巨像映画(2)「狄仁傑の通天帝国」(邦題「王朝の陰謀 -判事ディーと人体発火怪奇事件-」)

 2010年香港製作。中国での人気ドラマ狄仁傑*1シリーズの映画化です。ドラ マではかけられない予算をつぎ込んだだけあって、武則天(則天武后)の巨大 な観音像と首都洛陽のCGは結構見せます。今回は、日本語でのあらすじも一部ネット上にあることですし、一応推理ものかつ、 最近の作品ということでネタば れは避けたいので、感想と、本作の主要アイテムである「巨人」を中心にご紹介したいと思います。

*1 日本では、ディーレンチエ(狄仁傑)シリーズ(狄判事シリーズ)として、オランダ人ロバート・ファン・ヒューリック原作の翻訳が多数早川書房から出版されています。 狄仁傑は武則天時代に活躍した実在の人物。中国のドラマの狄仁傑は中年の小太りなおっさんですが、本作品の狄仁傑は、若くて イケメンなアンディ・ラウ。

 まずはCG画像から。下記は洛河を挟んだ洛陽の街。いかにもCG画像ですし、当時ここまで巨大な帆船が出入りしていたのだ ろうかと、史実性に疑問もありますが、娯楽作品なんだからいいや、という感じ。

  遠目に建築中の巨像が見えています。唐代の1丈は3.11mで、この像は66丈とのことなので、205.26m。北魏時代の 洛陽に建設された永寧寺は、最 小の説で120m(唐代長安の大雁塔が64m程度)、最大の説で300mとの説があるので、まったくの無茶な設定ではなさそ うです。

 時代は唐高宗死後、武則天が皇帝即位の準備を進め、反対派との暗闘が続いている頃の首都洛陽。前 回の「ロードス島の巨人」と異なり、こちらの巨像は史実ではなく、完全なフィクション*2ですが、比較してみる のもいいかも、と思い紹介します。といっても、見所は巨像だけな感じ。

*2 下記は、洛陽市博物館に陳列されている、唐代洛陽城の復元模型。ピンボケしていてわかりづらいかも知れませんが、少なくとも巨大観音像はありません。



 冒頭、ビザンツの使節が巨像を見学する場面から始まる。巨像内部に入ると、製鉄所がそのまま内部にあって材料を製作してい る。このあたり、中国版スチーム・パンクという感じ。下記は内部を下から見上げたところ。

 こちらは、少し上の階から見下ろしたところ。

 人力(馬力だったかも)エレベータで巨像の目のところの展望台に上がる使節と案内人一行。内部から見る眼の部分は、ロード ス島の巨人と似ている。

 その眼の展望台に出る使節一行と案内の役人。ここで、案内人の役人が突然発火して焼身してしまうとう事件が発生。しかも事 件は一度で終わらず、次々と関係者が「自然発火」して焼死するという怪事件が発生するところから物語が始まります。

 展望台から見下ろした武則天の宮殿。

 武則天のヘンな髪型。唐代というより、清代という感じ。

 これもヘン。バックの多数の帆船を見ていると、洛陽というより広州のように見える。

宮殿のテラスから見る洛陽城。雄大な感じ。少なくとも「王 妃の紋章」に登場した、いかにも暗黒時代といった宮殿とは違い、気宇壮大な開放感があります。

夜の高官住宅街。

 進奏院。皇帝(この場合武則天)陛下に上奏される上奏文の起草・複製・記録作成などを行っていると思われる部署。

 これが、武則天の政務広間。まあ、この規模は、実際にはありえなかったと推測していますが、娯楽映画だからいいです。

  ネタばれになりますが、まあ予想される結末だと思いますので、載せても問題ないかと。巨大観音像が倒壊する瞬間。で、ここで ご紹介したいのは、倒壊ではな く、宮殿の全体像。この倒壊場面でしか、宮殿俯瞰画像が登場しなかったのです。当時の洛陽城の図面を見ても、宮殿がこんなに 水で囲まれていたようには思え ないので、本作のフィクション度の高さがわかろうというもの。

  右が武則天。左が側近の李氷氷演じる静児。李氷氷は正直、あまり魅力が出ていないように思えました。一応武官なので、アク ションが多数あるのですが、やた らと”キメポーズ”ばかりが目立ち、ちょっとオーバーにやりすぎな印象を受けました。アクション場面はスタント役者がやっ て、”キメポーズ”のみ李氷氷が やっているようにしか見えないのが残念。たとえ、少々アクションっぽい場面を李氷氷自身が演じているとしても、そう見えてし まうくらい、「あんた敵を倒す よりポーズをとることが目的なんじゃないの」と突っ込まざるを得ないのが残念でした。李氷氷でなくても、誰でもよかったよう な役柄(でも重要な役)でし た。


 さて、単なる怪事件ではなく、明らかに武則天への政治的陰謀に関連する重大事件と推察されることから、武則天は、獄中に あった狄仁傑を釈放し、李氷氷ともに捜査にあたらせます。途中、田中芳樹氏の「纐纈城綺譚」 に登場する纐纈城のイメージそのものの魑魅魍魎の住処が登場したりして、割と飽きない展開。”纐纈城のイメージ”というの は、あくまで私のイメージ。「纐 纈城綺譚」は、実在の僧円仁が、唐への留学中に遭遇した事件を脚色して書かれた歴史アドベンチャーの小品(纐纈城のエピソー ドは「宇治拾遺物語」に掲載さ れているとのことですが、私は「宇治拾遺物語」の原話を読んでいないので、田中氏の作品を引き合いに出しています*3)。纐 纈城の様子とアクション場面は なかなか見ごたえがあるのですが、暗くてアクション場面も素早すぎて良さげな画面ショットが取れないのでした。

*3 田中氏の作品はこれしか読んだことが無いのですが、この本のおかげで一時期唐宣宗(在846-859年)に興味を持ってしまったことがあります(「纐纈城 綺譚」の主人公は、若かりし頃の宣宗)。

 そんなこんなで捜索は続き、最後には陰謀の全貌が明らかになるとともに、カタストロフィックな結末を迎えて終わるのでし た。

 本作、日本語版dvdがそろそろ出てもよさそうなものですが、ネットで検索している限りではまだ出ていなさそうです。映画 館で上映してヒットするような作品とは思えませんが、日本語版dvdくらいはあってもいい作品かも。と思うような作品でし た。

追記:2012年5月5日から日本公開。邦題「王朝の陰謀 -判事ディーと人体発火怪奇事件-」。 本記事作成時、「映画館で上映してヒットするような作品と思えない」と書いてしまいましたが、これは、「中国歴史ものという と、三国志や水滸伝などの好き な方の多い日本で映画館上映してヒットするような作品とは思えない」という意味。狄仁傑モノは、中国では有名なので、上映す るからには是非ヒットして欲し いと思います。中国ミステリーの知名度があがり、包青天モノの上映につながったり、いつか将来「大宋提刑官」の日本語dvd が出る時代が来てくれいないか なーと思うのでした。  



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