古代アッシリア歴史映画「アッシリア帝国の滅亡」


  1962年イタリア製作。原題の「Sette folgori di Assur」を直訳すれば 「アッシリアの七つの雷」という意味になるかと思うのですが、映画のラストでアッシリアが滅んでしまうので、「アッシリアの滅亡」の題名の方が相応しい内 容です。因みに英語題名は「War Gods of Babylon」ですが、登場するのはアッシリアの神です。本作は、ソード・サンダルどまんなかな作品ですが、衣装だけ歴史っぽい最低SS映画と比較すれ ば、本作はかなりちゃんとした歴史作品です。登場する人物はアッシリア末期の英王アッシュール・バニパル(在668-627年) で、都はニネヴェ(この作 品ではアッシュール・バニパルの名は、古代ギリシア著作に登場するギリシア語名サルダナパレスが 使われている)。バビロニアやエジプトは属国となっており、バビロニアを副王として統治する兄弟と争うところも、史実に沿ってい ます。また、伝説的では あっても、一応実在の人物とされるイラン宗教史上の人物ゾロアスターが登場している点も本作の特徴です。恐らく現時点では、映 画・ドラマを通じてゾロアス ターが登場している唯一の作品かも知れません(以下more)。



 そのニネヴェの都。左画像が城門。新バビロニア時代のイシュタル門ではなく、一世紀のアッシュール市の宮殿ファア サード(www.histoire-fr.comのこちらに写真があります)に似ている点にも、歴史映画的な積極さを感じます。右画 像はまるきり書割に見えますが、ラストの炎上場面ではちゃんとした模型のように見えました。

 城門を入ったところの広場(右)と広場に面した宮殿(左)

 本作は、冒頭のオープニグクレジットで、メディアからニネヴェへ向けて徒歩で杖をつきながら旅するゾロアスターが登場します。 森の中の木漏れ日がなんとはなしに神々しく見えます。

  そのゾロアスターは、道中アッシリア軍に壊滅させられた村を通りかかり、家族を殺され一人生き残った娘マイラ(これがヒロイン) を連れてニネヴェへ赴く。 ニネヴェの広場で、民衆を前にアッシリアの滅亡を予言するゾロアスター(左)。右は王の元に連行された時のゾロアスター。雰囲気 映画「クォ・ヴァディス (1953年版)」のペテロという感じです。村娘マイラは、当初は左画像のような(ゾロアスターの左隣に座っている)粗末な身な りだったのに、王弟に見初 められ、すっかり身ぎれいに(右画像の右側の女性)。

 ゾロアスターは王に、光の精霊のお告げを伝えに来た、と告げる。圧政を布くアッシリアはこのままでは滅亡を免れない、と。

 左画像が王の広間。中央一番奥に王が座り、その両側に巨大なグリフォンの彫像が立っていることがわかります。右画像は、ゾロア スターを告発したニネヴェの神官団。それらしく見えます。

 王はゾロアスターに、メディア戻り二度とメディアの地を離れぬよう勧告する。

 ゾロアスターが登場するのはここまで(24分地点)で、アッシリアの滅亡を予言する為だけに登場したのが残念。もう少し脚本を 膨らませられなかったのかとも思いましたが、まあ、SS映画な分には十分かも。

  さて、主役の面々。右端がヒロイン・マイラ。兄弟王の間をふらふら。あまり活躍するわけではなかったのもいまひとつとはいえ、マ イナスにならない存在とい うだけでもSS映画では十分かも。今にして思えば、残虐な圧政者だったサルダナパレス王が、マイラの影響で心ある君主に変わって 行く、ということなのかも 知れませんが、その割には冒頭のサルダナパレス王はあまり圧政者な感じではないのでした。右から二人目がそのサルダナパレス。本 来なら、上の神官団のよう な黒い長髭でないとおかしいのだけれど、まあヨーロッパの映画だから仕方がありません。王は、貢納を納めにやってきたバビロニア 総督が読み上げる内容に対 して、「もっと取れるはずだ」と貢納(羊・駱駝・馬など)額を倍にさせるところが、唯一圧政者っぽいところでした。

  上左画像三名中右の髭男がバビロニア総督アーバシー。腹黒いバビロニア人の陰謀家。その右はバビロニア王家の王子ハンムラピ。バ ビロニアはアッシリアに征 服されているので、今やアーバシーと同格。左端がハンムラピの親友でサルダナパレス王の弟サーマス。彼らの装束がどこまで史実に 近いのかはよくわかりませ んが、アーバシーは近そうな感じです。


 さて、王弟サーマスはマイラに一目惚れし、マイラもなんとなく押し切られた感じで結婚す ることにしてしまうが、一方王もマイラに強く惹かれ、マイラも王に惹かれて行く。何故急に王と王の弟の二人だけがマイラに惹かれ たのか、まったく説明があ りませんが、これ以上人間関係を複雑にしないように、ハンムラピにはクリシアというアッシリア人の恋人がいるのでした。このクリ シアも、マイラを陰で苛め たりとか色々あるのかと思っていたのですが、一度マイラに「心配してるって、どっちを」とあてこするくらいで、殆ど動きなし。

 こんな風に書くとつまらない作品という印象となってしまいそうですが、たった90分の映画では限界があるのでしょう。
  左画像は、王弟サーマスの部屋でハープを弾くマイラ。王弟は右側の寝台にいる。右画像は、鳥篭のペットに餌をやるサルダナパレス 王。この辺で既に心優しい 人物な感じ。まあ、こうしたところを見てマイラも王に惹かれて行く、ということなのだろうけれど、王が直接出向いたわけではない とはいえ、アッシリア軍家 に家族を殺されたばかりなわりには、復讐心が描き足りなかったかも知れない。大して期待していなかったからか、フォローしながら 視てしまう。


 王弟サーマスのバビロニア赴任を祝してライオン狩りが行なわれる。右が角笛を吹く兵士。黒々とした鬘が印象的。太鼓を叩いた兵 士達がライオンを追い込んでゆく。左は戦車に乗ってライオンを追うサーマスの姿。

  ところが、サーマスは途中でくぼ地にひっかかり落車し、ライオンに襲われ怪我をしてしまう。ライオンを仕留め、弟を救うサルダナ パレス王。この場面を見て いて、16世紀イタリアの著作家マキアベリが「君主論」で、8世紀頃のインド・カーマンダキが「ニーティサーラ(政略論)」でと もに君主の鍛錬の一つとし て狩りを推奨する記載を思い出してしまいました。同時に、マキアベリの記載では、「怪我をしない狩猟場」を提案しておらず、一方 カーマンダキの著作では、 「怪我をしないように人造の狩猟場を作るべし」との記載があったのも思い出しました。古代インドの英知が古代メソポタミアにもあ れば、サーマスは怪我しな いで済んだかも知れないのに。

 サーマスの方が王よりも甘いマスクで、サーマスには勇気も能力もあるのに、人格でも技能でも上をゆく王に は敵わず、しかもマイラまで王に取られてしまいそうになるということで、サーマスの、兄王に対するコンプレックスが次第に強調さ れてゆきます。この辺の演 出はよかった。

 サーマスはマイラを伴ってバビロニアに副王として赴任するが、アーバシーに謀殺され、首がニネヴェの城門の外に晒される。激怒 した王はバビロニアに進軍する。

  アーバシーが陰謀家なのはわかっていたが、何故わざわざ王弟を殺害して叛乱を起こさなければならなかったのか、そもそも王弟の赴 任する前に叛乱してもよ かったものと思うのですが、とにかくアッシリア軍とバビロニア(+エジプト・ヌビア軍など)との決戦となるのでした。当時の軍装 も良く知らないのですが、 左画像はそれっぽい感じ。右画像の左側の人物は古代ギリシアかローマという感じの飾りのついた兜。

  激戦ではあったけれど、アッシリア軍は敗北し、ニネヴェへ引き上げます。追撃するバビロニア連合軍。敗戦に激怒した王は、部下に 命じてニネヴェの守護神で あるアッシュール神の像を倒させてしまいます。この無思慮な行為が、アッシュール神の怒りを買い、雷と暴風雨によるチグリス川の 洪水となり、ニネヴェ市の 城壁を破壊し、ニネヴェの町に壊滅的な打撃を与えるのでした。この部分は1960年代円谷プロの特撮という感じの映像でしたが、 なかなか迫力がありまし た。クライマックスに噴火や神の怒りによる自然災害が来るのは、ポンペイものやソドムとゴモラなどSS映画でもお約束な展開です が、こういう展開になると は予想していなかったので、楽しめました。

  王は、逃げたい者には逃げるように指示し、宮殿に火を放つ。マイラにも、メディアのゾロアスターのもとに逃げるよう促すが、マイ ラは王と運命を共にするこ とに決める。こうして西アジアに君臨した強大なアッシリア帝国は滅亡した。ラストのカットが、打ち倒されたアッシュール神の頭部 だったのも、良いエンディ ングだったように思えました。


 なんか、はじめてまともな古代メソポタミア映画を見たような気がしました。映画「風雲のバビロン」とか、「バビロンの女奴隷」 とか、一応古代バビロニアを舞台としたSS映画は存在するものの、前者は伝説のアッシリア女王セミラミスの話で、映画「ペルシア大王」のような古代ローマとしか思えない映像を覚悟していたこともあり、 十分歴史映画として楽しめました。

 本作は、AmazonやIMDbでは、アマゾン映画のようなパッケージとなっていますが、これは、DVDに併録されているまさ にアマゾンもの映画「War Goddess(1973 年)」の方のイラストです。このパッケージ画のお陰で本作が誤解され、ニーズにマッチした視聴者の目に触れる可能性が低まってい るとしたら残念です(後か ら調べて知ったのですが、「War Goddess」は初期の007映画の監督テレンス・ヤングの作品として「アマゾネス」の題名で日本でも公開されていたそうです。内容的には圧倒的に 「アッシリアの七つの雷」の方が面白いのに、パッケージが「アマゾネス」となっているのはこの辺りに理由がありそうです)。

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