ムガル朝歴史映画「ジョダーとアクバル」


 本作はインド在住の方のインド紹介サイト、「これでインディア」 で詳しく紹介されていますが、「これでインディア」では、本作は歴史映画というよりもロマンス映画とされています。「○○と XX」という形式の題名は、 「カイレアスとカッリロエ」「レウキッペとクレイトポン」「トリスタンとイゾルデ」など古代ローマや中世欧州の小説や、「ヴィー スとラーミーン」「ホス ローとシーリーン」「ライラとマジュヌーン」など、古代ペルシアやアラビアの小説・伝説にも見られる形式であり、「ジョッダとア クバル」も、この系譜を連 想させるものがあります。

 とはいえ全体としては十分歴史映画となっていたように思えます。戦争シーンは迫力があったし、アグラ王宮が少し安っぽかったこ とを除けば衣装や舞台道具もリアルに見えましたし、当事の重要な政治的事件や要素もうまく扱っているように思えました。



  何より理解が進んだのは、当時のヒンドゥー教とイスラーム教の置かれた状況。ジョッダとアクバルの結婚は、ヒンドゥー教徒とイス ラーム教徒の婚姻であり、 宗教的に重大な意味を孕んだ内容であるということと、二人の場合は、国同士の結婚ということで基本的に対等であるが、当時のムガ ル朝に支配されていた民衆 にとっては、イスラームは支配者の宗教だという点。アンベール国の内紛が原因の政治的結婚であったため、ジョッダがアクバルと初 めて会った時に出した条件 が、ヒンズー信仰を守ることと、神の祭壇を作ることを許可すること。更に、お忍びの市中見学に出たアクバルが、市民との対話の結 果、ヒンドゥー教徒に課さ れていた朝拝税を廃止して、これが国民から善政とされ、「アクバル(至高無上)」の称号を受ける(朝拝税は礼拝する時に毎回かか る税金、とされていた点な ど(史実では人頭税(ジズヤ)を廃止した)。これらの点は書籍で読む以上に実感し易いものがありました。

 下記はジョッダが自室で拝んでいたクリシュナ神。



  この陶製の像は、当時のキリスト教のイエスやマリア像と似た感じ。衣装なども豪奢で、ルネッサンス当事の欧州とあまり代わらない 感じ。よく考えれば、日本 では織田信長と同時代で、安土桃山時代の絢爛豪華な文化が花開いた頃と同じなのだから、世界的な強国であったムガル朝がこのレベ ルにあって当然だと思い 至ったわけですが、アラブ・トルコ・インド世界については、どうも19世紀以降の印象が強いからか、近世については欧州にひけを 取らない高度な文明世界 だったことが私自身、イメージしずらくなっているように思えます(下記はアクバルの宮廷)。



  筋はそんなに複雑ではないのですが、はらはらドキドキさせてくれます。インド映画のお約束と言えるダンスシーンも、結婚式や朝拝 税廃止の記念式典などをう まく利用して不自然にならない程度に場面を盛り上げる効果を果たしています。アクバルの乳母で姑の嫁いびりもお約束という感じで すが、こちらも姑が陰謀を 巡らしてから、誤解が解けるまで15分程度(映画の中では数日くらい)と、取り返しのつかないまでに深刻にならないうちに解決す るなど、娯楽の範囲に留ま る波乱ぶり。とはいえ、この場面の演技はなかなか迫力がありました。

ジョッダがアクバルに向けて、「その手紙は結婚する前のものよ。しかも出さずにいたものよ!アンガがあなたの心に疑いの種を植え 付けようとしてやったことなのよ!」
アクバルがジョッダに「黙れ!(武田信玄の中井貴一風。二枚目男優ですが、凄い迫力)」

とまぁかなり気の強い性格のお姫様。実際剣の腕も強く、惹かれながらも素直になれず、どうにも反発せざるを得ないアクバルと手合 わせまでしています。





このアクバルは、象と戦う趣味がある程逞しい男なんですが。。。
(下は闘象場で戦うアクバルと終わるのを待つ家臣)



それにしても、インドは暑苦しいイメージがあるのに、透明感のある涼しげな映像。



インドといい、中国といい、どんどん映像が洗練されて、ハリウッドに近づいて行く気がします。品質が上がるのは嬉しいことです が、どれもこれも似たような作品となってしまうのは避けて欲しいところです。

  ということで、インドの歴史映画が、アクバルとアショカから製作されているということは、やはりこの二人の時代がインド人にとっ てメジャーな時代というこ となのでしょうね。タージマハルの映画もあるとのことなので、ムガル朝最盛期とアショカ王の時代の次に来るのは、どの時代なので しょうね。早くその他の時 代の作品も見てみたいものです。

*3/18 タイトルを「ジョッダとアクバル」から「ジョダーとアクバル」に変更しました。映画を見ていると、「ジョッダ」と聞こえてしまうのですが、spellの Jodhaaの訳としては、ジョダーの方が適当な様です。

BACK