2本の作品をご紹介したいと思います。「スパルタクスの息子(原題IL FIGLIO DI
SPARTACUS(1962) )」と「クレオパトラの息子(原題Il figlio di Cleopatra
(1964)」です。どちらも息子シリーズですが、同じような題名の作品に、「クレオパトラの娘(原題Il sepolcro dei re (1960)」や「カエサルの女王(原題Una regina per Cesare (1962))」というものも
あります。いづれもソード・サンダル映画です。 「クレオパトラの娘」は、一点を除けば、ソード・サンダル映画としてはまあまあな内容だと思うのですが、クレオパトラ死後の作品 でありながら、ローマ軍が 登場せず、ヘレミズムのかけらも見られず、新王国時代以降のどの時代でもよいような雰囲気で宮廷陰謀が繰り返されるというもの。 これが「ラムセスの娘」と か「ツタンカーメンの娘」という題名だったら、歴史作品として今回ご紹介してもよかったのですが、「どの時代での良さそうな話」 だったので割愛しました (一応冒頭でアントニーとクレオパトラの時代背景説明のテロップが入るが、ほぼそれだけ)。古代エジプトの雰囲気を味わうだけで あれば、良くできているよ うにも思えるのですが、ローマ支配下に入った時代を題名としているのがいまいち。これが、アレキサンドリアなどではなく、ローマ の影響の届かない、僻地に 逃れた一種の亡命政権で、桃源郷のような場所に潜む人々が、「ファラオ時代のエジプトごっこ」をやっている話であれば、それはそ れで非常に面白い設定だと 思うのですが、ローマ進出後のアレキサンドリアの話としては無理があるものと思います。「カエサルの女王」は、映像を少し見たと ころ、セットも安っぽく、 クレオパトラものは多数あるので、見る気が起こらなかったのでした。ひょっとしたら面白いのかもしれませんが。。。。どうでもい いことですが、「XXXの 孫」や「XXXの親」という題名ってないのでしょうか。ふと思ってしまいました。 今回ご紹介する「スパルタクスの息子」も「クレオパト ラの息子」も、エジプトが舞台です。前者はカエサル時代、後者はアウグストゥス時代の、エジプトの地方で発生したローカルな話で す。あまり中央政界とは関 係の無い、地元の支配者とそれを打ち砕く民衆とヒーローという、悪代官を倒す日本の時代劇にも似ているのですが、こういう、地方 のローカルな話って結構好 きなんですよね。本作も、日本語版dvdが出ておらず、ネットに日本語情報も殆ど存在しないため、あらすじを紹介したいと思いま す。「More」をクリッ クしてください。 (1)「スパルタクスの息子」 まず、本作はイタリア語で、英語字幕もありませんでした。会話はわからないので筋を書くのは楽でした。本作は、一言でいえば、月 光仮面です。ローマ将校で ありながら、剣闘士の仮面をつけ、地元のゲリラ部隊を率いて悪役人の手先であるローマ軍と奴隷商人を襲撃する、という話。襲撃が 終わると、主人公(ス ティーヴ・リーヴス)は、何食わぬ顔で隊に復帰したり、自室に戻ったりする、というのが基本パターン。 エジプトで盗賊を追っているカエ サル支配下のローマ軍から話は始まる。その将校の一人、ランドは、地元の名士・美しい夫人のクローディアに舟遊びに誘われるが、 夜、船は岩にぶつかり、二 人とも海に放り出されてしまう。翌朝どこかに流れ着き、砂漠を延々歩き続け、漸く隊商を見るけるのだが、それはヌビア人の奴隷商 人だった。捕まって奴隷の 行進に加えられてしまう二人。 ランドは、オアシスの水のみ場で他の奴隷と些細なことで喧嘩となってしまうが、相手は、ランドのしている ペンダントを見て何かに気づく。別の野営地で、他の奴隷が、ランドの縄を噛み切ってくれ、奴隷を全員解放し、ヌビア人商人団と戦 い全滅させる。丁度その時 ローマ軍が到着するが、喧嘩した男はローマ軍を見て、馬に乗り逃げてしまう(以下ヌビア商人たちがダンスを踊っているところ)。 一度クローディアの自宅に戻るが、どういうわけか、ランドは単身砂漠の遺跡に向かう。遺跡の奥には、ランドが持っていたペンダン トと同じ宝石の嵌った剣闘 士の兜と剣、盾や肩当など、剣闘士装備一式が置かれていた。ふと気づくと、遺跡の周囲は民衆に囲まれていた(喧嘩をした奴隷もい る)。その武具は「大スパ ルタクス」のもので、あんたの持っているペンダントは後継者の印だ。どうか我々のために立ち上がってくれ、と民衆に求められる。 一方、 奴隷を磔にしたり、プールに入れて水位を上げ、更に天井を閉じたりして溺死させるなど、自宅に拷問施設を作り、奴隷を虐待してい るローマのエジプト知事。 そこに仮面の剣闘士が現れ、奴隷を解放し、扉に大きく地で「S」と書いて去る。役人の私兵たちが駆けつけると、その中に混じって いるランド。誰かが叫ぶ 「これはスパルタクスのSだ!」 その後謎の覆面剣闘士による奴隷解放の襲撃は続く。奴隷農場、奴隷隊商と続き、毎回「S」の字が書き残 される。遂にはローマ軍まで襲いだす。ランドの身代わりが剣闘士装束をしてローマ軍をおびき寄せ、その好きにランドが本体を離れ て、隠してあった装備をつ けて変身する仕組み。しかし、段々と隊長がランドに疑いの目を向けるようになる。ある夜、遂にクローディア宅(ローマ人の宿舎で もある)を剣闘士が襲撃す る。兵士はランドの部屋を急襲するが、ランドは何食わぬ顔で寝ていた。そこで知事と悪隊長は、クローディアス宅の広間で大々的な 奴隷虐待ショーを企画する (下記はその時の悪隊長の装備。段々変な装備になってくる)。 しかしこれは罠だった。剣闘士に変身したランドは、遂に囲まれ、仮面をとることになる。驚くローマ兵士やクローディア達。ランド は檻に入れられ、奴隷商人 に護送されるが、野営中に解放軍*1の襲撃を受け、簡単に奪還され、知事とクローディアも捕まる。熱したタールをかけられ目をつ ぶされる知事。クローディ アの方は、砂漠に一人放り出される。そこにカエサルの率いるローマの大軍がやってきて囲まれ、解放軍は降参し、ランドはカエサル の宿舎に連行される。下記 はその宿舎の壁に掲げられたエジプト地区。ローマ帝国全図だったりしないのが、かえってリアルな感じ。 *1 人民解放軍を連想してしまい嫌なのですが、イタリア語の台詞で「リベルタ(自由/解放)」と何度も出てくるので、自然にこのような書き方になってしまいま した。 ランドの処刑が決まり、どういうわけか、スパルタクスの武具を発見した遺跡のそばで処刑が行われることになる。しかし、気づいて みると、周囲は膨大な、丸 腰の一般民衆に囲まれていた。代表者がカエサルと交渉を始める。カエサルも、問題の根幹は悪徳知事にあったことは理解しているの で、今後反乱は起こさぬよ う約束させてランドを許す。「セヤ リベカ!(自由だ!)」の大合唱が響く。最後、ランドは遺跡にゆき、スパルタカスの武具を返 して終わる。 IMDbの映画紹介はこちら。英語版dvdはこちら。 と、ここまで書いてきてチェックしたら、日本語のあらすじをGoo映画紹介に見つけてしまいました。「闘将スパルタカス」という名称で公開されていたようです。日本語のdvdは出て いないようなので、この記事は書いてよかったかも。 (2)クレオパトラの息子 冒頭、奴隷を鞭打つローマ軍に急襲をかけるベドゥイン風の駱駝に乗った一団が登場。アル・カービラと名乗った覆面のリーダーは、 「アレキサンドリアに戻っ て知事に伝えろ、命を惜しむんだな」と言い、将官を一人逃す。同時に、別の葦の原にある村(貿易商人のキャンプ)でもローマ軍を 襲う。知事官邸では、知事 のペトロニアスがロンドネスに向かって怒りを吐き散らしている。税金は適正量を上回っている、と指摘するロンドネスに、「自分勝 手な奴らだ。しかも3箇所 同時に現れるはずがない。アル・カービラが首領だ。全軍を出動させても捕まえろ」と指示を出す。 実は2人の兄弟ともう一人の男が3人同 じ覆面姿で同時に別の場所を襲撃していたのだった。カービラは兄で弟はオロ(フオロ)。ある夜、オロとカービラで意見対立する。 戦争しかない、というオ ロ。もう血は流したくない、というカービラ。オロが出て行った後、横で会議を仕切っていた父親が、カービラに向かって告白する。 父は、 母親の形見をカービラに渡し、おまえはマーク・アントニーとクレオパトラの間に生まれたもう一人の息子だと伝える。お前の本当の 名前はシージリアンで、ベ レニス(ベレニケ)神殿に預けたのだ。17年前、クレオパトラとカエサルの息子、カエサリオンはアントニウスに敗北し死んだ。オ クタヴィアヌスはもう一人 の子供をさがせと命じたが、私は自分の子として育てたのだ。衝撃を受けるカービラ。 カービラは、メロウェという女性に恋をしており、幸 運のペンダントを送ったりしているのだが、メロウェの方はいまひとつ踏ん切りがつかない様子である。そんな頃、村で祭儀が行われ る。カービラはオロに向 かって、俺の地位につかないか、と持ちかけるが、オロは、「今はまだ早い。しかし将来はもらうぞ。その時は兄さんの馬も一緒 だ」。という。祭儀に戻る二 人。 カービラは祭壇で「オシリスの神よ。天国に召されん時は、暗黒時代を終わらせたまえ」と祈る。そして新たな襲撃に向かうの だった。 襲撃をするが罠にはまってしまいとらわれるオロ。どうやらゲリラ軍内に内通者がいるようだ。足の甲に熱湯を落とされる拷問のあ げく、命を落とす。 一方、海岸をローマ軍に護衛されてアレキサンドリアに向かう途中の総督の娘、リヴィア。休憩しているところを偵察しているベド ウィンが発見する。休憩中砂 漠をみに行き感動するリヴィア。同行の老人テレンティウス・ヴァロに、「別の人生を想像したことある?伯父さん?」と聞いたりし ている。護衛隊長のフォリ オは、知事に現状報告の伝令を出すが、伝令はカービラ側に捕まってしまう。翌朝リヴィアのキャンプをカービラ軍が急襲し、奴隷た ちは直ぐに逃げてしまい、 護衛のローマ軍は直ぐ降参してしまう。フォリオ一人をアレキサンドリアへの報告者として残し、リヴィアとヴァロ、ローマ兵は人質 とされる。父は娘メロウェ に、ローマ人の人質に親切に世話をするようにいう。父からも、(義理の)息子(カービラ)の気持ちをくんでくれ、と言われる(下 記は解放軍の根拠地。かな 立派で広い城である)。 父がリヴィアとヴァロを接待。なぜ我々を、というヴィリアに、カエサルのエジプトに住む人々に告げた書状を取出してヴァロとリ ヴィアに見せる。そこには、 「エジプト人はローマとの法と文明によって、文化と尊厳と、奴隷を解放する権利を有する」と書かれていた。解放軍側は、リヴィア とヴァロを使者になっても らい、アレキサンドリアへ行って、解放軍の意図を伝えてもらいたい、と解放の条件をだす。リヴィアに向かい、「知事が何をしてい るかしるだろう。知事が信 用できなくなったら我々の決断が真実だと知るだろう」と告げる。そこにオロの遺体が運ばれてくる。泣き崩れる父。一人砂漠に出る カービラ。郊外まででて泣 き伏す。ベドウィンの子供が通りがかり、慰めてくれる。 知事の家。護衛隊長フォリオが到着し、オクタヴィアンが知事の管理をチェックす る予定だ、と告げる。知事は、キリキア、ポントゥスを治めてきた。アレキサンドリアは他の属州とは違うじだ!いくら政治に財産を 使ってきたと思っているん だ!と激高し、オクタヴィアンの像を叩き壊す。陰謀だ!これは陰謀だ! これに対してフォリオは、「小麦の価格はこの4年でいく らになっていると思う。 ローマにおくった筈の小麦はどこだ?金も横領しているな。皇帝からの贈り物も随分とあるはずだ。しかも、お前のイメージが刻まれ たこの貨幣はなんだ?皇帝 は民衆を奴隷として扱っていいなどといってない」と知事を脅し、オクラヴィアンへの報告取りやめと引き換えに、知事の娘リヴィア と蓄えた金の2/3(1 /3がリヴィア1/3がフォリオ)をよこすように脅す。商談成立。 リヴィアとヴァロはローマ軍がいる場所までカービラ兵に送られる。父のもとに着いたリヴィアは、奴隷の境遇を訴え、見てきたこ とをいうが、父は、二度と口にするなと怒る。 一方解放軍拠点。3人目のカービラが激怒していた。人質を送ったが、知事は何も変えていない。これがお前がしたことが。兄弟が拷 問にあい、娘を逃がしただ けじゃないか。とカービラを罵る。父は黙って二人に斧を渡す。二人は勝負することになるが、カービラが勝つ。父は砂漠へ逃げるよ うに言うが、部族の掟に 従って、カービラは進んで祭壇につながれ、騎馬兵から鞭打ちの刑を受ける。メロウェが手当をすると、うなされてリヴィアの名を口 にするカービラ。その後、 父に向かって、「いつか、彼は私を選ぶといったけど、そうじゃなかったわ」と伝えるメロウェ(下記は解放軍の城の一部) 砂漠の岩山の麓で大規模な剣闘士試合をする知事。奴隷女の処刑が行われる。それも、吊り下げた奴隷女の足を、戦車(キャロット) の車輪軸の先につけた刃で 切るというもの。続いて騎乗した剣闘士同士の合戦が行われる。ところが、勝利した剣闘士が仮面を取ると、それはカビーラだっ た。。民衆はカビーラと知って 大絶賛。 結婚を迫るフォリオから逃げるため、宮殿を逃げ出し、森の祭壇まで来て泣くリヴィア。侍女がアル・カービラのいる場所をしって いて、案内してもらう(侍女は奴隷なので、解放軍のシンパである)。しかし、またしても、それを内偵者が見ていた。カービラとど こかの寺院で落ち合うリ ヴィア。キス。 知事の宮殿に、オクタヴィウスの軍がアフリカの海岸沿い、アレキサンドリアから2日の距離まできているので、歓迎の準備をし ろ、という伝令が来る。あわてる知事。知事の最後の知恵は、カービラをローマへの反乱者に仕立て上げることだった。 オクタヴィアンの幕営では、皇帝とヴァロが会話していた。既知の仲のようである。ヴァロから聞いて全てを知るオクタヴィアン。 オクタヴィアンが2日の距 離にきていることはカービラたちも察知していた。解放軍内で作戦会議が行われる。「帝国を揺るがすぞ!」とカービラ。全軍集結。 父もメロウェさえも出陣す る。軍は二手に分かれる作戦だった。一つは父、一つはカービラ軍。一方、護衛長フォリオが、リヴィアを条件に協力していることを 知ってしまうリヴィア。侍 女にたのんで、反短軍のキャンプへの案内者と馬を用意してもらうが、それをつけていたフォリオのローマ軍がカービラのキャンプを 急襲する。乱戦。囲まれて 降参し捕虜となるカービラ。一方兄の軍ではリヴィアが捕らえられるが、長老たちに、話したいことがある、と訴える。知事の宮殿で は、カービラ生け捕りの報 告にゲヘヘヘと笑う知事。そしてオクタヴィアンのキャンプを襲え、と指示し、財宝の棺を閉めながら高笑い。本当に典型的な悪代官 なペトロニウスである。 護衛長フォリオのキャンプを襲うベドウィン軍たち。カービラを奪還に来たのだった。カービラの縄をとくメロウェはフォリオに襲わ れ命を落とす。そしてそこ にリヴィアも、メロウェを看取る。フォリアとカービラの対決。ついにカービラが勝つ。その頃オクタヴィアンの陣では知事と皇帝が 会談していた。知事は、 「私がアル・カービラをあなたにあげよう。そして私の(エジプト支配の)権力と交換しよう」と提案し、オクタヴィアンが考え込ん で後ろを向いた隙に、知事 はオクタヴィアヌスを刺そうする。そかしオクタヴィンの側では読んでいたため、知事はあっさり護衛兵に殺される(右が知事、左が オクタヴィアン)。。「ゲ ハハハハ」という下品で悪党な笑いが強く印象に残る知事だった。 知事を退治した後、オクタヴィアンの軍営は、カービラ軍と対峙することになる。にらみ合いは4時間続く。囲んで沈黙するベドウィ ン軍。皇帝の側近は、陣形 に隙が出るのを待っているのではないでしょうか?と意見を述べるが、ヴァロは、「アレクサンダー大王の包囲にエジプト人は終日 待った」と意見を出す。つい に、アル・カービラが単身でオクタヴィアンの陣営にやってくる。カービラがオクタヴィアンにマーク・アントニーのペンダントを渡 す。私はシーザリアン!あ なたの兄弟だ。というカービラ。しかい皇帝は言う。「役人の監視は強める。しかし、エジプトを分割することはできない」 カービ ラは答える「いつの日か、 ローマは滅ぶだろう。しかし、カービラは死なない(必ずいつの時代にもカービラのような人間が現れる、という意味だと思われ る)」。そして、リヴィアと二 人だけで砂漠に去って行く。いかせてやれ、誰も運命の方向を変えることはできない。と見送るオクタヴィアン。 -終- 本 作では、「シーザー」と「オクタヴィアン」という言葉を分けて用いていたり、カエサルの書状や、クレオパトラの息子であること で、エジプトの支配権を主張 するカービラと、マーク・アントニーの息子は騒乱の種になるし、ローマの権益としてエジプトは絶対に手放せない、という皇帝の主 張が交わされ、両者、無闇 な闘争を望まず、現実的な対応に落ち着いた点が、ドラマにリアルさをもたらす効果があったように思います。それにしても都会育ち のリヴィアが最後、一緒に ついてゆくとは思わなかった。最初に登場したときの「別の人生を想像したことある?伯父さん?」という台詞はこの伏線だったの か。納得。 IMDbの映画紹介はこちら。 英語版DVDはこちら。 |