セルジューク朝ドラマ「オマル・ハイヤーム」(2)第7話から12話


  ドラマ「オマル・ハイヤーム」第七話から第十一話。最盛期を迎えたセルジューク朝を扱ってい て主にニーサーブールのセルジューク朝の宮廷が舞台である。 アルプ・アルスラーンのカラハン朝侵攻とその死(1072年)から、オマル・ハイヤームとハッサン・サッバーハがセルジューク朝 に仕える様子が描かれる。 サッバーハは失脚し、一方のオマルは暦制定業務に成功するなど明暗が分かれる。逃亡先のカイロでイスマーイール派に改宗したサッ バーハがイランに舞い戻っ てくる頃(1081年頃)迄を描く。

第七話

 西カラハン朝のサマルカンドの宮殿(ロケ地はレバノンの、19世紀にオスマン朝の総督が建設したベイト・エッディーン宮殿。現 在観光地)。

 カラハン君主ナースィルは余興で、奴隷女に口一杯金貨を頬張らせ、口にいれることができば分を奴隷女をオマルに与える。

 セルジューク朝最盛期の宰相ニザーム・アル・ムルク(1017-92年)登場(右)。左はアルプ・アルスラーン。
 

 オマルがサマルカンド宮廷訪問後、総督家に寄ってから自宅に戻ると、宮廷で金貨を口に入れさせられた奴隷女がいるのだった。オ マルへ贈与されたということらしい。直ぐに妻のような顔をしてオマルの家にいつく女。

  この奴隷女は、サマルカンドを取り巻く政情に通暁していて、タバリスターン(カスピ海南岸地方)、ホラズム(アラル海東部)、サ マルカンドの南にある、中 央アジアとイラン・アフガニスタン地方との境界であるアムダリア(アム川)でセルジューク軍と現地軍で戦いとなっている様子をオ マルに語る。それと交互し て、実際の戦闘場面が映る。

 アルプ・アルスラーンは、元々セルジューク族の故地であった西トルキスタン地方に勢力を拡張してきた西カラハン国へ侵攻を開始 する。右はアムダリア河に船橋を渡して渡河するセルジューク軍。左画像の左はアルプ・アルスラーン。右なその息子マリク・ シャー。

  サマルカンド、ホラズム軍は城内に退却したり、夜間に出陣したりと、奮戦するが、ホラズムのアム川沿いにある砦を守る総督ユース フがセルジューク軍に捕ら えられる。アルプ・アルスラーンの前に連行されてきたユースフに対し、アルプは剣を鞘に収め、矢で射殺そうとするが、矢は外れて しまう。ユースフはすかさ ず左右の兵士を突き飛ばし、剣を奪ってアルプに投げつけるのだった。
 

こうしてマンジケルトの戦いでビザンツ軍を破ったアルプ・アルスラーンは陣没した。皇子マリク・シャー、ニザーム・アル・ムルク らに看取られて臨終するのだった。

 後継者はマリク・シャーで問題ない筈だが、なにやら陰謀が企てられているようでもある。左はマリク・シャーの弟、シリア・セルジューク朝開祖トゥトゥシュ(在1085-95年)。右は不明(第十 話冒頭で天文台のオマルを訪ねてくる)。二人の会話には陰謀めいたものがあった。

会話ではオマルの名も頻繁にあがっていた。オマルをどのように利用するつもりだろうか。


第八話

 オマルは後にイスラーム世界を揺るがすことになる若き日のハッサン・サッバーハと出会う。その結果、二人、ニシャプールに向け て旅に出る。

 マリク・シャーの弟トゥトゥシュはサマルカンドに赴任してきて、サマルカンド総督アブラハと面会している。前回の遠征で、サマ ルカンドは西カラハン朝からセルジューク朝の手に渡ったということなのだろう。

  ニシャプールに戻ってきたオマル。トゥトゥシュもニシャプールにやってきて、オマルの昔の家の近所の浮浪者にオマルの家を見張る ように命ずる。オマルが帰 宅したら知らせるようにと。こうしてオマルはトゥトゥシュとともに、宰相ニザーム・アル・ムルクの邸宅に招かれる。オマルは、ニ ザームになにやら説得され たようである(下左はニサーブールの市場の門。右は市場)。

  市場や泉で考えにふけったオマルが家に戻ると、ハッサンが来ていた。ハッサンを家に招き入れる。翌日再び宰相ニザーム邸を訪れる オマル。オマルはハッサ ン・サッバーハを推薦し、ハッサンがニザーム邸にやってきてニザームに挨拶する。ハッサンがオマルに近づいたのは、ニザームに取 り入り、役人として採用し てもらう、ということだったのかも知れない。三人がはじめて顔を合わせた場面。

 オマルが招聘されたのは、天文台の建設と運用の為だと思われる。ニサーブール近郊に建設中の天文台を、トゥトゥシュとオマルが 訪問する場面が出てくる。


  宰相ニザームは、マリク・シャーの宮廷に赴く。暗い広間。左下広間の奥の壁に、アフラ・マズダのような紋章が見えている。古代イ ランな雰囲気がただようセ ルジューク朝の(このドラマでの)描きぶり。右はマリク・シャー。マリク・シャーは、ニーサーブールで政務を執っている。

  ニザームの口からオマル・ハイヤーム・イブラヒームと、ハッサン・サッバーハの名前が出ている。天文台のオマルとハッサンが訪ね てくる。ハッサンは夜にな ると、ニザームを訪ねる(以下がハッサン。顔の特徴がよく出ているショット)。なにやら交渉はあまりうまくいかなかった様子。

 天文台に設置されている天球儀。左はオマル、右はバグダッドからニザームにより招聘された学者。オマルが天球儀を見せて説明し ている。



第九話

  ニーサーブールの後宮から、突然一人の侍女が誘拐され、ハッサン・サッバーハの秘密基地の地下牢に閉じ込められる。夜サッバーハ がやってきて、侍女から情 報を聞きだした後毒殺する(右はその地下牢の侍女(右)とサッバーハ(中央)。左画像は、ニザームの家で会うニザーム(左)と トゥトゥシュ(右)

 翌日何食わぬ顔で宰相ニザームのもとに出向くサッバーハ。マリクシャーは、女官長から報告をうけて激怒する。マリク・シャーの 宮廷(左)とマリク・シャー。
 

 マリクシャーの宮廷のシャンデリア。

 サッバーハは地下牢にニザームと役人ともにやってきて、毒殺されて横たわる美女を発見する。ニザームとサッバーハはマリク・ シャーの元に出向く。

 夜マリクシャーが後宮で王妃タルハン・ハトゥン(ルギャン、ドルガン、タルカン、トルカン、トゥルカンとも聞こえる)に、今回 の侍女遭難事件について相談している。王妃初登場場面。後宮の部屋の中には噴水がある。噴水前に立つのはマリク・シャー。王妃は 奥の寝台にいる。

 右と、左画像の右側が王妃タルハン。左画像左は女官長エスマ。マリクシャーはムーレイ、王妃はムーラティと呼びかけられている (陛下、閣下という意味だと思われる)。王妃は女官長に資金を渡す。王妃の装束も古代ペルシア風である。

 天文台を訪問するニザームとトゥトゥシュ。施設内部を案内するオマル。右画像は、水時計を説明するオマル。

 サッバーハがマリク・シャーに国家財政のチェック業務を行うことを説得している(これは史書に残る有名な逸話)。王妃ハトゥン の侍女(女官長)がサッバーハの元を訪ねてきて、王妃に呼び出されるサッバーハ。王妃の元に出向く。何やらたくらんでいる感じの 王妃。

  恐らく、こういうことではないかと思う。王妃は、王弟イスマーイール・トゥトゥシュが邪魔者である。トゥトュシュに近いニザーム や、トゥトゥシュが推薦し て天文台に採用されたオマルもトゥトゥシュ派とみなしている。そこで、サッバーハに肩入れし、トゥトゥシュの権威を失墜させるこ とを目論んでいる。

  王は当初宰相ニザーム・アル・ムルクに財政報告を命じるが、ニザームは、手間のかかる業務に、六ヶ月の猶予を申し出たが、サッ バーハは2週間で決算報告書 を作成できると申請し、仕事はサッバーハの手にゆだねられる(左画像はニザームとマリクシャー。中央画像は、サッバーハがマリ ク・シャーに決算報告書作成 事業を命ぜられるところ。右は、サッバーハと部下の書記達が夜を徹して決算報告書作成を行っているところ。
 


 王妃はオマルも呼び出す。王妃は、陰謀に加担するように説得に来たようで、王妃が去った後、妻にも説得されている。その妻の装 束は古代イラン風。

 トゥトゥシュとニザームは陰謀工作の密談をする。

 2週間後、サッバーハはマリクシャーに書類を提出する。王の前で報告書の頁をめくりながら、書類の順番が違うことに驚き慌てる サッバーハ。それを冷ややかに見るニーザムとトゥトゥシュ。

 映像では出てこなかったが、史書に残る逸話では、ニザームが、部下をサッバーハの書記の中にもぐりこませ、完成した報告書の一 部を抜き出し、頁をでたらめに入れ替えたという話である。

 以下は、あまり出てこなかったが、ニーサーブールの宮殿の概観映像。右手の樹木の後ろに見えている飾り窓がオスマン朝時代風で ある。これもベイト・エッディーン宮殿同様オスマン時代の史跡をロケに利用しているのかも知れない。



第十話

  慌てるサッバーハの前で、宰相ニザームは、「こんな面倒で重大な仕事を、このような無能な人物に任せた結果がこれです」とマリ ク・シャーに進言する。オマ ルは若干サッバーハを弁護するような事を進言する。この時王は「あれは誰だ?」と側近に聞き、王ははじめてオマルを認識する機会 となったのだった。王は サッバーハを宮廷から追放するのだった。

 事態が首尾良く進んだニザームとトゥトゥシュは、ニザームの自宅で、陰謀に加担した書記に報奨金を渡す。

 マリクシャーとニザームが天文台の見学に来る。左画像の右がニザーム、左がオマル。右画像中天球儀の後ろの白い人物がマリク・ シャー。その左がオマル。スルタンの右がニザーム。

 この水時計と天球儀のある階の天井は、以下のようなドームとなっている。空の色の違いから、格子にはガラスがはめられていると 思われる。宮殿の窓さえ、ガラスが無いので、この演出は少し無理がありそう。

 オマルはニザーム邸に呼び出される。今回の一件に加担しなかったことや、宮廷でサッバーハを弁護するような言葉を口にした件を 水に流そう、という話をしているものと思われる。

 ある夜、白装束のハッサン・サッバーハがオマルの家を訪ねてくる。当局の追跡を受けているようで、頭からすっぽり白い布を被っ た貧民を装い、逃亡装束。オマルは歓迎し、両者抱き合って友情を確認する。

  まあ、そんなに仲良かったわけではなかったと思うが、恐らくオマルが宮廷でサッバーハを弁護するような事を口にしたことが、サッ バーハの好印象をもたらし たのだろう。サッバーハはこの後、テロ組織を作るが、オマルだけは最後までテロの対象外に置くことになるのだった。オマル、何気 に政界をうまく泳いでいる 感じ。

 オマルの妻(正式かどうかはわからないが)がオマルの家に来ている。二人で夜空を見上げる場面。キスが出ないのはイスラーム圏 製作ドラマなので仕方が無い。本ドラマでもっとも印象に残った場面のひとつ。

  上左画像の左手に、ドームを持つ建築物が見えているのも非常に興味深い。セルジューク朝以前の中東イスラーム圏のドーム建築は、 基本的に木造のドームだっ た。レンガ製のドームは、サーサーン朝以来のレンガドームとイーワーンの伝統を受け継いでいたイランや中央アジアで受け継がれ、 セルジューク朝あたりか ら、巨大ドーム建築が発達し、それがエジプトや小アジアやアルメニアに伝播し、ビザンツドームと融合したと考えられているそうで ある。セルジューク朝の ドーム建築は、移行期の建築として非常に興味深い題材である為、ドラマとはいえ、思わず注目してしまう。奥さんはブハラ、マシュ リク(東方地方の意味)と か口にしている。天空だけではなく、地理的に広く世界に思いを馳せた会話をしているのかも知れない。

 黙々と仕事をする天文台のスタッ フ。同僚の学者やスタッフが増え、天文台の運営は順調なようである。同僚との会話にイスカンダリーヤ(コンスタンティノープル) と頻繁に登場している。水 時計に関する開発で、(この技術は)イスカンダリーヤでは実現しているのに。と言っている様子で、開発の壁にぶつかっているよう だ。ヒッパルコスという単 語も会話に登場している。

 奥さんと一緒に馬で散歩するオマル。案外このあたりが、本ドラマの中でオマルが一番幸せな時代なのかも。ちなみにこの奥さんは いつの間にか王妃の侍女として宮廷に仕えている。

 サッバーハ検挙隊が町を捜索。トゥトゥシュ自身も捜索に参加している。


十一話

 冒頭、湖の側から天文台を見たところが映る。

  なにやら発見したらしいオマル。飛び上がって喜んで、発見を記載した紙を同僚に見せ、その後馬に乗って「ヤッホーイ!」と奇声を 上げて出てゆく。しかしオ マルが向かったのは墓場で、墓堀人に何かを尋ね、金を渡して何事かを頼む。なんとトゥトゥシュがオマルの後をつけてきていて、墓 堀人にオマルの依頼内容を 聞く。今度はどんな陰謀を計画しているというのだろうか。

 オマルは宮廷に呼ばれ、マリクシャーの息子の病気を診断することになる。取り乱す后。

 マリクシャーの息子の玩具の木馬。

  トットッシュが天文台にきてオマル含む研究者になにやら目つき鋭く厳しそうな事を言って去る。どうやら事業の成果物のプッシュし に来た模様。恐らくこれ は、ジャラーリー暦の開発を行っている(後で、マリクシャーに、ニザームがジェラリーヤと言っていることからわかる)。目処が付 いたところで、同僚の二人 の学者が、書籍をニザームに提出に行く(この時ニザームは、”シャムシ・アッ・ダウラ”とも呼ばれている。ついでに言うとこの時 ニザームは、マリクシャー を”ジェラルディーン・マリクシャー”と呼んでいた)。ニザームの査収を経て、書籍は王に献呈されることになる。

 ちゃんと製本してあるところがサッバーハ版と違うところ。案外トゥトゥシュが、成果物をちゃんと製本しておくように忠告したの かも知れない。

 ニシャプールの街路で、布告使が太鼓を叩いて歩き回り、スルターン・マリクシャーの名の元に市場でなにやら触れ回る。ジャラー リー暦で予想された天文現象の予想のようだ。宮殿でも家臣・侍女達がバルコニーや屋根の上に出て眺めようとしている。

 上左画像のバルコニーにはニザームとオマル、マリクシャーがいる。皆が眺めているのは日没である。

 ニザーム(左)がマリクシャー(右)に、マグリブ(西方)・マシュリク(東方)などと説明している。どういう天文現象かはわか らなかったが、ジェラーリー暦の正確性の検証なのだろう。

 夜、天文台に戻り、なぜか泣いているオマル。そこにトゥトゥシュがやってくる。

  天文台にある夜、サッバーハが密かにオマルを訪ねて来る。イスマーイーリヤ、スフィー、ニサプール、マドラサ・アル・カーヒル、 ジャミーヤー、リバーを口 にするハッサン。これらの単語から推測するに、サッバーハは、イスマーイール派に改宗し、今はスーフィー(修業者)となり、カイ ロ(アル・カーヒラ)のマ ドラサ(宗教学院)で修業し、ニーサーブールにジャミー(モスク)やリバート(修業場)を作りに戻ってきた、ということかも知れ ない。特にオマルを誘いに 来たわけでは無いようだが、翌朝サッバーハは100名程の聴衆を郊外に集めて演説する。自ら”シェイフ・ジャバル(山の老 人)”、と名乗る。

  西カラハン王久々の登場。サマルカンド長官アブラハがカラハン王の使者としてニーサーブールのトッテッシュの元に派遣される。 サッバーハはカラハン王を訪 問する。この時のカラハン王はアフマド・イブン・アル=ヒドゥル(アフマド1世)(1080/81年-89年)の代になってい る。

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