06/May/2014 created,16/Jul/2018 last updated

 
IMDbから見る世界歴史映画の傾向


 IMDbを「History」タグで検索すると、本日現在(2014年5月6日)4016本の 映画がヒットします。私 の記憶と記録によれば、ここ数年のHistoryタグ登録映画数は、以下の推移を辿っています。ここ6年間では、おおよそ年間平均500本が登録されてき ています。

2018年7/16 6289本
2017年7/16 5699本
2016年10/5 5236本
2015年8/29 4612本
2014年5/6 4016本
2013年8/15 3698本
2011年7/26 2650本
2010年夏  約2000本
2009年5月 約1500本
2008年8月 約1100本
(2018/Jul/16追記) 

 2010年までに過去登録映画をすべてチェックし、それ以降半年から1年に一度、新規登録映画をチェックしています。当初は単 なる利用者だったのですが、途中から記事編集も行なうようになってしまいました(といっても、タグやキーワード、出演者の追加を したりする程度です。IMDbは、Wikiと同じで、誰でも作成・編集できます(作成したことはありませんが))。これまでの作 業経験から得られた知見を少し記載してみたいと思います。


【1】 時代と地域の構成 −概要−

 まず大雑把な印象では、4000本中、1/4が18世紀以前のユーラシアと地中海沿岸を扱った作品、1/4が19-20世紀前 半、1/4が20世紀後半−現在、残りの1/4がその他 という内訳です。現在のIMDbの検索機能では、この印象を 検索で直接確認することはできないのですが、推定することはできそうなので、方法を考えてみました。

1.IMDbのKeyword検索を活用する
2.私のサイトの歴史映画一覧表記載の映画総数を参考にしてみる

 まず、2の方法、私のサイトの歴史映画一覧表に記載されている本数から、妥当性の一部を検証することができるかどうか、考えて みます。

 私の歴史映画の興味の範囲は、基本的には18世紀以前のユーラシアと地中海沿岸のアフリカです。本日現在、ざっと数えたところ では、サイトの歴史映画登録数は以下の数となっています(一回ざっと目視で数えただけなので、若干の誤差はあるものと思いま す)。

中近世欧州354(うち東欧ロシア98)、ビザンツ 27、古代ローマ97、古代ギリシア 17、古代エジプト 16、古代イラ ン 17、イスラム65、オスマン27、インド34、古代中国37、中近世中国76、朝鮮60、合計827本(中近世欧州以外は 473本)

となっています。一部重複作品(例えば中近世欧州とビザンツに登場している作品など)があるものの、10本程度なので、実質でも 800本程度の作品が掲載されていると見なしてよいと思います。このうち、アラビア語圏の作品や中国のテレビドラマなど、一部の 地域の作品(特にテレビドラマ)はIMDbには掲載されていない傾向がある為、IMDbに掲載されていない作品を差し引くと、大 体サイト一覧表の作品のうち、700本がIMDbに掲載されている作品だと思われます。更に、私の対象範囲の時代・地域の作品で あっても、未完成の作品と、近年の(ここ2,3年に公開された作品で、内容が確認できていないので、一覧表に掲載していないも の) 作品が手元のリストで約200本あります。更に、ファンタジー性の高い作品やアニメーション、サイレント作品、面倒くさくて載せてい ない作品等を含めると、古代・中近世のユーラシア+北アフリカの作品は、1000本くらいになると思われます。つまり、4000 本のうちのだいたい1/4という印象は、それ程間違ってはいない、と見なせるのではないかと思います。

 更に私の印象では、対象範囲の作品と、18世紀以前の作品、19-20世紀前半、その他がだいたい同じ割合という印象がある 為、このことから全体としての時代と地域割合を出すと、4000本中、1/4が18世紀以前のユーラシアと地中海沿岸を扱った作 品、1/4が19-20世紀前半(第二次大戦まで)、1/4が20世紀後半(第二次大戦後−現在、残りの1/4がその 他、となるのです。

 更にその他をもう少し細かく分ければ、サイレント・短編 300、インド・フィリピン中心とした東南アジア 200、中南米  200、その他300(神話冒険ファンタジー、ドキュメンタリー、キリスト教関係、少数民族など)という内訳の印象があります。

 次に、Keyword検索を活用してみます。といっても、29個とIMDb側の既定で数が決まっているタグと異なり、 Keywordは、利用者が自由に設定できるため、数百、もしかしたら数千種類はあるかも知れません。歴史関連のキーワードをす べて確認するわけにもいかないので、古代エジプト・ローマ、古代中国や1100年以降の年代キーワードに絞って数を確認してみま した。

http://www.imdb.com/keyword/ancient-egypt/ 128
http://www.imdb.com/keyword/ancient-greek/ 11
http://www.imdb.com/keyword/ancient-rome/ 305
http://www.imdb.com/keyword/medieval-times/ 446
http://www.imdb.com/keyword/ancient-china/ 38
http://www.imdb.com/keyword/1100s/ 18
http://www.imdb.com/keyword/1200s/ 34
http://www.imdb.com/keyword/1300s/  40
http://www.imdb.com/keyword/1400s/ 61
http://www.imdb.com/keyword/1500s/ 98
http://www.imdb.com/keyword/1600s/ 147
http://www.imdb.com/keyword/1700s/ 194
(900s以前は、キーワード自体が存在しない世紀が多く、全部合わせても10本くらいにしかならない)

http://www.imdb.com/keyword/1800s/ 464
http://www.imdb.com/keyword/1900s/ 561
http://www.imdb.com/keyword/1910s/ 812
http://www.imdb.com/keyword/1920s/ 1425
http://www.imdb.com/keyword/1930s/ 2832
http://www.imdb.com/keyword/1940s/ 3086


 まず指摘できることは、第二次世界大戦前の年代までで、1万本になってしまい、Historyタグの付いている作品数4016 本を遥かに上回ってしまうことです。これには幾つか理由があります。

@ 1100s,1200sは、12世紀、13世紀という意味です。従って、1900sには、1900-1909年を扱った作品 だけではなく、20世紀全体の作品が含まれています。

A 更に、1900年以降、キーワードの意味が変化しています。映画の扱う時代の対象年代だけではなく、1910sのついた作品 は、「1910年代に製作された映画」にも付くようになります。歴史とは関係の無い、現代劇にも、1910sは付くからです。更 に、20世紀の大河作品にも、19x0s タグが尽きます。例えば、「ゴッ ドファーザー」にはキーワード1940sが付いています。

B キーワードの場合は、Historyタグに比べて、歴史映画以外の作品が含まれている割合が、飛躍的に増大します。

 具体的には、古代エジプトのキーワードで検索をかけると、一番上に来る作品は、「ハムナプトラ」です。この作品には Historyタグは付いていませんし、この手の作品でHistoryタグが付いている作品は多数ありますが、それでも全体的に みれば、Historyタグが付いていない作品の方が多いのは間違いないと思います。1700sのトップと2番目は、「パイレー ツ・オブ・カリビアン」でAction ,Adventure,| Fantasyタグが付いており、Historyタグは付いていません。1600sのトップは「ポカポンタス」で、Historyタグが付いていますが、 2番目の「三銃士」のタグは「 Action,Adventure,Romance」となっていて、Historyタグは付いていません。古代中国のトップと三作目は「カンフー・パン ダ」で、古代ギリシアのトップは「ヘラクレス」です。

 古代ローマは、私の歴史一覧表の97本に比べて305本と三倍ですが、キーワードancient-romeの検索結果に表示さ れる古代ローマ作品には、1960年代のイタリアの古代ローマの時代劇であるソード・サンダル映画や、キリスト教関連の映画が多 数 含まれています。中には中南米やフィリピンのキリスト映画等も結構あります。手元のリストには、中南米のキリスト映画等も多数含 まれているのですが、これらをサイトの古代ローマ歴史映画一覧表に加えてしまうと、半分くらいがキリスト教関係映画となってしま うため、知名度が低いものや、内容が確認できていないものは、一覧表に記載しないようにしているのです。サイトの歴史映画一覧表 の編集方針の一つは、「各時代・地域をまんべんなく視覚映像で体験する」ということなので、メジャーな時代では、主要作品だけを 掲載し、マイナーな時代・地域については、歴史映画といえないものでも、優先して掲載する傾向があります。古代ローマを舞台とし たキリスト教映画は沢山あるので、バッサリきっている、という側面があります。


 しかし、上記キーワードの検索結果を、古代から1700年代まで加算すると(1100-1400年は中世
入るので、medieval-timesと重複するので除外)、1367本となり、Historyタグでの当該時代の推測件数約 1000本と極端にかけ離れているわけではありません。

 当初の、4000本中、1/4が18世紀以前のユーラシアと地中海沿岸を扱った作品、1/4が19-20世紀前半、1/4が 20世紀後半−現在、残りの1/4がその他、という印象は、それ程実体から遠いわけではない、と考える次第です。



【2】 時代と地域の構成 −各地域・時代についての補足−

 特定地域の作品としては数の印象が強いものに、インドとフィリピンおよび旧ソ連とロシアの作品があります。恐らく、インドと フィリピン両国は英語圏であるため、 IMDbに登録する作業者数が多いことに理由の一部があると推測しています。反対に、アラビア語圏や中国の歴史ドラマが少ないの は、この両地域が歴史映画よりテレビドラマに歴史作品の割合が多い、ということと、両地域が欧米のグローバリゼーションの浸透度 が低い(よって、IMDbに登録する傾向が低い)という傾向を反映しているのではないかと推測しています。

 IMDbに登録されている映画から見える「世界」とは、欧米と英語圏、グローバリゼーションに親和的な「世界」のことであっ て、要するに欧米のメディアを通して見る「世界」とあまり変わらない、欧米視点では見えにくい「世界」はIMDbからはあまり見 えてこない、ということもわかります。これは、同じグローバリゼーションの産物ではあっても、Wikipediaが各国語に対応 しているのとは違い、IMDbでは英語にしか対応していないことが大きな要因であると、推測しています。

 Historyタグに登録されている作品では、現在の話も多いことが特徴です。21世紀に入って発生した事件の映画作品や、存 命中の人物の伝記映画などにもHistoryタグが付けられていることが多く、この点が、第二次世界大戦後の作品数割合が多い理 由の一つであるものと見ています。何本くらいあるのか、想定することも難しいのですが、第二次世界大戦を扱った作品も目立ちま す。恐らく数百本台になるのではないかとの印象があります。



【3】 タグとキーワード

 説明が前後してしまいましたが、IMDbの分野検索機能としては、タグ以外にキーワードというものがあります。タグは、 IMDb側で既定されている特定ワード(現在29個。歴史関係であれば、 History,biography,drama,warなど)しか選択肢がありませんが、キーワードは自由に作成ができます。 ancient-rome、ancient-egypt、1100s、1200s、1800sなどです。作品数は膨大なので、古 代ローマやビザンツ、中世ものを探す時には、ancient-romeやMedieval Timesなどのキーワードが役立ちますし、12世紀を扱った作品であれば1100s、13世紀を扱った作品であれば、1200sというキーワードが役立 ちます。 しかしながら、タグとキーワードには課題もあります。

  【3−1】 歴史作品なのに、Historyタグがついていない作品
 
 まず、明らかに歴史作品なのに、Historyタグがついていない作品が割りとあります。あまり歴史に興味の無い方が登録する と、本格的な史劇なのにも関わらず、dramaやbiographyだけのタグがついていることが多々あります。私が Historyタグを付けた作品は50本程 ありますが、こうした、歴史ものなのに、Historyタグが付いていない”埋もれている作品”は、まだ結構な数があるものと思 います。

 drama、biography、war以外で、歴史作品でよく併用されるタグに fantasy,adventure,western,documentary,animationなどがあります。


  【3−2】 過去の作品が新規に登録された場合の通知機能が無い

 タグで検索した場合は、検索結果の順番を、題名や公開年度・公開予定年度、評価点、米国興行収入順などでしか表示できません。 記事登録日で検索できない 為、「最近IMdbに追加された(或いはHistoryタグが追加された)過去の作品」を見付けることは簡単ではありません。 Historyタグでは、公開年を過去のものから表示することもできますが、この場合は、1906年の作品が冒頭に表示され、以 降1909,1910年と、公開時代順に表示されます。仮に、2013年8月15日以降に、1965年頃に製作されたイタリア製 古代ローマ 映画の記事が新規に登録されたり、或いは2013/8/15日当時に記事は登録されていたものの、Historyタグがついてい なかった作品に、その後Historyタグが追加された場合、こうした作品を探し出そうとすると、全部の作品を見直す必要が出て くるのです(IMDb に もNotification機能はありますが、現時点では、「Historyタグが新規追加された作品の通知」 のような機能はない のです)。

 私は半年から1 年毎に、IMDbに登録された新作をチェックしていますが、正確には、公開年順で表示された先頭の作品から、前回チェック作業を 行なった時の総件数までの 差分をチェックしているだけなのです。前回作業を行なった2013年8月15日時点では、3698本が登録されていた為、今回 (2014年5月6日)は、先頭の2019年公開予定の作 品である4017本目から、3698本目+α(2012年公開作品の最初の100本くらい)までの差分の作品をチェックした、と いうことなのです。このように、差分をチェックしても、多数チェック漏れが出ているであろうと推測されます。

 「IMDbに新規登録された過去作品」を探すには、現時点では、Hisotyタグの全件を見直すしか方法が無く、 面倒です。

 これを解決する手段として、以前は以下の方法をとっていたこともありました。

 2012年以前は、ブラウザのアクセス済みリンクの色が変わる機能で確認し、ブラウザのキャッシュのバックアップを定期的に取 得することで、Historyタグ検索結果のページをざっとめくってゆくだけで、アクセス済みでないリンクを直ぐに特定できる、 という方法をつかっていました。しかし、バックアップを定期的に取るのも、うっかりブラウザのキャッシュをクリアしてしまい、 バックアップから戻すのも手間がかかるので、現在では過去作品の新規登録分は諦めることにしました。



 【4】 新規登録分チェックのノウハウ
 
 Historyタグの作品数は、2013年8月15日に3698本の作品があり、2014年5月6日に、4017本の作品数と なっていました。この差分の319本の作品だけをチェックできればいいのですが、上述の通り、タグの検索機能は、登録順では表示 できません。公開年・公開予定年でチェックするのが一番効率的なのですが、公開年が伸び伸びとなる作品や、製作が中止となり、記 事が削られる作品も結構あります(例えば、5/6日に4017本だったのですが、本日5/8日には4016本となっていて1本削 除されています)。この結果何が起こってくるかというと、(公開年での表示順で)4017本目-3698本目の間 に、3698本以前のチェック済みの 作品が、公開年を更新することで、3698本目と4017本目の間に挿入されて来るのです。仮にこういう作品が100本あったと すると、4017本目-3698目の間の319本のうち、100本は2013年8月15日以前にチェック済みであり、更に219 本のうち、150本が完全に新規登録された作品だとすると、残り69本は、「過去作品の新規登録分」であり、これら は、3698本目以降に挿入された結果、4017-3698本の間の69本分は、2013年8月には3698本目から3598本 目の間にあった作品が、「過去作品の新規登録」により、3698−4017の間に押し上げられた作品ということになります。

 更に、2013年9月頃に最新公開予定年で新規登録された製作中の作品(例えば3710本目)は、当初3698本目以下に登録 されていた(例えば3553本目)製作中の作品が、製作遅延により、公開予定年が更新されて、3750本目に繰り上がると、元 3710本目に登録されていた作品が3709本目に繰り下がります。2014年5月6日の時点で、公開予定年が3710本目の作 品より後に遅延して公開予定年が変更された作品が仮に45本あれば、元3710本目で登録されていた作品は、3665本目に移動 することになります。2013年8月以降に登録された作品であるにも関わらず、3698本目より前となってしまい、2014年5 月6日(4017本)と、2013年8月15日(3698本)の差分数319本には入らなくなってしまい、差分の319本だけを チェックするだけでは、漏れてしまうのです。

 こうしたことから、差分をチェックする時は、私の場合、差分本数+α(約200本)を(今回の例では3498本まで)チェック するようにしています。これである程度は新作のチェック漏れを防げているのではないかと期待しています。


【5】 所感

 IMDbを初めとする、様々なサイトを利用して、世界の各時代・地域をまんべんなく再現映像で見てみたい、という動機から歴史 映 画の探索を続けてきましたが、既知のことは、一部でしかなく、知れば知るほど、わからないことが増える、という気がしています。 また、当初は、時代や地域に興味を持つための再現映像だと考えていた歴史映画ですが、途中から、

・製作者や製作国の歴史認識や製作意図の表象
・製作国の技術力

などを知るための材料としての側面が強くなりました。

 インドやフィリピンの作品はなぜ沢山登録されているのか、アラビア語圏や中国のドラマ作品は沢山あるのに、なぜIMDbに登録 されている作品は少ないのか、ということを考え てみたり、なぜその国でその人物を取り上げるのか、まったく知らない(Wikiにも日本語記事が無いが、一方多数の他国語で長文 の記事があるような)人物や事件の映画が多数作られていることを知ることもでき、

・ネット上の日本語の歴史情報はまだまだ少ない
・しかしIMDbも、英語圏・グローバリゼーション親和国の世界でしかない
・まだまだ世界は広く、知らないことは増えていくばかり


という思いを改めて強く意識する結果となりました。

 ところで、私の歴史映画の探索は、18世紀以前のユーラシアと北アフリカに焦点を絞っていますが、それ以降の時代について興味 がないということではありません。それ以降の時代は、現在に残る資料が飛躍的に多くなり、博物館や書籍など、より直接的な資料が 多数あり、アクセスも容易なので、映画に頼る必要がない、と考えていることもあり、19世紀以降は、余程の名作とされている作品 か話題作、珍しい国の作品や興味深いテーマの作品以外はなるべく見ないようにしているのです。

 そういうわけで、「IMDbに見る世界の歴史映画の傾向」という題名ながら、19世紀以降を扱った作品については、殆ど内容の 無い記事となってしまっていますが、この記事が、IMDbや歴史映画に関心のある方の何かのお役に立てれば幸いです。

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