古代ローマ・ポンペイ歴史映画(1)「1984年版/ポンペイ最後の日」

   ポンペイを扱った一連の映画に関するサマリはこちら に記載し た通り。今回は、日本では未公開の可能性が高く、ネット上にも日本語情報が全くなさそうな、1984年度英国製テレビドラマ(全 3話・270分)の紹介です。ポンペイを扱った映画は4本見ていますが、私の中では、それらのうち、のみならず、今まで見た古代 ローマ映画の中でも屈指の作品となりました。日本語 字幕があるかどうか不明ながら、UKアマゾンでdvdを購入しました(UKアマゾンで送料含めて3417円 (dvdは21.68ポンド)、USアマゾンでは、送料含めて4400円(dvdは42ドル)ほどだったので、 UKアマゾンで購入しました(送られて来たものを見たら、字幕はありませんでした。でも本作は手元に置きたい作品なので十分満足 しています)。

  話の構造は、基本的には、シェンキェヴィッチの「クォ・ヴァディス」と同じ。下層民を中心にキリスト教が浸透し、それを迫害しよ うとする政府側と、当初ど ちらの側にも立っていなかった上流階層の人が、実態を知るに及んで、キリスト教徒に好意的となり、最後にカタストロフィ (「クォ・ヴァディス」ではローマ の大火、本作では、ヴェスヴィオスの噴火」)が起こる。というもの。他のポンペイものと比べて本作最大の特徴は、ポンペイの市民 生活が淡々と描かれ、キリ スト教徒の迫害というよりも、4角5角関係に展開する複雑な恋愛や、様々な階層の多くの人間模様が描れる、群像劇という点です。 正直人間関係が入り組みす ぎているようにも思え、「あれ?この人とこの人って、知り合いだったっけ?」と思ったりすることもあるのですが、本作は、つまり は古代ローマのポンペイの 日常生活・風景を背景に長々とドラマが続く、「ポンペイの生活再現映像を見たい」人向けの、「古代ポンペイ生活再現ドラマ」なの でした。私にとっては、ド ラマの内容としてはネットで見れば十分なのですが、古代ポンペイの再現映像のすばらしさに、dvdを購入することにしました。話 が複雑過ぎるし、ストー リーをだらだらと記載するよりも、登場人物を紹介した方が遥かにわかり易いように思える為、今回は、登場人物紹介を中心に本作の ご紹介をしたいと思いま す。基本的に悪人はイシス神殿の神官1名で、だいたい皆基本的に善人ばかりです。誰が生き残るのか?を見ながら考えるのも一興で した。詳細は「More」 をクリックしてください。

古代 ローマポンペイ映画一覧はこちら

1.ディオメ家とその関係者

 グラッカス
    ポンペイの商人で有力者であるディオメと商売相手でもあるギリシア人貴族の若き商人。一応主役。イシス神殿のアイオニと恋愛 関係に陥るが、イシス神殿 の陰謀者、アーバシーの罠に嵌って殺人罪で逮捕され、円形闘技場で友人の花形剣闘士・ライデンと対決させられることになる。細身 なわりにはライデンとレス リングをして互角な程である。ライデンはこのレスリングを境に友人となる。下記は、ライデンとレスリングする前に、一人で円盤投 げの練習をして自己鍛錬を しているところ。こういう当時の生活風景が多出するところが、本作のいいところ。


 ディオメ
   富裕な商人。娘ジュリアとグラッカスを結婚させようと考えたり、対して政治的ポリシーも無いのに、なんとなく肌が合わない政治 家のクインと対立して課税 問題に口を出したり、キリスト教徒弾圧の闘技の開催を市民の前で主張したりと、それなりにかき回す。基本的に善人で、自分が推し 進めた剣闘技で、観衆が 「殺せ」という指を下げる(学説では指を上げる方が殺す合図だったとも)と、困ったようにクインの方を見て、仕方なく指を下げた りする。基本的に善人。ポ ンペイ遺跡に残る壁画を小人のギリシア人画家フィロスに書かせる(下記)が、あまりに写実的に書かれたため、俺はジュピターと ジュノーを書いて欲しかった んだ!と主張し、俺は芸術家だ!と返され、婦人が、「彼はギシリア人だから我慢しなさいよ」などという一幕がある。夫婦ともにぼ け役な感じ。

 市内通りに面したディオメ家の入り口。ちょっときれい過ぎなのがリアル度を下げていますが、あまり市内の富裕層の邸宅の概観が 映画にも書籍にも出てきたことが無いので、貴重な映像。

 ネディア
   盲目のディオメ家の奴隷少女。キリスト教徒。杖をついてどこへでも外出する。有名なポンペイの歩道や、横断歩道を杖で見分けな がら歩く場面が冒頭で出て くる。奴隷といっても、主人の添い寝も勤めるような奴隷ではなく、家事や伝令などをしている。ディオメの娘ジュリアが、グラッカ スと結婚させようとする父 に対して、ネディアに策謀を相談する時も、交換条件で交渉するなど、一家の一員のような扱いをされている。剣闘士・ライデンと恋 愛関係にあったが、途中で グラッカスに親切にされ、ジュリアの策謀に加担し、ライデンを振ってしまう。下記は、キリスト教徒の隠れ家の一つ。右にいるのが ネディア。左側に、有名な ポンペイ遺物「パン屋の夫婦」の肖像画がある。

 ネディアが杖を突きながらわたった歩道と、ポンペイ再現された市街。

 ジュリア
   ディオメの娘。貴族の青年クローディアスと恋仲である。クローディアスと離されるのを恐れ、ネヴィアに、グラッカスと結婚する ようもちかける。1世紀の 古代ローマの上流貴婦人の髪型には、様々な流行があったとされ、イラストでは見たことがあったが、実際に映像で見るのは初めてか も知れない。下記右がジュ リア。左が母親。

 ペトルス
   ディオメ家の奴隷でキリスト教徒。娼婦のセティアと恋愛関係にあるが、セティアの赤子を「誰の子だかわかったものじゃない」と いうなど、少し冷たいとこ ろもあるが、キリスト教徒は絶対に裏切らず、逮捕され鞭打ちにされた時も最後まで口を割らなかった。一度はカレイアスの策謀で逮 捕されるが、セティアがネ ディアを通じてグラッカスに頼み、グラッカスが参事会に乗り込み、「彼は3日前に私が買い取った。今は私の奴隷である。問題の集 会の晩は、私の指示で、お 客の接待のための娼婦を買いに使いに出ていた」と弁護してもらい助かる。しかし、アーバシーの策謀で、キリスト教徒の隠れ家が、 民衆に襲撃された時に皆を 救おうと戦い、命を落とす。
 下記はディオメ家の宴会中の広間。




2.イシス神殿の関係者

 アーバシー
   本作唯一、最初から最後まで悪人だったエジプトの神、イシスを崇拝するイシス神殿の最高責任者。黒髪・顎鬚・黒服がトレード マーク。当然ながら、キリス ト教徒弾圧側であるが、彼の野望はポンペイ政界を通じて、ローマに進出し、イシス信仰を帝国全土の宗教とする野望にある。その野 望の為なら殺人さえ犯す。 下記はイシス神殿。最初はディオメ家を利用しようとし、彼がうまく動かないのを見ると、都市参事会議員のクインに近づく。
 アイオニとアントニアスの育ての親でもあるが、寄付が足りないと、病気の子供をつれてきた母親を冷たく突き放し、寄付と称して 免罪寄付を民衆にさせるなど、悪徳業者そのもの。

そのファザード部分の壁画。

 カレイアス
   アーバシーとほぼ同格の神殿の権力者。当初はアーバシーと一身同体のようであったが、途中でアーバシーを追い落とそうという姿 勢が見られるようになる。 遂には仲間割れから、アーバシーに陥れられ、牢屋に入れられてしまう。最後の最後になって(噴火が起こり、市内が大混乱になって いる時に)、アーバシーを 告発する。

 アイオニ
  唯一既知の女優、オリビア・ハッセー。エジプト出身だが、父とともにポンペイに移住し、父の死後、弟と ともにアーバシーに育てられる。イシス神殿に住んでいるが、イシス神官というわけではない。後半になるまでアーバシーを信じてい たが、遂に真相を知る。ア イオニの髪型は、一見普通な感じだが、よく見ると、ジュリアなどと同じで結構変な髪形。人の気持ちを慮るばかりに、一時はネヴィ アの為にグラッカスをあき らめる。役どころとはいえ、日本人風な感じ。布施明と一時結婚していたのもわかる気がする。

 アントニアス
   アイオニの弟。まじめな性格で、イシス神殿の神官を志望するが、カレイアスの乱行などを見て、神殿の腐敗に疑問を抱き始め、遂 にはアーバシーが、父を殺 した張本人だと知ってしまう。一度は、神官となる儀式・イニシエーション(実態は、薬と2人娼婦による接待で忘我状況となる)を 体験し、一度はアーバシー 側に留まりそうになるが、イニシエーション後、娼婦セティアが居残り、キリスト教司祭のオレンティスのところに連れて行かれる。 最初はキリスト教への偏見 から頑なだったが、オレンティスと一緒に漁に出て、その人柄に、ついにはアーバシーを客観的に見れるようになる。しかしまじめで 一直線なあまり、無防備に 夜中、人気の無い市街でア−バシーを問い詰め、刺し殺されてしまう。主人公のグラッカスは、そこに通りがかり、殺人者にされてし まう。丸坊主で高校球児み たいな風貌からして、一直そうな感じ。下記は、2カット程度しか登場せず、台詞も無かったが、イシス神官の巫女。

 他にも、下記のような土俗的な仮面をつけた神殿の従業員が2カット登場していた。



3.キリスト教徒

 オレンティス
   キリスト教司祭。一見ヴァイキングかと思うような風貌と服装である。当初、名前がわからなかったので、ずっと「ライオン」と呼 んでいた。普段は鍛冶屋で 働いており(経営しているのかも知れない)、店の奥にキリスト教徒の隠れ家がある。郊外での集会での当局の摘発や、アーバシーの 煽動による隠れ家への民衆 の襲撃時にも生き残り、粘り強く、逞しく、最後まで人々を引っ張ってゆく。当時の生活風景として、彼の鍛冶屋も見所の一つであ る。下記は参事会で演説する オレンティス。

 ライデン
   花形剣闘士。キリスト教徒。奴隷の身分からなんとか脱却したいと考えている。町へ出れば、若い女性に取り囲まれる(現在のイケ メンタレントと変わらな い)が、そんなものに価値が無いことを熟知していて、自由の身分を手に入れることを渇望している。グラッカスにネディアをとられ た(と思った)時も、自棄 酒を飲んで耐えた。最後にアントニアス殺しの下手人とされたグラッカスと、円形闘技場で戦う羽目になってしまうが、最後まで時間 稼ぎをする戦い方をした。 そうして、観衆が指を下げて「殺せ!」というのを、ためらっているうちに、大噴火が起こった。下記はライデンら剣闘士のたまり場 である酒場。

 セティア
   娼婦でキリスト教徒。赤子もち。ペトルスの恋人。バイトでイシス神殿の儀式(イニシエーション)を手伝っている。同じキリスト 教とのネディアを通じてグ ラッカスにペトルスを救ってもらってから、グラッカスに恩義を感じており、グラッカスの恋人、アイオニの弟がイシス神殿の儀式を 受けた時は、儀式後、弟を 連れ出して、アーバシーの陰謀を伝える。更に、最後はアーバシーの煽動で民衆がキリスト教徒の隠れ家を急襲したとき、ペトルスが 死亡したことから、アーバ シーに復讐心を抱いており、大噴火時の混乱の中、ついにアーバシーをしとめ、ネディアに赤子を預けて死す。逞しく、信義に篤く、 可哀相な女性であった。

4.その他

 クイン
   唯一既知の俳優、アンソニー・クイン。都市参事会の筆頭議員。キリスト教徒は処罰せねばならぬと考えているが、弾圧や虐待は考 えていない、穏健主義者。 円形闘技場でキリスト教徒の処刑を願う群集が議事堂におしかけた時も反対演説をした。そういえば、彼は助かったのだろう か。。。。

 クローディアス
  貴族。ジュリアの恋人でグラッカスの友人。彼の職業は最後までわからなかった。アーバシーの陰謀を知り、それを打ち砕くべく 活動するが、アーバシーに説得されそうになるなど、いかにもひ弱な上流人、という感じだった。下記はパピルス屋でのクローディア ス(右端)。

 蝋版に何かを書いているクローディアス。

 ガイウス
   郊外に年老いた妻と二人だけで世を離れて住む老人。キリスト教徒ではないが、この家には奴隷がいないのが目を引く。過去のこと はあまり語りたがらない が、アーバシーの陰謀が遂に見かねるところまで来た時、グラッカスとアントニアスに、アーバシーの過去を話してしまう。そして自 分のやったことも告白す る。いわく、アーバシーがアイオニとアントニアスの父を殺した時、姉弟を保護して育てることを条件に、アーバシーの罪の隠蔽に力 を貸したと。最後には、婦 人の強い説得もあり、ローマに赴いて告発することを決意するが、その前に大噴火が訪れ、自宅で妻ともども死す。下記は、噴火で崩 れ落ちる郊外の老夫婦の邸 宅。この夫婦にも死んで欲しくなかった。

 とまぁ、主要登場人物だけで16人。人間関係を追うだけでもやっとでした。

 さて、ヴェスヴィオスの大噴火を逃げ延びたのは誰か。港までたどり着いて船に乗ったのを確認したのは以下の面々である。
グラッカス、アイオニ、ライデン、ネディア、フィロス、オレンティスの5名。
下記は大噴火時の市街。平常時の映像と比べると、酷さがわかる。


 脱出する船と噴火を続けるヴェスヴィオス。

 平和なときのポンペイ港。

 実は、ポンペイが当時港湾都市だったとは知らなかったのでした。下記は遠景から見たポンペイ市とヴェスヴィオス。


 最後。いつくか画面ショットを紹介して終わりたいと思います。
 物語り冒頭のポンペイの市街鳥瞰。

 円形闘技場の階段

 同じく円形闘技場の後ろ側。ほぼこれと同部分がそっくりそのままポンペイに遺跡が残っているのですが、やはり古代装束の人々が いると雰囲気が違います。

 上流婦人の髪型各種。下記はジュリアの後ろ頭。ここにベールをかけたりしていた。そういう機能もあるのか、と感心。

 円形闘技場の観客

 ディオメの妻。これが一番変だった。



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