古代カルタゴ歴史映画「カビリア」


 1913年イタリア製作。1990年リプリント版視聴158分。

第一幕

 第二次ポエニ戦争開始時期のシチリア島シラクサ。主人公カリビアは、シラクサ貴族バトーの娘で、まだ5歳くらいの少女。ある 日、シチリア島北東部にあるエトナ山が噴火し、バトー家の人びとは各々避難して散り散りになってしまう。右下の斜面に避難する 人々 が小さく写り込んでいる。1913年という映画黎明期にあって、どうやって撮影したのだろうか。完成度の高い映像である。



第二幕(14分-)

 幼女カビリアは、乳母のクロエッサに連れられて主人の家の金銭を盗んだ家人発ちと逃げるが、海岸でポエニ人の海賊に襲撃され る。二人は捕らえられて、カルタゴへと連れてこられ、市場で売り に出される。カビリアは、カルタゴ人祭司カルタロに、カルタゴの神であるモロク神への生贄にするために購入される。当初は両家に買われたものだと安心して いたクロエッサ。

 左下がカルタ ゴ市街の様子。駱駝が闊歩し、20世紀初頭のアラブ都市という風情です。左下で子供を抱いているのがクロエッサ。抱かれているの がカビリア。一方、カルタゴには、ローマ貴族のフルヴィウス・アキシラとその奴隷であるマチステがスパイとして潜入していた。右 下は二人が入った宿屋の一介にある居酒屋。



 カビリアは、ともに生贄にされる子供達と一緒に、神殿内で輪になって神に捧げる踊りを踊っている。これからどうなる のかは知る由もなく、無邪気に踊り続ける子供達(左下)。下中央画像の右側の人物がカルタゴ祭司でカビリアを市場で購入したカル タロ。左側の黒服2人はカルタゴ祭司達。右側は、生贄の儀式を行なう祭司長。背後は祭司達。暗闇の浮かび上がる手の模型が不気味 に映される。カビリアが犠牲に供されると知ったクロエッサは懇願するが、鞭打ちの刑に処されてしまう。



 左側がモロク神殿概観。巨大。遊園地のパビリオンのよう。内部の明かりが、目に相当 する穴からまたたいています。中央画像は、内部に聳えるモロク神像。10m以上ありそうです。まさに蠅の王ベ ルゼブブという感じ(バアル・セブブ=崇高なる神(バアル)の意味でバアル神と同じ。キリスト教側からする とモロク神=バアル神ということになる) 。神殿内部の柱に像の浮彫りがあるのがオリエント風。右画像は、子供を生贄に放り込むところ。神像の腹部が開 閉し、内部は溶鉱炉のように炎が燃え盛っていて、時折目のあたりから蒸気が噴きあげるのが不気味です。子供は開いた扉に 乗せられ、その後扉が閉まって、神像内部の炎で焼き殺されるという儀式です。次々と子供が神像の中に飲まれていきます。



 鞭打ち刑の後、開放されたクロエッサは逃亡し、海岸で、密かに相談をするフルヴィウ スとマチステの話を盗み聞きして、二人に助けを求め る。フルヴィウスは、そんなことは無理だと最初は拒否するが、クロエッサが、主人バトー家から避難する際に盗んだ主人の指輪をフルヴィウスに差出し、これ は護符でもある。大丈夫とフルヴィウスを説得する。フルヴィウスとマチステは神殿に侵入し、生贄となる直前のカビリアを 助けだして神殿から脱出し、宿泊している宿屋に 逃げ込む。
 クロエッサは、群集が引き返してきたのをみて、逃亡が成功したことを喜ぶが、群衆はクロエッサを代わりの犠牲にするの だった。

第三幕(41分−)

 その頃ハンニバル将軍は、雪のアルプス山中にあって、イタリア半島に攻め込むべく行軍中。左下が衣装をつけた馬に乗る ハンニバル将軍。髯を蓄えていて、カルタゴ人らしく見えます。更にその頃、ハスドゥルバル家の娘ソフォニスバは、父親経 由で野蛮人ヌミディア人の王マッシニッサからの求婚に頭を痛めていた。部屋でペットの豹を飼っている。この時の服装は、 オリエントよりも、ギリシア・ローマに近い感じ。



 フルヴィウスとマチステが逃げ込んだ宿屋の周囲には、追っ手や群集が集まってくる。 フルヴィウスは宿屋の親父を脅迫し、窓から、誰もいないと主張させて群集を追い返させる。この時の宿屋の概観が左下画 像。厚い石組で、窓が小さ い。日干し煉瓦では無いところに興味が惹かれました。右下画像はマッシニッサの宮殿。二つの大きな像の彫像があり、兵士 でも侍人でもないような人びと(お抱え楽人とか)が部屋の隅のあちこちにたむろしているのが眼につきます。



 マッシニッサ王はソフォニスバに贈り物をし、興味を引かれたソフォニスバは、侍女と ともに、マッシニッサに直接会うために庭にでて待ち合わせする。左下は、ソフォニスバの部屋。画像が小さいのでわかりに くいが、奥の隣の部屋にはハンモックが釣り下がっていてゆらゆら揺れている。左側に寝台に上体をもたせかけて休んでいる ソ フォニスバがいるが、その足元奥には小さい噴水のプールがある。プールの周囲をガチョウたちが散歩しているのだった。こ のあたりはイスラム家屋風。

 さて、宿屋の主人は、神殿に赴き、供犠にされる子供が匿われていると密告する。二人が出発したところを、兵士達が待ち 構えている。フルヴィウスとマチステは兵士達から逃れるために離れ離れとなってしまう。

 ソフォニスバが侍女(黒人)とともに庭でマッシニッサを待っていると、そこに追われたマチステがカビリアを抱えてやっ てきて、マチステはとっさにソフォニスバにカビ リアを託す。マチステは捉えられて拷問に合い、フルヴィウスは海に面した断崖に追い詰められ、断崖から飛び込んで逃げお おせることに成功する。マチステは拷問された後、奴隷として鎖に繋がれ粉引き作業で働くことになるが、フルヴィウスの方 は逃亡に成功し、ローマに戻る船に乗ることが出来たのだった。



 やがて、ローマ軍がシラクサに攻めてきた。フルヴィウスもローマ軍兵士として参加し ている。シラクサでは、数学者アルキメ デスが兵器を考案中(上右画像が、自室で兵器を考案中のアルキメデス。部屋には、物理研究の模型があちこちにおかれてい る)。左下は集光器の実験を行なうアルキメデス。成功したので、兵器を作り(右側の城壁の上の、レーダーのような物 体)、城壁外のローマ軍船に照射する。手前に炎があがり、ローマ軍船に火災が発生している。



 次々と燃え上がるローマ軍艦。1913年の作品とは思えない程に、特撮もよく出来て います。次々と沈没してゆくローマ軍艦を眺めながら狂喜するアルキメデスはマッドサイエンティストのよう。



 フルヴィウスはアレトゥッサの海に流れ着いていた。フルヴィウスは地元民に救助され るが、救助した地元民達は、フルヴィウスの意識のないうちに身ぐるみを剥いでしま おうとするが、地元民の一人が、フルヴィウスのしている指輪が、地元の貴族バトー家の紋章だと気づき、フルヴィウスをバ トー家へと担ぎ込む。家の主人は、意識が戻ったフルヴィウスから、ことの経緯を聞き出し、娘のカビリアがまだ生きている 可能性のあることを知る。フルヴィウスは、運命が、彼を再度カルタゴに導くことがあれば、カビリアを探すと約束するの だった。


第四話(77分以降)

 10年後。キルタ王シュファックスは、領土からマッシニッサを放逐し、マッ シニッサは砂漠へと消えた。ハスドゥルバスは娘ソフォニスバをシュファックスに嫁がせることにし、盛大な結婚式 が開催される。ソフォニスバは内心シュファックスとの結婚は嫌なので、密かにカルタゴの女神タニト神に悲しみを 癒すよう願ったりしている。ソフォニスバの婚礼衣装はクレオパトラな感じ。シュファックスの衣装はオリエント 風。


 その頃レリウス指揮のもと、スペインの征服者スキピオがアフリカに上陸して いた。スキピオ軍に参加していたフルヴィウスは、またもカルタゴ潜入を命じられ、市民服姿でカルタゴ市内に潜入 する。この時の城壁の越え方も凄い。ローマ兵士が盾と体をトランプタワーのように使って4段の人垣を作り、とて も城壁に届かないと思っ てみていたら、なんとか届いてしまった。気づかないカルタゴ兵も間抜けだが。


 任務を達成したフルヴィウスは、カビリアとマチステのことを思い出 し、かつての宿屋に赴き、宿屋の主人を脅しつけ、マチステが奴隷として今も働く製粉所に案内させる。マ チステの所在を確認したフルヴィウスは、その夜製粉所に侵入し、突然の喜びに異常な怪力を得たマチステ は、手鎖を断ち切るのだった。後年のヘラクレスやウルスス、マチステなど怪力映画の起源はこのあたりに あるのかも(その後調べたらその通りだった)。マチステは、カビリアを託した女性の身元を知らなかった ので、とりあえず二人し てカルタゴ市街へ脱出することにする。

 フルヴィウスがカルタゴ市に進入した夜、ハスドゥルバルは執政官に 任じられ、祭司カルタロは、マッシニッサが領土を奪うおうとしているキルタ王シュファックスの元に対 ローマ同盟を打診に向かった。カルタロ一行は多数の駱駝を従えていて、まさにアラビア風なイメージ。右 は到着したキルタ王の宮殿。古代エジプト風。というか、壁面の浮き彫りや、出迎えるソフォニスバのクレ オパトラ感は、完全に古代エジプト。



 同盟交渉は成功し、ソフォニスバは、海を渡って虐殺の報告がローマ 側に届かないよう、一人も生かして返してはならぬ、とカルタロに首飾りをかける。その時、カルタロを迎 えた侍女たちのひとりにソフォニスバの侍女エリス(成長したカビリア)がいた。

  フルヴィウスとマチステは、スキピオ軍を探すが、スキピオ軍は既に移動してしまっていて、彼らは何 日も砂漠をさまようことになる。ある日、スキピオ軍がシュファックスの軍営に火をつけ、軍営が燃え上が る。この噴煙を見つけて近づいたマチステとフルヴィウスの二人は、キルタへ退却中のシュファックス軍に 囚われ、そのままキルタの城市内に連行され、牢獄に閉じ込められる。一方、マッシニッサ軍に追撃を受け ていた、シュファックス王は捕虜にされてしまう。この部分でワンカットだけ戦象が登場していた。マッシ ニッサ軍とローマ連合軍は遂にシュファックス市 を包囲・攻撃する。この場面は、カメラが固定されていたので、迫力はいまひとつだったが、攻城戦の雰囲 気は良く出ていた。注目すべきは、画面右したの、クレーンにつるされたゴンドラで城内に侵入しようとす るところ。結局城壁上の兵士達に槍でつつかれ、紐を斬られて転落してしまうのだが、こういう兵器は初め てみた。右下は、すっかりオリエントの女王風に退廃している女王ソフォニスバ。



 そのソフォニスバはモロク王に自分が生贄にされる悪夢を見る。その 夢説きをカルタロに依頼し、ソフォニスバ、数年前に供犠にされる筈の子供を庭に匿って助けたことを告白 する。「何てことを!その子はどこに」と怒りむせいて立ちあがったカルタロに、ソフォニスバはエリス (カビリア)を指し示すのだった。脱走しようと牢獄の鉄格子を曲げていたマチステは、庭を、水を差し入 れてくれていた侍女が連行されてゆくのを見て、最後のひと息、鉄格子を捻じ曲げて隙間を作り、そこから 脱走し、カビリアが連行されていった先で、カルタロがエリス(カビリア)に説明する連行理由、それは生 贄から逃れハスドゥルバル家の庭へと逃亡した、という話を盗み聞きし、マチステは、エリスがカビリアで あることを知る。マチステとフルヴィウスは一時はカビリアを奪取するが、衛兵に取り返される。しかし、 カルタロ達がカビリアを処分する間もなく、キルタ市を包囲中のマッシニッサ軍は、人質のシュファックス 王を晒し者にし、それをみたキルタ市民は降伏することにしてしまう。1日間の略奪を条件に開城したキル タ市にマッシニッサとローマ軍が入城し、王宮ではソフォニスバが多数の侍女達を従えてマッシニッサを出 迎えるのだった。

 出迎えた女性がかつて恋慕していたソフォニスバと知ったマッシニッサはただちに求婚し、結婚式とな る。マッシニッサ(左側画像の右側の人物)は、ヌビアの王、ソフォニバスはエジプト女王という、エジプ トを征服したヌビア王がエジプト王女と結婚する、という感じ。もう完全に古代エジプトな映像。



 その頃、フルヴィウスとマチステは、逃げ込んだ貯蔵庫でワインや干し肉を食べながら食いつないでい た。この巨大な壷も他では目にしたことのない本作独特なものである。

 

ローマと同盟を組んでいるマッシニッサが勝利したのだから、篭っている理由も無い筈なのだが、気づいて いないのかも知れない。
 ある日、マッシニッサとソフォニスバが王宮の屋上でくつろいでいると、中庭で衛兵達が騒いでいるのが 目に入った。衛兵達がフルヴィウスとマチステを貯蔵庫から追いたてようと窓から火を放り込んだりして騒 いでいたのだった。マッシニッサは、二人の噂を聞いていたようで、二人に会ってみたいとソフォニバスに い う。

 王と女王に面会したフルヴィウスは、カビリアがどうなったのか質問するが、女王は、「彼女は殺され た」とにべもなく答える。

 さてその頃、ローマ軍がキルタ近郊に迫っていた。レリウスはスキピオに、ソフォニバスは狡猾な女だと 警告し、スキピオはマッシニッサに、自分の元に即刻で向いてくるようにと居丈高な使者を出す。激怒した マッシニッサは、スキピオの書状を床に叩き付けるが、強大な軍事力を背景にしたローマ軍に逆らえるわけ もなく、スキピオの軍営に赴く。マッシニッサは女王の命を、王冠を外してスキピオに跪いてまで嘆願する が受け入れられず、マッシニッサは密かに部下に命じて王妃に毒を渡すよう命じる。以下左画像の左がスキ ピオ、右がマッシニッサ。マッシニッサは上半身半裸。いかにも野蛮人の王として描かれている。右はこの カットだけで登場していた攻城兵器。実際の攻城の場面では登場していなかったから、ただの張りぼてかも 知れない。

 

 使者から毒を受け取った女王は毒を煽って死の床に就き、牢獄にいるカビリアを呼ぶように命じ、解放さ れたカビリアはじめ、多くの侍女達の嘆きの中、いかにもサイレンと映画的に大仰に振舞ってから絶命する のだった。こうしてローマの支配は、 Gaius Duiliusが勝利(前260年のミ ラエ沖の海戦)した海域から、全ての海にとどろくこととなった。

 そうして、恐らく獄中のフルヴィウスに水を差し入れていた頃から見初めあっていたのであろう、フル ヴィウスとカビリアは結ばれて終わるのだった。ローマへ向かう船の舳先に立つ二人の前に、生贄になった 子供達の幻影が、輪となって巡るのだった。



〜Fine〜

 後半は、単なるクレオパトラ映画の変種といった感じになってしまい、ラストの女王の大仰な演技もいか にもサイレント的な感じでいまいちでしたが、前半は、最近の映画ぐらいに愉しめました。やはり、火山の 噴火やモレク神殿など、スペクタクルな映像の完成度が高いことと、前半は、その後の紋切型の史劇に無い 要素があるからなのかも知れません。後半は、その後の紋切型史劇の雛形という感じ。シェークスピア劇の 範囲内というか。

 映画の背景には、1912年のイタリアによるリビア征服があるとのこと。リビアを征服したことで、 ローマ時代のカルタゴ征服を題材とした内容に世間の関心が高まり、本作のような映画の成立に至ったとい うことのようです。1913年頃には、本作以外にも、リビア征服に触発された映画が多数作られたようで す。イタリア全体が、リビアブームだったんですね。

 「カビリア」はアウグストゥス時代の歴史家リヴィウスの歴史書をベースに、19世紀フランスの作家フ ロベールの「サランボー(1862年)」、エミリオ・サルガリが1908年に発表した「カルタゴの大虐 殺(Cartagine in fiamme (Carthage in Flames)」の一部も取り入れて脚本が書かれたとのことです。


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