イラン製ヒロイックファンタジー歴史映画「The Kingdom Of Solomon The prophet/ソロモン王」

 原題「Molke Soleiman(ملك سليمان(Solomon))」。2010年イラン製作。本記事の題名をイラン製「ヒロイックファンタジー歴史映画」としましたが、これは、最近欧米 で製作されている中世歴史映画か、中世風ファンタジー映画に影響されているような作品です。このことの真偽はどうあれ、政治的に はともかく、イランは米国 文化、ハリウッド映画が好きなお国柄。コーラがなければ自国製Zamzamというコーラとファンタを作ってしまった国です(現在 はコーラのライセンス契約 があるとのことですが)。だって冒頭から、神と悪魔の対決みたいな、銀河系の映像が出てきて地球に降下(「アレクサンドリア」で は地球が登場し、降下する 映像でしたが、こちらは銀河系の外から降下)。そしていかにも、という悪魔を呼び出す呪術師が登場して、ガーゴイルのような小悪 魔が人々に取り付く。

 本作はコーランに掲載のあるソロモン伝説がベースとのことですが、映像的には中世欧州。

 そして主人公ソロモンは、イラン歴史映画の主人公としては見たことのない、かっこいい二枚目の俳優さん。

 パレスチナは緑多き場所もあるとはいえ、こんな緑の山々を駆け巡るソロモン軍。もう古代イスラエルというより西欧の騎士にしか 見えない。

 突撃場面も欧米騎士映画の影響を受けているとしか思えない映像。

 このイスラエル正規歩兵部隊も古代イスラエルよりも古代ローマか、古代末期のゲルマン国の部隊を連想してしまう。

  更に、本作のオープニングクレジットとエンドクレジット、冒頭の短文の解説(簡単にソロモンの紹介が出てくる)、場面が変わった 時の地名のテロップは、ペ ルシア語の下に英語が併記されていて、エンドクレジットに登場する人物の1/3は、ローマ字表記で、イラン以外の、欧米や中国人 だと思われる人々。私が視 聴したのは105分版ですが、その後20分程メイキング映像が入っていて、CGの製作者はまず間違いなく欧米人。音楽担当者は中 国人で、チャン・クン・ビ ンと名前まで紹介されていた。つまり、本作は、最初からイラン以外の、全世界での公開を目指して製作された、娯楽作品だと思われ るのです(どうやら香港の 協力が大きいらしく、実態はイラン・香港合作と言えそう(先ほど紹介した記事に記載があります。))。記事の末尾、「こ の映画は、アラブ・イスラム諸国さらには、西洋諸国でも放映可能な資質を備えており」というのは言い過ぎかも。本作は香港の力が 大きいようなので。

  宗教政権の現イランでは映画・ドラマの題材は、歴史映画はコーランから題材を持ってくるか、シーア派の聖人などに限られてしまう ようですが、まじめに製作 されると一般視聴者には退屈でしかない題材で、なんとか娯楽作品に仕上げようという意識が垣間見えた作品でした。なお、本作は終 わりに、「The end of the part one」と表示が出る為、第二部も予定されているようです。画面ショットと、あらすじを記載しましたので、ご興味のある方は「More」をクリックしてく ださい。1月に視聴し記事を書いた時は字幕無しのペルシア語でしたが、英語字幕版を発見したので、昨日見直し、1月の記事にコメ ント(※)を付ける形で、 あらすじの補記を行なっています。映画のシナリオや撮影によっては、知らない言語で字幕が無くても、十分理解でき、楽しめる、と いうことの事例になれば幸 いです。

  最初に見たのはペルシア語版でしたが、その後、英語字幕版も見つけたので見ました。全然わからないペルシア語版でも映像だけで結構楽しめましたし、英語字 幕版で内容がわかっても、あまり大して理解度は変わらないのでした。映像だけ見て記載したあらすじと、字幕で理解した内容とにど れだけ開きが出るのか比較 してみるのも一興ということで、下記あらすじでは、(※・・・・)で英語字幕版で理解した内容を追記しました。

 既に記載しましたが、冒 頭、銀河系が登場。ナレーションが入り、推測ですが、神と悪魔の創生と対決みたいなことを言っている様子。そして地球が出てき て、大気圏に降下する(※こ の場面は英語字幕版では削除されていた。ハリウッドが本作品の上映拒否をしたという、コーランからの引用部分とはこの部分なのか も知れない)。

 悪魔を呼び出す呪術師が登場して、洞窟の奥で悪魔を呼び出す儀式を行っている。どうやら、イスラエル王国の反ソロモン派の有力 者(※名前はYazir)が依頼したようである。半透明の煙みたいな悪魔が呼び出されるのだった。

  続いて、ダヴィデ王死去の場面が出てくるわけではないが、野原で牧畜民達と談笑しているところに、王国の有力者達が大勢押しかけ てくるところから、ソロモ ンの即位が通知される場面なのかも知れない(あくまで推測ですが)(※ソロモンは、9歳でダヴィデを継いで即位した、と本作で出 てくるので、この場面は即 位後。内容は、収穫の指示を家臣達がソロモンに問い合わせにきて、ソロモンが許可を出す、というものだった)。その後、ソロモン は、エルサレムには向かわ ず、2人の供を連れて、湖に赴く。その湖の場面も、とてもイスラエルとは思えない、まるでスコットランドかアイルランドという感 じ。


湖のほとりで白馬の幻を見るソロモン。

 このあたりの意味は全然わからなかったのですが、その後ようやくソロモンはエルサレムに入る。下記はエルサレム。手前がソロモ ン一行(※白い馬はソロモンの幻覚で、彼が自身を預言者だと認識する理由のひとつとなる場面でした)。

 より近くからのエルサレム映像。かなり緑の多い町となっています。


城内の塔から見下ろしたエルサレム市街。


  夜、宮殿の王座に一人座っているソロモン。立ち上がって、王座を振り返ると、王座に座ったままで死んでいる自分の幻を見る。驚く わけでもなく、静かに立ち 尽くし、険しい表情で物思いにふけるソロモン。宮殿の外の祭壇(※「聖なる岩」だそうです)に赴くと、神のお告げがあるのだった (※お告げの内容は、悪魔 (ジン(精霊)とサタン)が人間界を攻撃する、というもの)。

他の町か、地方領主か不明だが、陳情に来たと思われる一行を迎えるソロモン(※神の予言を聞いたソロモンが、イスラエルの各部族 長を呼び寄せたのでした)。

宮廷で激論が展開されるが、どうやらソロモンを糾弾しているのは、訪問者ではなく、エルサレムの司祭と思われる人物である(※ Yazirだけではなく、部 族長の約半分)。つまり、反ソロモン派とソロモン派が、この激論を通じて色分けされてゆく場面なのかも知れない(※議論の内容 は、ソロモンが伝えた神の予 言を信じる派と、信じない派であり、信じない派の論拠は、ユダヤ聖典トーラーこそ社会秩序の根源であり、ソロモンが直接神の言葉 を伝える預言者とは信じら れない、本人しか確認できないことを信じろといわれても社会が混乱する、というもの。ソロモンの予言が本当だということを知って いるのは悪魔を呼び出した 張本人であるYazirだけ。更にいえば、予言に名を借りたソロモンの独裁を懸念した部族長もいたものと思われる)など。議論は 終わり、反ソロモン派は宮 殿を出てゆく。残ったソロモン派に対し、王は地図を示し、各人に各地の部族の都城の赴いて説得するよう、指示を出す。その使者。

 下記の都城はHebron。

 こちらはArhla。下記はそのArehaの城門。結構しっかりしたセット。

 これ以外にも、海岸の漁村ZABULUNにも使者が赴く。各地でソロモンのメッセージを演説する部下達。エルサレムではソロモ ンが、民衆を集めて演説している。

 一方、半壊した中世の古城という趣の城にこもる反ソロモン派の会議の場面。下記はそのリーダーYazirが書き物をしていると ころ。書き物をするにはどの程度ろうそくが必要であるのかがわかり興味深い映像。

下記は、ソロモンの家族。こういうテーブルと椅子が当時あったのか、これも興味深い映像(※ソロモンの奥さんミリアムは身篭って いることが判明)。

  さて、その頃、Arihaの町では一時的に発狂したような振る舞いをする人が見られるようになっていた。そしてついには広場で剣 を抜いて周囲の人々を無差 別に殺傷する事件が発生し、更に多くの人々が「グオオ」とうめき声を上げながら他人に襲い掛かる。町は大混乱に陥る。エルサレム にも報告が伝わり、エルサ レムの人々も不安に陥る。ソロモン王は軍を率いてArihaへ向かう。イスラエルを舞台とした映画とは思えない程深い緑が印象 的。

  ソロモン軍が到着すると、町は焼け落ち、生き残った一部の人々が広場に集まっていた(とり憑かれ続けている人は縛られていた)。 そしてソロモンの前で、一 人の男がとり憑かれる。更に剣を持った軍人(※部下のShy(シャイ))もとり憑かれ、ソロモンに襲い掛かるが、ソロモンが静か な優しげな目を向けると、 男はソロモンに向かって跪くのだった。

  取りあえずAriha町の悪霊騒動は収まった。そこで反ソロモン派のリーダーは再び洞窟の呪術師を訪ねる。呪術師は、壁から髑髏 を取り出し火にくべると、 そこから黒煙がわきあがり、その黒煙は弾丸のように洞窟から出て、高速で野原を走り、瞬く間にエルサレムに達すると、ソロモンの 妻(と思われる)女性を直 撃し、死に至らしめるのだった(※Yazirが、ソロモンに更に直接的な打撃を与えようとソロモンの妻の暗殺を依頼したもの。呪 術師によると、この方法は ファラオが所有していたもので、モーセを通じてイスラエルに伝わったものとのこと)。ソロモンは、Hebronに向かう途中突然 妻の死を悟り、 Hebronでの悪霊騒ぎ鎮圧を部下に任せて、自分はエルサレムに戻り、妻の葬儀が行われる。葬儀にぬけぬけを顔を出す反対派の リーダー(※ Yazir)。なにやらソロモンを説得しようとするが(たぶん天罰とか、神の意思とか口にしているのだろう)、聞く耳を持たない ソロモン。憤然とソロモン を見送る反対派のリーダー(※このような災害に見舞われるのは、ソロモンが王として不適格であり、辞任を迫っているのだった)。 そして今度は、海辺の町で 異変が起こった知らせが届き、出撃するソロモン軍。出撃時、ソロモンの母と思われる人物がソロモンに鎧を渡すのだが、これが鎖帷 子。どう見ても中世欧州か パルティア・サーサーン朝風。当時のイスラエルにあったのでしょうか(※父王ダビデが最初の戦闘時に作ったものなのだそう)。

守備隊を除いた主力軍が王とともに出撃してしまったエルサレムでは、その夜、早くも異変が起こっていた。うめき声が夜の市内のあ ちこちから聞こえ始めたの である。不安になった市民は中央の祭壇(ソロモンがはじめの方で祈っていた所’七番目の画面ショット(※聖なる岩)。に集まって くる。
 
 その頃、海辺の町(※ZABULUN)では、悪霊の襲撃を受け、大変な事態となっていた。

  黒い煙の悪霊が多数飛んできて、一斉に人々に取り付き、他の人々を襲い始めたのである。無事は人々はなんとか町の郊外に逃げ延び るが、とり憑かれた人々 が、「グオオ」とうめきながら集団で追いかけてくる。この場面はもうゾンビ映画のノリ。バイオハザード(ただしバイオハザードと 違うところは、噛み付かれ ても伝染しないところ)。

 町にいた二人の軍人は、なぜか悪霊を追い払うことができるのだった。下記は、悪霊を防ぐ瞬間。しかしこの軍人も、とり憑かれた 人々に殺されてしまうのだった(しかしその時間稼ぎのおかげで、正常な人々は一時的に郊外に避難することができたのだった)。

 (※ここで、ZABULUNの部族長が、飛んでくる悪霊に向けてトーラーらしき書物を差し出すが通用せず、取り憑かれてしま う。この部分も、ユダヤ人の影響力が強いハリウッドが本作の上映を許可しない理由のひとつなのかも(上映不許可の記事はこちら)。というか、これがトーラーだとしたら、イランが敵視 する所謂シオニストだけではなく、非シオニストユダヤ人からも反感を買ってしまうような気がするのですが、後述の場面で、トー ラーが権威ある書物として出てくるので、考えすぎかも)

  正常な人々が一まとめにされ、火あぶりになりかけたところにソロモン軍が駆けつける。人々を救出し、悪霊にとり憑かれた人々を捕 縛するのだった(捕縛され た連中は、どういうわけかそのうち正常に戻るのだった)。そこに、Hebronに派遣していた隊がやってきて、エルサレムでの反 ソロモン派の動きを伝える (※反ソロモン派の部族長がエルサレムに軍隊を集結しているとの報告)

  一方のエルサレム。反ソロモン派が市民を説得しようとするが、うまくいかない。そこで自派の部族を率いて、守備隊に向かい、守備 隊のうち歩兵部隊を言いく るめて武装解除したところを襲い掛かり、クーデターを起こすのだった(※羊皮紙に書かれたトーラーを掲げ、兵士に「モーセの十戒 に背くのか!神に背くの か!」と脅して武装解除させたのだった)。下記はその守備隊歩兵隊。 残りのソロモン派守備隊は、夜まで抵抗を続けつつ、ソロモ ン派市民と王宮に立てこも る。

  ソロモンは、エルサレムに一刻も早く戻らねばならないと思っているが、時間が無い(※実際は、馬も兵士も消耗していて、最低でも 明日の朝まで休息が必要、 ということだった。この伏線として、ZABULUNに進撃中のソロモン軍の兵士の馬が疲労死してしまう場面が出てきていた。そう いうことだったのかと納 得)。そして、悩んでいるところに、神の声がして、船が三隻、沖合いから漂ってくるのだった(※その前に、ソロモンが、「神よ救 いたまえ」とお願いし、神 が「望むとこならどこにでもゆく風を与える、と答えていたのだったご都合主義の極まりだけど、悪霊の方も、Yazirが呪術師を 通じてお願いして、それに 応じているのだから、まあ五分五分といえるかも)。翌朝民衆とともに船を浜辺に引き上げ、三隻を横に連結する工事を行う。

  そしてソロモンが沖合いを見つめると、エメラルドグリーンの晴れた海が掻き曇り、沖合いに大竜巻が起こる。そしてそれが近づいて きて、船を巻き上げ、エル サレムまでソロモンの軍隊を運ぶのだった。翌朝、エルサレム王宮は陥落寸前にまで追い詰められているが、そこに突然、船が飛んで きてどかんと宮殿の屋根に 着陸するのだった。ソロモン派も反ソロモン派も何が起こったのかと唖然として戦闘を中止するのだった。そこにすかさずソロモン軍 の兵士が飛び降りて反乱軍 と戦うが、日が落ちても戦闘は終わらない。そしてついに、天空に光が現れる(※実はソロモンが、戦いながら神の支援をまたも祈っ たのだった)。光を見て 人々は戦いを中断する。

 下記はその光がエルサレムを上空から照らしているところ。

 そして段々と接近した光に、ソロモンは自ら近づく。すると光は一度ソロモンを包み込み、神がなにやら告げるのだった(※ソロモ ンに神の力を与える、という内容だった)。その後、光は「ソロモンの指輪」に入ってゆくのだった。

  続いて起こったことは、人々に取り付いている悪霊が、人々から離れ、逃げてゆく場面(※ソロモンは、王宮の屋上から皆を見下ろす だけで、何も口にしなかっ たので、急に悪霊が離れだした理由がわからなかたのですが、指輪に神の力が入り込んでしまったので、ソロモンが見つめるだけで悪 霊が退散することになっ た、ということのようです)。悪霊は半透明のガーゴイルで、動きがすばやく、まともな画面ショットは取れませんでした。ガーゴイ ルが自分の体の中から分離 し、人々が驚き騒然とする場面は、たとえば駅前広場で大量のゴキブリが飛来し、人々の背中に入り、地を這って出てゆくパニックを 思い浮かべれば、本作の映 像もイメージできるかと思います。反対派リーダー(※Yazir)の中にも、実は悪霊(ジン)が入り込んでいたのだった。

そのガーゴイルは、メイキング映像で、製作中の人形が登場していたので、それをご覧いただくと外形がわかるかと思います。映画で は半透明でわかりづらかったものがよくわかります。

  最後は、全員から分離し広場の片隅に集まります。下記左側の黒っぽい点がガーゴイル達。数百頭います。右側は王宮に避難してゆく 元憑かれていた人々。結局 反ソロモンのリーダー以外の全員が王宮に入ってしまい、ガーゴイルとともに広場に残されたのはリーダー(※Yazir)だけ。こ うして謀反は鎮圧され、 ハッピーエンドとなるのであった。


下記はメイキング映像の、都市のセット。エルサレムやその他の都市の撮影に使いまわしていたのだと思いますが、結構規模も大き く、セット建設中の映像もあ りましたが、はりぼてばかりではなく、ちゃんと石造で作っている箇所もあり、かなりしっかりしたセットであるように見えました。

  下記は作業中の女性スタッフ。現政権下では、一般市街はともかく、映画やドラマでの女性の髪出しは厳禁ですが、メイキング場面と はいえ、dvdに併録され ていると思われ、公的に流通する映像で髪を出して大丈夫なのかと思いましたが、ひょっとしたら、欧米人スタッフかも知れません。



  IMDbの評点を見ると、米国が平均4.3、米国以外が6.8となっています。私は結構楽しめました。4.3というのは、政治的バイアスが入りすぎなので はないかと思います(まあ、ハリウッド映画に目が肥えている人からすると、平凡に見えるのかも知れませんが)。本作は、映画館で 上映する程のものではない ものの、日本語版dvdが出てもいいのではないかと思います。イランに特に偏見や先入観の無い方であれば、結構普通に楽しめる作 品だと思います。という か、イラン作品ということを知らないで見ると、中東の作品とは気づかないのではないかと思います(半分くらいは香港の技術で作っ たようだから、当然なのか も知れませんが。。。)。

 ところで、本作に史実性を求めるとすると、ソロモンが独裁権力獲得の為、「神の言葉を聞いた」と主張して反対派を粛清した史実 でもあったのかしら、と思ってしまったのでした。

IMDbの映画紹介はこちら
Wikiには簡単なあらすじと第二部の概要の記載があります
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