ヴェンディダード(元の呼称はウィーデーウダード/Vendidād/ダ エーヴァに対抗する法(叙 魔法)・ヴェンデディダードはインドのパールシーの呼び方で、中世パフラヴィー語ではウィーデーウダード))の第一章(fargards 1)にアーリア人の土地とされている地域のリストが記載されて います。内容はイラン高原の東北から東部にかけての土地と解釈されているとのこと。この部分にはペルシア人もメディア人も登場し ない為、この内容はメディア人やペルシア人がイラン高原の東部に進出する前の時期に作成されたもの、或いは、ゾロアスター教が、 ペルシアやメディアと関係する前のゾロアスター教徒の土地=アーリア人の土地の認識であると考えられているとのこと。ヴェンディ ダードはアヴェスターが文字に記載された時期と同じ時期の成立(ホスロー一世の頃)したとされているようです。そこで、末尾記載 の資料を参考にリストをまとめて見ました。1から6番目の地が最初にゾロアスター教が広まった地と推定されているそうです。な お、青木健氏「ゾロアスター教史」(刀水書房)p41に、このリストの土地が地図で表示されています。
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Avesta表記 |
Avesta名をローマ字だけで表記した場合 |
古ペルシア語ローマ字表記 |
ギリシア文字表記*1 |
ギリシア語ローマ字表記 |
現代名 |
日本語表記 |
ヴェンディダード記載の解説、及び現代の研究による補注 |
1 |
Airyanəm Vaējah |
Airyanem Vaeja, or Eranwej |
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Karabagh |
カラバフ*2 (アイルヤーヌム・ヴァエージャフ) |
Avesta表記のVajahのJは、ˇ (上にハーチェック記号)が付く)。意味は「アーリア人の広まり」。中世のArrân 。ゾロアスター教の聖地。ブンダヒシュンの 20.32; 32.3ではゾロアスター生誕地とされている。ヴェンディダードにはVanguhi Daitya河(オクソスを思われる)沿いにあるとされる。*2 |
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2 |
Suγδa |
Sughdha | Suguda | Sogdianh | Soghd(Samarkand) |
Sogdianh |
ソグディアナ |
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3 |
Mouru |
Mouru | Margu | Margianh | Marv |
Margianh |
マルギアナ |
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4 |
Bāxδī |
Bakhdhi | Bâkhtri | Baktra | Balkh |
Baktra |
バクトリア |
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5 |
Nisāya |
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不明 |
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マルギアナとバクトリアの間 |
6 |
Harōvia |
Haroyu | Haraiva | `Areia | Areia | Harê(rud) |
ヘラート |
Ariā(マルギアナの南) (ギリシア・ローマ古典に登場するアレイアに比定)。現在のヘラト、またその近郊のハリー・ルード川。 葬送時に泣き喚く習慣 |
7 |
Vaekereta |
Vaekereta | Kâlpûl |
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Kabul |
カブール |
Vaekeretaはカブールの古名 |
8 |
Urva |
Urva | Mêshan |
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Mesene |
メッセネ |
良い牧草地 |
9 |
Vəhrkāna、Khnenta |
Vehrkana | Varkâna | 'Urkania |
`'Urkania |
Gurgân, Jorgân |
ゴルガン |
Hyrcania(古代ギシリア語ノヒ ルカニア・古代ペルシア語のヴァルカーナ)。Khnentaはヒルカニアの川*3 |
10 |
Haraxˇaitī |
Harahvaiti | Harauvati | `Aracwsia |
`Aracwsia |
Av-rokhaj, Arghand-(âb) |
アラコシア |
Arachosia(アケメネス朝 のハラウヴァティシュ州)。土葬している |
11 |
Haētumant |
Haetumant |
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`EtumandoV |
`EtumandoV |
Helmend | ヘルマンド川 |
Etymander(ヘルマンド川 比定) |
12 |
Raga/3つの氏族の土地 |
Ragha/Rhagae | Ragâ | 'Ragai |
'Ragai |
Raî |
レイ |
メディア最東の都市とされる。アトロパテネにも同じ名前の都市があ る。大ブンダヒシュンによると戦士、祭司、農民の3つとされる。 |
13 |
Čaxra |
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Charkh |
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イランのマ シャド北東(Khorasan)とGhazni(カ ブールの南)の2箇所に同名の町がある。 |
14 |
Varəna |
Varena | Patashkhvârgar or Dailam |
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Tabaristân or Gîlân |
タバリスタン又はギーラーン |
ヤクサルテス川に沿った地域。アヴェス タ語のThraetaona(ペルシア語Fariydun('フェリードゥーン))生誕地。 |
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15 |
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Hapta hindu | Hindava | `Indoi |
`Indoi |
Hind (Punjab) |
ヒンド |
Hapta hindava(7つのインドの河)。Indus Valley |
16 |
Rahā-Landの源流地 |
Rangha | Arvastâni Rûm |
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Eastern Mesopotamia |
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説1.神話に登場する川。サンスクリッ トのランハーに相当。 説2 Airyanəm Vaējah のメイン河川であるVanguhi Daitya(ササン朝時代のオクソス河)かAras(アラクセス)。そこから流れ出るおのがRangha-Tigris.川*2 |
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(1)註 1)7,8,14,16のみ古ペルシア語ローマ字表記の列は中世パフレヴィー語表記。原文には無 く、パフレヴィー語の注釈にあるもの。 2)2-7番目までは地域順だと思われる。オクソス川からアフガニスタン東北部にいたる地域。 9-11は、2-7の地域の西側に相当する地域。カスピ海の東からアフガニスタン南部にいたる地域。12-13は、更に西の 地域を示す。14、15、16は、東西北東の境界にあたる地域(Hindが東、Ranghaが西、タバリスターンが北)との 考え方と、蒙ひとつは、14は、12,13に含め(アーリア人の西側の土地を、北から順番に述べたもの)とし、15,16 は、もっとも南東部のインドを記載した、とする考え方がある。いづれにしても、順序は一定の規則に従って記載されていると考 えられる。
(2)表中の註 *1 Internet Explolerで表示するとギリシア文字で表示されるが、Firefoxで表示すると何故かローマ字表示となってしまいます。そのうち調査する予定。 *2 ブンダヒシュン(29.12)によるとVanguhi Daitya(オクソス河)はAdarbajanと境界を接しており、Adarbajanは、東にカスピ海があり、西にRangha州、南にメディア州、 北にアラン人がいる、とされている。ビザンツ時代のStephanusによるとArranは、ギリシア語で`Ariania (`Ariania(イラン人の土地))となる。ヴェンディダードには「Airyana VaejaはVanguhi Daitya河(オクソス)沿いにあり、10ヶ月は冬、2ヶ月が夏」とあり、アラン人の地の気候と合っている。以上のことから、現代のナゴルノ・カラバフ のカラバフに比定される、との考え方がある。また、この1つ目のAiryanəm Vaējahは後世の付加との説もあるとのこ と。 *3 「アフガニスタンの歴史と文化」の p151に て ヴィレム・フィーヘルサングは、リストの順が土地の順を現すと解釈し、Khnenta(フヌンタ)を南アフガニスタンのどこかとしている。 |
上記リストの土地はアフラ・マズダによって造られたものの、悪神アングラ・マンユが、それぞれの町に対していちいちネガティブな要 素も創造していて、その内容がリストに記載されています。下記はそのカウンターークリエイトの内容の一覧。いちいち対抗して作り出し ているところが、ゾロアスター教における二元論的な思考なのでしょうか。
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土地 |
アングラ・マインユの創造したもの |
説明 |
1 |
Airyanəm Vaējah |
川にいる蛇と冬 |
アラクセス川岸に蛇がいたとの説があるとのこと。10ヶ月冬で2ヶ 月の夏というこの地域の冬は過酷であることによるとのこと。 |
2 |
Suγδa |
蓄牛と植物に死をもたらすバッタ |
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3 |
Mouru |
略奪と罪 |
ゾロアスター教では爬虫類を憎悪した。 |
4 |
Bāxδī |
蟻と蟻塚 |
これも同上だと思われる |
5 |
Nisāya |
不信心の罪 |
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6 |
Harōvia |
涙と悲嘆 |
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7 |
Vaekereta |
Pairika Knathaiti名の悪魔。 |
世界の終末にサオシュヤントに滅ぼされる。 |
8 |
Urva |
高慢の罪 |
大ブンダヒシュンによるとメセネ人より高慢で悪い人々はいない、と あるとのこと。 |
9 |
Vəhrkāna |
償いをしない罪。不自然な罪 |
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10 |
Haraxˇaitī |
償いをしない罪。死体を埋める。 |
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11 |
Haētumant |
悪魔の魔法(魔術) |
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12 |
Raga |
不信心の罪 |
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13 |
Čaxra |
償いをしない罪。死体の料理。 |
大ブンダヒシュンによると、「死体を料理し、食べている。彼らは狐とイタチを料理し、それらを食 べている」と続く。 |
14 |
Varəna |
女性の中の異常な課題。及び敵対する野蛮人達。 |
マーザンダラーン地方の非イラン人。 |
15 |
Hapta hindu |
女性の中の異常な課題。及び過剰な心。 |
過剰な心は、「過剰な感情」という意味か。 |
16 |
Rahā-Land |
冬 |
ティグリス上流の酷寒だとの解釈。 |
-参考-
AVESTA: VENDIDAD (English): Fargard 1.(ヴェンディダードの原文はこちらにあります。基本的に このぺージの原文と注釈を参考にしました))
Harvard Studies in Classical Philology, 第 78 巻 p101-103 著 者: Harvard University. Dept. of the Classics,Harvard University
アフガニスタンの歴史と文化 p149-152 ヴィレム・フィーヘルサング 明石書店