2011年10月24日作成


第二次ブルガリア王国歴史映画「ヨアン・アセンの結婚」第二部「キリスト教の外側」


 前 回の第一部の続き。1975年ブルガリア製作。原題は「Сватбите на Йоан Асен」、発音通りに訳すと「ヨアン・アセン」ですが、本作は第二次ブルガリア王国最盛期の王イヴァン・アセン2世(在1218-41年)の半生を描い た大作です。
 
 第二部を見て、漸く題名の意味がわかりました。ヨアン・アセンは、生涯で3度結婚をし、娘を、第四回十字軍のお陰で解体ビザン ツ帝国の後継国家、エペイ ロス専制国やニケーア帝国に嫁がせていたのですね。本作では、合計5回の結婚式が登場しました。後半になっても前衛度は衰えませ んが、それでいて、史実を 踏み外すことなく最後まで描ききった力量には恐れ入ります。でも非常に面白かった。なんというか奇作というべきか。多分これは好 悪がはっきりでる映画だと 思います。推測ですが、「つまらない」「よくわからない」「退屈」「面白かったけどよくわらない」が9割以上、絶賛するのは数% 以下なのではないでしょう か。私は絶賛です!!!今回観た一連の映画で、個人的に、「この程度なら入手してもいい」と、dvd価格を考えるのですが、英語 版字幕が無くても、 9000円までなら出してもいい、今のことろ本作がダントツのトップなのでした。

 今回のヨアンは、益々老けて、どんどんイメージのイヴァンに近づいていますが、ある意味老成した王の一般的なイメージになって きただけ、と言えなくもありません。


  本記事中「前衛的」という言葉が何度か登場しますが、これは現在にとっての前衛ではなく、既に過去の一時代の文化となっている、 1920-70年代頃に 「前衛的」といわれた芸術形式のことを指しています。一般名詞ではなく、過去の芸術運動を示す固有名詞として用いていますので、 ご留意ください。詳にご興 味のある方は「More」をクリックしてください。

IMDbの映画紹介はこちら
中世ブルガリア歴史映画一覧はこ ちら

  宮殿で少女が歌を歌っている場面からはじまる。外国の使節の謁見の場のようなのだが、厳粛な雰囲気の中、一人式場の中を歩き回 り、遂には使節にまで話しか けてしまう、落ち着きの全く無い子供である。下記は、ほぼ式場内をふらふらと一周した後、使節の方に向かう少女(中央右下)。

  使節はニカイア帝国(ニケイスカ・インペーリー)のヨハネス3世からの使節。娘は、使節が読み上げようとする手紙の端をつかんで 引っ張り、「王妃様になれ る?」と幼児語で話しかける。使節が、「お父さんが同意すればね。お父さんに聞いてごらん」と忍耐強く答えると、少女は振り向 き、国王ヨアン・アセンに向 かって「同意する?」と聞くと、父は「同意する」という。使節「続けていいですか、王女様」「いいよ」 というわけで、少女エレ ナはニカイア皇帝ヨアン3 世の息子で、同じく幼児のテオドロス・ラスカリスと結婚することになるのだった。下記はその使節。

  テオドロス・ラスカリスとエレナの結婚式がニカイアア帝国で行われる。ヨアンもニカイア帝国に赴いている。それにしても落ち 着きが無い夫妻である。

 皆が祝辞を読んだり、奏でられる音楽に退屈し、とうとうテーブルの下に隠れてそのまま部屋を抜け出してしまう。可愛いけど、大 人の立場からすると、こういう子、ヤダ。。。。 

 結婚式ではヨアンはインペラトールの称号で呼ばれている。フランク人のインペリア(ラテン帝国)からの使節も同席している。

 庭園に出る二人。いい加減に探しはじめる兵士達。2人は庭園の一角に設けられたブランコで逆上がりなんかしている。父ヨアンも 探しに出る。その時のヨアンが、しばらく逆上がりを練習する2人を物陰から見ている場面が下記。まあ、いい父親の表情してます ね。

 でも結局2人は式場に連れ戻され、我慢して面白くも無い式辞を聞き続けさせられる。まあ、子供には退屈だよね。

  場面は変わって、前回娘マリアを無理やり白塗り王子に嫁がせたエペイロス専制国と紛争が持ち上がる。エペイロスの兵士が処刑串刺 し道具の杭を研いでいる。 懺悔用の僧侶も来ている。どうやら処刑されるのは、ブルガリアの若者のようである。処刑の理由が良くわからなかったのですが、串 刺しにする*過程*の映像 は初めて見ました。股間に杭をあてて木槌で思い切り叩くんですね。。。。処刑されたのは3名。


 処刑されたのが誰だったのかわからなかったのですが、ブルガリア側は軍事行動に出る。
  この映画としては大軍が登場する。大軍を率いてヨアンとアレクサンデルが、丘の上でさらし者になっている処刑者を見に来る。エペ イロスのインペラトール、 テオドール・コムネノスから手紙来る。それを読むヨアン。兵士が多いので、ヨアンの言葉を中継する兵士がところどころにいるのが 面白かった。反響しあって 聞き取りにくくなるもなるのだが、かなりリアルな映像に思えました(手紙の中では「ビザンティンスカ・インペラトール」という言 葉も登場していた。具体的 にどこの誰をさしているのかは不明でしたが) 。

  それにしてもこの手紙、半分透明なんですよね。冒頭で、登場したニカイア帝国の使節が読み挙げ、王女が引っ張った書状も同じ材 質、処刑された兵士の杭に打 ち込まれていた、罪状を書き留めた書状も同じ。上の写真は、ヨアンが全軍の前で読み上げ、その後、それを槍に突き刺し、全軍の間 を見せて回った処刑の訴 状。こんな材質の紙が当時あったのか。ここも前衛なところである。

 夜間進撃し、敵方の見張りを殺し、敵陣に近づくブルガリア軍。エペイ ロス側の監視兵のバグパイプが吹かれた時は、既に数十メートルの距離に迫っており、一気に攻めるブルガリア軍。この時なんと、援 護射撃用に、ミサイル砲が 登場するのであった。砲弾は鉄球ではなく、木の杭なんだけど、ずらりと並べられた砲台からばしばし発射されていた。当時このよう な兵器を思わせるなにかが 史書に書いてあるのだろうか。とにかく驚いた。しかし驚いたのはそればかりではない。


  エペイロス軍は、聖ゲオルギのイコンを描いた盾を用いて反撃に出るのである。下記は翌日昼の映像ですが、夜襲反撃の時にも、これ と同じ布陣で反撃に出てい ました。ゲオルギはブルガリアでも崇拝されていたので、ブルガリアの兵士は恐れおののいて退却してしまうのであった。これじゃ攻 められないわ。


  翌日昼も同様の戦法で、戦わずしてブルガリア軍を追い込むエペイロス軍。処刑者3人の前にあるヨアンの本営までゲオルギの盾にお びえて敗走してしまう兵士 達。しかし、ここでまたヨアンが兵士に訓示。木槌砲で応戦し、ついにエペイロス側のゲオルギ盾亀甲陣を崩すことに成功する。

 心配そうに戦いの行方を見守るスィンケとマリア、とエペイロス専制公テオドロスの娘イレーナや侍女たち(戦場の隅で見てるんで すねぇ)。

 小競り合いは終わり遂に激突!そしてブルガリア軍には謎の戦車が。。。。(下記写真右側)

 謎の戦車はなかなか全体像が映らないが、少しずつわかってくる。まず、上部には数名の兵士が乗っている。

 謎の兵器の全貌が姿を現す。本作には「グレート・ウォリアーズ 欲望の剣」も入っているかも。これを奇策といわずしてな んといおう。そして後部は盾で覆われている。どういう駆動方式なのかまではわからなかったが、中で兵士か牛が動かしているのかも 知れない。

しかしこの兵器、何の役に立つのだろうか。まあびっくりするだろうけど。しかも一台ではなく数台ある。

 戦場で兵士と飯を食っているヨアン(上写真の右から三番目)。なんか、ヨアンが飯食ってるところが度々出てくるんですよね。ハ ンガリーのアンドラーシュ王との交渉時もこの写真と同様、なぜか飯を立ち食いしながらでしたし。王の手前には例の大砲が並んでい るのがわかる。
 
 戦勝後、兵士とその盾で作るお立ち台も芸が細かい。右手の方を良く見ると、階段になっているのである。

  文字通り、巨大な布をかぶせられ、生け捕りになってしまったテオドールに、処刑状を槍ごと投げて寄越すヨアン。ヨアンの読む戦勝 宣言を、ラテン語とギリシ ア語とブルガリア語の3人の通訳が、それぞれ少し離れたところで、拡声器のように読み、全軍に伝えられてゆく。この辺もリアル。 その後、テオドロス・コム ネノスに変わり、マヌエル・ドゥク・アンゲロ・ブラスニ・インペラトル・テオドル・コムニ・ドゥク・アンゲロに戴冠する(第一部 で登場した、マリアが「こ んな人嫌」と怯えた白塗りアイシャドウ化粧の男である)。その横には今では妻となった娘マリアが。娘が憎しげに何か言い、ヨアン は怒って娘を殴るのだっ た。

 更に、女たちの陣に放り出されたテオドロス公を前に、スィンケと、マリアと交換でブルガリアにやってきていたテオドロスの娘イ レーナは憎しげにヨアンを見つめるのであった。下記はヨアンに慈悲を請う捕虜たち。こういう場面も珍しい。

 更に、目をつぶされるテオドロス。縛られ頭を固定され、目にローソクの火が当てられるのである。

 ローソク台の下に滑車がついていて、汽車のレールのように滑って目に近づいてゆく方式。これでテオドロスは盲目になる。ところ で、これまで観たブルガリア歴史映画では、他に二種類の目潰し方法が登場している。以下に整理すると、

1.「ボリス一世」 息子ヴラディミールの目潰し。二つの鉄の角がついている、巨大なペンチのようなものを目にさす道具を利用。
2.「黄金時代」  同じく息子ウラジミール目の部分だけが開いている鉄火面をかぶせ鉄の棘のついた蓋をする方法。
3.そして今回のエペイロス専制公。蝋燭を載せた車がレールの上を走り縛られている頭の目を焼く方式。

 拷問道具とか、兵器と同様、人体に傷つけるものは嫌いなのであまり知識が無いのですが、きっと拷問専門書とか博物館(明治大学 博物館とか)にいけば、様々な知恵を振り絞った道具があることがわかるのでしょうね。。。

  場面は変わって誰かの葬式(誰の葬儀かはわからなかった)。ニカイア帝国に嫁いだエレナも来る。そしてもう還りたくないとタルノ ヴォ城に居ついてしまうの だった。宮殿内で逆上がりしているして遊ぶエレナ。ところが、王妃は娘をヒステリックに叱る。父は、エレナに向かって、戻らない なら別の結婚相手を見つけ てやる、と言う。駄々をこねるエレナに、じゃあなんで后妃(インペラトゥリツァ)になりたいなんていったんだ!、と厳しい表情に なる父。
 
  結局アレクサンデルが馬車で送ることになる。馬車の中から、2人で星を見上げ、アレクが色々話しかけるところが良い。ホントアレ クは大人だよなぁ。ヨアン の尻拭いばっかりしている気がする。エレナをニカイア国の宮廷に戻し、そこでヨハネス3世と会談するアレクサンデル。コンスタン ティノープル奪回を口にす るヨハネス。ヨアンにしろヨハネス3世やテオドロスにしろ、なんでそんなにコンスタンティノープルに拘るのか、とため息交じりの アレクサンデルである。

 一方タルノヴォ城では、地下のブランコベッドが再登場。隠者のように座りこけるヨアン。家臣や妻も変な目で見ている。総主教が 階段から降りてきて説教するが、突然風呂に入るヨアン。このあたりの意味不明な行動や描写も、なんとなく前衛的っぽく感じてしま う。

  まだ7,8歳くらいでしかないのに、既に仲が悪そうなテオドロスとエレナの幼い夫婦。2人は仲直りの儀式?の最中泣いてしまう。 (ニカイアがコンスタン ティノープルを征服して)コンスタンティノープルに到達したら、(ブルガリアに)帰ることができる?とアレクに聞くエレナ。アレ クは父帝(ヨハネス)の前 で「da(Yes)」と答える。

 そして遂にコンスタンティノープル攻め。

 模型を前にコンスタンティノープルを前に模型を作って都攻めの作戦会議をするヨアン、アレクと、及びフランク人の公(誰だか最 後までわからなかった)。これがコンスタンティノープル。まあ明らかに絵なんだけど。でも満足。

 こちらは作戦会議で使われたコンスタンティノープルの模型。

 ちゃんと、金角湾まで作ってある。

 模型の全貌。

 ところが、その時、日食が起こってしまう。動揺する兵士。兜を脱いで跪くヨアン。そして模型に布をかける。謎の兵器(「戦車兵 器」と呼ばれていた)に「火がかけられ燃やされる。撤退するブルガリア軍。悪態をつくフランク人の司令官。

  このあたり、史実なんでしょうか。過去2000年間の日食を、地域ごとに表示してくれるWebサイトがあるので、そこで調べれば コンスタンティノープルで いつ日食が発生したのか調べることは簡単なので、そのうち確認してみたいと思います。そして撤退中でも、突然馬車から降りて、兵 士が飯を食っているところ に入っていって一緒に飯を食うヨアン。こういう行動が読めないところが奇矯な王という印象を与えているんですよね。


 タルノヴォ城に戻ったヨアン。イレーナ(テオドロス・コムネノスの娘)がハープを拭いている。目をつぶされたテオドロスもいる (1237年まで抑留される)。アレクもいる。そしてイレーナとヨアンは、キス。イレーナはヨアンの3人目の妻となる。

 イレーナとの結婚式。(馬車でタルノヴォ城を出て教会に向かうところの映像はハンガリー王女マリアとの結婚式でも使われていた ものと同じ)。

 同じ映像を繰り返し使うことで、繰り返される「ヨアンの結婚」を強調したということなのだろう。教会で式を見送る年老いたアレ クの後ろの石柱は、ブルガリアでは有名な文化財である(国宝か、重要文化財)。


 そしてどういうわけか、サウナに入るアレク。こうして物語は、第一部冒頭の場面に戻って幕となるのであった。

〜終〜


 絶賛するけど、すみから隅というわけでありません。一番気にいらないのオープニングの変な歌と「前衛的」な宮廷の壁画。
BACK