中世欧州歴史ドラマ「カール大帝」

  1993年フランス製作テレビシリーズ。原題「Charlemagne, le prince à cheval」ピピン王の死から教皇による戴冠までを描く。

 約220分と長編ながら、画面 ショットは少なめです。IMDbの映画紹介によれば、一編90分の三回シリーズで、合計270分となる筈なのですが、アマゾンの VHS版 は、300分となっていて、フランス語版dvdは205分となっています。更に、エピソード1とエピソード2の、それぞれ別売り のフランス語版が出てい て、これは、EP1が95分、EP2が90分、合計185分となります。そして、VHSでは、EP1,EP2,EP3の三本別売 版が出ていて、収録時間は EP1しか記載が無いものの、EP1が60分となっており、単純計算で三本で180分となります。一方、VHS版では、収録時間 が不明な 5Episodes版というものがあります。

 いったいどれが全編なのかわからないのですが、推測するに、VHS版は一編60分の5回シ リーズで合計300分、dvd版は、300分を短縮したものなのでは無いかと思います。で、私が視聴したものは、三回もの(なぜ なら、オープニングとエン ドクレジットが三回あったから)なので、dvdの205分版の可能性があるのですが、推定視聴時間が220分となるため、270 版のdvdを一部カットし たものかも知れません)。内容がよければ、300分版のVHSを購入して確かめるところですが、正直本作は期待外れでしたので、 購入してまで全編版を見た いとは思わないのでした。アマゾンのVHS版の評点は、星4.4となっていますが、私の感覚では、IMDbの6.9点という評点 の方が納得できる値です。 ただ、少し気になるのは、本作は主に下記のエピソードから構成されているのですが、

・父王ピピンの死と領土分割、アキテーヌ討伐
・イスパニア遠征(戦闘場面はここだけ)
・サクソン討伐(武装した兵を連れて行っただけの平和的膺懲
・バイエルン王国との交渉

カー ルは他にもアヴァール討伐とかブルターニュやスラブ、イタリア遠征とかやっているので、その辺のエピソードが300分の完全版に は含まれているのかも知れ ません。度々登場するビザンツのイレーネも、イレーネの部屋しか登場しないのが少し不自然なので、ビザンツの他の場面が本来ある のであれば、私的には買い かも。

 イレーネの映像が見れたのは収穫でしたが、いづれにしても、かつてドイツとフランスで、カールの出生やフランク王国の正当な後 継 者は仏独どちらか論争があったことを考えると(本作でも、カールの本拠地は、「Royaume de France(フランス王国)」と出てきて、カールとフランスとの関係をさりげなく強調しています)、フランスがそれなりに国威をかけて作らなければいけ ない筈のカールの伝記作品がこの程度とは、正直残念な気もしますが、考えてみれば、アマゾンの高評価は300分完全版なので、そ れを見れば、評価が上がる のかも。また、どうしてこの時期(1993年)にカールの映画が製作されたのかを考えてみるに、1992年のマーストリヒト条約 の発効によるEU統合が あったのかも知れません。フランスでは、1989年にフランス革命200周年記念の、360分のテレビ大作「La révolution française」を製作しています。 EU統合を前にして、あまりドイツやフランスを刺激する内容の作品は作れなかったということなのでしょうね。


  冒頭、数名の友人たちと馬を走らせて競争して遊ぶカール。実に快活な好青年という感じ。どこかの農家(居酒屋も兼営しているらし い)の前で馬をとめ、農家 の前にあるテーブルの前で昼間からビールを飲み始める陽気な連中。そこに使者がやってきて、ペパン(ピピン)重態を伝える。顔色 を変えて一人アーヘンの城 館に戻るカール。一方ペパン(ピピン)は館で死去してしまう。僧侶がレンズで瞳孔を確認し、薨去確認後、目の上にお払いを被せる のだった。そこにカールが 到着し、ペパンの遺体の口に別れのキスをし(こういう習慣は今でもあるのだろうか。少し気持ち悪かった)、そのまま部屋を出てゆ くのだった。

 死後、家族会議を開いて、領土の分割について話合う場面。カールにはもう子供が生まれている。後年に登場する地図では、赤い部 分が緑に染まっていた。左がカール。

  そこに手紙が来る。アキテーヌが独立宣言をしたらしい。カール軍はアキテーヌを急襲する。正面から攻め込むのではなく、少数精鋭 のメンバーで、川岸にある アキテーヌの本館に向かい、夜、川を渡り、ひそかに城館に進入、アキテーヌ公親子を捕らえ、臣下の確認をさせるのだった。
 
 次の場面で は、Luitpergue(IMDbの配役表のスペル)という、カールの年長の姉なのか、ピピンの愛人か後妻らしき人が、カール と僧侶に見送られて去って ゆく場面が出てきます。この人物は架空の人物のようなのですが(「アインハルトのカロルス大帝伝にも出てこない)、ピピンが死ん だ後も、カールの家族と一 緒に生活したり、イスパニア遠征時カールの妻と一緒に馬車に乗っていたりしていたので、雰囲気的には姉という感じでしたが、嫁に 行かなかったのは不自然な ので、やはりピピンの後妻か愛人ということなのかも知れません。去ってゆくのは修道院にでも入るということなのかも(でもその 後、戻ってきてカールの城で 一緒に生活するのですが。。ひょっとしたら四人目の妻となる、Luitgardのことなのかも。

  舞台はイタリアのパヴィーア(ミラノ南30km、当時のランゴバルド王国の首都)。そこで父王と娘が議論しているところに Luitpergueが入ってく る場面があるので、Luitpergueはランゴバルドに送られたのかも知れません。Luitpergueはその後もどこかの僧 院に軟禁されている女性 (ランゴバルド王Desiderius(デシデリウス)の娘Desiderata(デシデラータ)を訪ね、カールとの婚姻を取り 結ぶなど、外交に活躍して いる様子。そうして、カールは前妻のHimiltrudeを修道院に追いやり、Desiderataを娶るのだった。

 続いてローマが登場。そこでは、教皇や大司教達がビザンツとかコンスタンティンとかの単語が出ていたので、外交相談をしている 模様。


第二話

 馬場でDesiderataが勝手に馬に乗り、暴走し、カールが助けに行く場面が冒頭出てくる。
続いて「BYZANCE」とテロップが出て、コンスタンティノープルのイレーネが出てくる。
 下記は、ビザンツ后妃エイレーネと息子のコンスタンティノス6世。イレーネの部屋しか登場しなかったのが残念。ただし、毎回イ レーネの衣装や髪型、冠などが異なっていたのは見ごたえがありました。

 そのビザンツでも、カールの宮廷でも、イスパニアが議論となっているようである。そしてカールの宮廷ではイスパニア遠征が決ま る。

 イスパニアへ進軍中のカール。一応この遠征と、ロラン部隊の壊滅場面は、まあまあ納得できる映像。

 王妃達を乗せた馬車。割りと粗末。しかし、イスパニア遠征に王妃達を連れていたのか。右はカール。

 イスパニア遠征場面は省略され、帰還時、しんがりを勤めるホロン(ロラン)の軍が、地元の盗賊団としか思えない連中に、狭い谷 間で襲撃され、全滅させられる。先行していたカールは王妃とキスなんかしていて、気づかないのだった。

遠征後、カールの王城の中庭の様子などが出てくる。西欧中世映画の地方領主の城館と大して変わらない。中庭には鶏など家畜が放牧 され、騒々しい。宮殿内で は、カールと司教がザクソン(ザクセン)問題について議論している。この時のカールは、髯が伸び、髪もぼさぼさで、毛皮をまとっ ており、ヴァイキングのよ うな装束。

 一方、ザクセンでは、布教に赴いた司祭が捕まって縛られる事件が発生していた。下記ザクセン人の崇拝する巨木(聖樹イルミンス ルのことだと思われる)。人の顔の彫刻が多数刻まれている。現代アートな感じ。

 再びエイレーネ。ビザンツは、エイレーネのこの部屋以外は登場しなかった。最後のカールの戴冠場面の直前あたりでも、「ビザン ツ」という言葉だけ。

 王家の居間。奥のテーブルにカールがいる。手前の女性は、なんと糸を紡いでいる。欧州最高権力者の家族といえども、糸をつぐま ねばならなかったのだろうか。

 で、この女性が、Luitpergue。

 ザクセン遠征が開始される。ザクセン人に焼き討ちされ崩壊したフルダ修道院跡を訪れる。ザクセン人によるフルダ修道院襲撃は 773年の事なので、これが773年の事件だと知れる。

 下記はザクセン人が崇拝する巨木の拡大図。

 カールの軍隊は、ザクセン民衆の目の前で、この巨木を引き倒してしまう。泣く民衆達。カールは部族長ウィルキンの王座に腰掛 け、フルダの一件についてウィルキン(ウィドゥキント)に 質問している。それでも戦争にならず、ザクセン人とその族長を言いくるめてしまう。この、平和的にザクセン討伐を行う場面はかな りな違和感を感じました。 次回ご紹介する「女教皇ヨハンナ」、特にその原作本では、ザクセン側から見た、「地獄に落ちるべき侵略者カール」という見解が描 かれており、本来、ザクセ ン討伐は過酷な征服戦争だったように思うのですが、本作の描きぶりは納得できない感じ。このザクセン遠征にも、王妃と Luitpergueは同行してい て、遠征中に子供が生まれたりしている。一方王妃(二番目の妻デシデラータ)は亡くなってしまう(783年)。ザクセン戦争は、 前後10回、32年間 (772-804年)に及ぶ戦争と和平交渉が何度も繰り返された複雑な過程を一回の遠征に集約しているのでこういう描き方になっ てしまうのかも知れませ ん。

 その後、フルダ襲撃犯が判明し、ウィルキンの部族とカール連合軍は海に到達する(バルト海かも知れない)。海岸でカールが祈っ ていると、ウィルキンが近づいてきて、祈りの方法を教わり、改宗するのだった(この改宗により、この年が785年だとわかる)。


第三話

  続いてカールはBABIERE(バイエルン)王の宮廷に乗り込むのですが、バイエルン宮廷は暗い宮廷内の映像しか無く、クラッ シュのリスクを冒してまで画 面ショットを取る気にはならないのでした。実を言えば、カールの宮廷内の映像(一応冒頭の地図の映像があるけど)、特にピピンの 寝台とか、死去の場面と か、修道院でアインハルトが経営する子供達が文字を学ぶの寺子屋の場面(少女も文字を学んでいたのが印象的でした。次回「女教皇 ヨハンナ」でも描かれてい るように、この時代、女性が学ぶことは普通ではありえないこととされていた筈だから)、カールの城の中にあるプールの施設など は、映像として興味深いもの がありましたが、「女教皇ヨハンナ」で、この時代・地域の映像が見れるので、そちらをご覧いただければ十分かと思います。他に も、カールがブランコで娘と 遊ぶ場面など興味深い映像が多々ありました。

  場面はアーヘンの王宮に戻り、カールの年長の息子が弟にいじめられている。母(名前不 明)は、兄(ヨハンと呼ばれていた気がするが、彼の息子にヨハンはいないので架空の人物かも知れない)に自信をつけさせる為、王 座に座らせるが、そこに Luitpergueが入ってきて、少年を王座から引き摺り下ろす。少年はますます萎縮してしまうのだった。

 この頃になると、バイエルン、サクソンを服属させたことで、冒頭写真で登場したフランク王国の地図は、ほぼ緑色一色に染め上げ られている。

 出兵場面。恐らくローマへ向かったのではないかと思われる。この間、僧侶とカールの会話に「ビザンツ」と出てくるので、戴冠に 関するビザンツ側との交渉を相談しているものと思われる。

  ラストのカールの戴冠場面。少しイメージと違いました。ナポレオンや、ジャンヌ・ダルクが道を開いた、フランス王シャルル七世の ランスでの戴冠場面という ような盛大なものを期待していたのですが、なんか、ぼやけたイメージ映像で、ここもがっかり。しかも、戴冠時のカールは58歳な 筈なのに、ピピン存命中の 時から殆ど老けていないのも伝記映画としてどうなんだ、という感じ(白髪は混ざってきているけど)。

 下記は、ピンボケではなく、このようにろうそくが画面を覆ってゆき、まるで昇天を描くイメージ映像のような終わり方をするので した。

 伝記映画なのだから、814年の死去までやって欲しかったところです。

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アマゾンのVHS版はこちら(300分)
フランス語版はDVDはこちら(205分)
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