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 映画「INTO ETERNITY」/「100000年後の安全」

 秋公開予定だったのを4月2日に前倒しして渋谷で公開され、現在は東京・山形・ 横浜などに拡大公開し、6月くらいまでには全国の都道府県で拡大公開される予定となっている、フィンランドの核廃棄物施設を 扱ったドキュメンタリー映画「Into Eternity」を見ました(公開地と日程は、アップリンク社のサイトのこちらを参照)。「100000年 後の安全」はアップリンク社がつけた邦題)。

 本作は、NHK-BSで2011年2月16日(水) 午後11:00〜11:50と、2月24日(木)午前10:00〜10:50 に「地下深く 永遠(とわ)に 〜核廃棄物 10万年の危険〜」という題名で50 分の短縮版が公開されており(本編は75分)、更に5月18日(水)深夜[木曜午前 0:00〜0:50]、再々放送予定となっています。このNHK版は、更に7分程度に短縮した紹介版がyoutubeに「放射性廃棄物 最終処分場 オンカロ」という題名でアップされています。

このNHK版の感想は、こちら「WATCH + TOUCH」様のブログの「
「オンカロ」(フィンランド語で「隠し場所」)」で詳細な画像入りで紹介があ り非常に参考になります。なお、本作は、今年2011年2月12日〜20日に渋谷ユーロスペースで開催された「トーキョーノーザンライツフェスティ バル2011-北欧映画の一週間-」で2月13日に上映されてもいたのですね。

 前傾NHK版の感想ブログと、「超映画批評」様のブログ記事「『100,000年後の安全』65点(100点満点中)」 でたいたい語りつくされているようですので、ここでは、オンカロ施設の紹介と、前傾ブログの記載内容以外に私が持った感想を 記載したいと思います。

 オンカロ(Onkaro)というのは、フィンランドのバルト海沿岸(スウェーデン側)にある、地下400mの凍土の下の岩 盤を刳り貫いて、10万年以上核廃棄物を保存する、現在建築中の施設です。何故このような施設が必要なのか?それは、ス ウェーデンとフィンランドの発電資源状況にあります。


 出典は、ノルウェイの調査会社, SINTEFのこちらの資料から転載しています(画像の数字が小さくて読み取 りにくい場合は、「画像だけを表示」、またはブラウザの表示を拡大してみてください)。 

 これを見ると、石油生産国ノルウェーは殆ど全部水力発電(石油収入は政府ファンドとして世界金融市場に流れ、年金基金と なっている)、デンマークは殆ど火力で一部風力。これに対して、スウェーデンは半分が原子力と水力、フィンランドは火力が一 番多く、次いで原子力、水力となっていることがわかります。ただし、これは2002年の資料なので、この資料から、デンマー クとノルウェーは原発を必要としていないことがわかるものの、原発を必要とするスウエーデンとフィンランドについては、より 近年の詳細なものを知りたくなります。そこでまず、2006年から2008年のスウェーデン。

映画「INTO
                    ETERNITY」/「100000年後の安全」(1)_a0094433_17425169.jpg

出典 World Nuclear Associationのこちらのページから(2009 年の情報は、スウエーデンのオフィシャルサイトのこちらのページにあります)。

 次に2006年のフィンランド。

 出典はフィンランドの原子力産業協会が作成した「フィンランドにおける核廃棄物管理」という資料です。この資料は非常に有用 で、3箇所あるフィンランドの原発の場所(地図)、発電力、核廃棄物施設オンカロの概要、各機関の関連がわかり、本記事でも この先再度引用する予定です。なお、IAEAのホームページでは、原発を持つ各国の状況が検索できるページがあるのですが、文書のフォーマット と調査年度が各国まちまちで、スウェーデンはグラフが無く、役に立つこともあるのかも知れませんが、役に立たない側面も多そ うです。税金をちゃんと使ってない公的機関の見本のような感がします。

 映画の製作国はデンマーク、スウェーデン、フィンランド、イタリアとなっていて、原発の無いデンマークが何故参加している のかわかりません。そこで、デンマーク外務省のこちらのページを見てみますと、2008年のデンマークの エネルギー資源が記載されており、フィンランドやスウェーデンからエネルギーを購入しているわけでは無さそうです。当該ペー ジには2050年の目標も掲載されていて、それによると、現在約25%程度を占める石油を、2050年には全て風力に置き換 える予定のようです。野心的な計画ですね。また、前傾「フィンランドにおける核廃棄物管理」でも、3箇所の原発のうち、1箇所は今 年稼動予定で、残りの2箇所の供給先はフィンランドとしか記載されていません。デンマークに発電後の電力を売却している可能 性は残りますが、ざっと見たところでは、デンマークは原発とは無関係なようです。

 というわけで、製作にデンマークが関わっているにも関わらず、本作に登場する人物がスウェーデンとフィンランド人ばかりで ある理由はわかりました。本作の登場人物は以下の通りです。


Nuclear fuel and waste management company (ASB)(スウェーデン企業)
     Peter Wikberg 、research Director
     Berit Lundqvist 、science editor

Posiva
  (TVO*1とFortum*2の子会社で核燃料最終処理を行う従業員80人のフィンランド企業)
     Timo Äikäs 、Exective Vice president Engineering Onkaloの職員、
     Timo Seppälä 、Senaotor management , Communications Onkaloの職員
     Junani Vira 、Senior Vice president , research ,Onkaloの職員

Radiation Nuclear Safety Authority
 (略称STUK:フィンランド社会問題保険省傘下の公的機関)
     Mikael Jensen 、 Analyst(彼のクレジットはRadiation Nuclear Authorityとなっている(safetyが抜けている)が、誤りだと思われる)
     Esko Ruokola principal advise , Nuclear waste and material regulation
     Wendra Paile 、Chief Medical officer,chef radiationalist , healthe effects of radiation

National Council for Nuclear Waste
  (スウェーデンの核廃棄について政府に助言する機関)
     Carl Reinhold BrÄkenhelm、professor

*1 フィンランドの原発企業Teollisuuden Voima Oyj。発電力の94%が原発。 Posivaの株式の60%を保有し、Eurajoki市郊外に原発OLKILUOTOを運営。更に同所に2つ目の原発を建 設中(2011年稼動予定)。

*2 フィンランドの原発企業Fortum Oyj。Posivaの株式の40%を所有。LOVIISA原 発を所有。


 スウェーデンが原発依存なのはわかりましたが、何故フィンランドの廃棄物処理場の映画に登場しているのでしょうか。映画に 登場しているスウェーデン企業Nuclear fuel and waste management company (スウェーデン語表記Svensk Kärnbränslehantering AB、略称SAB)でも、スウェーデン国内で、オンカロ同様地下岩盤に廃棄物を納める計画を進行中なのでした(こちらにプレゼン資料があります)。しかも下記協力企業にも名前が挙がってい ます。

 さて、実際の核廃棄物処理施設オンカロの建設・運用を行っているPosivaは、たった80人の企業です。実際にこの処理 場建設では、多くの下請け企業・組織に発注しており、なんと日本の組織も登場しています。オンカロの紹介資料の8ページ目に以下の記載があります。

Posiva’s international partners include:
  • SKB (Svensk Kärnbränslehantering AB), Sweden
  • ANDRA (Agence nationale pour la gestion des déchets radioactifs), France
  • NAGRA (Nationale Genossenschaft für die Lagerung radioaktiver Abfälle), Switzerland
  • OPG (Ontario Power Generation), Canada
  • RAWRA (Radioactive Waste Repository Authority), Czech Republic
  • NUMO (Nuclear Waste Management Organisation), Japan
  • RWMC (Radioactive Waste Management Funding and Research Center), Japan

 日本の組織のRWMC は「公益財団法人 原子力環境整備促進・資金管理センター」。NUMOは原子力発電整備環境機 構。というわけで、本作品は、六ヶ所村と同じだなぁ。などといって入られず、日本が直接関係している作品という ことになるのでした。下手したら日本の組織の人も本作に登場させられていたかも知れませんね。。。。

 色々調べているうちに、思ったより記事が長くなってきてしまいましたので、2回に分割することにしました。なんせ、フィン ランドの原発事情なんてまったく知識が無かったので、本作を見て、

 「何故スウェーデン人が登場してるんだ」
 「何故主体製作国のデンマークは登場していないんだ」
 「いったい、登場している連中は何者なんだ」
 「この事業を推進している団体はまともな団体なのか!?」
 「そもそも北欧の原発と発電状況はどうなっているんだ」

などと色々な疑問が出てきてしまった為です。そういう意味では、本記事は、映画の背景説明ということで、記事のタイトルは映 画の題名のままとしたいと思います。

なお、映画公開以前には、幾つかのサイトに字幕無し原語版が掲載されていたのですが、今はアップリンク社や、映画を製作した デンマークの製作会社Magic hours filmの依頼により削除されています。しかし、根気良く探せば、少なくとも本日時点ではまだいくつかのサイトで全編を見ることができます。私が見たのは 出演者のフィンランド人とスウェーデン人は英語を話し、字幕はスウェーデン語でした。フィンランド語が登場したのは、爆破工 がカウントダウンする箇所くらいです。外国人の英語なので割りと聞き取りやすいと思いますが、最後のオペラの意味はわからな かったので、「WATCH + TOUCH」様のブログに訳が記載されていて大変助かりま した。なお、4月26日に英国のテレビ局、チャンネル4でも放映されたようですが、この時 の題名は「Nuclear eternity」となっています。まあ、日本のほぼ全県で上映されるので、無理してネットで見なくてもよいものではありますが。。。

関連サイト
 ・UKアマゾン 視聴者レビューが記載されています。
 ・USアマゾン レビュー記載なし。リージョンコードがUKのものだと記載があ り、中古が本日時点で新品が15.99ドル。中古が30.99ドル。一週間前に見たときは中古は新品より安かった気がしま す。なぜなら、送料含めて日本で映画館で見るより安い、と思った記憶があるからです。
 ・映画情報サイトIMDbのInto Eternityの紹介ページ
 ・映画公式サイト
 ・Wikipedia

  今回は、具体的なオンカロ施設の紹介と映画の感想書きたいと思います。これには、前回もご紹介した「オンカロ紹介資料」を読めば十分、と言われそうですが、あちこちに散らばって いる資料をここでまとめてご紹介し、補足してみたいと思います。

 オンカロの場所は、「フィンランドにおける核廃棄物管理」のp2にある、Eurajoki郊外の Olkiluoto原発と同じ場所です。Olkiluotoは、Google Mapでも表示されます

 まず、廃棄物は、下記のような円筒形の貯蔵庫に入れられます。写真は、「フィンランドにおける核廃棄物管理」のp11から の引用です。

 続いてこの筒は、地下400mの岩盤を刳り貫いたトンネルの中に、下記のように、「縦置き」「横置き」の2通りの方法で格 納されます。この映像は映画にも登場しますが、ここに引用しているのは、ネット上に掲載されているオンカロのプレゼンテーションビデオからの引用です。このプレゼンテーション は3分と短く、地図や現地の写真もあり、英語も平易なのでオンカロに関心を持たれた方は是非ご覧になることをお奨めします。

 この黄色のトンネルは、下記、車を置いたCGでもその巨大さをうかがい知ることができます。

 更に黄色のトンネルは、下記のように拡張してゆきます。


 2010年時点のオンカロの地下施設の全貌は下記の状態となります。左側にメータがあり、最深部は地下400メートル以上 であることがわかります。その最深部が、上図のように枝分かれして拡張してゆくことになります。枝の先端に、廃棄物円筒が実 のようにぶら下がるわけです。

 そして2012年から2100年までの拡張の様子がわかります。上図の黄色や灰色のトンネルが、下記では青く表現されてい ます。






 そして、最終的には下記のように延々と拡張してゆき、数百年後、最後に永久に封印されます。下記画像は、「オンカロ紹介資料」5ページ目からの引用です。

下記は、格納円筒と、全体図、及び地形図を含めた解説図です(「フィンランドにおける核廃棄物管理」12頁からの引用)。


 さて、映画では、上記年毎の拡張CGの場面では、映画「2001年宇宙の旅」における、「青く美しきドナウ」の流れる場面 を連想させるような優雅な音楽が流れます。トンネルを掘削する機材場面では、月のモノリスを学者が訪問する場面を連想させる 曲調のBGMが流れます。実のところ、私が本作を見ての感想は、「「2001年宇宙の旅」に似ている」ということなのでし た。「2001年宇宙の旅」を連想してしまう理由は他にもあります。例えば下記の点が似ているように思えます。

・10万年、数百万年という、人類文明の興亡を含めるような長い年月を扱っていること。本作品では、類人猿の過去やスター チャイルドなどの未来の映像が出てくるわけではありませんが、議論として過去と未来が出てきます。
・文明に関する哲学的な内容となっている点。
・言語も文明度も異なる未来人にどのように伝えるのか。下記は映画に登場した石碑ですが、まさに「2001年」の「モノリ ス」です。フリーメーソンのピラミッドにも見えるけど。


 更に、少々強引ながら、コメンテーターの一人であるTimo Seppäläという方の話し方は、「2001年宇宙の旅」に登場するコンピュータHALのようなしゃべり方をします。更に言えば、ナレーションの話し方 も、HALに近いような印象があります。ラストのレクイエムのような曲調のオペラにも、クラシック音楽で満ちた「2001 年」を連想してしまいました。

 というわけで、原発問題が発生している今、原発への議論のひとつとしての作品であるとは感じますが、あからさまに「原発反 対!」を叫んでいる作品では無い、というのが私の感想です。なので、「原発反対アジテーション映画」を期待して見に行くと、 肩透かしを食わされることになるかも知れません。とはいえ、放射能廃棄物の問題に関する論議が哲学的・神学的議論となってし まう、という映像そのものが、静かに「これでいいのでしょうか」と語りかけている点で、脱原発指向の作品であることは間違あ りません。監督はアート畑の方だそうですが、見終わった印象も、「2001年」同様アートでした。つまりそれぐらい、核廃棄 物処理の実態は、現実離れした現実なのだ、ということなのだ、と思った次第です。

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