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 1913/1928/1937/1970/1993/2003 /2011年 の世界各国輸入先第一位の国の色塗りマップ

 1913-70年の出典はすべてマクミラン新編世界歴史統計 1750-1993 (〈1〉ヨーロッパ〈2〉 アジア・アフリカ・太平洋州〈3〉南北アメリカ)です。

 赤紫は英国。青はドイツ、緑は米国です。

1913年(第一次世界大戦前年)




 中南米は、米大統領モンロー(在1817-25年)以来、ずっと米国の裏庭だったという先入観があり、貿易も米国が独占し ているのだと思っていましたが、第一次大戦前の輸出は英国の方が上回っていたとは知りませんでした。第一次大戦後、南米の輸 入先一位はほぼ米国一色になるものの(
1928年の地図参照)、世界恐慌後は後退している様子も見て取れます。スーダンの輸入先第一位はエジプトであり、第一次大 戦後に英国が一位となり、冷戦後まで長く一位の座を占めた後、2003年には再びエジプトが第一位に返り咲いています。

 ヨーロッパはドイツと英国に二分されていたのは予想通りでしたが、ドイツの輸入先一位は大戦前に既に米国となっていたとは 知りませんでした。日本の輸入先一位は英国本国ではなく、インドだったのも知りませんでした。にわかに戦前日本の経済や貿易 の構造分析に興味が出てきました。タイの貿易先一位は中国、インドネシアはオランダ、マレーシアはインドネシア、アンゴラは ポルトガル、コンゴはベルギー、イランはロシア。
なお、一部データが空白で1912年のデータを利用した国があります(タンザニアとコンゴ)。


1928年(世界恐慌前年)



 第一次世界大戦後に、米国が世界列強国と南米に大きく輸出を伸ばした様子が見て取れます。また、ハンガリーとユーゴスラ ヴィアの輸入先第一位はチェコとなっていて、戦間期のチェコが世界屈指の先進工業国だったというのもうなずける内容。北欧・ 東欧・ロシアの輸入先一位はドイツとなっていて、世界恐慌前のドイツ経済はかなり持ち直している印象です。20年代のドイツ 経済についても詳細を調べてみたくなりました。

 米国の輸入先一位はカナダ。中国の輸入先一位は日本です。

1937年(世界大戦前)



 真っ先に目を引かれるのは、1928年に米国一色だった南米が、英独に取り戻されている点でしょうか。ブラジルの輸入先第 一位はドイツとなっていますが、ドイツは、チリ、ボリビア、エクアドルでも2位となっていて、戦後ナチスドイツの幹部が南米 に亡命した背景が良く見て取れます。貿易上の密接な関係があり、パイプがあったということだったのですね。

 インドネシアとタイの輸入先一位は日本となっていて、中国の輸入先一位は米国となっています。1937年時点で、既に二次 大戦中の勢力形成の下地が見て取れる内容となっています。世界恐慌後のブロック経済化の時代、輸出先一位の国の確保を強める ために軍事進出・軍事支援(米国の中国への支援など)をすることになるのは、この地図からも予測できる内容となっています。 イランの輸入先一位はソ連ですし(二位はドイツ)、二次大戦中にソ連が占領することになるのも、納得できるのでした。


1970年(冷戦盛期)

 米国はすっかり復調し、中南米は米国の裏庭と化し、以前英国が輸入先一位を占め続けていたインド・オーストラリア・ニュー ジーランドの輸入先一位も米国となり、サウジアラビアとトルコも傘下に入っています。西欧諸国が輸入第一位を占めることがで きる地域は、ほぼアフリカの旧植民地に限定されています。



 一方日本は、第二次大戦中の進出先の国々にとって輸入先一位となり、第二次大戦中の勢力圏がそのまま経済進出先となってい る印象です。ドイツは、東ドイツ(ライトブルー)と西ドイツ(群青色)に分かれてしまったものの、両方併せると、第二次大戦 中の勢力圏と重なって見えなくもありません。なお、西ドイツの輸入先一位はフランス(薄ピンク)。20世紀の古代イラン学で は、フランスとともにドイツの存在感が高いのですが、案外貿易関係が密接という背景があってのことなのかも。エジプトの輸入 先第一はソ連ですが、これは当時エジプトが社会主義政権だったことを素直に反映しているものと思います。

 1937-70年の地図を眺めていると、米独日の世界貿易でのプレゼンスは、第二次世界大戦前に成立したものではなくて (そういう先入観を持っていました)、第二次世界大戦を通じて形成され、冷戦期はソ連圏があったものの、ソ連崩壊後、 1990年代から2000年初頭くらいまでは、第二次世界大戦中の国力がそのまま世界貿易上でのプレゼンスに結びついていっ たように思えなくもありません。しかし2011年には、リオリエントな地図となってきていることは、前回掲載した通り。

 10年後にはどうなっているのでしょうか。なんだか毎年輸入先国一位の国の地図を作るのが楽しみになってしまいそうです。

 長ったらしくわかりにくいタイトルとなってしまいました。ブルガリア在住時、各国にとっての輸入先第一位の国ってどこにな るのだろう、と、暇つぶしに手書きで色塗り世界地図を作ったことがあります。その結果を見て、第二次世界大戦中の地図に似て いると思いました。やはり冷戦という枠組みが取り払われてみると、冷戦前の(つまりは第二次大戦中の)勢力が幅を利かすこと になるのかも、と思った次第。最近書棚を確保する為に本を売ろうと整理していて、その手書きの地図が出てきたのですが、出典 が記載するのを忘れていて、記憶にあった出典本を確認したら載ってなかったこともあり、ついでに最近の状況はどうかと、調べ てみました。以下の地図は、濃い青色で塗られている部分は、輸入先第一位がドイツである国々。貿易相手先の国におうける輸入 順位が一位となるということは、それなりの経済関係の深さと経済力を示すことでもあるので、輸入先一位国マップは、それなり に世界の中での経済力の位置づけを反映しているものと思うわけです。

 赤は、輸入先第一位が日本である国々。緑が米国。薄ピンクがフランス。紫がロシアで、黄色が中国、水色はメキシコです。細 かい説明は後述するとして、まず三つの地図を眺めていてわかることは、

−1993-2003年くらいは、第二次世界大戦時の勢力図に似ている
−年が下るについてての米国の後退
−アフリカ諸国の輸入先第一位は、旧宗主国(西アフリカ諸国(フランス)、イタリア(リビア)、英国(ボツワナ、ザンビア、 タンザニア)など)
−2011年における中国の拡大

というところだと思います。

1993年



2003年



2011年



(上の画像は、右クリックして「画像だけを表示」すると拡大します)

 全体として、第二次世界大戦頃の勢力関係が、アンドレ・グンダー・フランク書籍「リオリエント」で描いた意味での、17,18世紀の世界経済地図に移行 し、まさに、「リオリエント」な展開をしているように見えてしまいます。

 面白かったので、1913年(第一次世界大戦前)、1928年(世界恐慌前)、1937年(第二次世界大戦前)、1970 年(冷戦半ば)についても色塗りマップを作ってみました。次回掲載したいと思います。

 以下、出典と注記・詳細コメントです。

1993年の地図

 出典は、マクミラン新編世界歴史統計〈1〉ヨーロッパ歴史統計:1750‐1993マクミラン新編世界歴史統計 (2) アジア・アフリカ・太平洋州歴史統計:1750-1993マクミラン新編世界歴史統計〈3〉南北アメリカ歴史統計:1750~1993

 ノルウェーの輸入相手先一位は(若干色が異なっていますが三枚とも)スウェーデン。アイルランドの輸入相手先一位は三枚と も英国。二ユージーランドの1993と2003年の輸入相手先一位はオーストラリア。また、マクミランには記載が無かった空 白地域は、概ね2003年と大体同じなのではないかと思われます。中南米は見事なまでに米国の裏庭。


2003年

 出典は、国際連合 貿易統計年鑑 Vol.55 2006年版(国際連合統計局:原書房) 。 

 ルーマニア、アルバニア、スロベニア、リビアの輸入先第一位はイタリア。ルーマニアは、ロマンス語なので、イタリア人が進 出し易いということでしょうか。
イラン・パキスタン・イエメン・ケニアの輸入先第一位はUAE。ゲートウェイとしての貿易都市国家の姿が見事に表れていま す。同様のゲートウェイ国は、2011年の地図の、ドイツにとっての輸入先一位であるオランダ(内陸ヨーロッパへのGW) や、2010年のインドネシアの輸入先第一位であるシンガポール(東南アジア諸国へのGW)、2010年のチリの輸入先一位 である中国(南米へのGW)、日本にとっての台湾(中国へのGW)などに見て取ることができます。

 また、特定国ががっちり抑えた後背地とでもいうべき国々も見て取ることができます。例えば、オーストラリアにとっての ニュージーランド、英国にとってのアイルランド、スウェーデンにとってのノルウェー、スペインにとってのポルトガル、タイに とってのラオスなど。2003年からは、アルゼンチンの輸入先一位はブラジルとなっています(2003年のチリの輸入相手先 一位はアルゼンチン)。南米での米国の経済力が後退し、ブラジルが台頭している様子も見て取れます。シリアは、1993年に はロシアが輸入先一位だったのですが、2003年には中国となっています。フランスはガッチリ旧植民地を抑えている印象を受 けます。

 色塗りマップ中、以下の国々は、2003年のデータが資料では空白だったので、前後の年のデータを用いています。
−2002年のデータ
 コンゴ、ニューギニア、ギニア、
−2004年のデータ
 モザンビーク、セルビア、


2011年

 出典は、JETROの国・地域別情報(J-FILE)から。

 まず第一に目を引くのは、中国の拡大。2010年まで米国が常に第一だったサウジアラビアの輸入先第一地の座が中国に奪わ れたのは驚きです。エジプトはどうなってゆくのでしょうか。実はドイツの輸入先一位の座も2010年は中国となっていて、 2011年にオランダが奪回している状況。この地図ではインドの存在感がまったくありませんが、いかにインドの成長がIT業 界という特定の業界に依存しているかが、この地図からも見て取れると思います。ジェトロの資料に登場している国々の中では、 インドを輸入先一位としている国はUAEだけ。確かアフリカ東部の国の輸入先第二位には顔を出していたと思います。近世イン ド洋沿岸地域での南インド商人の経済版図を髣髴とさせるものがあります。そのうち2011年の国連貿易統計年鑑が出版された ら地図上で空白となっている国々も調べてみたいと思います。その中には、インドを輸入先一位の国としている国があるかも知れ ません。

 トルコの輸入先第一はロシアとなっていますが、数値的には、ロシア、中国、ドイツ、米国の差はわずかで、近年トルコ経済の 伸張とともに、有力国が競争している状況が見て取れます。シリアやエジプト、サウジ等、ほぼ独裁政権との政治的関係のみで貿 易関係を築いてきたのとは異なり、トルコが取れれば、真の意味での中東・バルカンへの経済進出の足がかりになるという、トル コの経済上の地政学(?)的重要度が明確に表れたデータとなっていると思います。

 同様に競争が激しいのがマレーシアとインドネシアを巡る日本・中国・シンガポールの競争。フィリピンも中国が追上げていて 日本も危ない状況。

 とまあ、貿易データを眺めているだけでは見えてこないようなことも、色塗りマップを作ってみると見えてくるものもあるのだ と思いました。何か新しい発見は無いものかと、1913-1970年についても同じことをやってみました。予想通りの点あ り、先入観が覆された点あり、色糸と参考になりました。次回掲載する予定です。

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