古代ローマ帝国の果て(1) 「The Eagle / 第九軍団のワシ」(140年頃)

  英国の児童文学作家ローズマリ・サトクリフ「第九軍団のワシ」 の映画化。2011年英米共同制作。今回と次回で、古代帝国辺境(といっても漢とローマとビザンツだけど)作品を各 種ご紹介してみたいと思います。これら作品の共通点は、作中・または予告編などで、自ら、「世界の果て」という言葉が登場してい る点で す。本作では、ブリタニア(現在の英国)のハドリアヌス長城付近の砦に赴任した若き軍団将校アクイラにむかって、部下の兵士が、 「なんでこんな世界の果て に(end of the world)」という台詞が出てきます。

 ローズマリ・サトクリフの原作邦訳の廉価版が2007年に出版され、大分入手し易くなりました(アマゾンはこちら)。 感想の記載と画面ショットを掲載したいと思います。画面ショットは、映画の予告編に出ているものとあま り変わらないものとなってしまいました。予告編は、いい場面をうまく掬ってますね。原作を気に入った場合、どうしても原作に肩入 れしてしまい、映画がいま いちに思えてしまうことがあるのですが、本作は、少なくとも私にとっては、よくできた作品に思えました。原作も、もう一度読み直 してみようと思いました。


  本作を観ての第一の印象は、少し「地獄の黙示録」に似ているなぁ、という点でした。主人公達が少人数で、未開の地へと入ってっゆ き、失踪した軍隊の行方を 探り、異質な文化に遭遇する、というもの。もっとも似ているのはここだけで、本作を観て「地獄の黙示録」を見ても、あまりの落差 に驚くことになりそうなの で、私の個人の印象として聞き逃してください。

 紀元118年、ブリテン島の北に奥深くに進撃した第九ヒスパニア軍団がこつ然と消息を絶 つ。生還者は誰一人おらず、ローマの軍旗「第九軍団のワシ」も行方知れずとなってしまう。父がその軍団長を勤めていたマルクス・ フラヴィウス・アクイラ は、軍旗を失った父が一族の大変な不名誉となったことから、名誉を取り戻し、父の消息を探る為に、140年、ブリタリアの北方辺 境地帯への赴任を志願す る。下記はその赴任先の軍営の様子。

  こちらは、その軍営に攻めてきた、現地人である”蛮人”と、その家と思われる建物。この時の戦闘はなかなか見所がありました。亀 甲陣は、単に弓矢を避ける 為だけではなく、ラグビーのスクラムのように、そのまま敵に突進し、敵陣形を突き崩す、古代ギリシアのファランクス(2004年 版「アレキサンダー」でリ アルに描かれていた)と同じような役割を持っていたのですね。

  単身敵軍の戦車に向かって突撃した司令官としてはあまりにも無謀なアクイラの行為は、軍団を救ったものの、脚に大怪我をしてしま い、ブリタニア島の南部に いる外科医の叔父のもとで手術とリハビリを受けることになる。この手術の場面も、古代ローマの外科手術の場面という意味では興味 深いものがありました。適 当な画面ショット向きの映像が無かったので、画面ショットは取得しませんでしたが。。。下記はその叔父の家。叔父はドナルド・サ ザーランドが演じているの ですが、雰囲気は、リドリー・スコットの「グラディエーター」で、剣闘士商人に出世したオリバー・リードと似た感じ。

 こちらは、円形闘技場。ここで、ローマ軍に壊滅させられた、ブリトン人の部族長の息子エスカを救ったことで、エスカはアクイラ の奴隷となる。

 そして、第九軍団のワシが北方の蛮族のところにある、という噂を知ったアクイラは、エスカと二人、ハドリアヌス長城を超えて、 探索の旅に出るのだった。。。下記がそのハドリアヌス長城。

  本作を観て、一番印象に残った映像の一つが、雄大で美しいスコットランドの景観です。原作を読んだのは10年以上も前なので、内 容は殆ど忘れているのです が、原作の冒頭では、ブリタニア島に渡ったばかりの主人公が南部の田舎道を行く場面で、作者は、春の美しい花々を、細かく描写し ていた文章が記憶に残って います。それに反し、北方スコットランド(当時はカレドニアと呼ばれた)の、荒涼としているけれども、美しい景色は、あまり印象 に残っていなかったので、 今回、本映画を観て、南方と北方の対比と言う点も印象に残りました(とはいえ、映画の方では南方は決して色彩豊かな土地としては 描かれていませんでした が。。。)

 途中で立ち寄った現地人の家。13世紀のスコットランドを扱ったメル・ギブソン「ブレイブハート」に登場した散村の家とそっく り。1000年以上、あまり変わっていなかった、ということなのでしょうね。。。

  北辺、北の海辺にまでたどり着き、そこの現地部族とで会う。ここもインパクトがありました。「刺青族」「体に色を塗った部族」 は、原作のイラストから想像 したものとはまったく異質で、これも本作でインパクトのあった部分の一つ。ここで「地獄の黙示録」を想像してしまったのでした。


 雲低く垂れ込め、陽は低く、黄昏たスコットランドの地の様子が良く出ています。

  アクイラとエスカは第九軍団の消息を知ることができるのでしょうか。そして第九軍団ワシを取り戻すことはできるのでしょう か。。。。それにしても現地部族 のペインティングは、「キング・アーサー」に登場した、キーラ・ナイトレイ演じる現地部族のペインティング(下記)のインパクト を上回ってました。



  あとは原作か映画をご覧ください(もったいぶっているわけではなく、本作は、原作の邦訳が出ているので、そちらに配慮していま す)。CGはあまり多用して いないように見えました。少なくとも目立った使い方では無かったように思えます。映像的には、CG多用となる前の、90年代後半 の歴史映画という印象を受 けました。

 ところで、マルクス・アウレリウス帝が、属州マルコマンニアを現在のスロヴァキアあたりに作ろうという意図を持っていたという 話がありますが、ローマ軍が現在のスロヴァキア北境のトレンチーンで、勝利を記念した碑文の写真が、在スルロヴァキア大使館のこちらのページにあります。こんなもの気軽に目にするこ とができるなんて、いい時代になりました。

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