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 評論社『世界の女性史』全19巻(1976-78年)の概要

  昨年春頃、女性史に興味を持って西洋女性史の本を何冊か読みましたが、『ドゥ オダの遺訓書』→『更科日記』→中世日本史という展開で読書方向が変わり、夏場には2年ぶりのIMDb検索で南インド映画→ インド関連(料理や女性著述家やムガル財政等)とどんどん女性史から外れてゆき、結局『世界の女性史』シリーズは図書館で ざっと確認する程度で終わってしまいました。
 各巻は以下の構成となっています。

世界の女性史 第1巻 『神話の女 ー死と性と月と豊穣』 1978年
世界の女性史 第2巻 『未開社会の女 ー母権制の謎』 1976年
世界の女性史 第3巻 『古代(美の世界の女たち)』 1976年
世界の女性史 第4巻 『フランスT ー愛の世界の女たち』1976年
世界の女性史 第5巻 『フランスU ー自由の国の女たち』1977年
世界の女性史 第6巻 『イギリスT ー忍従より自由へ』 1976年
世界の女性史 第7巻 『イギリスU ー英文学のヒロインたち』 1976年
世界の女性史 第8巻 『イタリア ー南欧の永遠の女たち』 1977年
世界の女性史 第9巻 『アメリカT ー新大陸の女性たち』 1976年
世界の女性史 第10巻 『アメリカU ー新しい女性像を求めて』1977年
世界の女性史 第11巻 『ロシアT ー大地に生きる女たち』 1976年
世界の女性史 第12巻 『ロシアU・東欧 ー未来を築く女たち』 1976年
世界の女性史 第13巻 『中東・アフリカT ー東方の輝き』 1977年
世界の女性史 第14巻 『中東・アフリカ U ー閉ざされた世界から』 1978年
世界の女性史 第15巻 『インド ーサリーの女たち』 1976年
世界の女性史 第16巻 『中国T ー儒教社会の女性たち』 1978年
世界の女性史 第17巻 『中国U ー革命の中の女性たち』1976年
世界の女性史 第18巻 『日本T ー王朝の世と女性の役割』 1977年
世界の女性史 第19巻 『日本U ー目覚め行く女性の哀歓』 1978年




 もう40年前の出版なので流石に内容が古く、近年の他所で代替できないものはなさそうですが、一応ざっと目を通した一部に ついて紹介したいと思います。しかし、コピーをとらずメモと記憶だけなので、結構曖昧な部分が多く、誤りもあるかも知れませ ん。いずれそのうち再度確認した時に修正したいと思います。

 全巻だいたい5-10人の共著で、既に物故した方や、現在のその分野の大御所である方もおられます。以前ご紹介した『世界 こどもの歴史』シリーズとほぼ同じ時期で、似たような巻構成です。各巻5-10章あるうち、最初の一章が、執筆者による座談 会となっています(以下各巻目次紹介では座談会の第一章は割愛しています)。

 第一巻は、記憶が少し曖昧なのですが、デュメジルやミルチア・エリアーデの研究を中心とした神話に登場する女性論だったと 思います。
 第二巻は、確か北米先住民の未開社会だったかと思います(アフリカやニューギリアなどはなかったか、あったとしてもごくわ ずかという気がします)。
 第三巻は、古代ギリシア・ヘレニズム・ローマ・古代イスラエルの女性たち。古代ギリシアもローマも近年の新書が出ています し、今となってはあまり有用性は高くないかも。目次は以下の通り(括弧はページ番号)。登場している面々は、概ね定番の方々 です。

 古代ギリシアの女性たち(47)三浦一郎
 ヘレニズム世界の女たち(113)秀村欣二
 ローマの女性の地位(153)秀村欣二
 古代イスラエルの女性たちー旧約聖書を中心として(179)高橋正男

 フランスとイギリスの巻は、各々Tが近世前半くらいまで、Uは近世後半以降から現代。こちらも登場している人物は概ね定番 の方々だったような気がしますが、サフラジェットのあたりが掲載されているのかどうかを確認せずに帰ってきてしまいました。 アメリカとイタリアの巻もざっと目次を見たはずなのですが、まるで記憶がありません。ロシアの巻は、ほぼ近世以降の話で、特 に興味がある地域である割にはあまり印象がありません。

 『中東・アフリカT』の目次は以下の通り。著者は全員男性です。。。。

シェバの女王とその時代(47)矢島文夫
マリア観の諸相(77)荒井献
ジャーヒリーヤ時代のアラブ女性(121)池田修
アーイシャ伝(143)後藤晃
初期イスラムと女性の地位(173)黒田寿郎
砂漠の愛と詩の世界−「マジュヌーン・ライラ物語」−(201)堀内勝
都市の宴と歌の世界ー歌謡の女王ジャミーラー(241)堀内勝
アラビアンナイトの女たち(275)前嶋信次
シャジャラトッドル(301)飯森喜助

小説を除けば、シャジャラトッドルの章は、中世エジプト至上唯一の女性スルタン、シャジャルアッドゥルに関する一番詳しい日 本語歴史概説となるかと思うのですが、詳細なのは当時の政治情勢だけで、シャジャルその人の記載はあまり多くはありません。 シャジャルがどのように政治力を行使したのか、この点を具体的に知りたかったのですが、あまり具体的な記載がなく、「政治力 を発揮した」との叙述だけが目立つ記載となっていたのが残念です。一方、ウマイヤ朝時代の女性歌手に関する章は、これまであ まり他書で目にしたことがなく、有用でした。

 『中東・アフリカU』の目次は以下の通り。

 イスラム法と女性(57) 福島小夜子
 オスマン宮廷に生きた女性たち(89)永田雄三
 E.W.レインによるエジプト女性像(117)三石令子
 エジプトの婦人解放運動の歩み(141)ラウーフ・アッバース・ハメッド
 海の沈黙のようにーライラ・ハーリドと名もなきライラたちー(157)黒田美代子
 遊牧の女性 −アラビアの砂漠に生きる人たち(185)片倉ともこ
 日に沈む国から −現代アルジェリアの女性たちー(221)宮治美江子
 西アフリカの女たち ー北カメルーン・ブーム族の場合(265)日野舜也
 一まいのスカート −東アフリカ・タンザニアの牧畜文化と女性(291)富川盛道

 E.W.レインは19世紀のエジプト社会を描いており、永田氏のオスマン宮廷はオスマン朝初期から19世紀くらいまでを駆 け足で描いています。ヒュッレムからキョセムに至る女人天下について詳しく知りたかったのですが、他書に登場するのとあまり 変わらない程度の数ページのエピソードだけでした。

 インド編は、古代については、神話や宗教書の話で、近代については英国支配以降から現代の話で、あまり新味はありません。 私はあまり人物のエピソードについては知らないので、17世紀のムガル朝宮廷での”女人支配”(ヌール・ジャハーン、ジャ ハーン・アラ(1614−81年)、ローシャン・アラ(1617-71年)についてのエピソードを知ることができたことは有 益でした。目次は以下の通りです。

 古代文学に現れた女性(田中於菟弥)
 南インドの叙事詩と女性(辛島昇)
 ムガル宮廷の女性像(荒松雄)
 反乱を闘った女(長崎
暢子)
 インドの女性解放(田中
於菟弥・辛島昇)

 南インドの叙事詩は、シラッパッディハーラム(感 想)とマニメーハライの話(それ以外もあったかも知れない)。あらすじと概要がわかります。イ ンド最初の女性大臣はトラヴァンコール藩王国に登場したそうです(p127)。反乱を闘った女とはラクシュ ミー・バーイーのことで、中世の女性スルタン・ラズィーヤの記載は無かったように思います。

 
中国女性史は、二巻に別れていますが、驚いた ことに、明清代が扱われていません。ここが一番残念に感じたところです。『中国T』で宋代の李清照で終わりだったように思い ます。『中国U』では、清末の革命運動に飛んでしまいます。唐代は、李治・魚玄機・薛濤が扱われていました。おおむねこちらの記事で 掲載した女性です。ただ、唐代詩人の各記載に入る前に、唐代の妓女についての章がたっていたのは参考になりました。以下『中 国T』の目次です。

 神話伝説中の女性像(49)
 中国・儒教時代を生きる女たち(123)
 后妃の哀歌(163)
 妓館の女たち(197)
 旧中国の女流作家たち(229)
   文姫(232)
   
薛 濤魚 玄機(240)
   
李清照(268)


 中国史でありがちな、悪女后妃列伝のような章は「
后妃の哀歌」だけで、比較的様々な社会 層の女性を描こうとしている感じがしました。しかし、全体的には、井波律子の『破壊の女神』の方がお奨めという感じです。

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