グルジア歴史伝説映画「Didostatis Marjvena(偉大な主の手)」(ゲオルギ一世時代)

 1969年グルジア製作。原題「დიდოსტატის მარჯვენა」2時間半。第一部1時間15分、第二部1時間15分。ゲオルギ一世(在1014-1027年)の時期のグルジアを描いたグルジアの歴史 伝説を扱った作品。

  今回この作品を取り上げるのは、これが、ビザンツ最盛期の皇帝バシレイオス2世時代のビザンツ圏を扱った作品だからです(しかし バシレイオス2世は名前が 一度登場するだけ)。本当は、第一次ブルガリア王国の事実上の最後の王、サムイル(在978-1014年)を扱った映画があると いいのですが、今のところ 見つけられておりません。映画そのものが存在していない可能性もあります。サムイルを扱った小説はいくつか出ており、一代のうち に、これだけ極端な栄光と 没落を見、劇的エピソードが残る王の映画が無い(可能性がある)とは残念なことです。

 本作は英語訳題名を「THE HAND OF THE GREAT MASTER」といい、小説の英語 訳がネットに掲載されています。193ページもあるのでとても読む気はしませんが、いつかは読んでみたいと思いますこちらに映画の簡単なあらすじがあります。 どうやら、"Didostatis Marjvena(グルジア語題名の音訳)"で検索をかけると豊富な情報がネットにあるようです。これによると、本作のモチーフはグルジアの伝説であり、 ヒロインのShorena(ショレーナ)は当時のグルジアで大きな勢力を持ち、ゲオルギ王に反抗的な封建領主の娘ということのよ うです。


 (グルジアで購入してきたグルジア歴史地図帳から。10世紀のグルジア。グルジア文字が読めないので、分裂していることはわか るものの、何がなんだかわかりません。。。)

 小説を読んでいないので、上記サイトに掲載された簡単なあらすじと、映画の映像から判断できるあらすじをご紹介したいと思いま す。

  第一部冒頭で、史家らしき人物が史書を記載しながら背景或いは概略を語っている場面で、ビザンティアという言葉とバージルという 言葉が出てくるのですが、 ビザンティアという言葉は、最初の15分間くらいで何度か登場したくらいで、バージルという言葉は二度と登場しなかったように思 えます。そして、最初の 30分くらいは、地元民が、身なりのよい貴族達の城を取り囲んで反乱を起こし、ついに城を退去させる場面が出てくるのですが、こ の時の退去させられる貴族 達の装束が独特で、どことなくローマ元老院風でもあるので、ひょっとしたらビザンツのグルジアのどこかの地方の総督への叛乱なの かも知れません。しかしそ の彼らも、(推測ですが)、ゲオルギ一世の軍と思われる軍隊に破られて捕虜となり、スヴェティ・ツホヴェリ聖堂の建設に駆り立てたれられます(第二部の最後に完成し た聖堂の映像が登場しスヴェティ・ツホヴェリ聖堂だと判明する)、。

 (私はこの聖堂を見学に行ったことがあり、こちらに写真と訪問記があります
  この反乱軍は、アブアジア(現グルジア西部で、グルジア独立紛争の結果、事実上独立国となっている地域)の貴族なのかはいまいち わかりませんでした。その 貴族の城に乗り込んできたゲオルギ王の兵士が口にした「アブハジア」の言葉が、ゲオルギ王の称号のひとつなのか、捕らえられた王 の側の称号なのかわからな いからなのでした。この叛乱者の貴族は、Talagva Kolonkelidzeという名で、目潰しの刑になってしまいます。

 捕虜達中心に聖堂の建設に取り掛かったところで第一部は終了。

  第二部は建設場面から始まるのですが、前半45分は殆どなんだかわかりませんでした。第一部で叛乱を起こした人々(仮にアブハジ ア人としておきます)とゲ オルギ王の統治の融合を描いているようにも思える(一緒に双方の貴族が虎を使った狩に出るなど)場面があるのですが、恐らく、融 合はうまくいかず、結局盲 目にされたアブアジア貴族の娘Shorena(ショレーナ)とアブハジア貴族(仮)らを中心に再叛乱に至るようです。

 下記は逃走する ショレーナが追い詰められる場面。囲んでいる3名のゲオルギ王の兵士が、それぞれ剣を地面に投げて突き刺すのを、次々とショレー ナが体を向けて見る場面。 このショレーナの振る舞いの雰囲気は、黒澤明の「隠し砦の三悪人」の主演の上原美佐に似てました(こうなる前に馬で逃走中、後ろ 向きに弓を射て追ってを迎 撃したりしている)。

 黒澤明は旧ソ連の映画界にも影響を与えた筈だから、ひょっとしたら本当に上原美佐のイメージが本作の監督にあったりして。きび きびした振る舞いが良く似てました。下記はゲオルギ王の宮廷。結構広くて空疎な空間。

 反乱軍鎮圧に向かうゲオルギ軍。

 ゲオルギ王。ゲオルギ王は29歳くらいで死去したようですし、冒頭でバシレイオスの名前が出ていることから、1025年以前で ゲオルギ王が成人していることを考えると、1020-1015年の間の話、ということになりそうです。

 戦場でのゲオルギ王(左)と家臣。こういう軍装だったのでしょうか。反乱軍の装束は、毛皮姿の一般民衆軍という感じ。反乱軍は 野戦で破れ、拠点の城も落とされ、首謀者の首がゲオルギ王の城に掲げられる。

 最後は、ショレーナが王冠を外され、修道院に入り、完成したスヴェティ・ツホヴェリ聖堂の映像が流れて終わるのでした。

  本作は、ネット上に有益な情報が全く無く(ロシア語もグルジア語も無い)、ゲオルギ一世治世中の叛乱も、Wikiによれば、アブ ハジアではなく、カヘティ (グルジア東部)となっているので、下敷きとなっている話はあくまでグルジアの伝説であって、史実とは大分違うのかも知れませ ん。

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