの地域が無視されているの か、不毛の荒野なのか、いささか興味があるのです。また、セルジューク朝発祥の地ジェンドは、高校歴史地図帳にも登場してい る地名なのに、現在のどこに比定されているのか、資料を見たことがありません。

 というわけで、そのうちこの地図を見てみたいと思っているところです(国会図書館では、関西館に置いてあるのですが、綻び があるため、東京館への移送は出来ないことがわかりました。なのでそのうち大学図書館に行く予定)。

マニ教文書『ケファライア』のパルティア・サーサーン朝に関する記述の英訳

 インドにいって戻ってきました、というだけの記載が繰り返し登場し、残りは、教義が、ゾロアスターとキリスト教と仏教を継 いでいる、という話ばかりで、あまり興味深い内容でもなかったのですが、最後の一節(189.1)には思わず身を乗り出して しまいました。

 「再度預言者は語った:世界には四つの偉大な王国がある。最初の王国はバビロンとペルシアの地のものである。二番目の王国 はローマ人の地のものである。三番目の王国はアクスム王国。四番目の王国はSilisの王国である。世界には四つの偉大な王 国が存在する。これらを越えるものなし」

 大国ではあっても世界を区切る程の大国とも思えないアクスム王国(エチオピア)が入っているのは、コプト語文書である『ケ ファライア』がエジプトで作成されたことと関係があるのかも知れません。興味を惹かれたのは、最後のSilisです。これ は、もしかしたら、セリカ(中国)のことではないでしょうか。一方、この時期インドの中央部で強勢を誇ったサータヴァーハナ 朝は、ジャイナ教の経典では、Śalivāhanaと記されているそうで、この前半部のŚaliが、ケファライアの Silisに似ていなくもありません。ともあれ、こういう、具体的な事項に関する世界認識には、特に興味をそそられます。こ の記載を読み、直ちに、8世紀のアラビア語書籍『中国とインドの諸情報〈1〉第一の書』(東洋文庫/家島-彦一)に書かれた、 以下の記載を連想しました。

 「この世に数えるに値する王は4人で、その第1はアラブの王、次にシナの皇帝、次はビザンツの王、続いてインドの王」

□書籍『マーニー教 再発見された古代の信仰 』ニコラス・J・ベーカー=ブライアン著, 青木健訳
 2014年4月の出版。訳者の青木氏は、以前『マニ教』(講談社選書メチエ)という書籍を出されています。どのように差別 化しているのだろうか、と出版意図と著書の趣旨を知りたくて、著者の前書きと訳者のあとがきを本屋で立ち読みしてしまいまし た。著者のまえがきによると、本書の内容は大学の講義をまとめたもので、訳者のあとがきによると、本書では新規史料の紹介が あるわけではないものの既存史料の新解釈をしているとのこと。従来マニ教の経典類はマニ存命中に著されたものだとされてきた が、実は教祖マニの死去後に弟子達と教団により著された、という内容のようです。面白そうなのでいづれは読んでみたいのです が、当面は延期。


ハムザ・イスファハーニーの年代記に登場するササン朝の地誌 の英訳
 インターネット・アーカイブにPDFとテキスト版が掲載されています。ササン朝時代に書かれた地誌は、存在すら不明です が、イスラーム時代になってから書かれたササン朝時代の地誌について記載した書籍はいくつかあります。作者不詳の『エーラーン・シャフルの諸都市』、フルダードビフ、イスタフリー、イスファ ハーニー、などが良く引用されています。ずっとどんなものか知りたかったので、イスファハーニーの英訳を見付けることができ て嬉しい限りです。、まだ一部に目を通しただけですが、バハラーム5世がインドから吟遊詩人を招聘するエピソードを知ること ができ、収穫がありました。

 グプタ朝最盛期のササン朝とグプタ朝は、大帝国が国境を接していた割には、国境や交流に関する情報が殆ど無く、このあたり について知りたいと思っていたので嬉しい。


Late Antiquity: Eastern Perspectives by Teresa Bernheimer, Adam J. Silverstein(2012年)
 東方の史料から見たササン朝の書籍のようです。面白そうです。

□Kushan Shah Under the Sassanians.Southern Uzbekistan 3rd century AD - end of 4th

 珍しいササン朝支配下のクシャン朝の書籍。どうやらロシア語での出版のようです。これも面白そうですが、ロシアの書店サイ トにしか出ていないようです。

Nishapur Revisited: Stratigraphy and Ceramics of the Qohandez  2013,76$
by Rocco Rante , Annabelle Collinet

 ニシャプールの遺跡発掘報告書。この都市がいつ建設されたのかを遺物の分析をつうじて解明しようとしています。この都市は シャープール二世により建設されたものだと思っていたのですが、アケメネス朝から存在したようです。

Sasanian Jewry and Its Culture: A Lexicon of Jewish and Related Seals by Daniel M. Friedenberg and Norman Golb (Mar 24, 2009)
 ササン朝治下のユダヤ人の印章と語彙の研究のようです。96頁で16ドルという微妙な価格が、超レア情報の紹介なのか、単 なるパンフレット程度のものなのか、判断し難いところがあります。

The Iranian Talmud: Reading the Bavli in Its Sasanian Context (Divinations: Rereading Late Ancient Religion) by Shai Secunda (Author) 2013,272p
 バビロニア・タルムードの研究。バビロニアにおけるユダヤ教とゾロアスター教との相互影響などを探っている研究の模様。こ の分野は、以前ニューズナーという人が多数書籍を出していて、3冊程購入したのですが、書籍のせいにするのも悪いのですが、 まとめ方が悪いというか、歯が立ちませんでした。イラクにおけるゾロアスター教会遺跡に関する情報をまったく知らないのです が、イラクにおけるゾロアスター教の様子を知るにも、本書は参考になるかも知れません。

The Acts of Mar Mari the Apostle, , Amir Harrak, Published ,2005, 134 pages 
 シリア教会の導師マーリーの伝記研究の模様。タルムードやシリア教会などは、これまであまり英訳が無かった分野のようなの で、このところ、ようやくこのあたりの英語書籍が出るようになった模様です。このあたりの文献には、ネットで英語版が公開さ れているアルベラ年代記などがあるので、まずアルベラを読まないことにはマーリーの文献を読むわけにはいかない、と思ってい るのですが、マーリーの文献に、ササン朝時代のニシビスあたりの属州名の出典があるらしいので、少し興味が出ています。


グルジアの殉教者伝の英訳
 ササン学サイト「Sassanika」の新規記事です。


Mesopotamia and Iran in the Parthian and Sasanian Periods by John Curtis 2000年
 96頁しかなく、書評を見ても、概要と書いてあるので、あまり大した本では無さそうです。最近ササン朝の地方誌に興味があ るので、もし、題名が、『Mesopotamia in the Parthian and Sasanian Periods』だったら買っていたかも。

The Pahlavi text: "King Husrav and his boy University of Michigan Library (July 22, 2010)

□中世ペルシア語文献『ホスローと小姓』英訳。ササン朝の宮廷の雰囲気と侍従の教育の様子や料理が 垣間見れる書物ということで、早速注文。


 最後。最近、昨年末出版された軍事史家ローズマリー・シェルドン著『ローマとパルティア』(¥3888)を漸く読みました。パルティアの全時代を 扱っているわけではないし、パルティアの専著というわけではないのであまり期待していなかったのですが、意外に有用な書籍だ と思いました。日本語で出ている唯一のパルティア通史本デベボイスの『パルティアの歴史』は、絶版で、現在中古が69000 円と、とんでもない値段がついているのですが、『パルティアの歴史』は原著出版年が1938年と古く、邦訳には原著にある引 用元史料に言及した注釈が全て削除されているなど、残念な点も多い邦訳書です。『ローマとパルティア』は全時代を扱っている わけではないものの、本書で扱われていない初期パルティア時代の日本語本としては、ポンペイウス・トログスの『地中海世界史』(¥4320)があり、漢籍史料については、史記、漢書第八巻 (¥2052)、後漢書の邦訳が出ています。『ローマとパルティア』『地中海世界史』『漢書第八巻』全部購入しても ¥10260となるので、デベボイスの書籍を購入するよりは遥かにマシかも、という気もしたりしている次第。


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