ササン朝時代の文学



 ササン朝時代の文学は成立のはっきりしているホスロー1世時代の文学以外は成立年代が明らかではない。アルサケス時代以上に情報が残っていないのである。文学活動自体が衰退 していた可能性は高い。それは社会状況から推して考えることができる。ササン朝は建国理念である国粋主義的な要素が強く、ゾロア スター教の宗教的指導が生活に強 く影響していたと考えられる。こうした社会では一般的に宗教的著作は増加するが、一般文学は衰退するのである。古代ローマ自体が 3世紀以降キリスト教著作 に押され、一般文学は衰退したし、イラン自身、後のサファヴィー朝では宗教が優先し、文学は衰退している。ササン朝時代はゾロアスター教の聖典であるア ヴェスターが書籍化され、しかも教会の独占物とされた為、個人の宗教著作も出現せず、一般文学も衰退していたと推測される。とは いえ、後世パフラヴィー語 で残った著作はいくつかあり、これらがササン朝時代の成立ではないと否定できる根拠もない。幾つかのパフレヴィー語著作は、ササ ン朝時代に成立したかもし れないし、ササン朝以後に成立したかも知れない。妥当な見解としては、物語・伝説自体はササン朝時代に成立したものの、文字化さ れたのはアラブによる征服 以後、という見方である。

 ササン朝時代に成立した文学として以下のものが挙げられる。すべてパフラヴィー語著作である。

「フワーダイ-ナーマグ」 王書。正式な 王朝の官製史書。ペーロー ズ時代に成立したと推定されている。

「チャトラング・ナーマグ」 
将 棋 の解き明かしとネーウ・アルダクシールの案出」
 ブルズルミフルの伝説の一つ。インド王から将棋を送られて、その使用方法を謎解きするというもの。「シマスの書」や「シンド バードの書」と同様の問答 話。ホスロー1世代かそれ以降に成立。

「カリーラとディム  ホスロー1世代 にサンスクリット語から翻訳された。この書物を入手しにブズルジミフルがインドへ赴いたという伝説がある。

「パーパクの子アルダシールの行伝」 7 世紀に成立したとされる、 開祖アルダシールの伝記。竜が登場したりして、指輪物語のような中世ファンタジーを思わせる内容となっている。

「ブーダサーフの書」(
Būdāsaf- Nāmag) 「ブッダの書」と同一物とされる。仏陀の生涯を 扱った物語の筈であるが、内容はまったくペルシャ的な内容となっている。すなわち、パルティア王ファッルハーン(ファラクワー ン)の王子であるブーダサーフ(ブッダ)が禁欲生活に入るも、説得されて王女と結婚し、パルティア最後の王アルダワーンを生 むという内容。「ブーダサーフとバルーサルの書」も ササン朝成立かも知れないが、この3者は、「フィフリスト」ではインド起源とさ れている。しかしB.E.ペリーは、内容がペルシ ア王の話なので、ペルシア起源だとしている(「シンドバードの書の起源」p174)。


「ボークタガーンの息子ブズルジミフル、主席聖職者 ヴェヘ・サハブーフル、主席書 記官ヤズドギルドの3人が他の70人の賢人たちとともに誠実に王に仕えた長い物語」
 この話の大要は恐らくはフィルダウシーの「シャーナーメ」に記載されているのではないだろうか。そのうち調べる予定。      

「ヤートカーリ・ザリーラーン」(ザリアドレスとオ ダティスの物語) ロマンス叙事詩。 ヒスタスペス の兄弟ザレールとスキティア王の娘オダティスの恋愛もの。500年頃? 伊藤義教「古代ペルシア」に梗概所収。


「バラーシュ王と、インドの王女と下僕の娘であった 二人のお妃の物語」 アルサケス朝ヴォロゲーロス王とその妃に関する物語。「シンドバードの書の起源」 P180に邦訳概要あり。

シュメールやバビロニア以来の「アヒカル物語」の系譜を引く教訓文学は、ササン朝時代盛んであったようである。民衆文学や宮 廷詩と異なり、宗教に抵触しな かったからであろうか。
 

以上の内容は、「シンドバードの書の起源」、「古代ペル シア」(伊藤義教 岩波書店)を参考に記載しました

下記は、イブン・アル・ナディームの「フィフリスト」に「ペルシア人の書物」の項目に記載されている書名(「ハザール・アフサー ナ」と「カリーラとディムナ」は「フィフリスト」中のひとつ前の節に記載されているので、ここでは割愛)。

「Hazār Dastān」(千物語) 「Būsfās and Sīmās」 「Jahd Khusraw」 「Kitāb al-Marbīyīn」 「Fable and Amusement」 「The Bear and the Fox」 「Rūzbih the Orphan」 (バフラーム王の高位の聖職者の話という説あり)

「Mashkad Nānah and Shāh Zanān」 (ペルシア著作、mushk-dānah(grain of musk)」は少女の愛称。

「Nīmrūd King of Bābal」

「Khalīd and Da'd」 

以下はペルシア人が編纂した伝記、あるいは王の為の夜話

「Rustam and Asfandiyādh」 (Jabalah ibn Sālim の翻訳)

「Bahrām Chūbīn」 「Shahr-Bazār and Parwīz」「Al-Kārnāmak , about the life of Anūshirwān」「The Crown and What Good Auguries Their Kings Drew from it」 

「Dārā and the Golden Idol」(ダリウス三世の話) 「The Book of Institutions (Āyīn Nāmah)」 「The Book of Loads (Khuday Nāmah)(Bāstān Nāmah)」

「Bahrām and Narsī」(バフラーム・グールにはナルセスという兄弟がいたので、彼の話かも知れない)

「Anūshirwān」

 

バビロンの諸王とほかの部族の間の書

「The Righteous king of Babylon and the Devil , how He Tricked and deceived Him」 「N?mrūd the King of Babylon」 「The King Riding the Stick」

「The Old Man and the Youth」「 Ardashīr the King of Babylon and Artawān、His Wizier」(

推定される正しい題名「 Ardashīr the King of Babylon and Artawān and His Wizier」)

「Lāhij ibn Abān」 「The Wise Man Who Was a Hermit」

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