2011年10月31日作成

ブルガリア歴史映画「イヴァイロ」(1277-78年)

  1964年ブルガリア製作。豚飼から身を起こして皇帝となったイヴァイロ(在1278-80 年)が、大規模な反乱を起こし勢力を拡大しはじめたあたりか ら、皇后と結婚し、正式にブルガリア皇帝(ツァール)となるまでの2年間を描く。原題「Ивайло」。本作はどうやらブルガリ アでもdvdは出ていない らしく、ましてや英語版は存在しないようです。IMDbには登録されています。ブルガリアの歴史映画としては、「カロヤン」 (1963年)の次に製作され た作品。カロヤン帝は第二次ブルガリアの基礎を固め、十字軍国家ラテン帝国を打ち破り、皇帝ボードワンを殺害した、民族解放の英 雄であり、「イヴァイロ は、封建階級に対して立ち上がった人民の味方ということで、共産主義時代の「民族主義」「階級闘争」という方針とよくマッチした からなのでしょうね。特に 可もなく不可もなく、という感じですが、本作は81分と短く、イヴァイロの生涯のたったの2年間しか描いていないので、150分 程度の作品にして全生涯を 描いて欲しかったところ。当時大きな影響力を振るっていたモンゴル帝国との関係が殆ど扱われていなかったのも、物足りなさを感じ ました。また、イヴァイロ は文字を読めたか?とか、国際情勢の判断は?マナーはどうだったのか? など、貧民階層から身を起こした指導者の実際にも興味が あったのですが、粗末な服 装と小屋で暮らす、意外に普通な人で、これも少し冒険が無さ過ぎな印象を受けました。それでも、皇帝軍を破った戦いや、タルノ ヴォ城攻めの場面は、真正面 から描いていて大迫力です。タルノヴォ城は私も訪れたことがありますが、あの峻険な要塞をどのように攻めるのか、一端が見れただ けでも満足です。ではあら すじと画面ショットによる紹介です。


 1277年ブルガリア第二王国の都、ベリコ・タルノヴォ。鐘楼の鐘の音が鳴り響く。

 タルノヴォ城の中庭には、王族・貴族・役人・教会人が集まっている。

 時の国王コンスタンティン・アッセンは、イヴァイロの反逆と犯罪を30の罪状を挙げて告発する

 そして一人の男がイヴァイロ一派として斬首刑になる。男は、イヴァイロはタタールを追い払っただけだ。叛乱ではない、と主張す るが、斬首されてしまう。

 一方、イヴァイロを先頭にタタール軍を追いかける場面となり、タタール軍はドナウ川に追われる。

 鬨の声を上げるイヴァイロ軍。

 ここでテロップが入り、背景説明がなされる。おそらく、上映当時の国民におけるイヴァイロの知名度が高くはなかったからなので はなかろうか。

 イヴァイロはタタールを追放した。しかし人々の怒りは収まらず、悪い日々が貴族達をも巻き込んだ。イヴァイロはトゥヴァルドィ ナを押え、その後全軍を率いてオベチュグラッドを奪取した。

  イヴァイロ軍が城門を木槌で打ち開けけ、陥落させる場面が出てくる。このようにして、地方貴族の城は次々とイヴァイロ軍の略奪に あっていった。城を陥落さ せたイヴァイロは、今後の作戦を部下と相談する。部下は、貴族XX、貴族XX、貴族XXと名を挙げるが、それではただの略奪が続 くだけである。

 野営中の陣営では、民衆軍が踊りを踊り、沸いている。その一方、下記は作戦会議をするイヴァイロ軍。いかにも民衆軍といったい でたちのイヴァイロ幹部。明日、タルノボに出発する、と告げるイヴァイロ。

  その夜、一部の幹部がイヴァイロを批判するのを聞いていた娘(彼女はイヴァイロ軍に陥落させられた貴族の娘で本来はイヴァイロを 恨んでいる立場なのだが) がイヴァイロに伝えに行く。「タルノヴォに行きたがらない連中がいるわ。いかない方がいいわ。殺されるかも知れないわよ!」と告 げる。イヴァイロがその幹 部の元にゆくと、幹部とその部下たちがイヴァイロの陣営を去ってゆくのだった。見逃すイヴァイロ。

 翌日イヴァイロ軍はタルノヴィに向けて進軍する。場面はタルノボにうつる。

 そのタルノオ城内部。ステンドグラスの開閉式窓がある。左が王妃、右側がその愛人。中央が侍女。

王妃の部屋には、このような、小さい鏡を合わせた全身鏡がある。一枚板の大きな鏡を作る技術は当時まだなかったのということかも 知れない。

 国王と王妃と王子。イヴァイロ問題への対策が検討される。

 下記が宮廷の貴族達。王冠をしていて、国王の集まりのように見える。左の男に注目。辮髪である。キプチャク・汗国から送られた タタール人かも知れない。

  イヴァイロ軍。キヴァイロの分隊が貴族である使者二人を捕らえて、彼らが携帯していた書簡を*使者*に読ませる(イヴァイロ軍は 文字が読めなかったと思わ れる)。使者は「イヴァイロの犬野郎」という文面をおのまま読み上げ、激怒する民衆。分隊と民衆は、その手紙と使者をイヴァイロ 本軍の元に届け、分隊長が 「手紙を読め」というが、使者は「ツァーリ・イヴァイロ」と皇帝と同格で呼ぶ。下記中央が話を聞くイヴァイロ。

  使者は、イヴァイロとともの帷幕に入り、ちょっと考えないか。娘は欲しくないか?と持ちかけるが、イヴァイロがそうした交渉を拒 絶したため、使者の貴族 は、イヴァイロを犬と呼び決裂。更に帷幕から出てきて出てきてイヴァイロの悪態をついたので、民衆に袋叩きになるのだった。

 続いて、イヴァイロは、以前イヴァイロ軍内の反逆者のことを伝えに来た女性を娶ることをと民衆の前で発表する。娘の手をとり、 結婚宣言。困惑する娘。 夜、今夜もダンスを踊るイヴァイロ軍の民衆たち(ひょっとしたらイヴァイロの結婚を祝っているのか も)。

 翌日、皇帝コンスタンティンをたたえる歌を歌いながら山間部を進軍する皇帝軍。下記は軍装の皇帝。

  一方のイヴァイロは、都に行くことは考えていたが、それは民衆の声を届ける為であり、皇帝と決戦するつもりはなかったので、この ままいけば皇帝と決戦する ことになってしまう状況となり、悩み、妻や長老などに相談するが、結局戦うことになる。翌朝。ずらりと並ぶ皇帝軍(向こう側)と 手前のイヴァイロ軍。

 皇帝軍の陣営。

進軍する皇帝軍。

 矢で応戦するイヴァイロ軍の盾は、細木で組み立てた簡素なもの。正規軍と同じような装備の者もいるのだが。弓合戦のあと、直ぐ に白兵戦に。

 皇帝軍は別働隊をわけ、山間部を迂回し、イヴァイロ軍の背後をつく作戦に出るが、谷間で襲撃に合い、うまくゆかない。下記はそ の時登場した辮髪の指揮官(皇帝側)。

 かなりなエキストラを雇い、大掛かりな撮影であったことがわかる。

 イヴァイロ軍は狼煙で合図するなど機動的。馬車で逃げる皇帝。それを高台で眺めていたイヴァイロは、戦場を離脱しようとする皇 帝の一隊に向け突撃する。皇帝の馬車も大分スピードを上げたが、とうとう脱輪してしまう。


 馬車から放り出される皇帝。一応剣を持って最後まで戦う。相手をしたのはイヴァイロ本人のようである。そしてイヴァイロが勝利 するのだった。皇帝の持つ王錫と剣を高々と差し上げ、民衆軍の歓呼に答えるイヴァイロ。

  冬のタルノヴォ。雪道を行く司教一行。いづれタルノヴォにイヴァイロが来る、とルメイ(ローマ=ビザンツ)に逃げるらしい。イ ヴァイロ軍ではイヴァイロ夫 人(ガリーナ)が病気となり、他にも多数病死者が出て葬儀が行われる。教会で司教達がイヴァイロに相談を持ちかけている。皇帝が 討ち死にした今、イヴァイ ロが皇后と結婚すべえきであり、妻ガリーナと別れるよう説得しているのかも知れない。
 一方、都では、僧服を皇后マリーナに渡す司教。ルメイ(ビ ザンツ)に亡命するか、修道院に入れと言う。イヴァイロが皇帝になるので、と説明する司教。納得しない皇后。愛人ボヤーネにも、 無理だ、と断られる皇后。 そこで、愛人ボヤーネに指輪を渡し、イヴァイロとの使節となるよう依頼する妻マリーア。イヴァイロの陣営。指輪を送る使者。突き 返すイヴァイロ。

 タルノヴォ教会での祈祷の場面。皇后と王子、貴族、教会人などが総出。大司教アナテマ!と叫び、アナテマ(呪いあれ!)をメロ ディに載せて全員で合唱する。

  冬が終わり、イヴァイロ夫人ガリーナは病気から回復したようである。家で裁縫している。そこに鐘の音。外を見ると、司教を先頭に 人々の行列が見える。ルメ イ(ビザンツ)から逃げてきた人々が、助けてくれ、とイヴァイロのもとに来たのだった。そしてイヴァイロ軍はタルノヴォ城を包囲 することになる。下記がタ ルノヴォ城攻めの様子。

 タタール人傭兵隊に金を渡す司教と貴族達。足元を見られて催促された後、傭兵隊長は一部の金貨を帽子の中に入れる(このとき、 彼が辮髪であることがわかる)。

タルノヴォは、深い谷が大きく歪曲する断崖の上に築かれており、難攻不落だと思っていたが、城内の国王軍側守備隊の数がそもそも 少なく、長梯子をかけて も、城壁内部からそれを叩き落す兵士の数は少なく、イヴァイロ軍はどんどん城内に突入し、ついに、城では白旗を掲げて降参するの だった。

  神に祈るイヴァイロの奥さん。涙を流している。恐らく、勝利してしまったことで、自分がどうなるのかわかっているのだろう。そこ にイヴァイロが戻ってく る。夕食を出す。食べて食べてと料理を出す。そこにまた伝令が。出てゆくイヴァイロ。まったく忙しい。イヴァイロが出て行った 後、またイヴァイロの為に神 に祈るのだった。本当に健気な女性だった。
 ビザンツからの使者が来たのだった。 名前はアルフォント・ポリビオス・ビザトベッフォム。インペラ トール・ミハイル・パライオロックの使者、かつてタルノヴォはわれわれのものだった。返還するようにと迫る。居丈高な申し出に、 使者を殴るイヴァイロ。こ の使者の甲冑が面白かった。
 マスクをあげると下記のように普通なのだが、

イヴァイロが殴りつけたところ、そのまま仮面が下りてしまう。

 全体としてはこんな感じ。

 イヴァイロが家に戻るとガリーナがいなくなっていた。身を引いたのだった。ベッドの上に、イヴァイロの為にあつらえた、皇后と 会う時の為の服も置いてある。その服を着て、タルノヴォ城に入城するイヴァイロ軍。


  イヴァイロは、皇后や僧侶を横に、全軍の前で戦争終結を演説するのだった。身を引いて去った妻ガリーナが用意してくれた新しい服 だが、貴族や僧侶と比べる と、素朴な民衆服である点が印象に残る。皇后とイヴァイロは形式的に結婚し、イヴァイロは正統なブルガリア皇帝となるのだった。

〜劇終〜

ブルガリア歴史映画一覧表
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