中世チェコ歴史映画「Jménem krále /王の代官」(オタカル二世時代

  プシェミスル朝最盛期の王オタカル二世(在1253-78年)時代のチェコ。原題 「Jménem krále」2009年製作。政治的に大きな事件が扱われているわけではなく、チェコ北部の王領地の、ある城の管理と貴族の対立を背景に、発生した連続殺 人を推理するというもの。オタカル二世が、貴族の力を殺いで、王領地の裁判権を握ろうとした当時の政策が背景にあるようなのです が、大掛かりな政治的陰謀 がめぐらされているわけではなく、当時恐らくはある程度普通に行われていた地方貴族の振る舞いを、王の管理官が捜査し、裁判を行 い、決着をつける、という もの。推理小説に似た、捜査・尋問・謎解きが行われるものの、主人公は推理小説の探偵のような感じではなく、あくまで管理官とし ての責務を淡々と行ってい る感じなので、「薔薇の名前」のような壮大で奥行きの深い作品とは異なりますが、ある意味リアルに当時の情勢を描いた作品とも言 えそうです。私は結構、こ ういう地方で起きる小事件を扱った歴史作品は好きなので、本作も英語字幕版dvdが見つかれば購入したいと思っています。そのオ タカル二世時代のチェコの 領域。オタカル時代だけでもかなりな領土の変遷があるようですが、下記はその最大時、1270年のもの(地図は、こちらのyoutube上の、チェコ歴史アトラスアニメーションから持ってきまし た)。

 地図には現在の国境線や海岸線の線も引かれているのですが、この画面ショットでは少しわかりにくいかも知れません。 youtubeの映像はもっと鮮明なので、ご興味のある方はyoutubeの映像をご覧ください。1270年頃は、ほぼアドリア 海まで達していたようです。
 
 本作は字幕なしのチェコ語版を見ましたので、あらすじの大半はこちらのサイトからの引用です。ご興味のある方は「More」をクリックしてくだ さい。中世・近世のチェコ映画は非常に少ないようなので、オタカル二世の映像は極めて貴重な映像だと思います。



  13世紀、チェコの王国とモラヴィアの辺境伯爵は、プシェミスル家のオタカル二世だった。Dubé家とVartemberka家 両家の紛争を調停し、両家 の連携を行わせる為に、王はチェコ北部に王城Bezdězを管理する代官を送る。下記はオタカル二世とその宮廷。彼とその宮廷映 像が見れるなんて少し感 激。

  彼の名は Ulrich Chlum (ウルリヒ)といい、何人かの騎士とともに城に向かった一行は、途中で盗賊が名も無い売り子を襲い殺した跡に出くわす。ここで事件を捜査する捜索隊(若手 騎士Ota ze Zastrizli に率いられる)を残し、ウルリヒはVartemberskémの領地に向かう。これが高台にあるVartemberskémの城。

 一方、捜索隊は、川沿いに移動し、襲撃された荷馬車と、襲撃者が用いた矢、荷馬車が積んでいたと思われるレモンを発見する。そ の後、捜索隊も、Vartemberskémの城に入る。

  ウルリヒはそこで、Vartemberka家の娘、リュドミラに会う。リュドミラはVartemberka家のMarekの娘 で、子供の頃から面識があっ た。 彼女は今はJestrebi家 のAdalbertの妻だが、Dubé家のBenes(ベネス)と結婚できるよう、取り計らって欲しいと相談を持ちかける(左は僧侶で、ウルリヒではな い)。

 その夜、 ウルリヒ一行歓迎の祝宴が開かれる。下記はその楽団。3人だけ。

  中世チェコの地方の城館の夜宴の規模と様子は、こんな感じだったのかも知れません。雰囲気は非常に良く出ているように思えまし た。立ち上がっているのがウ ルリヒ。中年(30代後半から40くらい)だし、あまりハンサムではないし、地味な容貌。そこがまたリアルな感じでいいんですけ ど(部下のオタやデーヴィ スは二枚目でかっこいい)。

 リュドミラの装束。

  夜宴後の踊り。夜宴の途中で、楽団のうち、リュート演奏者と、貴族の一人Jestrebi家のAdalbertとの間でトラブル が発生し、リュート奏者は 切りつけられて若干の怪我を負い、退出させられてしまう。踊りの時間となり、宴席の横の広間で踊りが始まるが、楽師は2人に減っ ていて、踊りの参加者も数 名。これもこの時代の地方貴族の様子がよく出ている感じです。

   ところが、城館の外では、ある貴族が何者かに襲われて刺殺される事件が発生し、ウルリヒ隊の兵士が知らせにくる。 容疑者はリュート奏者で、 ウルリヒ一向が来る直前にも、彼の婚約者の城館の侍女が、城館内の畑でその貴族に手篭めにされそうになったりしていたのである。納屋で寝ていたリュート奏 者をたたき起こし、尋問するウルリヒ隊の若い騎士Ota ze Zastrizli(オタ)。しかし彼はやっていない、という。
 ウルリヒは城主Adalbertから事情聴取を行う(下記)。既にステンドグラスの窓がある。尋問の前、扉が少し開いて、誰か が聞いていた、そのうち静かに閉まる(あからさまに犯人の行動と思える場面)。


  翌朝、坊主頭の騎士が、城の使用人部屋にいる若い騎士(オタ)のところに来る。オタは昨夜死んだ貴族の情報を得ようと、侍女と納 屋にしけこむ。が、適当な ところで切り上げる。ウルリヒは料理人のおばさんから事情聴取。ところが、第二の殺人事件が発生する。城館の主人、 Jestrebi家 のAdalbertが起きてこないので、皆で扉を開けると、窓が開いていて、城の崖下で遺体となって発見されたのだ。城館の主だったメンバーが遺体の前に 集まり不安げな様子(下記写真)。ウルリヒは皆に向かって、「これは自殺ではない!」と告げるのだった。

 ウルリヒは調査を開始する。遺体の前で泣き崩れるリュドミラや、リュート奏者を尋問するウルリヒ。下記はそのときのリュドミ ラ。毎回独特な衣装。

 一方、城主の死にもかかわらず、騎士のトーナメントが開催される。
 地方騎士トーナメントなので、貴族の観客席もこじんまりとした感じ。城の使用人や周囲の農民も観客として来ているようである。

 これは観戦しながらも、捜査員の目で参加者を見るウルリヒの部下たち。当時のチェコの兵装ってこんな感じだったのでしょうか。

 Dubé家のBenes(ベネス)の腕にハンカチーフをつけるリュドミラ。当時の騎士と貴婦人の間で行われた習慣だったと思う のですが、実際の場面は始めて見ました。しかし夫が死んだ日にこのようなことをするのは人目についた。

 何度か試合は行われ、ベネスが優勝する。

 喜ぶリュドミラ。この衣装も面白い。

 続いて射的大会が開催される。坊主騎士が腕を披露する。
 その一方、ウルリヒの従者オタとVelitel Divis(デーヴィス)は、遺体がどの部屋から落ちたのかを調査する為、オタが窓から藁を詰めた袋を落として、どこにおちるかの実験を行う。下で待って いるのがデーヴィス。とりあえずどこの窓かは判明した。

 その夜、再度リュート奏者の尋問が行われ、更に見張りの兵士に何かをウルリヒ達が吹き込んでいると思われる場面が出てくる。 トーナメントに勝利した騎士ベネスと早速ベッドインしているリュドミラ。

 翌日広間で裁判が行われる。

  まず、坊主頭が審問され、殺された荷馬車の男が刺されていた矢と、昨日の射的競技会の矢が同じものであり、現場に落ちていたレモ ンと、彼が調理場で持って きたレモンが同じものだと証拠を提出し、坊主頭の騎士は捕らえられる。彼は、Vartemberka家長Marekの従者のよう で、Marekに杖で叩き のめされる。続いてMarekの言い分を審問してから一時閉会となり、全員廊下に退出する。ところが、部屋の中に残ったデーヴィ スとオタが、窓から上の部 屋にロープを伝って移動していたのだった。上の部屋はどうやらベネスの部屋のようで、最初の殺人の短剣も証拠として提出される。 ベネスに疑いがかかる。

 ところが、夜、皆が囲む中、なぜかベネスとウルリヒが決闘となる。武具はつけず、シャツのまま。ウルヒリは何度かきりつけられ 地だらけになるが、最後に逆転勝ちし、ベネスを殺す。それを城壁の上で観戦していたリュドミラは、城壁から飛び降り死ぬのだっ た。

 こうして事件は、犯人の自白の無いまま終幕を迎えた(聞き取れていないだけで、本当は自白の後、決闘となったのかも知れません が、王の派遣した管理官の裁判で追及されて決闘に及ぶというのは、罪を認めていない、ということなのではないのでしょうか?)。

  このようにして、王の代官の仕事は終わった。当初の任務であった、Dubé家とVartemberka家両家の紛争は解決したの かどうかわからないが、両 家とも死者を出したことで、痛み分けとなったかも知れない。翌朝Vartemberka家当主Marekは従士を率いて引き上げ てゆくのだった。

〜Konec〜

関連書籍
  『中世チェコ国家の 誕生―君主・貴族・共同体』藤井 真生著/昭和堂/2014/03 

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参考に読んだ書籍の感想:王権と貴族―中世チェコにみる中欧の国家
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