セルジューク朝ドラマ「オマル・ハイヤーム」(4)19話から23話


   2002年シリア・レバノン共同制作。中世イランの大学者オマル・ハイヤーム (1048-1131年)の生涯。第18話から最終回23話(1092年か ら1121年頃迄)。政変に翻弄され、思想を糾弾され、次第に孤独に陥ってゆくオマルの晩年が描かれる。


第十九話

  胸を刺されて虫の息のマリク・シャーの元に王妃と侍女(オマルの妻)が駆けつける。医師が王妃に、手の尽くしようが無いと告げる (マリク・シャーはいつの 間にか息を引き取る)。王妃トゥルカン・ハトゥンは家臣達に今後の対応についてこまごまと指示を出す。マリク・シャーの遺体は、 雨の中、ピクニックの出先 のその辺の林の中に埋めるのだった。その頃、暗殺成功の報告がサッバーハに届く。

 どこかに出かける準備をしているオマル。奥さんが止めるのにもかかわらずとっとと出て行ってしまう。ここも経緯がわからなかっ た。台詞がわからないのが残念。オマルはニシャプールの家に戻ったらしい。

 トゥルハン・ハトゥンは、転寝をしている時、砂嵐の砂漠で首まで埋まった土気色(ゾンビメイク)のマリク・シャーに鋭い目つき で見上げられる夢を見て飛び起きる。この映像はちょっと良かった。

 サッバーハの使者が、後の西カラハン君主マスウードの軍営に赴く。マリク・シャー死後の混乱状態に、西カラハン朝はセルジュー ク朝からの独立を画策しているのだと思われる。これがマスウードと思わしき人物。

 一方マリク・シャーの王妃トゥルカン・ハトゥン(右。左はオマル妻)は玉座に座り使者を謁見する。息子が幼年の為、事実上政務 を取るようになったようだ。

 玉座のトゥルハン・ハトゥンの左隣に立っているのはオマルの妻トゥライヤである。後々この点が重要になってくる。

 オマルの妻は天文台を訪れるがオマルはいない。


第二十話

  林の中を黙々と進軍している軍隊が映る。攻城兵器があるので正規軍である。これは西カラハン朝の軍隊のようである。天文台を訪ね てもオマルがいなかったこ とから、オマルの妻はニサブールのオマルの家までやってくる。オマルは読書していた。何を話たのかはわからないが、妻は冷たい顔 をして去る。

  摂政トゥルカン・ハトゥンから、カラハン朝アミール(多分後のマスウード。この回後半で名前はマスウードだと判明するので、西カ ラハン朝君主マスウード一 世(1095-97年)だと思われる)に使者が出る。これはだまし討ちで、ハトゥンの家臣がマスウードを捕縛し、地下牢に閉じ込 めるのだった。

  ところで、この頃サッバーハ陣営では、ユースフという若者のエピソードが続いている。彼はどうやら教団の厳しい生活についていけ なくなり、拷問訓練(?) されたり、牢獄に軟禁されたりした挙句、最後は塔の上から飛び降り自殺してしまう。イスラーム圏のドラマとしては良く描いたとい う感じがしないでもない が、教団幹部の一人であるアバー・スラーフは、どうやらユースフに同胞愛以上のものを抱いていたようで、拷問訓練で鎖につながれ 気絶しているユースフに内 掛けをかけてやったり、ユースフが塔から飛び降りた時は、涙を浮かべ、しかも彼は教団を出て行ってしまうのである。恐らくユース フとスラーフは同性愛に あったと思われる。ユースフは、そのことに苦悩して情緒不安定になり、教団生活から逸脱してしまったのではないかと思われる。脱 走したアバー・スラーフ は、教団軍に追われ、幹部の一人アブー・ミルチャの手にかかり射殺されるのだった。

 さて、セルジューク王宮では、トゥルハン・ハトゥン の暗殺事件が発生する。オマルの妻(名前はトゥライヤだと思っていたが、この時はマートゥーガー・ハトゥンと呼ばれているように 聞こえた)は、重臣との会 議(といっても3人だけだが)で、重臣の一人がバルキヤールを押したのに対して、オマル妻はトゥルハン・ハトゥンの遺児マフムー ド(西カラハン王子のマフ ムードとは別)を押し、そのままマフムードをそのまま即位させる。元々は西カラハン朝王宮の奴隷だったオマルの妻はいつの間にか セルジューク朝宮廷の権力 者となっていたのだった。


が、 そうは簡単な話ではなく、重臣ヤージーブはカラハン朝のマスウードを牢獄から連れ出し、クーデタを画策する。後宮にいて、不穏な 空気を感じたオマル妻はマ フムードと地下に避難する。オマルが地下室にやってくる。脱出を薦めにきたのかも知れないが、説得はできなかった。一人牢獄を後 にするオマル。反乱軍が宮 殿に押し寄せてくる。スルタンを探す反乱軍は地下のオマル妻のところにまで入ってくる。オマルの妻(と幼児スルタン・マフムード の運命はいかに!?

 反乱軍が後宮に突入した時、初めて後宮の天井が映る。どうみてもオスマン朝建築である。恐らくシリアかレバノンあたりの18、 19世紀のオスマン史跡でロケをしているのかも知れない。


第二十一話

 城砦の上の靄の中に消えてゆくオマル妻の死のイメージがオマルが頭の中に現れる。オマルの妻が討ち取られた瞬間を予感させる。

 マスウードは軍隊を率いてニシャプールに入城する。ニサーブール市民に”マスウード!”と歓呼で迎えられている。

  天文台のところにいるオマルは連行される。オマルはイスラーム教正統派からすると異端的な思想を持っていた為、度々思想を糾弾さ れてきた(第十五話)が、 今度こそ弾劾裁判に近い追求をされる。こういう事態に陥ったのも、恐らく後宮とのコネクション(オマルの妻)を通じたセルジュー ク朝の庇護を失ったからだ と思われる。天文台の文書も焚書される。文書を救い出そうと燃え上がる塔に飛び込むオマルは侍人に引き出され命は失わずに住ん だ。

  オマルの友人マルターンはオマルにメッカ巡礼を薦める。その知人とともにニシャプールの城門検閲を通り抜けるオマル。友人と二人 で旅を続けながら、オマル は若い頃幼馴染の友人アリーとニシャプールの書店に通ったことや、妻と乗馬した時の事などを回想する。オマルはバスラ(南イラ ク)かどこかにたどり着き、 そこの学院で教えている。聴衆が、彼はハイヤームだ、とか言っているので、オマルの有名ぶりがわかる。旅の間にオマルは髭も髪も 白髪となっている。結構長 い間旅をしているようだ。

その後メッカ巡礼を行ったようである。

  暗殺教団はすっかりおとなしくなっているようで、幹部とサッバーハの会話ばかりが映り、活発に活動を行っている感じはしない。ア ラムート城の上に天球儀が ある(下右)。サッバーハは、これはオマル・ハイヤームのものだ、と語る(心なし得意げにも見える)。下左はメッカへ向けて旅を 続けるオマルと友人が砂漠 で休憩しているところ。

  オマルはどこかの町で、せむしの男に、ニサーブールのオマル・ハイヤームか、と声をかけられる。男はニサーブールにいた頃オマル を知っていたようである。 オマルの初恋の書店の娘イェセミーン(第二、三話)のことも知っていて、イェセミーンはなんとこの町で病臥していると伝える。オ マルはイェセミーンを馬車 に乗せて、せむし男も連れて一緒に旅立つが、旅の途中でイェセミーンは昇天するのだった。



第二十二話


 イェセミーンを葬った後、テントを燃やしてしまうオマル。友人マルターンと相談し、イランに戻ることにする。今回初めて、アラ ムート砦の全体映像が登場(どこの遺跡かは未確認)。サッバーハも老境に入った。

 サッバーハも幹部も会話ばかりで、活発な活動はしていないようである。

  ニサーブールの自宅に戻ったオマルは、スルタン・サンジャル(在1118-57年)と思われる人物と面会する。彼の名前は登場し ていないが、この人物との 面会の後、自宅に戻ったオマルと友人のマルターンとの会話に”スルタン”が頻出していることからセルジューク朝の大スルタンの地 位が争われている最中、即 ち、スルタン即位前のサンジャルの可能性が高そうである。即位前、サンジャルは1097年からホラサーン地方(中心都市のひとつ がニサーブール)の総督の 地位にあった。これらのことから、オマルが面談していた人物は、断定はできないが、即位前、あるいはスルタン即位直後(サッバー ハの死去が1121年と考 えられており、またサンジャルはニサーブールを拠点に活動していた為)サンジャルである可能性が高そうである(といいつつ、背後 の椅子を見ると、西カラハ ン国のサマルカンド宮廷の椅子と同じタイプなので、この人物はサンジャルでは無いのかも。サンジャルに対する思い入れが強すぎ て、ポジティブ要素ばかりに 目が行き、ネガティヴ要素は控えめに見てしまっているところはあります)。

 サンジャルの取り成しで、オマルを異端視している宗教指導者達との面談も成立し、オマルはメッカ訪問したことで、取りあえず身 柄は安堵されたようである。

  妻をくるくる椅子で回して戯れた部屋で(第何話だったか失念)、一人椅子で回転するオマル。そこに若い頃の妻がやってきて首 飾りをかけてくれるがそれは夢だった。

  オマルの元にサッバーハから手紙が来る。オマルはサッバーハを”アミール・アラムート”と呼んでいる(アラムート砦の主、という ような意味だと思われ る)。眠っていた友人のマルターンを起こしてまで手紙の内容について難しそうな表情で論議していたので、この手紙の内容を巡る問 題で次回マルターンはサッ バーハの放った刺客に殺されることになるのだと思われる。この回の終盤で、サッバーハが刺客を放つよう、幹部(彼らも老境に達し ている)に指令し、その理 由を説明しているようであるが、台詞がわからないのがもどかしい。ヒントとなるような単語も見当たらなかった。段々会話ばかりで 動きの無い場面が増えてき て筋が掴みずらくなってくる。


第二十三話

 ある日、昼寝していたオマルが起きると、マルターンは殺されていて、手紙にナイフが突き刺さっていた。暗殺教団の犯行声明文だ と思われる。友人の遺骸を抱きしめて涙にくれるオマル。親しい友人を全て失い、孤独な晩年を送ることになるオマル。

 サッバーハは仙人のようになっている。

  マルターンを失ってから更に数年が経ったと思われる。最晩年の老けぶりとなったオマル。髪も髭も真っ白になっている。カーヒラ (カイロ)のハリーファ (ファーティマ朝のカリフ)からオマルの元に書籍を求めて使者が来る。杖をつくオマルは歩くのさえおぼつかない。呆けているわけ では無いのだろうが、使者 と会話がかみ合わなず、オマルは歩き去る。町の泉のところでイェルムック(或いはヤルムック)という昔の知り合いの老人に出会い 自宅に招待して昔話をする オマル。

 サッバーハは遺言を認め、城の屋上に昇天したかのような衣装を残して、アラムート砦の秘密の地下道にお隠れになる。オマルは廃 墟となった天文台や初恋の娘との思い出のある泉など昔を偲ぶ場所に赴くのだった。

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