さわりのところを少し観た限りでは、ローマ軍の装備がかなり充実していたので、アルバ人との
戦いとはいえ、前5-4世紀
くらいの話だと思い込んでいたのです。先週末全部を観てみて、王制時代の話だとはわかりましたが、最後まで王の名前は明らかにな
らず、結局観終わるまで、
どの時代の話なのか確定できないままに終わってしまいました。あまりにおかしな終わり方だったので、「これは完全な伝説かフィク
ションに違いない」と思っ
てリウィウスの「ローマ建国史(上)(岩波文庫)」を観てみたら、一応、ローマ三代目のトゥッルス・ホスティリウス王時
代の話だということがわかりました。実は、前回「Hero of
Rome」を観終わった後、同書を参照してみたところ、結構リゥイウスの伝えるエピソードを採用していることがわかりました。ガイウス・ムキウスや、クレ
リアのエピソードは殆どそのままでした。これで関心が出てきたので、出版直後に購入したものの、ずっとほっぽらかしであったリ
ウィウスの「ローマ建国史」
の、ポルセンナ王によるローマ包囲のあたりをざっと読むきっかけになりました。意外に歴史映画といえそうな「Hero of
Rome」と比べると、残念ながら本作は、リウィウスのエピソードの一つに基づくとはいえ、99%脚色という印象です。そもそも、ローマ王の名前さえ登場
せず(聞き取れなかったのかも知れませんが)、アルバ王も、映画のラストになってようやく「ミツィオ」とわかるのですが、トゥッ
ルス・ホスティリウス王の
時代にローマを攻めた時のアルバ王はガイウス・クルウィリウスなので、全然違っています。そもそも、リウィウスに登場する、本作
で採用されているエピソー
ドは、ローマ、アルバ双方の3つ子の決闘となっていますが、本作では3兄弟となっていて、名前すら違います。リウィウスから採用
しているのは下記2点 ・ローマとアルバの戦い ・双方3兄弟の決闘で戦争の決着をつける だけでしょうか。また、IMDbには映画紹介があり、 1961年のイタリア映画で「原題Orazi e Curiazi」となっていますが、Curiaziが誰のことだかわからないのでした。Oraziは、主人公のホラツィオ(出演者リストには Horatioと記載されており、発音的にはオラツィオ(ラツィオと聞こえる))ですが、Curiaziはリストの誰に相当する のか該当者がわからないの でした。。。。また、USamazonではdvdが販売されていますが、そのレビューによると、元は105分の作品が90分と なってしまっているとのこ と。私が見たネット上のものも97分でしたので、ところどころ、展開が不自然に思われる箇所も散見されました。 というわけで、限りなく歴史映画とはあまり言えそうもなく、これについては、日本語dvdの発売を望むものでもありません。し かし、ネット上に日本語情報がまったく無い様なので、一応ご紹介したいと思います。 〜あらずじ〜 冒頭戦争場面を背景に解説が流れる。 「ローマ軍が世界制覇をする前、残った隣人はトラスタン族、セーバイン族、アルバ族の3市だった。ロムルスの最後の数年間は、ア ルバ人との戦争にあけくれ た。ローマとアルバは、どちらかが滅びるまで続くような消耗戦の死闘が続いていた」 と始まるので、ロムルス晩年の話だと思い込 んで見始めてしまったので した。それにしても、ローマ軍の装備が整いすぎ。規模も大きすぎで、騎兵の数も歩兵よりも多いくらいで、この時代、そんなに騎兵 がローマにいたのだろう か、と、とてもロムルス時代とは思えないローマ軍。下記は歩兵。 下記は主人公のローマ人指揮官ラツィオと副官のサルヴィヌス。 冒頭での合戦の後、アルバ王は、ローマとエトルリアとの連携を予想し、阻止するよう兵隊を出す。一方、ローマ側は、アルバ王の予 想通り、エトルリアへの道 を進軍していた。夜の山越えをするか、3日間かけて迂回するかを検討した結果、山中を強行するローマ軍。それを探知するアルバ 兵。アルバ兵は、殆ど歴史映 画としては違和感の無い装備なのですが、この時の待ち伏せ部隊の指揮官として登場していた兵士は、下記のようなおかしな 兜。。。。こういう遺物が出土して いるということなのだろうか。。。。 崖の山道に差し掛かったところで全軍停止するローマ軍。一応先遣隊を出す。ところが、やはりアルバ兵が待ち構えていて一斉射撃 と、火のついた藁を投げ落とされ、大混乱に陥る。司令官ラツィオががやられて、副官のサルヴィウスに全権委譲して崖から落ちてい く。 瀕死のサルヴィヌスがローマの軍営に運び込まれる。兄はどうなった、捕虜になったのかと、問い詰めるラツィオの弟のマーカス。 軍を引き上げさせることを決定するローマ王。マーカスは急襲された山道に兄を探しに行くが、兄は見つからない。もう希望はない、 と嘆く。 一方アルバ市では、ダンスとサーカスと宴会、レスリング、床体操などが催されていた。捕虜になった数人のローマ人が連れてこら れ、その中にラツィオがい た。催しの一環として3匹の狼と格闘させられるラツィオ。喝采する観客たち。しかし、一人の女性が、残酷な試合に胸を痛め、思わ ずナイフを差し出すも、周 囲にとめられてしまう。しかし、その後こっそりと石を投げ入れることに成功。ラツィオは石で一匹殺すことに成功する。その直後、 突然嵐に見舞われ、宴会は お開きに。酷い暴風に、高さ数メートルの彫像が倒れ、アルバ兵がそれに気をとられた隙に兵を倒し、更に先ほどの女性がラツィオを 女たち(娼婦だろうか)の 天幕に匿う。その後、馬のいるところに案内し、ラツィオは馬にのって逃亡することに成功するのであった。 一方ローマでは会議が催さ れ、マーカスを次の王に任命し、王女のマーシアと結婚すること、来月アルバとの最後の戦闘開始すること、などが王から告げられ る。下記の真ん中がローマ 王。左がマーシア。右が兄弟の父、カイウス。王は、だいたいの映画で共通している晩年のアウグストゥスに近い風貌。 この会議上に、ロムルスとレムスを育てた雌狼の像があった。これにより、この王がロムルスではないことが判明し、全然名前の呼 ばれないこの王は、いったい誰だ?ということになってしまったのだった(鑑賞後、IMDbの出演者リストを見たところ、やはり、3代目のTullio Hostilio王となっていた)。 ターベリア山の中にある、祖父と若い孫娘の家で目覚めるラツィオ。なんとかアルバ市を脱出したものの、戦闘や狼との戦いで傷つ いた傷口から毒が入って発熱し、意識不明に陥っていたところを、祖父に助けられたのだった。傷が治るまで20日間くらいかかると 告げる娘。 場面はアルバ王とローマ王の会談に移る。この時の会話によると、ローマとアルバ市の戦争は7年間続いており、両市は、ロムルスと レムスの血筋を引いている 兄弟市だということがわかるが、アルバ王は、アルバの方が古いと主張し、双方お互いへの支配権の主張し譲らない。そこで、神の裁 定を仰ぐことになった。 下記はその儀式。ローマとアルバ王やその他の人々が見守る中、沸騰した液体の入った鍋の上に手をかざし、神託を告げる老巫女。 その神託によると、3人の兄弟を双方の軍が見つけることになる。そして、3人のうち、いずれかが勝利をもたらす、とのこと。市に 戻ったアルバ王は、臣下に 「ローマとの戦争は続けなくればならないということだ。どうやってその兄弟をみつけるかだが。。。」と臣下に告げるが、臣下は、 「心配めされるな王、コリ アンシー兄弟がいます」と告げる。私には、コリアンシーと聞こえたのだけれども、これが、題名のCuriaziなのかも。イタリ ア語の知識は無いのです が、そういえば、イタリア語原題の「Orazi e Curiazi」の、末尾の i は、複数形なのではないでしょうか。すると、題名は、「ホラツィオ兄弟とクリアツィオ兄弟」ということになるのかも。下記はアルバ王(右)と臣下(左) さて一方のラツィオ。彼が厄介になっている家の近くに、3兄弟を探すローマ兵が来ていると告げる祖父。家に入ってきた2人の兵 をたたきのめしたラツィオだが、次に入ってきた兵士はラツィオだと気づく。そして既にローマの支配はあなたの手には無い、と告げ るのだった。 ローマではマーカスと王女の結婚式が行われていた。 そこになんと兄ラツィオが帰還してくる。喝采するローマ市民をよそに、面白くなさそうに、「歓迎する、妻もそう思っている」と兄 に告げるマーカス。王女も 「歓迎する」というが、父カイウスは、同意しない。王は、既に状況は変わってしまった、という。その王は、5世紀頃の、ローマ司 教のような王の装束。我々 は個人的な感情を捨てて3人の兄弟を必要としている、と告げる。 話しを聞いたラツィオは、それは難しい、と理由を3つ挙げる(この部分、あまりよく聞き取れませんでしたので3つの理由は略) ローマにある自宅に戻るラツィオ。家人が喜ぶ。そこに王女が訪ねて来る。しかし、ラツィオは物を取りに来ただけで、ローマを去る つもりだった。王女は様々 にラツィオを説得しようとする。「私たちは結婚すべきよ。だってあなたは私を愛しているもの」 愛していたよと応じるラクィオ。 did? 今は違うってこと?ついには泣きながら、行って、という王女。馬で草原を去ってゆくラツィオ。それを城壁の上から見送る王妃。そこにマーカスも駆けつけ、 ともに見送る。 この場面、なんか西部劇のラストシーンのようでした。しかしこの時点でまだ49分。後で調べてみたところ、主演のラツィオは、 西部劇「シェーン」で有名なアラン・ラッド。道理で、去ってゆく背中と馬の足取りが板についていると思った。 で、第二部ともいえる後半は、アルバ兵に話の軸が移る。 ローマの女たちが川で水浴びをしていたところ、小船で通りがかっアルバ兵に捕獲されてしまう。しかし、彼らの一人は割りと紳士 的。最初は激しく悪態をつ き、「ローマの女をなめんじゃないわよ!」と強気だったのに、なぜかキスをする展開に。どうやら、いやよいやよも、という感じな らしい。話が進むとわかる のだが、この時の男性が、アルバ側三兄弟の長男で、ローマ女性の名はラツィア(ホラツィア)。 一方、ラツィオは例の、助けられた女の家 で羊を追って暮らしていた。そこに探したよ、と訪ねてくるアレオン。3人目を探しているが、時間の無駄だったと告げる。また、姉 のオラツィアがアルバにつ かまってしまったとも。力を貸してくれ、とラツィオに頼むアレオン。しかしラツィオは「時間を無駄にするな」と拒絶するのだっ た。 王宮に戻ったアレオンは、ラツィオは戻らない、王とカイウスに告げると、カイウス(ラツィオの父)が、「彼は戻ってくる。なぜ ならば、彼はローマ人で、私の息子だからだ」と答える。 アルバの男クリアツィオは、オラツィアを安全地帯まで送ってきて解放する。一緒に来てくれないの、と願うオラツィア。 クリアツィオ 「王の命令なんだ。神は怒るだろうる。明日、ローマと戦う男を選ばなくてはならない」 オラツィア 「私はあなただけを愛してるわ。信じてているでしょ?一緒に来てくれないの?」 クリアツィオ 「私は兵士なんだ。(出会うのが)遅すぎたよ」 。苦しげに語るクリアツィオ。そして、「戻らなきゃ駄目だ」というと、オラツィアは、「そういう言い方しないで。もう会えない みたいゃないの」と悲痛な表情で口付けを交すのだった。 場面は打って変って、のんびりくつろいだ感じで髭をそりながら羊飼いの娘に数字の文字を教えているラツィオ。そこに祖父が、ロー マからの来客を告げる。 「きっと弟だ」と通させてしまうのだが、入ってきたのは王女だった。一瞬、娘と火花が散る。「おじゃまだったかしら。父からメッ セージを預かってきたの。 父は、ローマはあなたを必要としているって。私もあなたは戻ってくると思っているわ。明日戦闘なの。もしローマが勝てば、いつの 日かローマは世界を支配す ると信じてるわ」と告げるマーシア。 「もうそんな野心はないよ」とかえすラツィオ。 それでもマーシアは引き下がらず、「あなたは間 違ってるわ。マーカスと結婚したことは謝るわ。私は死んだ。ラツィオも死んだのね」と言うと、なぜか憤慨した面持ちで立ち上がっ たラツィオはマーシアとキ スをする。見ているこちらは一瞬戸惑ったが、どうやらそれは、別れのキスだったようだ。そして彼女に告げるのだった。「ラツィオ は死んだと言って欲しい」 と。 決戦の日。ローマの城門の前に集まるアルバ軍とローマの人々。開戦宣言が行われる。下記がその宣言式。真ん中に祭司が、左に ローマ王、右側がアルバ王。 激しい馬上での剣の打ち合いが続くが、最初に1人ローマ人が倒される。ラツィオも馬から落とされ、格闘戦となる。巴投げがや払い 越しが出る。しかし、2人 目のローマ人・マーカスも倒されてしまう。ラツィオも兜を吹っ飛ばされ、なんと、森の中に逃げてしまう。観ているこちらとして は、どうみてもアルバ側の圧 勝だとしか思えないのだが、なんと、強気の王女は、「聞け、アルバの野蛮人!私の夫は3人の息子を持っているのよ。どこに3人目 がいるのよ。アルバの野蛮 人よ!お前たちはラツィオの息子に滅ぼされるのよ!」と、相当むちゃくちゃな啖呵を切る。クリアツィオは「女がローマを代表する のか?」と嘲笑するが、 ローマ王は、彼女は権利がある。なぜなら王女だからだ。できるものなら、3人目を連れて来い!」と殆ど言いがかりとしか思えない 強弁をする。 アルバのクリアツィオは、「聞け、ローマ人よ。我らは見つける。そしてつれてくる!」 といい置いて、アルバの3人兄弟は森に向 かう(この部分、何故3人 だけで?もうアルバの勝利は確定じゃないの。ローマの言いがかりににしか思えない詭弁にまじめに対応してどうする!と視聴者とし ては思うのだった)。 さて、森を探索中のクリアツィオ兄弟の一人は、木の上からラツィオに飛び掛られて倒される。そして野営している残りの2人の兄弟 の元に、血まみれの1人が 馬に乗せられて来る。驚いた彼らは武装して探索に出るが、ラツィオは兄弟が去った後の焚き火をつかって森を焼く戦術に出る。炎と 煙に混乱する兄弟の一人の 顔めがけて、突然松明を押し付ける奇襲で二人目も倒す。うーん。なんかなぁ。あまり正々堂々とした感じがしない。 翌朝。アルバ兵が一人 戻ってくる。クリアツィオ兄弟の長男である。そして、ローマ王に向かって「チャンピョン(ラツィオのこと)はどこだ!。ラツィオ は逃げた。卑怯者だ。勝利 はこちらのものだ」と宣言した直後、ローマ人から歓声が上がる。ラツィオが戻ってきたのだ。そして最後の一対一の戦いが行われ る。終始アルバ人が優勢だっ たが、最後の最後でラツィオの突きが相手の腹に決まる。 アルバ兵の亡骸に泣き付すオラツィア。そして、城壁に向かい、「ローマ人!聞いている?私は彼を愛した」と叫び、そしてラツィ オに向かい、何故私も彼のように殺さないの!とアルバ兵の剣を取り上げ自害する。衝撃を受ける王妃、ラツィオの父、そしてアルバ 王。 沈黙が降りる。 父はラツィオにいう。お前がいうように、われわれは自身を滅ぼす。剣を折って投げ捨てるラティオ。そして馬のもとへ行く。王は どこへいくと聞く。アルバへ、と答えるラツィオ。自身を滅ぼすローマに希望はない。自分自身も滅んでしまう。 それを聞いて、ローマ王は、アルバ王ミツィオにいう(ここで初めて王の名前が登場したように思う)。 ローマ王 「共通の政府を持つことを提案する」 アルバ王 「その提案には感謝するが、ローマ人はわれわれを憎んでいるのが心配だ」 ローマ王 「今、我々は考えを変えた」 アルバ王 「アルバの名にしたがって誓う。平和を取り結ぼう」 去ってゆくラツィオ。その隣には王女マーシアの姿が。草原の彼方に小さくなってゆく2人の馬上の後姿。 まさに、西部劇な終わり方であった。 〜幕〜 これは。。。。羊飼いの娘はどうなっちゃうの?最初にアルバで助けてくれたシーラ(ちょい役だったのに、名前が出てきた。羊飼い の娘は名前が出てこなかっ たのに)は伏線じゃなかったのか。どう考えてもラツィオが森に逃げた段階でローマの負けに思えるのだが。。。。当時はゲリラ戦に 持ち込むのも問題なかった のだろうか?そもそも、ローマ側は三兄弟ではなかったと思うんだけど。。。。この時点で本来なら負けなのではなかろうか。 などなど、いろいろと納得し難い話でありました。 本作、少し調べてみたら、メルカダンテ(1795-1860年)というイタリアの作曲家の歌劇「オ ラーツィとクリアーツィ」が下敷きだったんですね。jpアマゾンには歌劇は出ているけど、映画は無し。USアマゾンでは、映画のDVDが出ています(中古2.61ドル)。 それにしても、前回「Hero of Rome」でのエトルリアも今回のアルバも、軍装や装束は黒基調。ローマは赤。赤と黒の対照が目に焼きつきました。武田信玄と上杉謙信の川中島を扱った角 川映画「天と地と」とみたいな感じでした。 関連情報:古代ローマ歴史映画一覧表 |