2017/Sep/17 created

古代インダス文明スペクタクル映画『モヘンジョ・ダロ』(2016年)

  歴史映画は、基本的に歴史に興味を持たせてくれれば良いわけですが、流石に神 話やファンタジーと見分けが尽きがたいような作品を何作も見ているといい加減にして欲しいと思わなくもない部分もあります。
 本作にもあまり期待していなかったのですが、驚いたことに、これはまったく普通のハリウッド流スペクタクル映画でした。と いっても、1950−60年代のハリウッドのスペクタクル映画です。最近のハリウッド史劇しか知らない人が、それと同レベル のものを期待すると、期待外れとなるかもしれません(例えば『ノア 約束の舟』『エ クソダス 神と王』等)。IMDbの評点(こちら) も5.9と決して高くはありません。しかし、町の名前を、モヘンジョ・ダロではなく、古代シュメルのウルクなどに変更すれ ば、視聴者は、20世紀中盤のハリウッド史劇だと思えるのではないか、と思わされるほど、従来のインド歴史映画とは違う映像 に仕上がっています。

 インダス文明を扱った作品では、テレビドラマシリーズの、ドキュメンタリー再現ドラマ『インドの発見』の第二話(紹 介はこちら)があります。こんな感じの映像感覚での古代インダス映画を見たいと思っていました。しかし最近のイ ンド歴史映画は、『バフーバリ』以降すっかり神話路線に回帰してしまったようだったので、予告編を見てさえ、まったく期待し ておりませんでした。視聴しながらも、そのうちとんでもない映像が登場して神話のような展開になるのだろう、と期待せずに見 続けているうちに、するすると見終わってしまいました。2時間40分、退屈せずに見れました。

 繰り返しますが、21世紀のハリウッド史劇ではなく、20世紀のハリウッド史劇という感じのインドの歴史映画が見れること がどれだけ凄いことなのか、わかっている人にはこの映画は面白く、価値があるように思えるのではないかと思います。普通に最 近のハリウッド史劇だけと比べてしまうと、たいして特徴のない凡作に見えてしまうかも知れません。そういう前提条件を踏まえ た上で、本作は、ぜひ日本で公開されて欲しいと願う次第です(通常遺跡は「モヘンジョダロ」の表記ですが、原題は、 『Mohenjo Daro』であるため、本記事では、『モヘンジョ・ダロ』の表記としています。なお、映画冒頭で、当時の名称は判明していないので、本作でも「モヘン ジョ・ダロ」という名称を利用する、との解説が入っています)。

 本作は、日本で公開されるか、dvdが発売されるかも知れないので、あらすじにはあまり言及しません。基本的にモヘンジョ ダロの再現映像の紹介中心にいきたいと思います。一応予告編は見ていたし、結構ベタな王道展開ではあるのですが、それなりに 意外な展開もあったりしましたので、展開を知らない方が楽しめるかも知れません(20世紀のハリウッド史劇のベタ展開以上の ものではありませんが、、、、)。

以下が登場人物。左端が主人公サルマン、その右は親友のホージョ、その右はモヘンジョダロの市場監督官ロッタール(サルマン の友人となる)、その右はサルマンと出会ってほとんど一目惚れでお互い惹かれあうヒロイン・チャンニー、その右はその父親の 祭司長、その右モヘンジョ・ダロの王・悪役マハン、右端はその馬鹿息子モンジャ(チャンニーの許婚)。



 上記ヒロインの衣装はスターウォーズ・デコレーションですが、こんな衣装が登場 するのは最初の方のこの場面(祝祭の場面)と結婚式の場面くらいで、あとは普通です。

 下左、インダス川で魚を捕る主人公達。葦の船の再現映像が嬉しい。下右はサルマンの家。田舎の農家。再現映像とい うより、20世紀までの貧乏小作農の家という感じもしますが、、、若き主人公は、自作農の叔父叔母夫妻を手伝う生活 をしているが、噂にきく大都会、モヘンジョダロへ行くことを熱烈に希望し、叔父叔母夫妻の制止もきかず、ついに親友 のホージョと二人でモヘンジョダロへ向かうのだった。叔父は、都会は強欲な人々が集まるところだ、といって止めるの ですが、この、「都会は強欲な場所だ」、というせりふは何度か登場します。



以下モヘンジョ・ダロの再現ショット。下右、主人公がモヘンジョ・ダロへ向かう時 の牛の隊商。下左が主人公がはじめて目にするモヘンジョ・ダロ。



 下は、上左の拡大画像。左側の高層建築が上流階級の居住区。中央と右手に、低く 城門と楼閣が広まっていることがわかります。この画像の左に小さく隊商が見えていますが、奥の都市はCGだと思われ ます。しかし、またくCGに見えません。



 これは、隊商がモヘンジョダロの門に近づいたところ。これも建築部分はCGだと 思われます。



 上の左方面に王宮や貴族が住む上流区画がある。下はその部分の概観。モヘン ジョ・ダロの概観を描いた絵などは発見されていないのですが、メソポタミア文明の都市の再現映像に倣ったものと思わ れます。私の印象はアケメネス朝のペルセポリスです(ペルセポリスの再現イラストに似ているため)。



 二つ上の右側の城門を、向かって左方面から見たのが、下右の画像。この映像の建 築物は、CGではなく、セットに見えました。主人公サルマンのいる隊商がモヘンジョ・ダロの門に向かっている場面。 下左は、上空から見たモヘンジョ・ダロ。左端が王宮と上流階級の居住区。その右奥に緑地(森)があり、下町の中心 (十字路のところ)に市場があります。最後の方で掲載しますが、緑地の下、上流区画と下町の間に、正方形の競技場が 見えてます。このように、空撮映像は、細部の映像と対応しており、結構ちゃんと作ってあります。下左の右手に見えて いるのはインダス川。




 下左画像の手前が門、その背後が下町、その向こう奥は上流地区。下右の左は上流地区、中間は森、右手が下町。



 下は、城門上の梁に掲げられたシンボルマーク。中心から5種類の動物の頭がでていて、左上の獣は、主人公サルマン の夢に出てきた動物(一角獣)ではないか、と主人公が思う場面。



 現在の中東の田舎の町の風景という感じですが、下は下町の様子。当時は世界での 最先端の巨大都市。レンガ作りであることがよくわかる再現セットとなっています。基本的に二階建てしかないところ が、リアルな感じです。



 下左は、上流地区から下町を見たところ。左手に緑地の一部が見えています。下右 は前述の競技場。CGですが、本作のよいところは、CGとセットの境目があまりはっきりしないところです。結構うま く作っているように思えます。



 下左は、上左を反対方向(王宮方向)を眺めたもの。下左中央に、上流地区への門 が見えます。このように、上流地区は下町とは別に城壁で区切られています。下右は上流地区の中央広場。様々な公共建 築物に囲まれているようですが、市場は下町にしかないようです。下右は、CG画像に見えますが、映画と見ていると、 CGかセットか見分けがつきません。結構よくできていました。



 下左は上流地区の中央広場の空撮映像。上右の中央の塔が、下左の中央上と右側中央に見えています。下右は中央広 場。上右の奥の赤い柱の建物が、下右の左側に見えています。下右映像はCGだと思うのですが、セットにも見え、判断 がつきませんでした。



 と、こんな感じで、かなりディティールを作りこんでいます。ありえそう な範囲をあまり逸脱せずに描いているのが特徴です。インドの歴史映画にしては、かなりリアルそうな再現映像 となっています。

 以下は下町中央にある市場。下左は夜、これが段々明るくなって右画像となります。ストーリー上、夜の風景 を出す必然性がないのにも関わらず、わざわざ夜の画像を出してくれるところが嬉しいところです。こういう場 面がいくつかあって、製作陣の再現映像へのこだわりを感じさせてくれます。貨幣もなく、物々交換です。




 下右側は都市の指導者たちの会議場。正方形に椅子が並んでいます。奥に座ってい るのがマハン王。下左は、中央市場の中央に設置されている、時刻を知らせる太鼓。その手前にいる人物は、古代エジプ ト人だと思われる風俗の人々(もしかしたらシュメル人かも知れない)。考古学遺物から、直接交易か、間接交易かは不 明ながら、インダス文明とメソポタミアとの交易があった可能性が指摘されているため、これはありえる範囲です。



 下左はシュメル人商人たち。下右は、有名なモヘンジョダロ遺跡に残るプールの再 現映像。屋内のプールとなっていて、祭儀目的に利用されています(公共浴場等の諸説あり)。柱が赤いので、上流地区 の中央広場に面している赤柱の建物かも知れません。屋内なのに照明が明るすぎ、ホテルのプールに見えます。これは流 石になさそうですが、まあまともな範囲です。


 下右は、城壁外に流れるインダス川(作中では古代ペルシア人が呼んだ、シンドゥ という名称となっている)。下左は、洞窟内にある宗教施設の中央の柱に刻まれた神像。現在の特定の宗教をあまり想起 させない彫像となっています。神像の下には、主人公サルマンが実家にいる頃夢に出てきた一角獣のレリーフも彫られて います。この洞窟神殿は、上流地区と下町の間にある緑地内にあるものと思われます。



 建築物の最後。以下は、モヘンジョダロの上流にダムと運河を建築し、運河がイン ダス川を迂回しているところ。インダス川の上流にダムの古代遺跡があるのかどうか不明ですが、恐らく本作独自のフィ クションだと思いますが、一応載せてみました。建築部分は普通に木造なので特に面白い映像ではありません。そこで俯 瞰映像を 出してみました。



 
 因みに本作は、西暦前2016年、と限定されています。西暦2016年に公開し たのでこういう設定にしたのだと思われますが、このため本作は、歴史映画の中では、もっとも古い年が明確に設定され ている映画ということになりました。

 以下の二枚は、出土遺物をもとにした小道具。下は、インダス文明を扱った書籍ではよく登場している護符。インダス 文字が刻まれています。



 こちらは、書記が商人の荷物の預り証を発行しているところ。インダス文字っぽい文字となっています。俳優さんは、インダス 文字もどきを練習したようです。



 また、本作では一瞬ですが、(出土遺物で確認できる)おもちゃで子供が遊んでいる場面も登場していました。

 以上、本作の文物については、かなりまともな再現映像となっていることがわかるかと思います。衣服についてもあまり華美で はなく、上流階級の衣服もぎりぎりありえる範囲だと思います。まったく根拠はありませんが、個人的には、前2000年であれ ば、上級階層といえど、もっと質 素で薄茶系の衣服だけだったようものとの印象があります。前500年頃であれば、ありえる範囲ではないかと思います。しかし古代エジプトの壁画などを見て いると、本作程度はありえそうにも思えます。もっ と凄い原色系のカラフルな衣服が登場するのではないかと恐れていたので、意外におとなしく感じられました。とはいえ、冒頭で ご紹介したように、ヒロイン・チャンニの祭事の衣装はスターウォーズ・デコレーションで、それに近い衣装が皆無ではありませ んので、一応最後にご紹介したいと思います。

 本作では、インド映画おなじみのミュージカル映像は(確か)三回登場し、三回とも(確か)前半部分です。最初のミュージカ ル場面で以下の奇抜な衣装が登場しました。踊り子が回転しているため、服が広がっていて、左の画像ではきのこが回転している ように見えます。さすがにこれは現代のデザイナーが自由にデザインしたような当時としてはありえない衣装ですが、こういう異 次元映像はほぼここだけです。しかも、この場面は、衣装こそ異次元ですが、ミュージカルは祝祭の踊りと一体化していて、衣装 が奇抜でなければ、インド映画お得意のミュージカル場面だと気づかない、とまではいえないものの、比較的うまく溶け込んでい ました。


 
 通常のインド映画では、突然町中から高原に飛んでミュージカル場面となったり、あまりに唐突にミュージカル場面がさし挟ま れ、浮き上がって見えることが多いのですが、本作の最初のミュージカル場面は祝祭場面に溶け込んでいて、わりと自然に見れま した。

 最後に、もうひとつ、本作で印象に残ったことがあります。それは、映画冒頭で入る文字の解説部分に、特定の党派に肩入れす ることはない、と長々と解説されている部分です。その背景には、インダス文明を担った人々について、インドでは、アーリア人 としたいヒンドゥー民族主義者やドラヴィダ系としたいドゥラビダ民族主義者の方々がいるためだと思って間違いはないと思いま す。映画では馬(アーリア人社会の特徴のひとつ)は、モヘンジョ・ダロに交易品として運ばれてくる商品として登場していまし たが、軍事目的の利用や馬車での利用等、どのように利用されたのかは登場していません。荷車はすべて牛が牽引し、馬を運んで きた商人の一人は、モンゴル系の顔立ちをしています。主人公の名、サルマンは現在ではイスラム系の名前です。インド映画で は、映画の開始前に、禁煙どころか、喫煙を続けていると、肺がんで死ぬぞと、ニコチンをたっぷり含んだ肺を絞ってタールを搾 り出す映像が登場するなど、喫煙を脅すような怖い映像が長々と登場したりして、面白かったりします。本作は、冒頭の開始前の 部分も面白く見れました。

IMDb の映画紹介はこちら

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