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古代ローマ・ラテン語碑文の分布と年代別増減グラフ

 
大清水祐氏『ディオクレティアヌス時代のローマ帝国:ラテン碑 文に見る帝国統治の継続と変容』(山川出版社,2012 年)の序論に、ラテン語碑文の数量に関する話が出ていたので、興味を惹かれ、これまで出土している碑文の分布、年代別増減数のグラフを調べてみました。
 丁度3ヶ月前に、英語の歴史Q&A質問箱「Aks Historian」に数量に関 する記事「How much written record (in latin) do we have from the entirety of the roman empire?」が出ていたのでラッキーでした。以下の図版は、その質問箱に、回答している研究者らしき方 がアップした画像です。出典は不明です。アウグストゥス時代から、ディオクレティアヌス時代まで、各皇帝毎に、碑文数が グラフ化されています。セウェルス帝の時代がピークだったことがわかります。

1.年代別増減グラフ(ラテン語碑文)



 質問箱には、出典の記載がないのですが、S.Mrozekの作成したグラフから、と記載があるので、この画像の書籍の 題名は不明であるものの、その出典とされているMrozek(ムロゼク)の研究とは、S.Mrozek "A propos de la rmozek propos de la réparations chronologique des inscriptions latines dans Haut-Empire , Epigraphica 35. 1973年" のことだと推測されます。(質問箱の画像リンクはこちら。拡大画像が見れます)

 大清水氏によると、3世紀になるとラテン語碑文の数が急速に減少している事実は、この論文以前から研究者に認識されて いたとのことで、Mrozek氏は、その様子をグラフ化した、ということのようです。このグラフは、1680の碑文をも とに作成されているとのことですが、ラテン語碑文集成のデータベース「Epigraphik-Datenbank Clauss / Slaby EDCS」を、質問箱回答時に検索したところでは、全部で 483,846がヒットしたとのこと。更に毎年数百から1000程の新規碑文が、碑文集成として出版され続けているそうです。これほどの数の碑文があると すると、Mrozek氏が挙げている1680個程度の碑文数で、傾向を一般化できるのかどうか、若干疑問も感じますが、 現時点では碑文の数量的研究はこれしか無さそうです。データーベースに出土地と年代データがあって、出土地別、年代別に 検索ができれば、年代別出土地分布マップなどが作れるかも知れません。年代別に、どのようにラテン語碑文が、帝国内に広 まっていったのかがわかれば、帝国内におけるラテン語普及の様子なども解明できて面白いと思うのですが、そうなるまでに はまだ何十年もかかるのかも知れません。


2.分布地図




質問箱の画像リンクはこちら。拡大画像が 見れます)
 これは、数あるラテン語碑文集成の中でも、もっとも知名度の高いCIL(Corpus Inscriptionum Latinarum(ラテン語碑文集成))の各巻が、どの地域を扱っているか、という図です。質問箱の回答 者は、直接分布を表す図がないので、代わりの手段として、CIL(全17巻、掲載碑文数18万)の各巻の扱う範囲を用い て、分布を計ろう、というアイデアで、この図を提示しています。これによると、現イタリア共和国の範囲を7巻でカバーし ていて、英国1巻、イベリア半島1巻、フランス・ベネルクス三国・西ドイツ1巻となっています。東部ギリシア語圏は、全 体が1巻でカバーされていて、ギリシア語圏のラテン語碑文は、あまり多くないこともわかります。質問の回答では、ローマ 市だけは数字が出ていて、9万5千とのことです。

 各種碑文集成が出版されているラテン語碑文の数量傾向については、少なくとも上記のような分析が出来るようなのです が、古代のギリシア語碑文については、ギリシア本土と島嶼部から発見された碑文集成(Corpus Inscriptionum Graecarum)があるだけで(しかもローマ時代だけのものではない)、ローマ東部全土から発見された 碑文は、個別の論文に発表されているだけで、ローマ東部のギリシア語圏全体をカバーする碑文集成はまだないようなのが残 念です。ただし、ローマ時代のギリシア語碑文の総数については、約30万と、上記質問箱の回答にありました。

 ついでに、主なラテン語碑文集成の一覧表を作成してみました。ご興味のある方はこちらをご参照ください



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