2000年以降、かなりハイレベルな歴史ドラマが多数製作されていることを知
りました。私は、歴史映画やドラマは、一定の人口(だいたい5000万人。視聴者数がそのくらい無いとペイしない)と、新興
国レベルの経済発展(テレビが一定人口に普及していること)という二つの条件必要だと思っていて、トルコ、ベトナム、イラ
ン、タイなどを想定していたのですが、アラビア語圏についてまったくの考え違いをしていたことがわかりました。 アラビア語圏の人口大国といえばエジプトですが、経済発展はいまいち。他は人口が2000万程度かそれ以下なので、歴史映 画・ドラマの製作資金を捻出できないと思い込んでいたのでした。しかし、考えてみれば、クゥエート、カタール、UAEにはう なる程の製作資金があり、アラビア語は口語・文語・地域差などはあっても、西はモロッコから東はイラクまで通用します。中東 と北アフリカで軽く3億を越える視聴者を確保できるのでした。そして中東でも衛星放送は普及していますし、何より、「各国共 同制作」という手法が取り易いことに思い至っておりませんでした。今回見つけたドラマも、モロッコとシリア、ヨルダンとシリ アなど、共同制作が多く見られます。特に、権威主義体制であり、人口も2000万程度のシリアが共同制作含め、多数の歴史ド ラマを制作していることがわかり、シリアに対するイメージが少し変わりました。 ドラマはいづれも40分前後の30回モノの大河ドラマが多く、一作見るのに20時間近くかかることもあり、映画のように簡 単に見て記事を書くようにはいかないのですが、今年は見つけたイスラーム歴史ドラマの紹介をしてゆきたいと思っています。 ポーランド映画紹介後、16世紀までのハンガリーとルーマニアの歴史映画の紹介を行い、その後ロシアー>トルコの順を 予定していたのですが、ハンガリーとルーマニア終了後、ロシアとイスラーム映画を交互にご紹介してゆきたいと考えています。 12月の連休と年末年始休暇で、まずは、正統カリフ時代を描いた大河ドラマ「アル・クアッカー・ブン・アムル・アル・タ ミーミー」、アンダルス・ウマイヤ朝の創業者アブドゥルラーマン1世を描いた「クライシュ族の鷹」、最盛期アンダルス・ウマ イヤ朝の実力者アル・マンスールの生涯を描いた「コルドバの春」は見終えることができたのですが、いづれもレベルが高く、知 らないうちに凄いことになっているのだなあと思いました。今回は、視聴の優先順位の下調べを兼ねて、見つけた各ドラマを 1,2話程視聴した時に見つけた13世紀までの各王朝の君主の画像を、番組紹介を兼ねてご紹介したいと思います。 1.ウマイヤ朝 左が初代ムアーウィア(在661-680年/カタール製ドラマ「アル・クアッカー・ブン・アムル・アル・タミーミー」)、 右がその息子のヤズィード1世(在680-683年/映画「カル バラー」) ウマイヤ朝ドラマ「ウマル・イブン・アブドゥル・アル・マリク」に登場した各君主。左からマルワーン一世(在 683-685年)、その右が息子アブドゥル・アル・マリク(在685-705年)、その右が息子、ワリード一世(在 705-715年)、その右がワリードの弟スレイマーン(在715-717年)、右端がウマル二世(在717-720年) 下記は、アッバース朝のマンスールを描いた「アブー・ジャアファル・アル・マンスール」の第1話に登場した臨終の床で遺言 を筆記させるスレイマン(中央)と遺言の宣告を受けて挨拶するウマル二世(右)。ドラマでは若き日のヒシャームとウマル二世 がスレイマンの後継者争いをしたことになっていました。左はジャアファルの祖父アリーが5歳のジャアファルとその父ムハンマ ドに回想する場面で登場したワリード一世と思われる人物。この回想場面では、即位前のスレイマンが同席していました。 同番組、ヤズィード二世(在720-24年)、ヒシャーム(在724-743年)。 下記はアブドゥル・マリク時代のイラク総督ハッジャージの半生を扱った「巡礼者」に登場しているウマイヤ朝対立カリフ・ア ブドゥッラー・イブン・ズバイダ(在683-692年)とアブドゥル・マリク。本ドラマにはワリード1世も登場していると思 われます。確認が出来次第、掲載したいと思います。最初の2話を見たところでは、ズバイダは聖人、ハッジャージも善良な青 年、アブドゥルマリクが激烈な性格の専制君主として描かれています。「ウマル二世」のアブドゥル・マリクも癇癖性の持ち主と して描かれていましたし、英主に幻想を持たない描き方に興味深いものがあります。ハッジャージも今後どのように変貌してゆく のか、そのうち見てみたいと思っています。 下記左から、モロッコ・シリア共同制作のドラマ「クライシュ族の鷹」に登場したヒシャーム(在724-743年)、その息 子ヤズィード二世(在734-744年)、ウマイヤ朝最後の君主マルワーン二世(在744-750年) 2.アッバース朝君主 左からドラマ「クライシュ族の鷹」に登場したアブル・アッバース(在750-754年)、右が異母兄マンスール(在 754-775年)。 マンスールについては、前述の通り、ドラマ「アブル・ジャアファル・アル・マンスール」があります。スレイマーン臨終の床 から開始しており、以降のエピソードではヒシャーム、マルワーンなど主要ウマイヤ朝カリフが登場していると思われます。 下記左は、ドラマ「ハルーン・アル・ラシード」に登場したハルーン・アル・ラシード(在786-809年)、右が同ドラマ の息子アミーン(在809-813年)。その右は映画「バー ベク」に登場した、アミーンの弟マームーン(在813-833年)、その右は同作品登場のムウタスィム(在 833-842年)。ドラマ「ハルーン・アル・ラーシド」には、ラシードの先代マンスールやマフディーも登場していると推測 されます。 ドラマ「トゥースの神秘の物語」に登場したマームーン。同作品にはハルーン・アル・ラシードも登場していると思われます。 3.10世紀アッバース朝、ハムダーン朝、ブワイフ朝君主 セルジューク朝の初代君主トゥグリル・ベクがバグダッドに入城した時のアッバース朝君主カーイム(在1031年-1075 年)(左)と、イラク・ブワイフ朝最後の君主マリク・アッラヒーム(1048年-1055年)(右)。ドラマ「オマル・ハイ ヤーム」より。 他に、10世紀アッバース朝、ハムダーン朝、ブワイフ朝君主は、930年頃から965年を描いたドラマ「アル・ムタナッ ビー」に登場していると思われます。この作品は第一回の最初の10分しか見ていない為、画像は無いのですが、視聴次第、掲載 したいと考えています。 4.ファーティマ朝 11世紀に上エジプト経由でチュニジアに移住したシーア派部族バヌーヒラル族のリーダー、アブー・ザイド・ヒラリーを描いた「アブー・ザイ ド・ヒラリー」というドラマがあるので、ファーティマ朝君主が登場している可能性があります。これも視聴次第、ファーティマ 朝君主が出演していれば、画面ショットを掲載したいと思います。 5.コルドヴァ・カリフ国(後ウマイヤ朝またはアンダルス・ウマイヤ朝) 左から、モロッコ・シリア共同制作ドラマ「クライシュ族の鷹」に登場したアブドゥル・ラーマン一世(在756-788 年)、ヒシャーム一世。同シリーズドラマ「コルドバの春」に登場したアブドゥル・ラフマーン三世(在912-961)、ハカ ム二世(在961-976年)、ヒシャーム二世(在976-1013年) アブドゥル・ラフマーン三世を演じた役者さんは、「クライシュ族の鷹」でウマイヤ朝ヒシャームを演じた方と同じ方。ハカム 二世も同様に、「クライシュ族の鷹」でアブドゥル・ラーマン一世を演じた方。 ドラマ「時の環」に登場したハカム一世(在796-822年)とアブドゥルラーマン二世(在822-852年)。 下記は「コルドバの春」に登場したヒシャーム時代の独裁者アル・マンスール(在977-1002年)とその息子ムザッファ ル(在1002-1008年)。 6.カラハン朝 左、西カラハン君主ナースィル・ハーン (1068–1080年)。右、同アフマド一世(1081-89年)。右端は、西カラハンとして即位する前のマスウード1世(1095-1097年)だと 思われる。マスウード1世と思われる人物は、マリク・シャー死去を受けて混乱するセルジューク朝に進軍し、ニシャプールに入 城した。いづれもドラマ「オマル・ハイヤーム」から。 7.セルジューク朝君主 左二枚がトゥグリル・ベク(在1038-63年)、その右がアルプ・アルスラーン(在1063-72年)。ドラマ「オマ ル・ハイヤーム」から。イラン東部の都市で、セルジューク朝拠点のひとつであるニシャープールにトゥグリル・ベクが入城する ところから始まるのですが、ニシャプールの住民の装束はアラブっぽく、セルジューク朝は古代アケメネス朝な感じで描かれてい たのが、イランとアラブの中を象徴しているようで印象的でした。 左から、宰相ニザーム・アル・ムルク、マリクシャー(在1072-92)、”山の老人”サッバーハ、マリク・シャーの弟で シリア・セルジューク朝開祖トゥトゥシュ(在1085-95年)。 右端は、サンジャル(在1118-1157年)がセルジューク朝スルターンに即位する前の、ホラサン総督時代 (1097-1118年)の頃のサンジャルだと思われる映像(ドラマの中ではワンカットしか登場せず、直接名前を呼ばれな かったので確定できないのが残念)。 8.アイユーブ朝君主 サラディンのドラマ、映画は多数あり、サラディンの画像は珍しくは無いので、今のところ見る予定無し。 9.マムルーク朝君主 左から、アイユーブ朝最後から二番目の君主サーリフ(在1240-1249年)、その妻でマムルーク朝初代君主シャジャ ル・アッドゥル(在1250年)。右端はマムルーク朝二代目君主でシャジャルの夫として即位したアイバク(在 1250-1257年)。ドラマ「ザーヒル・バイバルス」から。 左からマムルーク朝第三代君主マンスール・アリー(在位:1257-59年)、第四代クトゥス(在1259-60年)、バ イバルス(在1260-77年)、第六代カラウーン(在1277-97年)。 エジプト・シリアについては、7世紀から13世紀までほぼ連綿とドラマ・映画が製作されていることがわかりました。イル汗 国のフラグについてのドラマも発見したので、そのうちイル汗国、ティムール朝、オスマン、サファヴィー朝など、14世紀以降 の映画・ドラマに登場するイスラーム君主一覧表も作成してみたいと思います。 以下、各ドラマのWikipedia上の紹介(アラビア語)の一覧です。 ・ジール・サリム (531年没の詩人。ムハルヒルの名でも知られる/2000年/シリア/各40分) ・ジーカール (609年サーサーン朝とのジーカールでの戦い/2001年/ヨルダン・シリア合作/29話) ・ハリード・イブン・アル・ワリード (正統カリフ時代/第一部2006、29話/第二部2007年/各40分) ・クアッカー・アムル・イブン・アル・タミーミー (正統カリフ時代/2010年/カタール/各40分/30話) ・ハッサンとフセイン (ウマイヤ朝/2011年/ ムアーウィアやヤズィードが登場していると思われる。 ・巡礼者 (ウマイヤ朝イラク総督ハッジャージ・ビン・ユースフ/カタールテレビ・シリア/2003年/各50分/35話) ・アブー・ジャアファル・アル・マンスール (アッバース朝マンスールの生涯/2008年/ヨルダン・シリア・レバノン合作/30回) ・善き息子 (アッバース朝・ハルーン・アル・ラーシド末期からマームーン以降/2006年/ヨルダン) ・トゥースの神秘の物語 (アッバース朝・ハールーン・アル・ラーシド末期からマームーン/40分/28話) ・アンダルス・イスラームの歴史シリーズ三部作 1.クライシュ族の鷹 (アブドゥルラフマン一世の生涯/2002年/モロッコ・シリア合作/各40分/30話) 2.コルドバの春 (アル・マンスールの生涯/2003年/モロッコ・シリア合作/各40分/29話) 3.タイファ(タイファ時代/2005年/モロッコ・シリア合作/各40分/30 話) ・時の環 (アンダルス・ウマイヤ朝9世紀前半/2002年/シリア製作/45分/30話) ・アルモラヴィドとアンダルシア(アルモラヴィド時代/2005年/シリア・モ ロッコ合作) -「タイファ」とは別の作品のようである。 ・アブー・ザイド・ヒラーリー (ファーティマ朝時代/2005年/アブダビテレビ/各45分30回/アブー・ザイド・ヒラーリーは11世紀に上エジプト経由でチュニジアに移住し たシーア派部族バヌーヒラル族のリーダー。1947年エジプト製作の映画もある) ・アル・ムタナッビー (ブワイフ朝・ハマダーン朝/シリア製作/33話) ・オマル・ハイヤーム(セルジューク朝時代/2002年/シリア・レバノン/各 44分/23話) ・サラディン (アイユーブ朝/2001年/シリア製作/45分/30話) ・ザーヒル・バイバルス (マムルーク朝/2005年?/クェート・シリア・ヨルダン合作/各44分/30話) ・フラグ (イル汗国建国者フラグ/2002年/シリア) 上記一覧には記載しておりませんが、イスラム期以前のシヴァの女王を扱った「ビルキース」、ゼノビアの登場するドラマ、6 世紀の詩人で英雄のアンタールを扱った映画、正統カリフ時代のエジプト征服者「アムル・イブン・アース」など、イスラム期以 前を含め、アラビア民族の史上の主要な人物はほぼ映画・ドラマ化済のようです。それにしても、ここまで調べることができたの は、Google Chnomeの翻訳機能が昨年12月頃から一段と便利になり、ほぼ完全に自動化され、翻訳漏れも、右クリックの手動翻訳機能で追加翻訳ができるようになっ たことが主因です。更にドラマを見ていて地名のテロップを読むために、10年前に購入して以来手付かずだった教科書でアラビ ア文字を少し学習し、翻訳無しでも若干タイトル等が読めるようになったのも作業の効率化に役立ちました。アラビア語圏の映 画・ドラマの世界観が一気に変わりました。 以前、映画に登場するビザンツ君主一覧という記事を作成したのですが、今回、「オマル・ハイヤー ム」にロマノス四世が、「ムタナッビー」にロマノス一世が登場していたので、画面ショットを追加しました。正統カリフ時代の ドラマ・映画はすでに10本以上発見しており、ヘラクレイオスの画像は両手に余る程入手できたので、とりあえずエジプト征服 者「アムル・イブン・アース」に登場した、スキンヘッドのヘラクレイオス像を貼りました。 最後に。ファーティマ朝とマムルーク朝時代のフスタートとオスマン時代のカイロの様子が登場する映画がなかなか見つから ず、これらの時代のカイロの様子を知りたくてネットをあさっていたら、次のようなサイトを見つけました。 1.フスタートの再現CG画像。8つの画像が張ってあり、更に、今は懐かしい VRMLでの再生も可能となっています。あまり解像度はよくありませんが、フスタートに水道が通っている状況や、ナースィ レ・ホスローの旅行記に描かれた14階立てのビルが立て込んでいる様子などの再現に取り組んでいて、それなりに参考になりま す。 2.360度 Citiesサイト 世界各地の観光地などでの、あるポイントから360度の景観を見せてくれるサイト。元々Google Earthでしか見れなかったと思っていたのですが、いつの間にか普通にブラウザで見れるようになっていました。Google Earthは容量を食うので最近はあまり使わなくなっていたのですが、360度サイトの映像がブラウザで見れるようになった のは嬉しい限りです。Google ストリートビューがカバーできない観光地の中の映像を見るには非常に便利。もう観光旅行にいかなくてもいいかも。とりあえずカイロとイラン、ローマ、イス タンブールの建築物の観光をしてみました。このイスファハーンのモスクを、内側から自由自在に天井と壁を眺めることができる映像な ど、や王の広場の360度天球パノラマなど、素晴らしいものが出ていますね。モスク の天井を実際に現場でくるくる回って天井を眺めると眩暈がするものと思いますが、天井を回転させる映像などが簡単に見れ、感 動です。 本当に凄い時代になりました。 |