2011年10月28日作成


ブルガリア歴史映画「ボヤナの巨匠」(1259年)

 ボヤナ教会はブルガリアが誇る世界遺産のひとつです。首都ソフィアの郊外にあります。そして2 年8ヶ月の間ソフィアに住みながら、行かずに終わってし まった場所でもあります。当時、ボヤナの壁画は、観光による自然損傷から守る為に、教会の隣に別館が作られ、その内部に描かれた 複製画のコピーしか観覧で きなかったのです(Wikiの説明で は、2000年にこの制限は解除され、現在は観覧できるそうです)。本作は、そのボヤナ教会の壁画の制作を巡る映画です。作者の 名前も人生も判明していな いのですが、製作年だけははっきりしており、1259年のことです。もっとも、現在に残る壁画すべてが1259年に描かれたわけ ではなく、教会の建造は 10-11世紀、壁画は11-12世紀に遡るとされているようです。

 聖ニコライとパンテレイモン教会が正式名称です。一般にボヤナ教会と言われるのは、ボヤナ村にあるから。

 本作の題名は、本当は「親方」と訳すべきなのでしょうが、今や世界文化遺産として登録されている壁画を描いた「無名の巨匠」と いう意味をこめて、「ボヤナの巨匠」としました(下記が現在のボヤナ教会の壁画。本作の主人公デシスラヴァとカロヤン夫妻)。

 詳細にご興味のある方は「More」をクリックしてください。

ブルガリア歴史映画一覧表はこち ら

第一部 ボヤーナの祝日

 ボヤーナ教会の外観を背景に、オープニング・クレジットが入る。右手手前の建物がボヤナ教会。左手奥の建物が、当時のソフィア (中世名スレデッツ)の統治者・セバストクラトール(ビザンツの役職名。当時のブルガリアでは、ビザンツの役職名 をそのまま採用していたらしい)の建物。見た目、教会よりも小さい。

  こちらは、同じ建物を西側から見たところ。場所は、現在のソフィア市街の外、ソフィア市南にそびえる標高2090メートルのビ トゥシャ山の麓にある。ボヤ ナ教会の横にスレデッツ知事の建物があるということは、当時のソフィア(スレデッツ)の中心はここだったということなのかも知れ ませんが、作中、「スレ デッツにいるから」といい置いて教会を去る場面が出てくるので、スレデッツ市街は、やはり現ソフィアの中心にあったのかも(な お、スレデッツは、古代ロー マ時代の都市セルディカのスラブ語読みで、セルディカ遺跡は現在のソフィアの中心部、大統領官邸の横にある)

 ボヤナ教会全景。わざわざ画面ショットを取らなくても、ネット上にいくらでもある画像ですが。。。。

  親方クリスタラットと役人らしき人々がボヤナ教会の壁画を書く絵師について相談している。史実のボヤナ教会では、1259年のこ の年には既に古い壁画が描 かれていたが、本作では一面真っ白な壁となっている(ひょっとしたら、新しく壁画を描くために白地で塗りつぶしたのかも知れな い)。外でみなが相談してい る横で、二人の絵師が勝手に教会内部に入り、見学している。この二人は名前をイリヤとキタイと言い、タルノヴォから来たのだっ た。二人が勝手に作業を始め ようとしたところ、役人が止めに来る。イリヤは、タルノヴォの親方・ドラガンの推薦状がある、という。手紙を見せるが、セバスト クラトールにだけしか読ま せない、と手紙の中身を見せるを拒否したところ、タルノヴォに帰れ、と2人は教会から追い出されてしまう。帰ろうとしたところ、 別の職人が、二人を引きと め、自分の作業場に案内し、とりあえず山羊の乳を振舞う。イリヤは「明日に出発しようとする。教会は沢山ある」というが、その職 人は、明日セバストクラ トールは来るから、それまで待ったらどうだ。と引き止められる。

 翌日。教会の周囲はお市が立ち、多くの人でがある。遊戯施設まで設置されている。下記がそのひとつで回転シーソー。棒の両端に 人が乗り、地面に足がついた瞬間に蹴り、あがったり、下がったりしながら回転するのである。

 市場では色々な店、金物屋、布地屋、楽器屋、小物屋など、多くの店が出ていて大賑わいである。店を見歩くイリヤとキターン。下 記は服とアクセサリーを売っている店。

 山羊を連れた少年がやってくる。イリヤは少年に笛を買ってやるのだった。更に、人形劇もやっていた。

  どうやら、出し物は、王と王妃を巡る宮廷の話のようである。イリヤは、タルノヴォで見た人形劇を思い出す。呆然と見ていると、劇 をやっていた女(一人で三 本の人形を動かしていたようである)が、帽子をとって金を払え、と要求するが、なぜかイリヤは女の頬に手をあててはたかれるの だった。「タルノヴォから来 たのか?と問うイリヤに「さあ」とあいまいに微笑しリンゴ(かなにか)を投げるのだった。

 知事の建物から高貴な女性とお供がやってくる。そしてボヤナ教会に入り、白い壁をざっとみて帰る。イリヤは、教会の窓から女性 を覗き込み、役人に殴られてしまう。それを見た女性は、走って教会から出て、止めてくれるのだった。この女性が、セルディカ知事(セバストクラトール)カロヤンの妻、デシスラヴァだった。

 キターンは出発しよう、というが、イリヤは、ここに残ろう、と意見を変える。

  その夜、いつの間にか最初に山羊の乳をもらった職人の家の部屋を与えられ、住処としているイリヤは、人形劇の女の馬車のイラスト を紙に書いているところ、 キターンが戻って来る。キターンは、イリヤのイラストを見つけ、何枚かめくってみると、デシスラヴァの似顔絵が出てくるのだっ た。どうやらイリヤが居残り を決めたのはデシスラヴァが原因のようである。そこに役人からの呼び出しが来る。知事の建物に連れてゆかれ、カロヤンに面会する イリヤ。下記はそのカロヤ ンの部屋。真ん中の男が役人で、左側の背中がイリヤ。質素な執務室である。

  親方ドラガンの手紙をカロヤンに見せるイリヤ。ドラガンは病気ですぐには来られない、と書いてあるようである。カロヤンは、親方 頭(プロト・マイストー ル)になってのに何年経つ、など色々質問する。イリヤは14年だ、マブゼ修道院からはじめてツァーリ・グラッド(コンスタンティ ノープル)、スメルナ(現 トルコのスミルナ)、イファトン、エディングラッド(エディルネだと思われる)、ヴェネツィアなどで働いた、などと答える。イリ ヤはドラガノを待てば?言 うが、カロヤンは急いでいる、と答え、一緒に教会見に行こう、という。

 教会に入ると、ここに私とデシスラヴァの肖像を書く。上にはあれ、ここにはこれ。と案を述べるカロヤン。最終的にはカロヤン は、「日曜日、教会が決定する」と述べて引き上げるのだった。

  翌朝、囚人が知事の建物から連れ出され、教会横の野原の大きな木の下に設置された椅子に座るカロヤンとデシスラヴァの前に引き出 されてくる。下写真右奥に ぼやけて見えているのが、連行される途中の囚人たち。手前は、羊の皮を剥ぐ職人。珍しい映像なので画面ショットを取ってみまし た。

 下記がそのカロヤンとデシスラヴァ。周囲には多くの見物人が集まっている。イリヤとキターイも見ている。

 どうやら彼らは労働をサボったということのようで、カロヤンは、鞭打ち20回の刑を処す。が、デシスラヴァはそれをとりなすの だった(が、結局刑は変わらなかったようである)。
  判決が終わると、デシスラヴァは市場を見て回。というか。そして、自分の屋台の前で、服と薬草を人々に配るのだった。それを見 て、イリヤは、十字架を背負 いで歩くイエス顔を、一人の女性が拭き、その顔が布に転写される幻想を見るのだった。そしてその女性はデシスラヴァだった。

  先ほど裁判が行われた罪人に鞭打ちと、足枷をつけているしているところに来合わせる2人。

  その夜、知事の建物の前にカロヤンが椅子に座り、周囲に、教会や絵師職人達の代表者ら20名程が集まり、イリヤとキターイの処遇 について意見を出し合う。 スレデッツのプロトマイストールであるクリストクラットは、助力は必要ない、との意見。これに対してイリヤは、一度だけいわせて くれと、共同作業を提案す る。親方ドラガンが来るのを待つ意見など色々でるが、イリヤは、ツァーリ・グラッド(都タルノヴォ)の王、コンスタンティン・ア センと妻イリーナの似顔絵 を持ってきている、と主張し、どうやら、皇帝と皇后の肖像画とその他一部を担当することになったようである。

 部屋に戻ると、イリヤはキ ターイにはたかれ、聖書を頭の上に乗せられ、怒られる。どうやら、カロヤンに嘘をついていたのをキターイが聞いていて怒っている ようである。どうやら、イ リヤとキターイには聖堂画を描く資格が無いようなのである。プロト・マイストール(親方頭)というのも嘘な模様。でもキターイも 一緒に作業を開始するの だった。

 作業を開始する二人。下記が作業道具。

イ リヤは教会内の白い壁をみながら、またイエスの幻想を見たりしている。キターイが作業を進める一方で、イリヤはなかなか着手でき ず、キターイにワインをも らい、壁の前で十字を切ったりした末に、ようやく壁画を描き始める。しかし、皇帝の絵は一晩で完成したものの、皇后の絵は、どう しても顔が書けないのだっ た。どうやらデシスラヴァの顔が焼きついていて、どうしてもデシスラヴァに似た顔になってしまうことを恐れて筆が進まないようで ある。

 数日後、デシスラヴァの侍女が皇帝と皇后の肖像を見たいとやってくるが、イリヤはまだできていない、と追い返しえてしまう。皇 后の顔がなかなか書けないイリヤ。とりあえず別の箇所の聖人画を書き出す。

 時間がかかったが、ようやく、明日、みなに皇帝と皇后の絵を見せるというイリヤ。下記が完成した皇帝と皇后の絵。上部に白い壁 面が一部見えている。


 朝。役人がイリエとキターイが下宿をしている職人の家に、教会の鍵を寄越せとやってくる。デシスラヴァがが見に来る。王妃イ レーナの像に見入るデシスラヴァ。イリエはあなたの方がいい、というのだった。
今度はクリスタラットが来る。一人山へゆくイリヤ。洞窟の老人に指示を受ける。


第二部 イリヤが描いた手


  洞窟の老人の元を出た後、森の中を歩くイリヤ。過去、各地のモザイクや壁画を見て歩いたときのことを回想する。絵(イコン)を 売って歩いた日々。彼が訪問 した先の大きな修道院にはガラス窓がある。益田朋幸氏の研究対象であるマケドニアのクリコヴォ村のガブリエル像も出てくる。そし て、荒野で人形劇の馬車が 通りがかり、人形劇師の女と森の中で抱き合うのだった。

 夜、職人小屋に戻ると、職人たちが晩餐会をやっているたが、イリヤは彼らの上に最後の晩餐の幻影を見てしまうのだった。

 翌日役人が作業場所を見に来る。その後親方クリスタラットはカロヤンに報告する。カロヤンが来る。そして、駄目な絵は削除させ られるのだった。以下は、水を絵の表面に塗った後、液体状の石灰で白く塗りつぶされるところ。

 デシスラヴァ夫人に本を読むカロヤン。当時の貴族の自室の様子。

  季節は冬になった。カロヤンのもとに出頭するイリヤ。カロヤンとデシスラヴァの肖像画は何時はじめるんだと聞かれる。二人の正装 を見たことが無いイリヤ は、王の集めた剣や槍、盾などの武具とともに集められた宝石類を見せてもらう。更に正装した王妃がやってくる。それを見るイリ ヤ。そこでイリヤは、またも 突然、森の中でクリスタラットに襲われ、首をつる幻覚を見る。

 滝の元で儀式が行われている。カロヤンとデシスラヴァや教会関係者、一般 人も参加し、盛大な儀式である。川に十字架を放り投げて、少年達が取ってくるという儀式。これに似た儀式は、映画「ヨアン・アセ ンの結婚」や、現在のロシ アのニュースでも放映されているので、冬場に川に飛び込む祭はスラブ系民族伝統のものなのかも知れない。

 その時のデシスラヴァの衣装。

 その後宴会が行われる。デシスラヴァを見つめるイリヤ。カロヤンも気づく。イリヤはカロヤンなにか言われて退出させられる。


 壁画を書きに戻るイリヤ。描きながら、少年とデシスラヴァが野原を歩く幻覚を見る。キターイが、ドラガンがボヤナに向かってタ ルノヴォを出発したとの連絡に来る。

  侍女がイリヤのもとにくる。いつ絵を見に来れるか?とまた王妃が質問してます、またドラガンがスレデッツに既に到着している、と も言う侍女。中に入って鍵 を閉めてしまうイリヤ。侍女が知事の館に戻るところで調度ドラガンが橇に乗ってやってくる。侍女は、最初にデシスラヴァが会いた がっていますと告げる。

  デシスラヴァのところに案内されたドラガンに、デシスラヴァは絵を見て欲しいという。ドラガンは「二人の絵はタルノヴォで見てい る、と答えると、デシスラ ヴァは彼を助けることができるかと尋ねる。よい弟子だったが、親方は壁画作業をすることはまだ認めていない、どうにも助けようが 無い、と告げる。続いてド ラガンは教会にやってきてイリヤに扉を開けてくれ!と何度も叩くが、イリヤは開けない。この頃ようやくイリヤはデシスラヴァとカ ロヤンの肖像画に着手した ところだった。イリヤに変わってキターイが、「まだ作業は終了していないので開けることはできない」と答える。無理やり斧で兵士 が開けようとするが、別の 親方が止め、クラフトカットが、カロヤンの帰還を待とうと提案する。そのカロヤンは狩をしていた。冬場の狩の場面。獲物を持って 帰還。
 夜、ドラガンが再度やってくるが、イリヤはあけない。窓からドラガンが語りかける。明日カロヤンが戻ってくる。どうするか決め なければならない、と告げる。
 翌日も、カロヤン一行は狩をしていてボヤナに戻って来ない。飲み食いもせずに教会にこもって絵を書いているイリヤとキターイ。 その夜、デシスラヴァが来る。扉を開けるイリヤ。毛布を差し入れるデシスラヴァの手にキスをして、もう少し待つようにいってイリ ヤは扉を閉める。

 翌朝カロヤン一行が狩猟から戻る。直後、イリヤは教会から出てきて自発的に出頭する。

  カロヤンとデシスラヴァが絵を見に来る。知事邸から出てくるイリヤは手かせをはめられている。人形劇の女が馬車から、彼を助け て、とカロヤン夫妻に訴え る。デシスラヴァと教会の絵は完成していた。が、カロヤンの絵はまだ未完成で冠と手しかできていなかった。カロヤンは絵を褒める が、「俺はどこだ」と言 う。イリヤはデシスラヴァを先に描いた言い訳をする。イリヤは作業を続行することを許される。キターネは肖像画の横に銘文を記載 するのだった。夜、ようや くカロヤンも記載された肖像画が完成する。カロヤンは完成した絵を蝋燭のもとで見る。十字を切るカロヤン。下記がその肖像画。

  翌日、壁画の前で、親方衆によるイリヤ裁判が行われる。イリヤは、磔になったキリスト(イリヤ自身)と羊飼いの少年が十字架に磔 にされ、十字架の下にデシ スラヴァと人形劇の女がいる。現実に戻るイリヤ。ドラガンが壁画職人の裁判を仕切る。どうやら、プロト・マイストール(親方頭) 抜きで聖堂画を描いてはい けないらしい。イリヤは絵師の印たるペンダントを取り上げられ、後ろ手に手を縛られ、30回の鞭打ちの刑となる。鞭打ちにあいな がら、またも受難の幻影を 見るのだった。

 介抱するキターイと、二人を世話した職人。この職人は、半年というもの、部屋を提供し、パンや肉も与えたのに見返りは無 しか、とぼやくが、カロヤンが肉やパンは出してくれる、といわれ去ってゆく。入れ違いにドラガンが二人のところに来て、キターイ に、許すと伝えるように、 という(イリヤは鞭打ちされて失神していた)。その後、ドラガンは王夫妻に会いに来る。カロヤンは絵を褒め、イリヤをねぎらう。 ドラガンは、イリヤを置い ていく、と言い、セバストクラトール夫妻に別れを告げる。

 失神中のイリヤは、うなされながらデシスラヴァの幻影及び、過去の旅の夢、旅 先で目にした壁画を夢に見る。そして、イリヤが完成した、満遍なく壁画で覆われた教会の中を眺めている場面となる。これが、イリ ヤの幻想なのか、それと も、彼がここに残って残りを完成させたのかはわからずじまいである。

最後にテロップが出る(恐らくキターイが肖像画の横に記載した内容だと思われる)。

- キリストの神聖な高僧ニコラスと、キリストの非常に輝かしい殉教者のパンテレイモンは細心の注意と愛情でもって、セバストクラトール カロヤン − 彼 は、皇帝の従兄弟でセルビア王聖ステファンの玄孫である - が、基礎から調達した教会を完成した。

キリストを愛する信心深い皇帝コンスタンティヌスアセンのブルガリア王国にて、1259年夏・インディクトの第7年に記す。 -

※インディクトは当時の暦の読み方で、Wikiに説明があります。通常は年に対して用いられます。

 下記は現在のカロヤンとデシスラヴァの画。最後にこれを含め、十種類程ボヤナ教会の壁画が映り、一番最後はデシスラヴァの画が 映って終わる。

BACK