タイ歴史映画「キング・ナレスワン アユタヤの勝利と栄光 第2部」

 タイ歴史映画「キング・ナレスワン アユタヤの 勝利と栄光(The ledgend of King Naresuan/中国題名 国王伝奇」)の紹介。こちらの日本語wikiでも紹介がありました。Wikiによれば、既製作分は、2部構成 で、それぞれ167分と169分とのこと。私が見たのは中国で発売されていたdvdで、第2部に相当する部分の内容。しかも 158分と少しカットが 入っていたようです。

 タイの歴史についてほとんど知識が無かったことから、珍しい映像が多く楽しめました。

  ナレースワンは、タイ・スコータイ朝のラーマカムヘン(1239-1317年、在1277-1317年)、チュラロンコーン (1853-1910年、在 1868-1910年)と並ぶ、タイ三大王とのこと。恥ずかしながらまったく知りませんでした。史実の通り、当時のタイ・アユタ ヤ朝は、ビルマのトゥン グー朝の支配下にあり、王子ナレースワンはアユタヤ北部のピッサヌロックの知事として赴任し、配下の忠臣を集めているところから 始まります。上はその、 ピッサヌロックの都城。下左はその街並み。

 王子(中国語では、「黒王子」と呼ぶらしい)のもとに、ビルマ政府から使者が来て告げる、

 「国の辺境に侵攻者がある。大城国(アユタヤの意訳)へ行って、討伐軍を出すように使者に立て」

 後の会話から、この侵入者は、どうもビルマ王巴因(Nandabayin,在1581-1599年)のことらしいのですが、ど うにも筋がおかしいので、英語版Wikiの映画解説を 参照するに、このときの会話は、侵入巴因軍の討伐云々ではなく、ビルマの征服王Bayinnaungの死去にあたって、大城王に 葬儀に参列するように、と の使者だった模様。。。。。 最初は、私の中国語の読解力が低い為に筋を取り違えていたのか、と思ったのですが、あまりにも Wiki記載の筋と違うので、 どうやら、中国語字幕は、勝手に字幕を創作していたようにも思えます。そこで、本作の筋は、Wikiをご覧いただくとして、私が 理解できた範囲での中国語 字幕の筋をご紹介したいと思ます。といっても、違いは、多くはありませんが。。。。(上右写真は、大城国の宮廷。中国宮廷とはだ いぶ違う感じです。国王は 高座の奥まった場所にいて、中国皇帝よりも偉そうな感じ)

 中国語字幕では、巴因国軍(征服王Bayinnaung/1515-1581 年のことか、息子のNandabayinのことかは不明。中国語発音では巴因はbayin。Wikiでは、Bayinnaung を次いだ国王は、 Nonthaburengとなっています)が侵入の準備をしていて、虹沙国(Peguのことらしい。中国語発音では hongsha)では、大城国に、巴因 軍への討伐に参加するよう、指令を出す。そこで王子が軍を出し、虹沙国へ行くと、国王(おそらくこれが、本来の筋では、死の床の Bayinnaung王な のだと思われる)は、死の床にあり、王子に対して、「虹沙国の保全を頼んだぞ」みたいな言葉を残して死去。巨大な象(高さ20m くらい)を燃やして遺体を 荼毘に付した葬儀が印象的。

  葬儀が終わると、突然場面は、新国王の朝議。そこでは、巴因国の話はどこかに行ってしまっていて、トゥングー朝支配下の属国の 面々が集い、属国のひとつ、 「康国」が従わないのでけしからん、という議論に。最終的に3つの烏合の衆のような軍隊(ひとつは、虹沙国の新王子軍、ひとつは 黒王子)が派遣されること に。

 上は、虹沙国の王座の新王。かなり偉そうな感じ。左下は国王。装束に注目。中国ドラマの皇帝よりも華麗な感じ。右下は、(確 か)大城国都城。


 





 というわけで、政治的な背景は適当に変えられて(まぁ、当時のタイが、隣国ビルマの影響下にあったことがわかるだけでもOKと いうことなのかも)、華やかな戦争場面に突入します。

 左下の画像は、従わない康国を攻める虹砂国(ビルマ)の王子。いかにも「華麗なだけ」で中身が無さそうな馬鹿王子。しかし、こ の映像一発で、当時のビルマの装束に関する漠然とした先入観が大いに衝撃を受けることになりました。

一 方右写真は大城国(アユタヤ朝)の黒王子(ナレスワン)とその配下の兵士。タイの武具についても一切知識が無かったので、まるで 中南米を侵略したスペイン のコンキスタドーレス。これが史実なのかすら判断がつかないのですが、とりあえず中近世タイの武具について興味が出てきました。 考えてみれば、これまでこ の地域の装束や武具に関する資料すら見た記憶が無いというのは、まだまだ日本の歴史出版も、空白地帯が多いということなのだと 思った次第(いえ、私が知ら ないだけなのだろうけど)。

  上は兵士の全体図。オプスレーのイラスト図鑑に出てくるようなショット。他のブログの解説では、この地域では、下草が多いため、 脚は重装備されていない点 が史実に忠実、と記載されていました。また、この当時のビルマには、ポルトガル人が進出していて、ビルマで傭兵として雇われてい たこと、ビルマに人質と なっている最中に、ナレスワンがポルトガル式装備の知識を得ていたことなどからして、イベリア半島風の武装は、実際こんな感じ だったということなのでしょ う。
 といいながら、雑兵は、下記のような、竹か木で造ったような簡素な武具。なんだか、士官と兵卒で、装備に大きな格差があり、士 官の装備は、結局欧州からの輸入品なのではないかという気がします。下右は、ビルマ軍の装甲騎兵。もうまるっきり中世欧州。


  さて、映画は、タイ・ビルマ混成軍が康国を攻めることになるのですが、峻厳な山間部にある難攻不落の要塞となっていて、なかなか 陥落しない状況。砦の上か ら、岩や矢を雨あられと浴びせ、ビルマ勢を寄せ付けないのですが、空中高いところから、砦の上で岩を投げ下ろす康軍を、はるか高 みから見下ろす映像など、 従来の作品に無い斬新なショット。従来だと、この手の映像は、投げ下ろす兵士を横、或いは下から見上げる形のショット。しかも近 接して、一部だけをクロー ズアップするショットが多いのですが、この作品は、遠めから、攻め寄せる大軍に岩矢が浴びせられるショットが多用されていまし た。先進国の映画をなぞるだ けではなく、この作品オリジナルな工夫が随所に見られ、単にタイの歴史映画を見る、というこではなく、「本作でしか味わえない映 像を見る」 ことに価値の ある、完成度の高い作品となっています。中国の映画やドラマの場合、90年代の発展期では、平凡な映像の作品の時代があったので すが、タイの場合、一気に 最先端に追いついたのではないか、と思わせられる映像でした(といっても、発展期も何も、タイ映画を見るのはこrが初めてなの で、要するに、タイ映画にも 長い前奏があった筈なのですが、私がそれに無知なだけなわけですが。。)。

 康国攻めは、最後に黒王子が闇夜にまぎれて侵入し、ゲリラ的 な活躍で陥落させるのですが、彼の軍の武勇はビルマの王子の嫉妬を買い、刺客を差し向けられたりします。そこで黒王子は、衆を率 いて独立を宣言、タイに帰 国することに。このあたりに経緯からすると、ビルマ領内に多くのタイ人が居住していて、映画の後半は、彼らとともにアユタヤ領内 に帰国する黒王子の軍隊 と、それを追撃するビルマ軍との壮絶な戦闘がひたすら描かれています。黒王子が、民衆を前に独立演説する場面は、この手の民族独 立作品(例えばブレイブ ハートや、古くはスパルタクス)と同様、ワンパターンな演出とはいえ、大いに盛り上がりを見せていました。

 こうして開かれたタイ・ビル マ戦ですが、双方が、自前で開発したものではなく、欧州からの輸入品(と思われる装備)で仮物の戦闘を行う様は、将来の植民地時 代・帝国主義時代への道を 思い起こさせ、英雄的な戦闘映像とは裏腹に、気分が滅入ってきてしまいました。とはいえ、地元装備がまったく無いわけではなく、 下の象軍がその一例。とい いながら、双方ずらりと大砲を並べて、ガンガン砲撃し合う様は、もう、近代戦。大迫力な映像。

  またその一方で、獰猛な野獣とされる孟族。ビルマ側の傭兵として雇われていましたが、近代的な装備と野蛮さが同居する不思議な空 間。その孟族の頭をぶった たいてスイカのように割る女兵士。康国の王女は戦闘力の高い戦士として描かれており、王女の率いる女性だけの親衛隊の力量も高 く、娯楽要素満載という感じ の作品に仕上がっています。それにしても、ここまで女性が躍動して活躍する映画って、日本ではあるのでしょうか。。。

 日本の流れ武士もタイ側の傭兵として登場していて、時代をずらして山田長政を登場させたとの指摘もあるようですが、こちらwikiの紹介では、特に言及はない状況。武士は一人ではなく、数名が登場 していていましたが、下画面の武士は、そのリーダー格で、王子直属の将校の一人として描かれていました。

彼は、ラスト近く、全軍が西都河(Sittoung河)を渡った後、西都河に架かる舟橋を爆破する為に、船の上から火矢を放つと いう重要な役回りを演じて いました。日本人が重要な役どころとなっているのは、嬉しいところ。下は、最後に渡河する黒王子とその妹。次々と爆発する舟橋の 炎に追いかけられ、全力で 渡りきる映像は、もう途上国の作品の発展がどうのなんてことは忘れ、ひたすら映画の世界に没頭できました。私は基本的に戦争の時 代は嫌いなのですが、とに かく圧倒され続けました。史実性やノリとなると、「赤壁(レッドクリフ)」のようなノリの作品ということになるのでしょうが、馴 染みの無いタイの歴史への 扉としては、問答無用に惹きつけられる内容。歴史を学ぶ対象としては、平和な社会が良いのですが、映画として見る場合は、戦争モ ノの娯楽性は確かに重要か も。わかりやすいしね。






  ラスト、王と妹が渡りきった後、両岸で大砲戦。更に大砲ごと渡河をしそうな気配を見せるビルマ軍に対して、父王が大城国から持っ てきたとされる「神の槍」 を持ち出す黒王子。キリスト教の棺のような、豪華な箱に収められた神の槍とは、伝説の、霊力を帯びた古びた槍なのか、と思ってい たら、出てきたのは、銃身 が2mはあろうかと思われるライフル。一撃で川向うの司令官を射殺。すると敵軍撤退。え?そんなあっさり?今までの猛攻はなん だったの。まあいいか(この ショットは、シッタン川越えの王の一撃」として伝説として語られている有名な場面とのこと)。


  というわけで、2回で終わりといいながら、段々興奮してきたようで、結局3回文くらいの分量を書いてしまいましたが、ストーリ的 にはあまり得るところは無 いものの、それを補ってありあまる楽しめる映像が満載な娯楽作品となっています。お陰でラーマカムヘンとピヤタークシン、チュラ ロンコーンくらいしか知ら なかった近代以前のタイの歴史に関し、一気に多くの知見を得ることができました。このところの一連の映画紹介シリーズも、そろそ ろ終わりにしたいと思って いるのですが、「スリヨータイ」も見てしまいそうです。。。。。

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