古代インド歴史ドラマ「チャンドラグプタ マウリヤ」

  2011年1月からインドImagine TV(今 はアクセスセラーとなる)で放映されていた、古代インド、マウリヤ朝初代王チャンドラグプタのドラマ「チャンドラグプタ マウリ ヤ」がいつの間にか放映終 了していました(2012年4月7日で第105話)。ImagineTVが繰り返し買収された結果遂に営業停止となってしまい、 全番組打ち切りとなったよ うです。というわけで、第105話を視聴したとろでは、話としては佳境に差し掛かっているところで打ち切り状況のようです。

 全部見たの は第105話だけで、後は第1話の最初の30分、第2話から第6話、及び第30、40、50、60、70話の各話最初の5分だけ で、全部あわせても2時間 分も見ていないので、ドラマ紹介という程のものは書けないのですが、結果的に放映が一段落ついたようなので一部を少し見た限りで の印象だけ紹介したいと思 います。

 このドラマはチャンドラグプタが少年時代(10歳くらい)の時から始まり、40話代のどこかで、青年役に変わったようです。6 話の時点で大人になっていなかったので、歴史ドラマというより、史上の人物に題材をとった子供向け番組なのかも。或いは、仮に歴 史ものだとしても、6話に なっても全然チャンドラグプタ少年の年齢が変わっていないようなので、相当長大な作品になるとも予想され、見る気が失せました。 これが少年時代のパートの 冒頭テーマソングの背景画像。「チャンダグ、チャンダグ、チャンダグ」とコーラスが入るテーマソングが耳に残ってしまう。

 50話以降では、こちらに変わっていました。右側は宰相チャーナキア、左側がチャンドラ。思い切りヒロイックファンタジーな感 じ。40話代のどこかで青年役となったようです。

第一話では、チャンドラの家は母子家庭で、小作人の母親が地主に虐待されているような場面があり、卑賤の出身だったチャンドラの 史実に則った描きぶりな感 じでした。少年たちの世界で異彩を発揮し、やがてチャーナキヤが眼をつける、という筋のようで、当初はチャンドラ少年(チャン ドゥーと呼ばれていたり)と チャーナキヤのエピソードが別々に並行して進んでいる感じでした。

 第105話は、冒頭で、即位式のような場面があり、思わず見入ってし まいました。中央玉座の前に立つのがチャンドラ。その右が智謀の宰相チャーナキヤ。両側の女性は王妃か女官か、女間諜といった感 じ。チャンドラは、チャー ナキヤから、ターバン?を戴冠され、王剣を施賜されるのでした。

 その王宮広間全体像。広間のエキストラの数が少なく、歓呼の声のいまいちな感じ。まだチャンドラは少数勢力ということで、この 頃はこんなものだったようなのかも知れませんが。。。。
 

 左がチャンドラ。頭がチャーナキヤから「戴冠」されたターバン。史実性に大きく興味があるところです。右がチャーナキヤ。額の 模様はバラモンの印でしょうか。

 こちら、チャンドラと対立する勢力の一つマラーチ王と宰相ラークシャサ(マラーチは王の個人名なのか称号なのか不明)。このあ たりの話はインドでは有名な話らしく、古来様々に脚色されいくつもの俗話が残っているようで、400年頃に成立したとされる戯曲「宰相ラークシャサの印章」は、 邦訳が出版されています(私のラークシャサに関するにわか知識もこの戯曲からのものです)。ラークシャサは、基本は、マガタ国ナ ンダ朝に忠誠を誓い、ナン ダ朝崩壊を受けて主家復興の為に、何度も主君を変えているので、このマラーチなる馬鹿王が(宰相ラークシャサも呆れた目付きで見 ているのがわかります)、 戯曲のマラヤケートゥ王に相当するのかどうかは不明ですが、105話後半に、「宰相ラークシャサの印章」が宰相チャーナキヤ配下 の間諜によって偽造される 場面が出てくるので、105話は、戯曲「宰相ラークシャサの印章」でも佳境にあたる部分に相当している模様です。そこで打ち切り とは残念な話です。

 馬鹿王の広間には北インドの勢力図があり、地図の左手の水色の右下の部分に、現在のカチャワール半島が見えています。左上は現 在のパキスタン、アフガニスタンあたり。左下の白い部分はアラビア海。

 この回では、ガンダハーラやタキシラーといった地名も登場しており、この頃のチャンドラグプタがどの地域を治めていたのか、よ くわかりませんでした。そのうち調べてみたいと思います。

 これは、チャーナキヤが、ラークシャサの印章(ムドラー)を偽造する為の円形の粘土版をチャンドラグプタに渡す場面。ムドリ カーラとかムドラケチャー・ ラークシャサという言葉が登場していたので、ムドラー・ラークシャサ(ラークシャサの印章)で間違い無いと思います。

  さて、ラークシャサは町の居酒屋に入る。左下が酒屋の入り口。ラークシャサの兵士が見張っている。戸口から出てきたのはチャンド ラグプタ。入り口はカーテ ン。このあたりも史実性に興味がでます。右側は、入り口を出て右側に向かい、居酒屋の右角を曲がったところ。窓の下の装飾が古代 ギリシア風な感じ。

 酒屋の入り口を別の角度から見た画像。右下は酒場の前(右手が酒場)から見た市街の様子。

 奥の映像を拡大すると、こんな感じの二階建ての建築物が。。。。古代インドの市井の建築物は殆ど遺跡が残っていないので、この 映像の根拠は何なのか、まったくの創作なのか、非常に興味があります。

 チャンドラグプタは、店の外にいた部下の兵士達に指令し、居酒屋に押し入ってラークシャサを誘拐するのだった。これがその居酒 屋の内部の映像。

 当時居酒屋らしきものが存在したのは事実のようで、カウティリャ「実利論 上―古代インドの帝王学 」(岩波文庫、上村勝彦訳p194)には、

「多くの部屋があり、仕切られた寝台と座席を有し、酒を飲む場所があり、香・花環・水を備えた(すべての)季節において快適な酒 家を造らしむるべきである。スパイたちは(中略)酔って眠った客の装身具・衣服・金銭を調べるべきである」

と、酒家の記載があます。
 
  さて、牢屋に放り込まれたラークシャサに、牢番が近づき(実はチャーナキヤの間諜)、信用させ、ラークシャサの印章を腕に押印し てもらいます。ラークシャ サの腕のブレスレッドの裏側に印章が隠してあり、ラークシャサは血を印章に塗り、間諜の腕に印璽するのでした。その後間諜はラー クシャサを脱獄させるので すが、脱獄直後、女性の間諜がラークシャサを後ろからぶったたき気絶させ、気絶しているうちに、ブレスレッドから印章を取り出し て、チャーナキアから与え られた粘土に刻印し、偽造するのだった。


  というわけで、にわか仕込みの私でも筋が追え、面白くなりそうだったのですが、ここで打ち切りは少し残念かも。「宰相ラークシャ サの印章」は、辻直四郎氏 「サンスクリット文学史」に、1頁足らずとはいえ、非常に興味をそそる梗概が記載されおり、その紹介に興味を持って読んだもので す。老獪な冷徹智謀の宰相 チャーナキアと才能はありながら若さと甘さのある宰相ラークシャサの虚々実々の駆け引きをの戯曲化は予想以上に引きこまれまし た。この番組ではラークシャ サが年寄りなのがイメージと違ってちょっとがっかり。私が抱いたラークシャサのイメージは、この番組のチャンドラグプタ役の人の イメージだったのでした。

 さて、当時の市街の様子ですが、105話冒頭で、「これまでの話のおさらい」みたいな映像に、下記、どうみても、近世イスラー ム建築としか思えない建造物が出ていました。

 やっぱ、歴史ものというよりファンタジー系かも。

 なお、ほぼ同じ題材と思われる、チャーナキヤを主人公としたインドの連続ドラマ「チャーナキヤ」(1991年)は、dvdが出ています(一話1時間で50話)。32ドルなので、円が暴落する前に買 おうかどうか迷っているところ。この作品の第四十七話を見たところでは、建築物はこんな感じ。

 これは、チャンドラグプタと対立する陣営の王宮。ラークシャサという言葉が出ていたが、ラークシャサの陣営かも知れないし、 ラークシャサと対立するチャンドラとは別の陣営かも知れない。とにかく木造です。

 これは47話最後に登場したチャンドラグプタの玉座と王の広間らしき映像。左上に微かに見えている天井は木造です。

 更にこれは、市街の様子。城門も通り沿いの建物も木造。道路は舗装されておらず、牛が歩き回っています。

 当時の建築物は木造が多かったようなので、ドラマ「チャンドラグプタ マウリヤ」よりも、「チャーナキヤ」の方がリアルかも。

 「チャンドラグプタ マウリヤ」はIMDbには紹介が無いようで、Wikiに記事があります。この配役表によると、アレキサンダーも登場しているよ うなので、そのうち彼の登場回と映像を探してみようかと思っています。

  ところで、「宰相ラークシャサの印章」の作者には、もう一つの作品、「デーヴィー・チャンドラグプタ」があり、これは、即位前の グプタ朝最盛期の王、チャ ンドラグプタ二世が主人公の話とのこと。ひょっとしたら、既に映画かドラマが製作されているかも知れませんし、今後製作されるか も知れません。楽しみでは ありますが、映像的には、リアル度の高い史劇の方を見てみたいと思う次第です。

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