中世ロシア歴史映画「王妃オリガの伝説」

    今回から中世ロシアを扱った映画を11作ご紹介していきたいと思います。

 本作は、晩年・臨終の床にあるキエフ大公ウラジーミル(在980-1015年)が、少年の頃を回想する形式で、 父スヴャトスラフ(在964-972年)のエピソードを語り、更に父スヴャトスラフ が、彼の少年時代の話が記載された書物を、ウラジーミルに読ませる、という形で、スヴャトスラフの母、オリガのエピソードを描く という重層構造となっており、結果的にオリガ時代(摂政945-964年)か らウラジーミル時代までの3代を描く大河物語となっています。といっても、ウラジーミル時代は晩年と少年時代、スヴャトスラフ時 代もエピソードは多くはな く、伝説をそのまま映像化したオリガのエピソードが強烈でインパクトがありました。1983年ソ連製作。下記左がスビャトスラ フ、右がオリガ。



冒 頭「1015年首都キエフで王ヴラジミールが死去した。彼は一般にロシアで洗礼を受けた赤い太陽として知られている」とのテロッ プが入り、臨終の床のウラ ジーミルと、彼を見守る家臣達の場面から始まる。王の寝台に馬が連れてこられるが、王は、そのまま少年時代の回想に入る。

 少年時代のウ ラジーミル少年は、湿原を白い馬で走って気ままな日々を送っていたが、家臣達がやってきて、馬から突き落とされ、馬を持ち去られ てしまう。馬を取り返しに 父親のところに行く。父親も家臣も、盗賊のようななり。刈り上げ髪が遊牧民風。父親のスヴャトスラフは、戦士としての鍛錬もしな いで、愛馬を乗り回してい るだけのウラジーミルに不満な様子。父に鏃を投げてみよと言われ、壁に向かって投げる。合格したのか馬を返してもらうが、森で1 年間、自活せよ、と命じら れる。食料、剣、斧などをもらって森で一人暮らし始めるウラジーミル。木を切り、家を作り、銛で魚を取って衣食住全てを自給する のだった。冬、雪になる。 狩った獣の毛皮を来ているウラジーミルは槍を持って狩りに出る。春になる。網を森にしかけ鳥を取る。そこに馬のいななきが聞こえ る。再び夏になる。ウラ ジーミルの家の前には紐を張って毛皮が干してあったり、住居設備がかなり充実してきている。髪も伸びた。そこに父と家臣一行が訪 ねてきて、1年分、長く伸 びたウラジーミルの髪を切る。1年間の鍛錬は合格となったようで、ウラジーミルはキエフに戻ることになる。
そのキエフの町はこんな感じ。中央を歩いているのがウラジーミル。城壁や櫓は木造で、左奥には衛兵が見えている。画像には見えて いないが右手前には鍛冶職人が作業をしている。活気ある様子が伝わってくる。

 王宮内部。ウラジーミル晩年の頃と異なり、壁も天井も真っ白。天井は低く、部屋の中央の巨大な柱が天井を支えている。左奥に玉 座があり、スヴャトスラフが座っている。


 スヴャトスラフは、母オリガの歴史が書かれている「オリガの書」をウラジーミルに読ませるのだった(恐らくスヴャトスラフは文 盲だったと思われる)。途中まで来たところ、スヴャトスラフは、遮り、司教を呼び、続きを司教に読ませるのだった。

 話はスヴャトスラフ幼年時代の頃。スヴャトスラフの父、イーゴリ公(在912-945年)が没し、後継者問題が発生する。王宮 (下記左)の扉の前にオリガが座り、家臣である豪族達と後継者について会議が開かれる。

オリガの右側の幼児がスヴャトスラフ。遠目に豪族たちが囲み、オリガはスヴャトスラフに公位を継がせたいが、豪族たちは、リュブ リャンスコを公位に継がせたいと主張。これらの豪族たちは、夫イーゴリ公を暗殺したデレヴリャーネ族の者のようである。愕然とす るオリガ。

  その後、オリガは兵士に命じて宮殿前に穴が掘らせる。更にその後のある日、オリガはデレヴリャーネ族を船で招く。にドニエプル川 に船でやってきたデレヴ リャーネ族達は、キエフの岸辺に到着すると、そのまま民衆達に船ごと持ち上げられ(下記右画像)、宮殿前の穴に入れられ(下記左 画像)、そのまま生き埋め にされてしまうのだった。

 スビャトスラフは、そのくだりを聞いて、それは真実ではない、と司教の首を締める。そしてウラジーミルに向かって続き読むよう に命じるのだた。
 
 更にその後のある日、正装したオリガはキリスト教徒的な衣装をつけて宮殿の前に座っている。

ドニエプル川近くに木造の小さな小屋が建てられている。オリガに招かれたデレヴリャーネ族の豪族たちが中に入ると、外側から閂が かけられ、オリガ自ら小屋に火を放ち、焼殺してしまうのだった。


  ウラジーミルの少年時代に戻る。夜になっている。玉座に沈み溜息をつくスビャトスラフ。兜とベルト、マントをつけ、宮殿の外に出 たスビャトスラグは、宮殿 前の庭に焚かれている火に「オリガの書」を含め書物をくべてて燃やしてしまうのだった。司教はギリシア人であるようで、スヴャト スラフは、書物だけではな く、ギリシア文化を批判し、ギリシア人ということ自体も批判する。司教はキエフを去ってゆくのだった。

 ウラジーミルは、家臣の一人に連 れられて宮殿を脱出する。すると、郊外には、スヴャトスラフにあいそを尽かしていた母マルーシャがいた。二人でキエフを後にし、 どことも無く逃亡するの だった。やがて、古来の宗教の儀式を執り行っている森の村に遭遇する。古代スラブの映画によく登場する木のトーテムの周囲を踊る 村人達(下記画像左)。

 川向こうから遠目に見入るウラジーミルと母だったが、やがて村は武人達の襲撃を受ける。若い男が射られる。

  翌日、村の若い女性と武人の一人の結婚式らしき祭儀が行われる(上画像右)。その夜、その若い女性が、人気のなくなった木のトー テム神像のもとに来て、神 像を斧で叩き、神像の根本で自害しようとする。これは最初に矢で胸を射られた男の恋人のようだ。襲撃した武人と結婚させられそう になったので自殺を決意し たようだ。ところが、自害しようとするまさにその時に、胸を負傷した恋人の男がやってきて思いとどまるのだった。二人がそのまま 朝を迎えると、また武人達 がやってきて男を取り押さえる。が、若い女性が何を言ったのか、武人達は引き上げ、男は助かったのだった。

 が、これはどうやらこの若い 娘の幻影だったようで、気がつくと男は消え失せて、女は武人達に囲まれているのだった。そうやら、これは、古来の宗教の儀式を遠 目に眺めながら、ウラジ ミーールの母親がウラジーミルに話をしている伝説のようである。ウラジミールもいつの間にか武人に囲まれており、そして前述の若 い娘と武人の結婚式に村人 とともに参加するのだった。

 結婚式は林の端で行われ、宴席のテーブルが凹の字形に並べられ、中央に新郎新婦が、両側に有力者達が席につ いている。テーブルの反対側には、やはり凹字形に村人が取り巻いて式を見ている。その中にウラジーミルも混じっている。テーブル と村人の間で、白髪の老武 人が、剣を鋳造し叩く。そして2つの剣を合体させるのだった。どうやら部族統合のようだ。

と ころが、この結婚式にまた娘の恋人の男が来る。そしてナイフを投げて新郎に挑戦し、村人の見守る中、熊と対決させられることにな るのだった。男は血まみれ になりながらも熊を倒す。老武人は金貨を手のひら一杯にもって差し出す。男はその金貨をばらまく。女は男にかけよる。婚約者側の 武人の一人が男を背後から 刺す。会場は騒然となり、刺した男は直ぐ捉えられるが、娘は新郎の手の中で失神してしまう。

 臨終の床のウラジミールに戻る。結婚式も熊 とも格闘も、ウラジーミルの記憶だったのか、ウラジーミルが母親から聞かされた伝説だったのか、書物で読んだ記憶だったのか、も はや曖昧である。恐らくウ ラジーミルの記憶にある、キリスト教化以前の古来の宗教儀式のイメージということであって、事実か記憶の中の虚構なのかは、どち らでもいいのだろう。

 その臨終間際のウラジーミルの部屋は、幼年時代のような白い無地の壁ではなく、キリスト教の絵で壁も柱もペインティングされて いる。

 更には天井から蝋燭のシャンデリアが下がり、床には一面に蝋燭が置かれているのだった。。。。

 再びウラジーミルの回想が始まる。。。。

  若き日のウラジミールは森で(恐らくキーエフとは敵対部族の)武人に捕らわれ、森の中の小屋に閉じ込められる。その小屋の中には 仙人みたいな炉の中の石を 素手で掴んだしても全然平気な老人が住んでいた。翌日スヴャトスラフと家臣たちが扉を蹴破って入ってくるが老人はもうどこかに消 えていた。ウラジーミルそ のままどこかの部屋に軟禁される。ひとり、監視役の武人が部屋にいる。この家臣はキリスト教についての話をしているようだが、詳 細は不明。森の中で様子を 伺っているウラジーミルの母は、剣を腰につけている(ロビン・フッド映画に出てくる女性剣士のよう)。どうやらウラジーミルを取 り戻す算段をしているよう だ。そして兵士の行軍を見るのだった。兵を率いているのはスビャトスラフで、どうやらこれは、ブルガリア遠征(967年)への出 発のようだ。森の中から行 軍する兵士たちを見送る母。そこウラジーミルと監視役兵士が馬にのって駆けつけてくるのだった。

 ところが、森の中を進撃中、ウラジーミ ルはするりと抜けだして脱走してしまう。母マルーシャを探しに出た模様。森の中に住む老人とであったりしながら、森をさまようウ ラジミール。そしてブルガ リア人兵士も遭遇し、ウラジーミルは弓で殺されそうになるが、あわやというところで監視役の兵士がやってきて、ブルガリア兵を射 るのだった。母親はウラ ジーミルを遠目に見つけて物陰から一部始終を見ていたが、声をかけれないままウラジーミルは父の本体に連れ戻されるのだった。本 体に戻ると、森で出会った 老人が捕虜となっていて、その老人は「オリガの書」について話を始める。

冬。幼年のスヴャトスラフを連れた武装したオリガが、デレヴ リャーネ族の町から迎えでた住人全部の見守る中、デレヴリャーネ族の代表者を雪の上にひざまづかせ、許しを請わせる。上着まで脱 がせる。どうやら、次男 イーゴリを人質にとられてたようで、オリガが町を包囲し、降伏させたようだ。続いてデレヴリャーネの人々の間から、イーゴリが駈 け出してくる。ひしと抱き しめるオリガ。デレヴリャーネの人々が町を振り返ると、町は炎に包まれている。あわてて戻る人々。町の代表者の男は毒でも飲んだ ように死んでしまうのだっ た。

 スビャトスラフの時代に戻る。捉えられた老人をウラジーミルが助けようとしているようだ。「オリガの書」の伝説を語った後、老 人は逃がしてもらい、森の中に消えてゆくのだった。

臨終の床のウラジミールに戻る。部屋中に蝋燭をともし祈るウラジミール。フード姿の女性が(娘オルガ)がウラジーミルの部屋に 入ってくる。オルガは鳩を室内に放つ。

 ウラジーミル最後の回想に入る。

  スビャトスラフとどこかのスラブ族との合戦。相手はヴォイヴォーダ(中世東欧で用いられた官職名)と呼ばれている。川を挟んで両 軍布陣したところで、ウラ ジーミルが仲介の使者に出て平和裏に終わる。双方馬をプレゼントし合う(下記左側の軍勢の中央に、古来からの宗教の木造のトーテ ムが見えている)。

  突然ウラジーミルの部屋が白塗り一色となり、白馬が入ってくる。更に生まれたばかりの子供を、玉座からウラジーミルの母が取り上 げ、寝台の上の老ウラジー ミルに、「ほら、これがあなたよ。ウラジーミル」と子供を見せる。母が誕生したばかりの自分をあやす幻影(聖母マリアとイエスを 象徴していると思われる) を見なながらウラジーミルは昇天するのだった。

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