古代ギリシア歴史映画1971年版「ソクラテス」/1991年版「ソクラテス」/2010年版 「ソクラテスの死」

    紀元前5世紀のギリシアを扱ったまともな映画を見たいと思っていたのですが、漸く見れま した。しかも2本半。それぞれ特徴があり、それなりに楽しめました。

1.1971年版「ソクラテス/原題Socrate」 フランス・スペイン・イタリア製作

 スパルタ軍とスパルタ軍側の市民と思われる人々による攻城の場面からはじまる。槌兵器で城壁を破ると、そこからアテネのアクロ ポリス神殿が見える。その美しさに見とれるスパルタの人々。

 (多分絵だと思うが、巨大なアテネ神像が描かれているのが嬉しい。
 市内では、人目でソクラテスと思われる人物が広場を横切ってどこかの家に入っていく。

 市内広場から見るアクロポリスの丘。左上の神殿右に、アテネ神像が見えている。

ソクラテスは、上写真の、中央奥の家に入っていったようだ。古代ギリシアの市街地を再現した復元映像は目にしたことがなかったの で嬉しい映像。
 そこは(聞き取り違いかも知れないが)、家の主人にアルキビアデスと呼びかけていた気がする。昼間から宴会である。まあスパル タに包囲され、壁も破られている非常時なのだから仕方がないが。まさか普段から毎日こんな感じじゃあるまい。いくら奴隷制社会と はいえ。

  真ん中で横になっている青い服がこの屋敷の主人。ソクラテスも加わって、民主制とかスパルタとか、そんなのはファンタジーとか御 伽噺だとかいう言葉が出て いる。しばらく議論があった後、家人が主人に何か伝えに来た為、会はお開きになる。しかし、家を出たところで、1人は帰宅したも のの、ソクラテスを含む3 人は別の宴会に向かう。下記は家に帰ることにした一人。ここも市街の映像が嬉しい場面。

 一方、市場でも民衆が口論となっている。スパルタを巡る情勢に、どこでも殺気立った雰囲気がある。
 弟子から食べ物もらって帰宅するソクラテス。「ありがとう、クリトン」とか言っている。弟子から食事をもらう程貧しかったの か。帰宅すると今度は妻のクサンテシッペに噛み付かれる。

  激怒してテーブルの上のパンを手にし、そのパンを夫の胸につきつけている。推測だが、「毎回毎回パンを巡ってもらうなんて。あん たは恥ずかしくないの。ご 近所様の笑いものだよ」とでも言っているのかも知れない。最後はテーブルの上の他のパン等を床にぶちまける。しかし、直後夫に謝 るクサンティッペ。キレて 悪態をつくが、心根は優しい妻という感じである。

  続いて処刑場の場面。広場から山に登っていくと、つくしんぼみたいなものが見え始め、それがやがて処刑場だとわかる。特に囲いな どがされているわけではな い。独特な縛り方に特徴がある。スパルタの捕虜なのか、スパルタ軍による、反スパルタ派の処刑なのか、良くわからない。
 
 そこを弟子たちと通過し、広場で弟子たち話をしていると、顔色を変えたクサンテシッペが走ってくる。どうやら法廷に呼び出され たらしい。次の場面は法廷となる。

 法廷の椅子とか、本当にこのような遺跡が残っているのかも知れないが、セットとしてはちょっと安っぽい感じ。ひととおり会話し た後、弟子と法廷を出るソクラテス。告発され、その説明を受けたのかも知れない。

 その夜、数百人の人々が、闇夜に紛れて、どこかの砦を襲撃する場面が映る。翌日、市内中心の公共建築物の前で事情を聞くソクラ テスの弟子達。

 続いて広場から市民が不安げにアクロポリスの丘を見上げている場面が出てきて、その後広場の演説台の上で、アテネ市民諸君、 我々は皆さんを助けるつもりだ、と演説をする武人が登場し、周囲を取り巻く(恐らくスパルタ派の)人々から喝采を浴びる。

 これを解釈するに、推測だが、アテネ市民の中の反スパルタ分子がアクロポリス神殿に立てこもった事件があったのかも知れず、ス パルタ軍がそれを鎮圧する、という話だったのではないだろうか。
 その次の場面では、投票場での投票場面が出てくる。

 投票結果を見るソクラテスと弟子たち。

投票所を出るソクラテスと弟子。出たところで、因縁をつける知り合いにあう。男の話はやがて演説に発展し、人が集まってくる。別 の人もソクラテスに言いが かりをつけてくる。この辺りで気づいたのだが、ソクラテスはくつをはいている。確か素足でどこにでも行く人なのではなかったっ け?(実際1991年版では 始終素足である)。その後、鳥を殺して内臓で占う儀式をしているところに通りがかり、アスクレピオスが何とかと言っている占い師 を見て、弟子たちになにや ら説くソクラテス。

 法廷での新しい掲示版をみてソクラテスの元に知らせにくる弟子。内容を見て家に戻り、妻に伝えると、動揺するクサンティッペ。 家で相当長い間、弟子の一人と会話するソクラテス。そうして広場で市民投票が行われる。

 夜、たいまつをもって法廷に集まる人々。裁判結果が述べられる。ソクラテスも呼びだされ、長い演説を行う。有罪となったようで ある。終了後、弟子が家で会議。連行されることなく、一人で自発的に洞窟に作られた牢獄を訪問し牢に入るソクラテス。

洞窟に来る家族と弟子たち。弟子は誰が誰だか。ひときわ太っているのがクリトンなのだけはわかったが。。。。。。妻と最後に抱き 合う。

 家族が出て行った後、弟子達を前に毒杯をあおぐ。牢獄の中をいきつもどりつ。だいぶ歩いたところで、寝台に横たわる。そして、 死なないうちから自分で白い布をまとってしまう。

〜終〜

  全体として、古代ギリシア都市の雰囲気が良く出ていて、映像もソード・サンダルではなく、(広い意味で)パゾリーニに近い感じ。 ソクラテスはぶ男ではな く、カール・マルクスの様な風貌でした。2011年現在、ロシアでdvdが出ているようですが、英語字幕があるかどうかは不明で す。

UKアマゾンでdvdの中古が100ポンドで出ています
IMDbの映画情報はこちら。英語版で見てみたいけど、100ポンドは手が出ませ ん。。。。



2.Сократ(1991年ソ連。ヴィクトル・ソクロフ監督)

  これもロシア語。ソクラテスという題材からして、あまり動きの無い作品とならざるを得ないので無理も無いと思うですが、本作は前 傾1971年の作品と比べ ると、更に動きがありません。そういうわけで更に筋がわからないうちに裁判となってしまいました。なので、紹介は衣装とセットと いうことになります。下記 はソクラテスの家の庭。手前で座って荷車の修理をしているのがソクラテス。奥の倉庫の入り口にいるのが悪妻クサンチッペ(わかり にくいですが)。

 奥の建物は倉庫で、家の本体は左側にあります。庭は牛、猫、鶏などで賑やかです。

 下記はソクラテスの書斎。意外に普通ですが、窓ガラスが無い時代、窓扉がなさそうな。。。

 市場で値切りまくるクサンチッペ。隣の金持ち女性の装束はまるで近世朝鮮か平安時代の日本女性のよう。本当にそうだったのだろ うか。調べたくなってしまいます。

 アゴラと思われるところ。突然誰かが演説をはじめたりしてました。

 裁判の場面。この角度ではわかりにくいのですが、メイクなのか俳優の地顔なのか、かなりのぶさいくです。ラスト、死去した後の 回想場面で鏡をみて溜息をつく場面が出てきます。

 
  悪妻と言われたクサンチッペが牢獄のソクラテスを子供と尋ねる場面ほろりとしますが、映画全体で、あまり悪妻っぽい画面はありま せんでした。ただのうるさ いおばさんという感じ。プラトンやアリストファネスも出ていた筈なのですが誰だかわかりませんでした。動きの少ない人間ドラマは わかりにくいですね。。。


  全体としては、ぶ男なところは、伝えられるソクラテスのイメージ通り。死去の場面は、弟子達に囲まれていた1971年作と異な り、2,3人の弟子が牢獄に いるだけで、しかも、洞窟牢獄の奥の窪みに入り、死ぬ瞬間を弟子にみられまいとしていました。そして体が窪みからずれ落ちて、彼 の死去を知ることにな る。。。1971年作よりは、ドキュメンタリー的色彩が強い作品となっています。本作は、IMdbに情報が無く、dvdも検索で はヒットしません。映画紹介がロシア語サイトにある程度。少し残念な感じがします。



3.The Death of Socrates (2010年・米国)

 IMDbの映画紹介によると、言語は「英語、イタリア語、スロヴェニア語、日本 語」となっているので、日本でもdvdが出ていてもよさそうですが、少し検索したところでは、dvdは見当たりませんでした。 きっとこれから上映され、その後出るのかも知れません。

  本作については、最後の15分だけ、ネットにあがっています。製作会社の名前が入っているので、宣伝フィルムかも知れません。映 像は、死刑の決まったソク ラテスに、家族が面会に行く途中の場面から始まります。冒頭から最後まで、悲壮なオペラが流れ、時々チーン、という鐘の音がしま す。陰影に富んだ凍りつく ような映像。下記は家族。

牢獄で妻と抱き合う場面。

 
  死去の場面のイメージは、一般的なソクラテス臨終の場面のイメージに近いかも。クリトンは、1971年版とは打って変わって痩せ ていて(岩明均の漫画「エ ウメネス」に登場する奴隷のカロンな感じ。もっと若くて背が高くてハンサムだけど)、かなりイメージが違います。全体的にイエス の臨終に近い、ひたすら悲 痛さを盛り上げるラストの描き方でした。dvdが2000円程度で出たら購入するかも。


 他に、1968年仏・独製作の「Le Socrate」もあるようです。IMdbに一応情報がありこちらのサイトをみると、かつてはVHSビデオが販売されていたことがわかります。 それにしても、1968年に仏独で製作した後、直ぐ1971年に仏西伊で作成しているのは、何か意味がありそう。イタリアとスペ インが、ドイツ参加に反発 して改めて作ったとか。ドイツ哲学界は今でもヘーゲル色が強いのかも知れないので、ドイツ流ソクラテス成分が入っているのに、イ タリア・スペインが耐えら れなかった、なんて話だったりして。で、IMDbで、ソクラテス映画がどれだけあるかを参照してみたところ、15本もあることがわかりました。 しかし、この検索結果も怪しげで、1971年の「ソクラテス」からリンクを辿ると15作、1968年の「ソクラテス」からリンク を辿ると、13作。しかも リストされる作品の内容が双方とも、若干異なっているのでした。それにしても流石に欧米。仏独西伊露米と、のきなみ製作に関わっ ているのが凄い。日本で一 度も公開されていないようなのは、やはり日本との距離を感じました。


 ところで、本記事を書いていて、GWに見た1991年のロ シア版がネットから消えているのを発見しました(まあ、別のところに上がっていたけど)。基本的に映画をネットで見ながら取った メモと画面ショットを元に 記事を書いているのですが、記事を書き出すと、矛盾や空白が多いことに気づき、見直すことも多いので、ネットから消えているのを 発見すると驚きます。とは いえ、ロシア語映画は殆ど聞き取れないので、実際見返すことは無いし、英語版の場合は記事を書きながら、メモに記載し忘れた空白 部分を見直す場合が多いの ですが、仮にネットで一切見つからなくなってしまっても、「ネットから削除されてしまったので、筋が一部不明です」と逃げればい いので、特に問題は無いの でした。それでも見てからまだ1ヶ月もたっていないのにURLが無くなっていると驚きます(更に言うと、歴史映画かどうか確認で きないまま、翌日確認しよ うとURLを保存しておいたら、翌日には削除されていて、その作品が何なのかさえ不明なままで終わっているものもあるのでし た)。GW以来、膨大な歴史作 品をネットに発見していますが、その多くの登録日が、数ヶ月前、となっているのは、削除&再登録の攻防を繰り返しているからなん でしょうね。。。。まあで も削除するくらいなら、その前にdvdを出して欲しいと思のですが。。。。「この作品は、dvdを販売予定なので、削除しまし た」などと削除画像に表示さ れると嬉しいかなぁ。
 
いづれにしても、今後ご紹介予定の作品では、英語作品は減少し、ポーランド語・ロシア語・トルコ語作品が多くなる予定で、記事を 書きながら見直すことは多 分殆ど無い筈なので削除されても問題はないのですが。。。。(探すのに手間はかかりますが、だいたいどどこか別のところに登録さ れるというのもありま す)。

 「ネットから削除されるということは、作品が再び商品として(ネット/物理媒体問わず)市場に流通する兆しである」といえる時 代が来て欲しいものです。

古代ギリシア歴史映画一覧表はこちら
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