古代ローマ歴史映画「Ancient Rome The Rise and Fall of An Empire」の第三話ティベリウス・グラックス

   2006年BBC製作の歴史再現ドラマ「Ancient Rome The Rise and Fall of An Empire」の第三話ティベリウス・グラックスの紹介です。実は本作は、「ザ・ローマ 帝国の興亡」という題名で、日本語版DVDが発売されており、ネット 上でも、第三話ティベリウス・グラックスの回に言及している記事もあります。この回見て驚愕しました。BBCの再現ドラマは、史 実に比較的忠実で、映像も空撮やCGを取り入れるなど、素晴らしいも のがあるのですが、反面教育番組みたいで面白みに欠けるところがります(実際に本質は教育番組なんだろうけど)。 「Ancient Rome The Rise and Fall of An Empire」も、「コンスタンティヌス」と「西ゴート王アラリック」の回を見てみたのですが、いまいちでした(「コンスタンティヌス」は別の意味で面白 かったけど(感想はこちら)。 そんなこともあり、ティベリウス・グラクスの映像化とあっては、珍しさもあり興味はあったのものの、面白く無さそうな先入観から 見ていなかったのでした。 今回いい機会なので、既に紀元前2世紀は過ぎてしまったものの、一応という感じで見てみたところ、これが驚くべき内容でした。是 非とも宣伝したくなり、紹 介文を記載することにしました。改革というのはいつの時代も命がけ、保守派と妥協すると進まないし、かとって強引に進めようとす ると暴力や流血、独裁的手 段や体制の無視、秩序に混乱を招きかねない手段を使うことになってしまう。しかし、後先考えずに若気の至りで走ってしまわないと 変わるものも変わらない、 という「改革」の本質を見事に描いた素晴らしい出来栄えだと思います。
 日本語版DVDは、現在JPアマゾンで中古が8370円もします。少々高すぎる気がしますし、BBCの再現番組は教育番組でも あるので英語もわかりやすく、これについては、日本語中古が値下がらないうちは、ネット視聴をお奨めするものです。

 まず、冒頭からしてインパクトのある映像から始まります。
 2160年前(前154年)のローマ。ハエのたかる死体の頭部が映される。

 これだけでもインパクトがあるのですが、やがてそれは、ティベリウス・グラッカスの父の国葬場面だということがわかる。なん と、死体に冠をつけさせ、椅子に座らせているのである。

  近くで男が集まった民衆に向かって弔辞を読んでいる。取り巻く群衆の中には幼い息子、ティベリウスと母親の姿もある。「センプロ ニアス、タイベリアス、グ ラッカス 政治家、将軍、そして王であるにも関わらず、偉大な共和政の為に挑戦した。息子よ、お前の父は、可能な限り長く祈られ るだろう」。その後荼毘に 付される夫を前に、母は息子の耳元で「あなたも偉大な人物になることができる」と囁く。そしてナレーションが入る。「殺害の背後 には貴族が背後にいた。こ れが永遠の革命への始まりとなった(少しわかりにくかったのですがここでいう「殺害」は、息子のティベリウスのことだと思いま す)

 8年後・前146年。炎上するカルタゴ。「史書に登場するのは父の死後10年後」とナレーションが入る。

  第三次カルタゴ戦争が終局を迎えている。カルタゴ城壁に向かって総攻撃が行われ、カルタゴ側は、煮詰めたタールを落し、更にター ルに火をかけるなど、必死 の防戦。その中で、城壁をこえて進入に成功するティベリアヌスの姿があった。司令官スキピオ・アエリミアーナは市の全てを燃やし た。史書は、街路は血であ ふれた、という。

  カルタゴは6日後に降伏した。ティベリウスはこの軍功で、父と同じ王冠をスピキオにかけてもらう栄誉を得た。カルタゴ市は破壊さ れ、カルタゴの記憶を永遠 に無くすために塩とごみで埋め立てられた。数ヵ月後には、文明はあとかたもなくなり、生き残りは全員奴隷にされ、こうしてローマ は600年間カルタゴの地 を支配することになった。

 半年後のローマ。カルタゴに勝利したものの、ローマ市内は失業者で溢れ、荒廃していた。英雄として帰国した ティベリウスは、ある貴族のパーティに母親とともに出席する。その宴席の場で、ある貴族は、当時の元老院の有力者スキピオ・ナシ カに、「新しい敵をつくら なければならないね」と皮肉ったりしている。そうしう考えは敵をつくるわよ、と柔らかく注意する母。この宴会では、奴隷にタオル で敷居を作らせ、部屋の隅 で用を足す貴族の姿が出てきます。古代ローマ遺跡によくある公衆トイレが貴族の邸宅にもあるもんだったとばかり思っていました が、例え邸宅にトイレがあっ たとしても、宴会ではこのようにしていたのでしょう。宴会で用を足す古代ローマ映像は初めてみました。

  その後、ティベリウスはスペインに派兵される。そのスペインで彼が見たものは、現地住民の農地を取り上げるばかりか、移住する母 子の荷車をひっくり返すな ど、横柄な振る舞いをするローマ軍とローマ人の姿だった。「農地だけでなく、何もかも持ってゆくの?」とローマ軍を罵る母。ティ ベリウスは、食べ物を与え よ、命ずる。幼馴染の友人、スキピオ家のオクタヴィウスがスペインで農地を経営し、在住していたため、ティベリウスはオクタヴィ ウスを訪問し、奪った農地 と、そこの家族はどうなったかを質問する。オクタヴィウスは不愉快そうに、「知るもんか」とだけ答える。ナレーションが、「囚人 が奴隷として働かされてい たが、その多くは、カルタゴ人だった。農場をローマ人に取り上げられた人々は数千に上り、富裕な土地は奴隷によって耕され、その 多くは囚人と、カルタゴか らだった」と入る。

 三ヵ月後、北スペイン。40年前からの闘争相手である部族ヌマンタイウス(ヌマンティア族)との戦闘が続いていた。 遠征は悲惨なものとなり、勝つ見込みはなく、消耗するだけの大惨事になった。多くの兵は野蛮人に降参した。司令官マルシヌスは敵 と交渉したが拒否される。 そして相手はティベリウスとは交渉するから彼を寄越せ、という。何?2000の兵士の命を若い小隊長に任せるのか?これは罠だ、 とマルシアスは言うが、結 局はティベリウスが交渉役として派遣される。ヌマンタイクスの族長は言う、何故お前を呼んだと思う。父が理由だ。長い間平和を結 んだ。お前にそれができる のか?お前の父は決して裏切らなかった。約束するティベリウス。こうして和平が結ばれ、ローマ軍は全滅を免れた。


  ティベリウスはローマに英雄として帰還し、市民には大きな歓呼を持って迎えられ、元老院にも入場を許された。しかし、元老院の雰 囲気は市民とは異なってい た。スピキオ・ナシカが皮肉ると、マルシヌスは、唯一の生き残るチャンスだった、と抗弁しなければならなかった。今回の和平(降 伏)について、元老院で激 しい議論があり、ティベリウスの責任は問われなかった代わりに、最終的にはマルシヌスが全て悪かったことにされてしまう。カルタ ゴ時代の司令官だったアエ リミアヌスさえ味方についてくれなかった。しかも家に戻ると、アルミニウスと私に謝りなさい、と母に叱られてしまう。母は、彼は あなたの評価を回復してく れたのよ。と言うが、ティベリウスは、(スペインやローマ市民の残状と比べれば)名声も地位も無意味だ、と反論する。すると、 「今すぐアエリミアヌスのと ころに行き誤りなさい!」と母は更に激怒するのだった。このグラッカス家には、父親のデスマスクを飾った祭壇がある。これも少し 不気味である。

  そんなある日、老境に入った元老院議員がティベリウスを訪ねて来る。アッピクス・クラウディウス・プルケル。彼は言う、民衆は元 老院に立ち向かう人を求め ている、護民官(トリビューン)に立つことを薦められる。ティベリウスは護民官について学習し、立候補を表明する。街中で民衆に 歓迎される。ここでナレー ションが入り、護民官とその選挙についての解説が流れ、「政治的駒だった」と断ずる。ティベリウスはアッピウスの娘、クローディ アと結婚する。

  そして過激な土地法を民会に提出する。最初に元老院に相談しなかったことで、あっという間に元老院と対立が深まってしまう。高校 生の頃、ローマの民会につ いて知ってから、「市民が全員集まるなんて、郊外の野原ででも開いていたのだろうか?」と、民会開催のイメージはずっと野原だっ たのですが、はじめてリア ルな映像に納得しました。下記がその民会の状況。

  元老院派は、2席あるもう一人の護民官(任期1年)に、元老院派の、ティベリウスの友人オクタヴィウスを当選させる。ティベリウ スは民会で民衆に土地法を 説明し、投票を促すが、オクタヴィアヌスは拒否する。一人でも護民官が拒否すると法案は成立しないのである。土地法の決議は翌日 に持ち越しとなった。市内 は騒然とする。オクタヴィアスを訪ねて、翌日も拒否するつもりか?とティベリウスは問う、オクタヴィアスの答えはVeto(拒 否)。そりゃそうだろ。読み が甘すぎるんじゃないの、ティベリウス。と思ってしまうのだが、正しいことが通ると思い込んでいる若きティベリウスの様子が非常 に良く出ています(当時 31歳)。

 翌日。再開した民会で、またもオクタヴィウスが拒否。一方、法案を法廷にかけるというオクタヴィアスの提案は、ティベリウス が拒否。彼は国庫を開くことも拒否する。これで民衆が国庫をの扉を紐でロックする事態に発展する。クリントン政権時代に米国で実 際に起こり、今年も米国で 発生しそうになった政府予算の凍結と同じである。更にティベリウスは市場の管理法案も拒否。とにかく拒否、拒否、拒否を続ける ティベリウス。既得権益僧に 打撃を与える土地法案を通すには、徹底した実力行使しかなかったのだとは思うのだけれど、子供じみた振る舞いにも見えてくるティ ベリウスの描かれ様。ロー マ市内は大混乱となり、元老院議員は避難するに至る。殆ど民衆暴動状態である。義父のアッピウスさえ見かねて止めようとするが、 「誰も私を止められない」 と言い放つティベリウス。
 家に帰ると母が激怒している。ティベリウスは、「父が死んだとき言ったではないか?偉大な人物になることができる、と」 母は 「貴族と評判を捨てても?」と返すが、「僕は英雄だ!」と聞く耳を持たないティベリウス。

 ついに土地法案が可決される。民会(上記写真)にバラの花が散る。

  しかし、思い通りになったのはここまでで、以後保守派が反撃に出る。オクタヴィアスは、民衆に向かって、彼は嘘つきで暴君だとい う。簡単に煽動されてしま う民衆。元老院でもナシカが、彼は王だ、という。王という言葉は、共和政時代のローマにとっては、排斥すべき危険人物のレッテル である。政治的に王以上に 不利なレッテルは無い。処刑を口にするだけで、元老院では満場の拍手を持って迎えられる始末である。ティベリウスは、民衆の一人 で、護民官選挙当事からの 側近マトーにまで見捨てられてしまう。ティベリウスの支持者と暴君反対派の間で市内は内戦状態となる。道行くティベリウスの妻に まで泥が投げられ、妻にま で罵られるティベリウス。
 とにかく激しい。ティベリウスの改革法案は、彼の暗殺にまで至ったのだから、考えてみれば激しいのは当たり前なのだ が、こんなに激しいとは思わなかった(まあ、BBCの解釈なのだけど。一応番組冒頭のテロップには、最新の研究成果と現代の研究 者の意見を取り入れてい る、と出ている)。カエサル暗殺みたいに、密かに進行し、表面上は穏やかでありながら、突然暗殺されたのかと思っていた。ティベ リウスを模した人形が吊る し首に会い、更に燃やされる場面。

  ティベリウスの家にまで暴動が押しかけてくる。暴漢が去った後、義父が家に来る。屋内は荒廃していたが、ティベリウスも娘も孫も 生きていた(護民官は神聖 不可侵とされ、任期中には手を出されることは法律的に禁じられていた。しかし、任期終了とともに処刑される可能性もあった)。 ティベリウスの父のデスマス クが割られていた。デスマスクの破片を集めながら、二期目の護民官への立候補を義父に告げるティベリウス。、「元老院はお前の血 を望んでいる。護民官は1 年間だけだ。2期はない。法律に敵対するつもりか?」と、いい加減にしないかとばかりに驚く義父。しかし己の正義を信じている ティベリウスは、新法を計画 してるんだ。人々が守ってくれる。と2年連続して護民官に立候補してしまう。

 前133年護民官選挙の日。道の両側の人々は冷たい目で選挙に向かうティベリウスを見送る。

  群集にもみくちゃにされながら、選挙台に向かう時、ティベリウスは、群集の中にマトーの姿を見つける。そして、どういうわけか、 マトーに向けて、自分の頭 を指すポーズを取ってしまう。この情報はただちに元老院に流れ、「彼は王になろうとしている!」と元老院で弾劾されてしまう。 「共和国を守る!」というこ とで元老院議員たちは棍棒を振り上げ、議場を飛び出す。あの頭は何の合図だったのか。議員達は棍棒を準備していたのか。など色々 疑問は残るものの、とにか く映像の凄まじさに圧倒される。ティベリウスを庇おうとしたマトーがまず倒され、逃げるグラッカスは元老院議員達に木の棒でなぶ り殺しにされ、死体は川に 投げ込まれる。更に、カルタゴ時代の上司、アエリミオスはティベリアス支持者に殺さ、ナシカはローマから逃亡を余儀なくされ、追 放処分になったとのナレー ションが入り、最後に「彼はローマを永遠に変えた。それは100年後新しいタイプのリーダーが登場するまで続いた。皇帝の登場で ある」と締めくくる。


  とにかく、凄まじい話でした。川に投げ込まれた死体の顔まで映すところも凄い。一気に見終わり、終わった後ため息が出ました。見 ている最中息を止めてい て、終わってやっと、ためていた息を吐き出した感じ。この話(50分)だけで3000円くらいの価値はあるかも(まったく個人的 な価値観です)。でも他の 5話がいまいちであれば、やっぱり8370円は高いかなぁ。見た直後、プルターク英雄伝の「グラックス兄弟」の巻を買っておかな かったのを後悔しました。 そのうち図書館ででも借りて読んでみたいと思います。

古代ローマ映画一覧表はこちら

 ところで、ジュンガル部のガルダン・ツェリンを扱った作品を見ました。2005年カザフスタン製作の「ノマド」。 まあ、ガルダンは適役なんだけど、ただでさえ非凡な乗馬技術を持つカザフの方々の騎馬技術にCGが加わって、初めて見る騎馬戦の 映像や、ガルダンの宮殿な ど、想像すらできなかった映像が楽しく見れました。筋は単純過ぎる程だけど、明快で言葉がわからない(音声チェコ語で見ました。 ブルガリア語と同じスラブ 語系なので極一部は聞き取れたけど)ので、明快でわかり易すぎる筋と映像は、かえってよかった。カザフの雄大な自然の映像と、非 凡な騎馬映像が見所です。 これについては日本語情報がネット上にもあるのですが、いづれ紹介する予定です(今のペースだと18世紀は冬頃でしょう か。。。。)。

 と思ったら、本作日本語DVDが発売されていますね(タイトル 「レッド・ウォリアー」 どう してこのような題名なのか意味がわかりませんが。。。)。でもよかった。日本でも出てて。
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