メ ディア王国の東方領土について



   
 かねがねメディアの領域の東方領土って、それまでのオリエントの領域をはるかに超えて、何故あんなに広いのだろ う、と思っていました。よくある地図(こちら)では、アフガニスタンの大部分が入っています。いったい何が根拠なのか少し調べてみたところ、英語版Wikiのメディアの項目で は、「The very existence of a Median empire is questioned by modern scholars.」と書いてあり、広大な領土があったとしても、それは隣国との同盟で、楔形文字資料にも、考古学的遺物にも、史書 史料にも何も書いてない、とありま す。

 ヘロドトスのメディアの記述では、「メディアの支配時代には、諸民族がお互いに支配しあってもいた。メディア人が全体の支配者では あるが、直接には彼らの最も近くに住む民族だけを支配するのであって、この民族がその隣の民族を、そしてまたこの民族がその隣接民族 を支配するといったや り方であった」(「歴史」松平千秋訳:岩波文庫(上)p108/134章)、とあります。この記載からすると、ひょっとしたら間接的 にいくつかの部族を通 してアフガニスタンも支配していた、という可能性もありそうです。

 一方、メアリー・ボイス「ゾロアスター教 3500年」(講談社版)p108では、「メディアの都市のうち、もっとも東方にあった ラガ」という記載があります。
ラガは現在のレイ、 現在のテヘラン市内です。メディアの首都ハマダーンから北東に360km、このあたりまでがメディアの本土だった可能性があります (とはいえボイスの著 には出典は記載されていませんが。。。。邦訳はボイスの原著6巻本の簡易版なので、6巻本の方のVol1か2あたりに記載があるのか もしれません)。また同書の同じページに、これも出典の記載は無いものの、「メディアの宮廷に人質として留まっていた東方の王子たち や、政略結婚にとられた王女たち」との記載があり、メディアが東方に影響力を持っていたことをうかがわせます。また、「アフガニスタンの歴史と文化(ヴィレム・フォーヘルサング・明石書 店」は、 メディア王国とスキタイ族との深い関係から、「メディア人の王国はスキタイ帝国として描かれるべきである(p148)」と記載し、ス キタイ人は、当時のゾ ロアスター教徒が、自分たちの国だと考えていた土地をも支配していた、と主張しています(p152)。この、ゾロアスター教徒の土地 は、アヴェスター語著 作「ヴィーデウダード」に掲載されている「アーリア人の土地のリスト」というもので、アーリア人の土地として16の土地が列挙されて おり、メディアもペル シアも登場しないことから、メディアやペルシア人による支配以前の状況を描いた可能性が指摘されているそうです。そうして、そのリス トに現れる土地の最も 西が、丁度、ボイスの指摘している、メディアの最も東の都市であるラガエ(レイ)となっていて重なります。すると、狭義の「メディ ア」と、メディアが最初に支配した国であるペル シス地方(ヘロドトスに記載がある)と、「アーリア人の土地」リスト記載の領域を合計すると、一般に描かれるメディア帝国の地図ができあがることになります。

 最終的には、諸説ある、イラン人にゾロアスター教が伝わった時期のもっとも早い時期がメディア時 代である、という説と、メディアとスキタイの密接な関係などから、広大なメディア王国領土説」が誕生したということなのかも知れ ません。

 なお、
「アーリア人の土地リスト」の一覧はこちらをご参照ください。


 ところで、このように、メディア王国の東方領土についての証明が明瞭でなく、ひょっとしたら東方領土は無かった可能性を考えると、 アケメネス朝の東方領 土への関心や征服がいつ起こったのだろうか、と、これもまた少し調べてみたところ、何とヘロドトスにはまったく記載が無いことがわか りました。ではどこに 記載されているのかというと、2世紀の歴史家アリアノスの「アレキサンダー東征記」や、プリニウス博物誌に出てくるそうです。アリア ノスの記載について は、こちらに記載があり、 ソグディアナやインドへの遠征が記載されているとのことです。フォーヘルサングはソグドにキュロスが建設した町(キュロポリス)を現 在のホジェント比定 し、プリニウス博物誌記載の、キュロスが陥落させたカピサの砦と町が、カブールの北のベグラーム遺跡だとの可能性を指摘しています (p158)。
 
 と、このように書いてきて思うのは、きっと、「Cambridge history of Iran」の第2巻、メディアの項には、こうしたことの説明が掲載されているのでしょうね。。。(私はセレウコス朝からササン朝までを扱った第3巻しか 持っていないのでした)。

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