ウマイヤ朝歴史ドラマ「クライシュの鷹」(2)747年から750年まで(第八話から第十話)


 2002年モロッコ・シリア共同制作のウマイヤ朝を扱ったテレビドラマ「クライシュ の鷹」の紹介第二回目です。今回は、747年から750年までを扱った 第八話から第十話の紹介です。750年のアッバース革命とアブル・アッバースの即位が描かれます。主人公アブド・アッラフマーン は第八話から子役に代わっ て大人役にバトンタッチしますが、八話から十話の間は殆ど登場しません。8-10話ではイベリア半島の様子もあまり登場せず、 アッバース朝の成立過程や、 ウマイヤ朝との決戦の様子が詳しく描かれます。戦闘場面では、柔道や合気道技が多発し、迫力があり見ごたえがあります。カラフル な衣装や内装、歴史上、大 物が数多く登場した時期ですが、彼らを見事に演じきった俳優陣の演技など多くの見所があります。これだけのドラマを作れる国で あっても、(外部勢力の干渉 も大きいとしても)内戦という愚行に陥ってしまったのが残念でなりません。


第八話

 黒旗がアブーの元に届けられる。遂に民衆を招集するアブー・ムスリムは黒旗を掲げる。747年6月9日。アッバース革命運動が 始まる。

 蜂起の知らせがホラサーン総督ナスル・イブン・サイヤール、アンダルスのユースフと、ハッラーンのマルワーンの元にもたらされ る。

  一方、続いて丘陵地帯での狩の場面となる。ここで登場したはげの狩人と貴族が、同じ鳥を同時に射た。この貴族の人物こそ、成長し たラフマンであり、スキン ヘッドの狩人こそ、(奴隷という身分だけれども)生涯の友となるバドルだった。ラフマンはあまりカッコよくないなあ。しかも家に 帰宅すると、ラフマンには もう妻子がいるのだった。この年17歳の筈だけど、17とは思えない程ふけすぎ。見た目、トランプのキングみたい。口元の髯が詐 欺師みたいなうそ臭さを感 じる。でも、回が進むにつれ、外見と年齢が一致し出し、ラーマンの人物像に強い印象を残すようになるのだった(下左がラフマン、 右がバドル。中央はマル ワーン2世)。

 バドルは、その後ラフマンを訪ねてくる。ラフマンに向かっていきなりチッチッチ、と舌打ちし、鋭い目で見つめるバドル。ラフマ ンの人物と将来性を値踏みしているような感じ。

  一方アンダルスではコルドヴァの南、セクンダ近郊でアミール・アブル・ハッタール軍と、スマイル軍とで、決戦が行われる。今回の 戦闘でも柔道技が何度も登 場した。形成不利となった煙草男スマイルはコルドヴァに単身戻り、市場で市民に支援を訴えかける。市民軍を調達して戦場に戻る。 これで形成逆転。アミー ル・アブル・ハッタールはスマイルに切り殺された。

 その後スマイルがアンダルス南部を駆け抜けてユースフの元に向かう姿のショットはかっこよかった。

  ユースフの邸宅で、勝利したスマイル達と打ち合わせ。右から三番目の男がスマイル。左から四人目がユースフ。椅子とかテーブルに 目がいってしまう。史実度 が気になります。別室で話を聞いていたユースフ夫人は、これでコルドヴァにいけるのよ!と侍女や家臣に大喜びで告げるのだった。 こうしてシリア・ウマイア 朝最後のアンダルス総督ユースフ(在746-756年)が誕生するのだった(本主人公のアブド・アッラフマーンが開く後ウマイヤ 朝も、世襲であるものの、 正式な称号は929年に至るまでアミール(総督)であり、シリア・ウマイア朝の総督と基本的には同じである)。


 第八話のラストは、メルブで蜂起したアブー・ムスリムの陣営。以下はアブームスリムの部下。アッバース朝の色・黒色一色に統一 された兵士の黒装束は一見ニンジャに見えなくもない。

 こちらはウマイヤ朝のメルブ総督ナスル・イブン・サイヤール。ドナルド・サザーランドに似ている俳優さん。

 サイヤールとアブー・ムスリム軍決戦の時は近づいていた。


第九話

 アブー・ムスリム軍とウマイヤ朝メルブ総督ナスル・イブン・サイヤール軍の対峙。

 ウマイヤ朝の色・白とアッバース朝の色・黒のコントラストが印象的。下左がアブー・ムスリム。右がナスル・イブン・サイヤール

 ところが、ナスル・イブン・サイヤールは布陣だけして、アブー軍の軍勢の多さを前に戦わずに引き上げてしまう。勝利を歓喜する アブー・ムスリム軍。

  そしてアブー軍はメルブに無血入城する(748年)。「ヤー!ムハンマド!ヤー!マンスール!(マンスール=勝利者)」と市民に 歓呼で迎えられる。メルブ に入ったアブー・ムスリムは、市場で働く青年を見て、かつての自分を思い出す。市民の歓呼で迎えられるアブー軍。総督府に入る一 行。既にウマイヤ朝の役人 はも抜けの殻。感慨深げに総督の座に座るアブー。次いで、バルコニーに出て黒装束の革命軍の歓呼に答える。妻は嬉しそうではある が、アミール・ホラサーン となっていい気持ち?みたいな皮肉をかますのだった。

 メルブ総督府で配下の幹部たちに演説するアブー・ムスリム。背後の壁の装飾が、まるでぼんぼりのように、内側から照明を当てて いるかのような、イルミネーションのようで美しい。


 一方のラフマン。客人とチェスを楽しんでいるラフマン。なんか風貌がヤクザの親分みたいな感じ。ちょっとイメージと違 う・・・・

  客人はホラサーン情勢を話題にし、その危険性を説いているようであるが、いまいち反応が鈍いラフマン(が、内心は政権転覆となる 大事に結びつく危険性を察 知しているのかも知れない。彼の真剣な表情は、チェスの作戦を練っているのか、政情に反応しているのか読み取れない)。

 これはラフマン家の台所。食器や鍋は洗練されているが、地下室みたいな粗末な部屋なのが印象的。


 滅多に出てこないメルブ総督府の概観。

 既にアブー・ムスリムは反対者を粛清するようになっている。陽気な人物ではなかったが、それでも登場当時はそこそこ好青年な感 じだったが。権力を握るにつれて性格の苛烈な面が少しづつ顕れはじめる。

 軟禁されていた前メルブ総督ナスル・イブン・サイヤールは単身脱出する。報告を受けたアブー・ムスリムは激高し、自ら短刀で部 下を刺し殺す。こめかみに激高時の青筋がありありと見える迫力の演技。



第十話

 ヘジュラ暦132年(749年)ついにアブー・ムスリム軍とウマイヤ朝軍が激突する。

  テロップには、الفرات(ユーフラテス川)のالزاب (ザーブ)と出ている。ウマイヤ軍とアブー・ムスリム軍の決戦は、 チグリス川の上流の支流で あるザーブ川で、この回の後半で登場しており、第十話冒頭の戦いは、アブー・ムスリムが派遣した司令官と、マルワーンが派遣した 司令官との戦いのようで、 番組時間にして3分程で終了してしまう。とはいえ激戦で、最初、アブー・ムスリム軍が河を渡し始め、

 対岸からウマイヤ軍が弓矢で応戦。

 この頭に貫通する矢はどうやって映したのだろうか。凄い。

 両軍激突し、手や足が切られた兵が生生しく映る(でもやられているのはウマイヤ軍側ばかりだが)。

 結構あっさり決着がつき、ウマイヤ側の司令部は途中で逃げ出してしまう。

 クーファ(南イラク)に入場するアブー・ムスリム軍。歓呼で迎えられる革命軍は市内で演説し、群集が「ヤー!ムハンマド! ヤー!マンスール!」と歓呼するのだった。

  ホラサーンとイラークが落ちたとハッラーンのマルワーンに報告される。と同時に、マルワーンにフマイマ村のアッバース一族の根拠 地も発見されたと報告さ れ、兵士が派遣され、アッバース運動の旗頭であるイマームが逮捕される。この流れからすると、第五話で新たに就任したイマーム は、アッバース家の嫡流イブ ラヒームだったのかも知れない(というか、この次の場面で、連行されるイマームを見ながら、アブー・ジャアファル(後のアッバー ス朝カリフ二代目マンスー ル)が、アブー・アッバースに「出てゆくな」と説得していて、「イブラヒーム」という言葉が出ているので、この時のイマームはア ブ・ジャアファルとア ブー・アッバース兄弟の兄、イブラヒームだった模様)。これがフマイマ村。

 フマイマ村のアッバース家の根拠地。

 逮捕され連行されるアッバース家の棟梁イマーム・イブラヒーム。

 右がアブー・ジャアファル。左がアブー・アッバース。アブ・アッバースは28歳くらいの筈だが30-40歳に見える。アッバー ス一門はクーファに逃れる。

 この回冒頭の戦闘でウマイヤ軍を破りクーファに入場したアッバース軍の司令官(名前不明)とアブー・アッバースの間はうまくい かない様子。以下は、その司令官の総督府。黒い内装はもはやショッカーの基地のよう。

  続く場面の経緯は良くわからないのだが、数名の長老のような人物が、クーファ郊外の隠れ家に蟄居しているアブー・アッバースの元 を訪れ、「誰がアッバース ですか?」「私だ」「おお!セイディ、あなたがイマームですね!ハリーファよ!」と呼び、ハリーファ(カリフ)に就任したことに なってしまう(アブル・ アッバースの元を訪れた人物は、第六代イマーム、ジャアファル・サーディクだったりすると、正統のイマームから、アブー・アッバー スが後継者を引き継いだことになって話の整合性が取れるのだけど、よくわかりませんでした)。黒ずくめの兵士達が警護するアッ バース一門の隠れ家。

 イマームの宣言がなされた後、家の外に出て、護衛の兵士達に歓呼で迎えられるアブ・アッバース。

  クーファ市内を歩くアッバース。宮殿に入った後、黒尽くめの玉座に座り、家臣から手に額を擦り付けられる儀式を行う。当初アッ バースを認めなかったホラ サーン軍の司令官も、手のひらを返したように平伏してアッバースの手に額をつけるのだった。彼はきっとあとで粛清されるんではな かろうか。

  この時アブー・アッバースは既に咳き込んでいて、健康を害している様子。その後また市内を歩き歓呼に迎えられる(الجـمعة  13 ربيع الآخر (ヒジュラ暦132年ラビーウ・アルアウアル月13日金曜日(西暦749年10月30日)とテロップが出る)。通りの上に、市場の売り物の染 糸が多数ぶら下がっているのが印象的。

 続いてモスクでの説教壇に上がる時も咳き込む。宮殿もモスクも黒尽くめで異様。演説は苛烈だったか、何度か咳き込む。以下は暗 黒軍団の本部のようなアブ・アッバースの宮廷。

 132年(750年1月25日)。ザーブ川での決戦。白装束がウマイヤ朝軍。司令官はカリフのマルワーン自ら出陣し ている。黒装束がアッバース朝軍。アッバース軍総司令官は、アブー・アッバースの叔父・アブドゥッラー・アリー。

 左下がマルワーン。右側がウマイア朝の旗。中央はマルワーンとその馬。馬は白い衣装を着けているのが印象的。結構なエキストラ 数で迫力満点。

 マルワーンが剣を上げて突撃を命じても兵が動かない。、マルワーンはとうとう財宝箱を開放して兵士に支給してようやくウマイヤ 朝軍は突撃するのだった。

 戦場では柔道の投げ技がよく出る。このあたりは、日本人が見ると技が良くわかって面白いかも。

 ウマイヤ軍の屍が累々と広まり、アッバース朝軍が「アッラー・アクバル!!」と勝どきを上げているところでこの回終わり。

 次回は、主人公アブド・アッラフマーンが逃亡し、ジブラルタル海峡に到達するまでを扱う予定。 

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