古代ローマ歴史映画「ダキア人」(ドミティアヌス時代のルーマニア)

 今回は、ルーマニア語だったので、筋が全然わからず、簡単な紹介で終わるかと思っていたら、本 日英語字幕版を見つけてしまい、見直すことに。古代ローマ時代、現ルーマニアはダキアと呼ばれ、ダキア人が住んでいました。ダキ アというと、トラ ヤヌスの征服戦争が有名ですが、本作は、その前、ドミティアヌス時代を扱った珍しい作品です。原題「Dacii(ダキア人)」、 1966年フランス・ルー マニア製作(「アポカリプス」という聖書映画ではドミティアヌスが登場している。これは日本語版dvdが出ています。出演者名が間違ってますね。リチャード・ハリ スが「チャード・ハリス」になっている)。

 デケバルス王と司祭、家臣達。デケバルスがロバート・デ・ニーロに似ていて、セウェルスがアラン・ドロンに少し似ていた。

 この作品は、字幕のお陰で、当初ルーマニア語音声だけで見たときは分からなかった点が明らかになりました。

1.夫婦と思われたのは兄妹だった。妹がその後、ローマ人(セウェルス)と恋愛っぽくなる展開は、不自然でないことが分かった。
2.総督に思えた男は、皇帝ドミティアヌス(在81-96年)だった。
3. ドミティアヌス時代の話だと分かったことで、本作品の最後の場面が、87年の戦闘であることがわかった。ルーマニア語で見ていた 時は、トラヤヌス時代の話 だとばかり思っていたので、デゲバルスが死ぬ戦闘だと思い、最後の王の突撃場面に感動していたが、返って感動が薄まってしまっ た。

とはいえ、これも、英語字幕版dvdでいいから、出て欲しいものです。

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  冒頭、ローマ人がダキア人の砦を包囲している場面から始まる。ダキア王デケバルス(本作での発音はデチェバール)が砦の上の立 ち、ローマ人の将軍が、門を 開ければ生命と自由を保証する、という。お前は誰だ、という王に、ローマ人は、「世界の主人だ」と答える。ここでタイトルが入 り、話がしばらく前にさかの ぼる。

 森に住むコティゾとメダ兄妹。鹿狩りをしているところに角笛の音。召集がかかる。ローマ軍が来ているらしい。次の場面はドナウ 河南岸のローマ軍キャンプ。将軍のフスクスが、レスリングや槍投げをしている。

 そこに若いローマ軍将校、セウェルスがやってきて、シリアからの第五イタリカ軍団とともにドミティアヌスが4日以内に来る、と 告げる。陣営に行くと、セウェルスの父、アッティクスがいる。
  数日後、皇帝が到着し、マルコマンニ族が侵入したとの新しい情報を携えてくる。デゲバルス王が仕向けたのだろう。もう5軍団が必 要だ、と呻くフスクス。 夜、アッティクスとセウェルスは、少数の護衛だけ連れてドナウを渡る。デゲバルス王と交渉しようというのである。しかし、森で休 憩している時にアッティク スは矢で射られて死んでしまう。セウェルスは遺体を軍営に持って帰り、戦争を皇帝に願い出る。

 その頃、 デケバルス王の砦では、競技会が催されていた。下記は観戦する王。

 砦の中の競技会場。

乗 馬したまま、木杭を切ったり、射的を行ったり。決勝戦は、目隠しでナイフを指の間に打つ競技。太鼓の音とともに段々速まる。その 決勝戦を前に、「ローマ軍 がドナウ河を渡っている」との伝令が来る。兄コティゾに「勝っちゃだめよ」とメダは告げるが、コティゾは優勝する(優勝すると危 険な任務に晒されるという ことだろうか?良くわからなかった)。伝令に来た男は、最初に渡ったローマ人を殺したと告げるが、デケバルス王は無用な殺生だっ たと返す。

  デケバルス王の宮廷でローマ軍に対する合議がされる。王は、相手は12軍団で72354名だ、といい(何故か情報細かい)、子供 達、女、老人を山中へ退避 させ、夜までローマ人をここで食い止める、英雄のように死のうするのは無用だ、と告げる(そして、冒頭の要塞を囲むローマ軍の場 面となる)。下記、砦の上 に立つ王。

 雲霞のごとく布陣するローマ軍。

 これが砦。

 攻城兵器とともに城壁に押し寄せるローマ軍。


 他のローマ映画では見られなかった兵器も登場している。

 横から見るとこんな感じ。土嚢を重ねたもの。門を大木で打ち破る機材が格納されている。

  元から時間稼ぎだったとはいえ、夜まで持ちこたえて陥落する。砦に入った皇帝は、アッティクスへのいい弔いとなった、という。そ して捕虜を連れてこさせる が、捕まったのは一人だけ。その捕虜は将軍フスクスにつばを吐きかける。将軍は、捕虜をはたくが、捕虜に、剣があれば、そんなこ とはできまい、と言われ、 剣を渡すが、捕虜は自害してしまうのだった。
 砦の中の王の宮廷にアウグストゥスの像(左上)を飾り、皇帝の宮廷らしく整えるローマ軍。右側の赤いマントがドミティアヌス。 ドミティアヌスが出てきた映画は初めて見た。

 皇帝が王座に座ろうとすると、フスクスは、カエサルの対抗したBurebistaの王座ですよ、と注意するが、そんなことは構 わず皇帝は座るのだった。そしてデケバルス王の使者5人を迎える。

  使者は ネズミ、鳥、カエル、矢筒、犂をそれぞれ差し出して去る。皇帝は、フスクスに意味を問う。フスクスは、ネズミは土地、鳥 は空、カエルは水、矢筒は 武器、犂は肥えた土地を意味する、と答える。皇帝は、ダキア人の土地をローマに差し出す意味だと解し、セウェルスを回答の使者に 出す(ネズミ、カエル、鳥 の符牒は、6世紀のロシアを扱った映画「原初のロシア」(今後ご紹介予定)でも登場していた)。

 デケバルス王の拠点Samizegetusaに来たセウェルスは、王に、「ここに皇帝が来て、あたなに彼自身で王冠を授ける。 そしてローマ人はあなたを友人として迎える」と告げる。


  王は、「ディオニソスが生まれた土地のワインをご馳走しよう。今日はゲストだ。明日、奴隷と主人(の関係)について会話しよう」 といい、その夜は使者達と ダキア人達との宴会となる。代表者のセウェルスはデケバルス王の横に座るが、他のローマ人使者達は、各々散らばって座り、ダキア 人と力比べや飲み比べをし たりしている(戦争なんかにならなくて、こういう平和が続いて欲しい、と思う場面だった)。

 王は娘のメダに、セウェルスにワインをついでやれ、というが、娘はローマ人の奴隷じゃないわ、と反抗的。以下がそのメダ。中世 欧州風装束。

  セウェルスは、捕虜になったダキア人が死の前に笑った理由を王に聞く。セウェルスにとっては大きな疑問なようである。王は、ザイ モクシス (Zaimoxis、捕虜となった男)は我々にいくつもの命を与えた。どう我々は、このよを去り、あの世を生きるのか。叫んで死 ぬか、笑って死ぬか。と哲 学者みたいな王である。メダはセウェルスに向かい、ローマ人はどのように死ぬの?と問う。王は、アッティクスは死んで欲しくな かった唯一のローマ人だ、い い、セウェルスを地下に案内する。

  そこには多くの黄金が積まれていた。我々は豊富な黄金を持っている、というデケバルス。しかし黄金と富は災いでもある、とも言 う。更なる地下へ。ここは 我々のために戦った者の灰がある。王や僧侶や氏族のリーダー、Orodes王、Burebista王,Deceneus 王,Scorilo王などの灰が 入った壷を一つ一つ案内する。そして、ある空の壷の前で、Zoltesは、40年前ローマにいった、アッテイクスとして知られて いる男だ。モエシアで暮ら していたローマ人貴族の名を貰った。そして毎年我々に黄金を贈ってきた、と衝撃的なことを口にする。それを柱の影でメダが聞いて いるのだった。
 
 ところが、宴会場に戻ってみると、ローマ軍が制圧していた。激怒した王は、無理に戦争しなくてもいいのではないか、と言う祭祀 長に、ローマ人は戦闘で敗 れても、決して負けないと評す。奴隷のように生きるのであれば、永遠に負けてしまう。でも勇気を出して立ち向かえば、数世紀後、 降参するものは、恥ずかし いと思うことだろう、と述べるのだった。

 翌日、正式な回答の場で、王はセウェルスに告げる、「鳥のように空に逃げなくても、カエルのよ うに水に隠れなくても、ネズミのように地中に隠れなくても、我々の矢はローマ人を見つけ出すだろう。ドミティアヌスに告げよ。 ローマ人それぞれが年間2枚 の金貨を払うならば、平和の提案を受けよう」と。去るセウェルスとローマ使節達。

 宮殿を出たところで、メダがセウェルスに話かけてく る。セウェルスつけているメダル(アッティクスの遺品)を取り上げ、あなたはこれをつける権利が無い(昨夜立ち聞きして知ったら しい)、あなたが兄を殺し た時にね。という(この意味は、砦で捕虜になった兄が死んだことを意味するのか、次の場面で、祭儀の犠牲として捧げられる兄コ ティゾの、どちらのことを示 しているのかは不明)。

 そして、ダキア人の神殿。祭祀がコティゾを犠牲する儀式が行われている。

 儀式を見守る王とダキア人達。

 雨乞いの儀式のようであるが、岩から犠牲者を落として、串刺しにするのだった。
 その後、宴会となる。輪になって激しく踊りまくる熱狂的なダキア人。ローマ人使節との宴会とはまるで違う。こっちが本当のダキ ア人なのだろう。

 一方、会場の外で王を罵るメダ。何のために兄を殺したの。雨なんか降らないじゃないの。部族の法律が何よ!と宴会で騒ぐダキア 人をよそに、山中の家に一人戻るのだった。しかし、その後豪雨が訪れるのだった。
 お陰で雨で抜かるんだ中を行軍するローマ軍は大変な目にあっていた。そんな中、皇帝は、奪った砦の王の部屋をすっかり模様替え し、踊りを見ながら、詩人の語る詩に聞き入るのだった。
 
  ダキア軍とローマ軍は山間で戦闘となるが、地の利を生かして、崖の上から岩や切り倒した木を落とす作戦でjローマ軍は敗北し、セ ウェルスも谷に落ちてしま う。戦後、フスクスは、隊列10のうちの一列ごと、斬首して敗戦の責任を取らせるのだった(軍事力が9/10になってしまうのだ が、良いのだろうか)。そ のフスクスの軍装。本当にこんなだったんだろうか?どうにもリオのカーニバルを連想してしまうのだった。

 冒頭部分で登場したセウェルス(右)とフスクス。

  ところで、セウェルスは生きていた。朦朧としながら川を歩いていたところ、メダの家の近くを通りがかり、メダに射られてしまう。 今度こそ死んだかも、と 思ったら、メダに介抱されて命を取り留め、熊の血入りのワインで見る見る回復するのだった。そして2人で野原を駆け回り、青春す るのだった(ロシア歴史映 画やポーランド歴史映画によく登場するこの、「野原を追っかけごっこする2人の世界」な場面。なんとかならんのだろうか。確か に、雪の残るカルパチア山脈 をバックにした景色は雄大で美しかったけど)。


 メダはセウェルスに問う、「ローマ人は死んだ後どこにゆくの?」「伝説では、川があってボートで渡る。でもそこから戻った人が いないのでわからない」とセウェルス。

  そんなある日、丘の向こうからローマの軍楽を聴くセウェルス。思わずメダを置いて丘を駆け上るセウェルス。そんなセウェルスを見 て、メダは一人去るのだっ た。そして、ある日、セウェルスが起きてみると(セウェルスはソファで寝ていて、メダと同衾している場面は出てこない。キスもな し。時代を感じさせます。 無駄なラブシーンは嫌いなので、私としてはこっちの方がいいけど)、メダの姿は無く、柱にローマの軍服が吊るしてあるのだった。 それを着て家の表に出る と、デケバルス王の使者が来る。メダは、餞別に、兄の馬を送る。代わりにセウェルスは、父のメダルを贈る。

 デケバルスの軍営に連行され たセウェルスは王と会話する(ここで王は「一人の息子がいた」、といっているので、ザイモクシス(Zaimoxis:自害した捕 虜)が、兄だというのは間 違いのようだ。字幕があるにも関わらずなんで誤解してしまったのだろう。ザイモクシスは神の名前ともとれる文脈だったので、おか しいとは思っていた が。。。。*1)。デケバルスは、ドミティアヌスをと交渉してくれないかと持ちかけるが、セウェルスは、「無理だ、この作戦は多 くの時間を投入してきた」 と断る。「お前は息子に似ている。正直で、純粋なところが。明日戦場で会わないことを祈る。娘もお前が生き残ることを祈ってい る」と、メダに贈った筈のメ ダルがデケバルスからセウェルスに渡されるのだった。

*1 Zaimoxisは、恐らくZalmoxisの事で(字幕が小さいから見間違えていた)、ゲタイ族の神だそうである。Wikiに記事がありました

  陣営に戻ったセウェルスは、「どうしてマルクスを殺したんだ。彼はArgidavaであなたを救ったのに」と、怒ってフスクスの 天幕に入ってくる。この場 面、突然な展開で良くわからなかったのだが、フスクスが、前の戦闘で敗北した責任を取らせて処刑した兵士の中に、マルクスという 同僚がいたらしい。そんな セウェルスに、フスクスは反乱を持ちかける。「第三の皇帝(フスクスのこと)は黄金とともにデケバルスをつないで凱旋するの だ」。「明日はあなたは総督 だ」と言い捨てて去るセウェルス。

 川を見ているセウェルスの背後から、フスクスが突然槍を投げる。どうやら決闘の申し込みらしい。川岸 で戦う二人。勝利するセウェルス。勝ったセウェルスが土手を見上げると、皇帝とローマ軍が見下ろしていた。「反乱から救った」と セウェルスをダキア総督に する皇帝(この場面、どうも説明不足な感じなので、推測なのですが、セウェルスが密告して、フスクスの陰謀がばれ、セウェルスの 決闘に追い込まれたのでは ないかと推測しています。何故なら、フスクスは古傷が原因の頭痛に悩まされており、目が霞んだりしている場面が、冒頭から度々登 場しているからです。どう 考えても、持病もちのフスクスが若いセウェルスと対決するのは自殺行為としか思えない。フスクスが真の陰謀者なら、セウェルスに 決闘など申し込まず、兵士 を処刑した時と同様、理由をつけて部下に暗殺させれば良いのです。セウェルスが川を見ていたのも、密告後、どうなったのかと気が かりで川を眺めていたよう にも見えます。あとは、2人の決闘を皇帝とローマ軍が見下ろしていた、というのがなとも。。。)

 一方、メダは、何故か家を燃やしてしまう。下記が山中のメダの家。

 燃える家を見つめるメダ。ダキア人女性も、こんな被り物をしていたのでしょうか。興味深い映像です。

  そしてダキア人とローマ軍の決戦となる。これも少し分からないのでした。陣を構える両軍の中間にローマ軍旗が放置されていて、ダ キア人が馬で踏みつけに し、ローマ軍を挑発する場面が出てくるのですが、何故かセウェルスが出て行くんですよね。そういう時は司令官が出て行くという軍 規でもあったのだろうか。 そして、セウェルスが出てくるのを見ると、部下の代わりに、デケバルス王が出てきて、二人が対決するのだった。そしてデケバルス が勝った。下記は、セウェ ルスを倒した後、迫り来るローマ軍を眺めるデケバルス王。

  前回の、地の利を生かした戦闘と異なり、今回は平原での戦い。数と装備で圧倒的なローマ軍が超有利。雲霞の如く迫るローマ軍を前 に、死地に赴くデケバルス とダキア軍。と涙を誘う場面と思ってしまっても無理は無いかと思うのですが、これは87年の話なのでした。下記は突撃するダキア 軍。デケバルスも突撃して いる。

 そして、両軍激突した場面が、トラヤスヌ円柱の、ダキア人とローマ軍の戦闘場面へとオーバーラップして映画は終わる。これも、 本作がトラヤヌス時代の話だと誤解してしまった一因なんですよね。

〜終わり〜
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