イスラム歴史ドラマ「ウマル」第二十九話から第三十話


  第二代正統カリフ・ウマルの半生を描く2012年サウジアラビ ア製大河ドラマ。全30話のうち第24話から第28話。一話45分。youtubeのMBCアカウントに英語字幕版全30話(こ ちら)が公開されています。第三十話は87分あり、実質三十一話分となっています。

 第二十九話

 638年、エルサレム陥落。降伏の条件がウマルのエルサレム訪問であったことから、ウマルはエルサレムを訪問する。

 エルサレムを訪れたウマルは、キリスト教の教会に案内される。ここを礼拝に使ってよい、というエルサレム司教に対して、ウマル は、「私は一部のムスリムが、礼拝の場所としてこの場所を奪って しまうことを恐れているので、やめておきます」といい、預言者が夜をすごした岩の場所にいきたいという。しかし、その後、瓦礫が散乱する岩の場所を見たウ マルは司教に向かって、酷い場所だと非難めいたことをいうのを忘れない。要するにお前達の宗教の礼拝場所を尊重するんだから、 我々の宗教の聖なる場所も尊重しろ、ということだろう。

 ウマルは、信徒を集めて、ここにAqsaモスクを作り、第三のハラム(禁忌)の場所とする、と決める。更に司教に対し、お前達 の宗教はお前達の法で裁け、我々に注文がある場合は言ってくれ。ムスリムがお前らに被害を与えた場合は、寛容である必要は ない。私にいってくれ、と告げる。これが後のズィンミー(Dhimmah(ディマー或いはジマーの民の意味)制度の誕生に結びつくのだった。

 エルサレムを離れて、帰路、アムル・アースがウマルに問う。シリア征服が完了した後には何が来るのですか? −どういう意味 だ? −エジプトです よ。 −エジプトは広大で人口も稠密だ。お前はそれを征服したら、我々から離れるのではないか?もし泥沼にはまり込んでも、援軍は送れぬぞ。と懸念するウ マル。
 「エジプト人の宗教信条はビザンツと少し違う。皇帝は信条を強制しているので、信徒は郊外の修道院ににげたりしている。ビ ザンツ軍は少数で、シリアという後背地は我々が抑えたので、いまやエジプトのビザンツ軍はコン スタンティノープルと海で結ばれているだけである。私は改宗するまえ交易でエジプトに来ていたから良く知っている」 と口のうまい アムルに、ウマルは、よく考えてみるからそれまで行動を起こさぬよう命じる。
 次いでウマルはダマスクスに入る。


 ヒジュラ暦17年(639年)。市場を見回っていたウマルは、自分の息子アブドッラーが共有地である牧草地で、彼個人の売り物 の羊を飼ってい て、他より太っているこを見つけて激怒する。その理由は、「人びとは、お前が私の息子だから、お前を優遇しているのだろう。アミール・ムウミ ニーン(カリフ)の息子の羊だから、注意して扱わないといけない、と思っているのだろう」ということだった。息子は「私は何も いってませんよ」と言訳をするが、 ウマルは、では 彼らに問うてみよ。これらの羊は特殊な利益なのだから、全て国庫に収めよ。と命じる。

 ダマスクスのアブー・ウバイダからの「シリアで非ムスリムをムスリムが殺した。どうすればよいか」との問い合わせの手紙が来 る。こんなことをと合わせてくるとは。と唸るウマル。特別に酌量する理 由がなければ殺人者として裁け。そう書いて返信せよ。と役人に命じる。続いて、バフレイン知事(ペルシア湾西岸地方)に任命した男に財産目録作成を命じ る。知事を収益の機会と捉 えるのは間違っていて、人々の間の諍いを裁くために任命するのだ。知事の期間に肥え太るやつがいるので、財産目録を提出させるの だ。人びとは事業を他のひとびとから優先してもらおうとして知事に収益を与える。これがいやなら知事はうけないことで、受け入れ るなら知事に任命する。選ぶのは君次第だ。と任命にあたって厳しい条件を付ける。

 こうして少しづつ業務の組織的分担を進めるウマルだが、それでも細かいところに干渉するのはやめられないようで、通りで、駱駝 の荷物が多すぎるのを目撃すると、「持たせすぎじゃないのか?」と注意するのだった。更に、物乞いの盲目のユダヤ人には国庫から 支援金を出させ、ジズヤをとらないことにする。部下に「これは彼だけの話ですか?それとも規則化するの ですか?」と問われ、規則にする、という。

 ヒジュラ17年飢饉の年。砂嵐と日照りにより不作に陥る。日照りから台地が乾上って大量の砂嵐を巻き起こした。パンと油しか摂 らない夫に、ウマルの妻は、命を縮めると心配する。民衆が飢えているのだから、自分も多くは食べずに苦しみを共有する。と答える ウマル。そうして、助けに来てくれと、アムルと シリア、イラク、ペルシアの知事達に手紙を出させる一方、アラビア知事たちには、飢饉が終わるまでザカート(喜捨)は免除してよい。と命ずる。

 シリアからは、食料用に400頭の駱駝を連れてアブー・ウバイダが戻ってくる。続いてムアウィーアが3000頭以上の駱駝が到 着すると いう(これは後のウマイヤ朝開祖ムアーウィアのことだと思われるが、映像には登場しない)。アムルからは、既に1000頭の駱駝と20艘分の小麦粉と衣類 を送ったと報告が来る。イラクからは1000頭のラクダ を送ったとサアドから報告が来る。各地からの支援に、ウマルは、「ジャーヒリーヤ時代のアラブはお互いに略奪していた。今、イスラムによって統一された」 と所感を述べるのだった(ここもちょっとアラブの盟主を目指すサウジアラビアのプロパガンダ臭を感じたところ)。

 ウマルは、雨乞いの祈祷も実施し、そしてようやく雨が降って飢饉が終わるのだった。


 こうして支配体制が一段落ついたところで、ウマルはアリーを訪問し、アリーの娘、ウンム・クルスームを、本人と君の承諾があれ ば、自分に欲しいと願い出る。これでムハンマドとの結合は三重になる、とアピール(ウマルの娘Hafsahとムハンマドが結婚し ていた)。アリーは承諾する(ウマルは既に50歳近く、相手はまだ少女なので、私には違和感がありますが、当時としては普通だっ たのかも。現代の先進国でも政略結婚ではありそうかも)。



第三十話

 アブー・スフヤーンとSuhilがウマルに面会にきているが、見知らぬ人物が優先されて不満そう。激怒した二人は、とうとう待 合室を飛び出してしまう。ウマルの同世代が活躍できる時代ではなくなっていた。Suhilは息子ジャンダルのいるシリアにいくと いう。ジハードの場所シリアへ。

 マクズーン族に属するハーリドは、現シリア北西部Qinnisreen(キンナスリーン)も征服し、そこの知事になっている。 それを辞めさせるのはよくないと、ウスマ ンかアッバースがウマルを説得している。マクズーン族達は、ウマルはいつもハーリドの失策を探していると思っている。これ以上は波風を立てない方が良いと いうアドバイスである。しかしウマルは、ハーリドは勝手に支出を行なっている、これは十分反逆だ、と反論する。まず私に相談すべ きだ。貧しい人に金を使えといって いるのに、名望家に金を与えている、とハーリドを許す気配は微塵も無い。

 一方ダマスクスでは、アブー・ウバイダがハーリドを説得している。いまや負荷が大きく、役人による運営が重要だと。ハーリドは ダマスクスを去ることにする。ハーリドの腹心の部下は、(叛乱を)やっちまいますか?と唆すが、ハーリドは、生きている限りそれ はしない、と模範的な回答。本当にハーリドが叛乱を起こさなかったのが不思議。この後の死去はウマルによる暗殺も疑えるけど、案 外できた人物だったのかも知れない。

 メディナ市街ではマクズーン族に抗議を受けるウマル。

 和平条約のため、ビザンツから使者がメディーナに来る。ウマルが広場の隅で寝ていたのに驚く使者。多くの王は不正になり独裁者 になり、 恐れや心配で眠れない。ウマル、あなたは安全に感じて眠っていた。公正な支配をしている(のだろう)。とビザンツ使者はウマルに告げる。

 ダマスカスに出向いたウマル はアムル、ウバイダらに郊外で出迎えをうける。パレスチナのAmwasで疫病が発生しているとウバイダがいう。だから引き返す か、一緒に来るか判断してください。逃げるのも神の意志だといい、引き返してしまうウマル。 ・・・この部分はかなり言訳じみて 見えた。わざわざこういう場面を挿入するということは、案外史書に書かれているポピュラーなエピソードなのかも知れない。

 第一話から登場しているSuhail氏が伝染病で死去。ウマルからウバイダに、低地の人々を高地に移すよう手紙が来る(この少 し前か らだが、シリア方面の統治は、アムル・アース、スフヤーンの息子ヤジード(ムアーウィアの兄)、アブー・ウバイダの三人体制になっている。伝染病で死去す るウバイダを見取るのもこのふたりとなる。ウバイダ死去。

 ヘジュラ暦20年(642年)エジプト。アムル、遂にエジプト侵攻。突然アムルからウマルへ手紙が来て、Al- Farma、Bibies、Umm、Daninとバビロン要塞でビザンツ軍を破った。エジプトのコプト教徒からの敵対には遭遇しなかった、との報告が来 る。ウマルは、ビザンツ人はエジプト人から嫌われていたので自発的 な帰順が得られたのだ。味方も敵も血を流さなかった点が肝要だ、と感想を述べるのだった。しかしながら、アレキサンドリアはなかなか陥落せず、2年後、ウ マルは「アレキサンドリアを包囲してからもう2年もたつ。そなたは今の地位に安穏としてしまっているの ではないか」とアムルに向かって急かす手紙を送ることになる(下はアレキサンドリア市街)。




 アレクサンドリア知事Muqawqis(その他の非ムスリム同様外見はあまりぱっとしない)は、このままでは緩慢な死だ。打っ て出るか和平か、と 宮廷で問う。で、結局開城となるのだった。こうしてエジプト全土がイスラムの手に落ちたのだった。

 ヘジュラ暦21年ホムス(シリア南西部)。病の床についているハーリドは、ウマルは私だけではなく、誰にでも厳しい。私より優 れた人物さえ取り除く。例えばア ビー・ワッカース(サーサーン朝を征服した司令官サアド・アビー・ワッカース)。彼は預言者の後見人だった。ワッカースほどの人物であっても失脚させられ たことが、私のウマルに対する敵対感情を殺いだ。我々は意見が違っただけだ。死 にあたって、財産、娘をウマルに信頼の証として寄贈する。と遺言し、死去するのだった。

 こうして、ウマルと同世代の人物、アブー・ウバイダ、ハーリド、Suhailが死去し、アブー・スフヤーンとサアド・イブン・ アビー・ワッカースは引退扱いとなった。残る同世代の現役は、早期改宗者である、ウスマーン、アッバース、そしてアムル・アース である。この三人の中で唯一の実力者アムルは、うまく生き延びた。企業で言えば、遠方に新規支社を立ち上げて社長となり、社内中 枢の権力争いを避けて生き延びた、という感じでしょうか。次世代の実力者であるムアーウィアやアリーの争いでも上手く立ち回り、 結局エジプト総督に再任されてエジプトで生涯を全うしたのは凄い(とはいえ息子に継承させることはできず、その後はウマイヤ家一 門が総督に就任するようになる)。


 ペルシア帝国のアフワズ(現イラン国南西部)とTustur(シュシュタール)の知事Al-Hurmuzan (第28話カーディシーヤの戦いで逃亡したペルシア人将軍と同一人物だと思われる) がメディーナに連行されてくる(下右。頭に王冠が。。。)。彼はずっと城に立てこもり、抵抗を続けてきたのだった。ワンカット、籠城するホルムザーンと兵 士と町の映像が登場する(下左)。クテシフォン同様、古代バビロンみたいな映像となっていてまったく信じられないが、しかし否定 する史料も見つかっていないので、取り合えず貴重な再現映像として画面ショットを取得してみました。



 この部分は、とって付けたようなストーリー展開となっているが、実は、イスラムがアラビア民族以外にも広がると同時に、民族性 まで消滅させることはできない、という重要な点を描くためであると思われる。ホルミザーンは、我々は我々の王国を守る為に戦った のだから、後悔はないし、悪いことをしたわけではない。アラブ人にイスラム以前の時代があったように、我々ペルシア人にもジャー ヒリーヤ時代(イスラム以前の未開時代)があったのだ。今、以前のホスローの王国の人びとはイスラムに改宗しつつあり、やがて殆 どの人びとが改宗するだろう。しかしアラブ人が今でもアラブ人であるように、ペルシア人はこれからもペルシア人なのだ。と述べる のである。これが更に後の場面に繋がってゆく。なお。この場面の会話から、ニハーワンドの戦い(642年)は終わったことになっ ている。ホルムザーンはイスラムに改宗し、メディーナに住むことを許され、イスラムの教えを学ぶ教師もつけてもらうなど優遇され る。

 コプト教徒とアムルの息子の戦車競争での争いが発生し、アムルと息子、及び争議相手のエジプト人がメディナに裁きを受けにやっ てくる。ウマルは、アムルの息子を杖で叩かせる。アムルも父親なのだか ら叩けというと、エジプト人は息子が相手なのだから十分だという。アムルはキュレナイカとトリポリへの侵攻を提案するが却下される。

 ファイルーズという元ニハーワンドの戦いに参加した兵士が商人に雇われてメディナにやってくる。彼は大工であり、粉引き工場で の作業経験があり、日に4ディルハム稼ぐ、鍛冶屋でもあり装飾職人でもあり、なにかと重宝な人材だと、夜中ホルミズドのところに やってきて、彼自身を売り込む。ファイルーズは、まだゾロアスター教徒と して聖なる火を持ち出して信仰を続けていた。彼はホルムザーン(ホルミズド)に告げる。今はアラブの時代だが、いつか我々の時代が再び来る、と。ホルミズ ドは、最初は、私は既 にムスリムだと取り合わないが、話しているうちにホルミズド自身わからない感情が語られる。滅びたのはペルシアの王国であって、 ムスリムだけがアラブの支配者でありうるわけではなかろう。と、ペルシア人イスラム教徒の立場からの、アラブからの独立感情が、 イスラム共同体(カリフの政権)から、後のペルシアが独立する理屈(民族主義)の萌芽が語られるのだった。全ての人類に与えた予 言を愛している人とは、予言を彼にもたらした人を憎むということではないのか?(これは考えようによってこのドラマの制作国にお けるシーア派観の吐露かと深読みしてしまう)
 この後、「私はいったい何を言っているんだ。この悪魔め!」とホルムザーンはファイルーズを追い出す。

 しばらくしたある日の昼間、町中で再会すると、ファイルーズはホルミズドに短剣を見せる。一体それで何をするのだ、私は何も見 ていない、何も聞かなかったと、ホルミズドは怯えて去る。ファイルーズは短剣を隠し持って礼拝に出席すると、ウマルを刺すのだっ た。

 ウマルは臨終の床で集まった人びとに、後継者を、ウスマン、アリー、Talhah、Al-Zubair、アブド・ラフマーン・ イブン・Awf、サアド・イブン・アビー・ワッカースの6名で3日間話し合い、4日目に新カリフを決めるように、と遺言を残すの だった。

〜終〜

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