チェコ民族の歴史の原点のひとつでもあるヴァーツラフ一世(在921-929年)の生涯を描い
た1930年チェコ製作のサイレント映画。原題「Svatý Václav(聖ヴァーツラフ)」。 画面ショットを55枚も取ってしまいました。字幕の約1/3をGoogle翻訳に打ち 込んで訳すという作業に4時間以上かかり、視聴から記事作成まで合計で8時間以上かかっているのでした。上映時間比率にして全 作業に約5倍の時間がか かっており、何が自分をそこまで駆り立てたのかと考えるに、もの珍しい時代・地 域ということや、100分とはいえ、ヴァーツラフの祖父の時代から始まる大河ドラマなので、意外にカット数が多く、更に建築物や インテリアを見る限り、 ちゃんと時代に沿った変化をしているので、景観の映像化に興味のある私としては勢い画面ショットの数が増えてしまうということが あるとは思うのですが、そ れ以上に、本作が民族の威信をかけて作られた作品であるという点に、興味を惹かれたのではないかと思います。 本作は、600年以上の 間、一時期を除いて外国人の支配者を戴いてきて、第一次世界大戦後に独立を達成したチェコ人の民族的原点となるべく製作されたと 推測される作品であり、ナ チスに併合された1942年に一度製作されて以降、ヴァーツラフ映画はどうも製作されていないようで、2010年にチェコのオペ ラ座で、オーケストラ付で 上演されたのは、1942年版ではなく、この1930年版であることからも、本作が、チェコにとって特別な作品であることが伺わ れます。歴史映画は、製作 された国の自国史への自己イメージが反映されているように思っています。歴史映画・ドラマは、歴史の映像を楽しむだけではなく、 その国の社会の理解に役立 つ、という側面もあると考えています。本作には、特にそうした側面、1930年当時のチェコ社会だけではなく、これが現在にも上 演されているということか ら、現在のチェコ社会の意識のようなものを強く感じたことが、一部字幕を翻訳してまで傾注した理由だと思うのです。 ところで、 Google翻訳では、「チェコ独自アルファベット(例えばčやš、řなど)は、そのまま英語のc,s,rを使って翻訳できるこ とを知りました(一部、同 義語と思われるものだけ、チェコ独自文字を使う、ということのようです)。おかげで効率的に作業ができました。 なお、10世紀のチェコの王は、歴史学的には「チェコ侯」とするのが正し いようなのですが、これ は、神聖ローマやローマ教皇から見た時の称号で、チェコ民族にとっては、ヴァーツラフは王以外の何者でも無いことから、本記事中 では、王、王子、王妃、の 用語を用いています。 IMDbの映画情報はこちら。 チェコ歴史映画一覧表はこちら。 〜あらすじ〜 農民が耕地を耕す場面から始まる。続いて族長会議の場面(下記)となる。 続いて宗教的祭儀の場所。このトーテムは、「原初のロシア」や、「カール大帝」に登場したザクセン、「DIE DEUCHENの「カール大帝とザクセン」、チェコの伝説の女王リブシェを描いた「The Pagan Queen」でも登場していた。、 プラハ、ヴィシェフラドの城と思われる。かなりリアリズムな感じ。 王Spytihnev(スピチアレフ:在894頃−915頃)と王子ヴラチスラフが城の外を見ながら何か会話している。 城の内部。向こう側から、司教と王、王子夫妻が歩いてくる。左手が石造の教会。実に粗末な砦なところもリアルな感じ。 王子夫妻(ヴァーツラフの父、ヴラチスラフとその夫人が洗礼を受ける場面。背後に木造の十字架がある。 洗礼の儀式に、教会の外でかしずく人々。洗礼式では、頭に聖水をかける時、どのようにしてよいかわからない王子妃ドラホミール の様子が出てくる。 野外での狩猟場面。この頃既にスピチアレフ王は死去し、王妃リュドミラは未亡人になっている。狩猟に参加し槍投げをしてみせるの は王子妃のドラホミール。 槍は木に深くささり、王となったヴラチスラフは感激しているようである。この場面では、王の家臣Vládyka Skeř は、友人を装っているが、本当は王が大嫌いなのだ、とテロップが出る。 王妃戴冠式の城内の広場。ここのあまり広くは無い。リュドミラはあまりいい表情ではない。王妃ドラホミールは十字を切り方もあ まりよくわからないようで、夫を見よう見真似で適当に十次をきって誤魔化すのだった。 この時カラス(のような)黒い鳥が城内上空を飛び回り、Vládyka Skeřは「不吉だ」と叫び、家臣達が矢で射落とそうとするが、どうやら逃がしてしまったようである(Vládyka Skeř が配下の者に命じて鳥を放させたか、たまたま飛んでいた鳥を使って、不吉な前兆を演出したか、どちらかだと思われる。 王の家。これも普通の木造。王妃に子供が生まれるところ。 子供が生まれると、伝令が家から出て、城の城壁の上にいる兵士に伝え、兵士がホルンを吹き、次々と周囲にホルンを使った伝達が 国中に広まってゆくのだった。 王子(これが主人公のヴァーツラフ)誕生の祝賀会。貴族達が集まって乱痴気騒ぎのところに、リュドミラとドラホミールがやって来 ると(奥のひな壇の上)、 若い家臣が、「姫たち(リュドミラとドラホミールのこと)の長寿ましませんことを!」と口にして乾杯しようとするが、 Vládyka Skeř に叱責され、「ドラホミールに乾杯!」となる。 グラスを高く掲げ、乾杯と叫ぶドラホミール。主役はアタシ。と全身で言っているのだった。 グラスを掲げ、横目でリュドミラをにらみつけるドラホミールの目つきが怖い。 ヴァーツラフはキリスト教の精神を強く持つ青年に成長した。下記はその頃の教会。木造になり、広くなっている。前髪を切る儀式 をやっていた。成人式か何かなのかも知れない。 その場には、弟ボレスラフと妹Pribyslava(プリビスラヴァ)もいた。貴族スケシュはリドミラと対立していて、弟ボレ スラフに、「兄のすることを良く見ておくように」と背後から囁くのだった。 リュドミラとヴァーツラフは、墓か何かと思われるところにやってくる。ヴァーツラフは花を添えてしばしひざまずいて祈るのだっ た。 近くの森では、少女達が輪を作って踊っており、その中の少女の一人が祈るヴァーツラフを見つけて、踊りの輪から出てきて、木の 後ろからそっと見つめるのだった。 ヴラチスラフ王の死後、ドラホミールが国を奪った。ドラホミールは王宮で、貴族達に呼びかけている。「諸君!この伝令は Radslav Zlickyが暴力を振るったという内容をもたらした。ラディスラフに剣で思い知らせてやるのよ!」 訴訟レベルのことで戦争か!と反対する貴族が出てきて紛糾する。そこにリュドミラトヴァーツラフがやって来る。リュドミラは、あ なたには戦争を決める権利 は無い。私は唯一のチェコの王子自身が支配し、戦いや平和を決定することを望みます。といい置いて退場してしまう。まだ若い ヴァーツラフは、家臣から「虐 げられた兄弟達を助けないのですか?」と請われ、戦争に同意してしまうのだった。息子を抱きしめるドラホミール。かくして反抗的 な貴族Radilav Zlickyの国に攻め入ることになったのだった。 その間にも、ラディスラフ軍は、チェコの砦を襲撃していた。既に戦争状態なのだった。 出撃するヴァーツラフ軍。 進軍するヴァーツラフ。神話的な場面。 ラディスラフ軍と退治するヴァーツラフ軍。ヴァーツラフ颯爽とした姿。 相対するラディスラフ軍。 本格的な戦闘にならず、ヴァーツラフとラディスラフの一騎打ちとなる。 ヴァーツラフの背後に守護神を見たラディスラフは馬から落ちてしまう(この場面、本当に守護神役の人がヴァーツラフの後ろについ ていた)。ヴァーツラフの 勝利となり、お互い肩を抱いて和解するのだった。なお、この場面は結構なエキストラが出ており、第二次世界大戦以前にここまで動 員したスペクタクル映画 は、ハリウッドかイタリアだけだと思っていたので、小国チェコの動員力に驚きました。それだけ力が入っていた、ということなのだ と思うのですが、ここまで 民族的英雄の大作を作りながら、共産主義時代には殆ど中世チェコの映画が作られていないのが不思議です。ブルガリア、ルーマニ ア、ポーランドでは普通に作 られているのに。 戦争が終わり、めでたしめでたしな筈なのですが、手柄が全部兄一人のものになってしまった弟ボレスラフは気にくわないのでし た。 プラハ城は各国からの商人であふれる市場となった。アラブの商人まで来ています。 Skeř(スケシュ)は影響力が落ちてきたドラホミールと相談。スケシュが老けてきているのもいい感じです。その二人を、市場 で買い物をしていたヴァーツラフが見かけてしまう。間の悪いことに、二人が手を取り合った瞬間を見てしまったのだった。 一方の祖母リュドミラは、教会でその日暮らしの貧しい人々に施しするのだった。それを見て気にいらなそうなドラホミールとスケ シュ。ドラホミールは、スケ シュに向かい、「ちょっとあんた、なんとか言ってきなさいよ」という感じであごをしゃくると、言いなりにスケシュは教会の前に群 がる貧民を追い散らすの だった。それを見咎めたリュドミラが、スケシュに注意すると、二の句が告げずあっさり引き下がるスケシュ。そこにドラホミールが 割って入り、「あなたは新し い火種を撒き散らしているのでは無くて?これらのものをどこかにやってしまうことをお奨めしますわ」と言いがかりをつけるのだっ た。そこにヴァーツラフが 割って入り、自分の母親(ドラホミール)に向かって、チェコはあなたの助言は必要としていない、と言い放ち、祖母をうれしがらせ るのだった(下記は「とっ ととあっちへお行き!みたいな感じで拳を振り上げるリュドミラ)。 ある夜、リュドミラの家をスケシュ一味が襲撃する。スケシュ配下の者は、一度はリュドミラに説得されて剣を落としてしまうが、ス ケシュからリュドミラの機 織機にあった布を渡されて、それで十字架に祈るリュドミラを絞め殺してしまうのだった。首を絞められて目を剥く場面は、1930 年当時としてはショッキン グな場面だったのではないでしょうか。 祖母の遭難も知らずにパン職人と一緒にパン作りに励むヴァ−ツラフ。 翌朝、ドラホミールの元にスケシュが戻り、首尾を聞いて高笑いするドラホミール。一方リュドミラの家の家人が意識を取り戻し、 ヴァーツラフの王宮に走る。 ヴァーツラフの王宮では、ヴァールラフに思いを寄せる侍女*1(たぶん、最初の方で、森で踊っていた時、ヴァーツラフを見かけて 木の陰から見つめていた 娘)に弟のボレスラフが迫るのだが、嫌がる娘。本(多分聖書)を読んでいたヴァーツラフがかけつけ、「嫌がっているじゃないか、 やめろよ」ととめる場面が 下記。こういう些細なことも、弟の嫉妬を強めることになるんでしょうね。本当はこの後、ヴァーツラフが、祖母が殺された件を知 り、下画面右上の鐘を打ち鳴 らし、鐘の下の王座に怒りのあまりふんぞり返って座っている場面を掲載したかったのですが、そちらは画面が暗くて王宮の内装がわ かりずらいので、下記 ショットを掲載しました。一人にさせてくれ、という王に対し、「運命をともにしたい」とさりげなく告白する侍女。 *1 この女性は、恐らく後々出てくるボレスラフ妃となる、スケシュの娘ラドミーロだと思うのですが、見直す気力が尽きてしまいました。見直す機会があったら、 確認しようと思います。ここでラドミーロがヴァーツラフを諦めた理由は字幕には無かったと思うので、推測するに祖母を暗殺したド ラホミールがスケシュと結 んでおり、そのスケシュの娘であったことから、自発的に身を引いた、ということなのではないかと思われます。 鐘の音がドラホミールの家にも聞こえ、王妃冠と衣装を娘に調えさせるドラホミール。ドラホミールの家にも機織機があります。映 画「カール大帝」でもカール大帝の家にもあったのだから、当時王家の家で王族の女性が普通に機織していたものだと思われます。 王宮に集まる家臣達。スケシュもくる。若いときはそれなりにハンサムだったのに、段々太って、背中がもりあがり、ゴリラのよう な容貌になってきているスケシュ。 ヴァーツラフは、リュドミラ殺害を家臣に告げ、これより自分が統治する、と宣言する(下記右がドラホミール)。 愕然として王冠を頭から落とし、王宮を去るドラホミール。 スケシュの家では、スケシュの娘が、ボレスラフに告白された、と父親に告げ、将来の王妃だ!と喜ぶスケシュ。 そしてボレスラフはRadmilouとの結婚式を挙げ、プラハ城を出て行ったのだった。 とりあえず、スケシュ=ボレスラフという不満分子は残るものの、ドラホミールを失脚させ、一応の安定を得たチェコ侯国は、次な る試練を迎えるのであった。それは、ドイツである(ここまでで1/3くらい)。 成長著しいチェコに対して、ドイツが侵入を企てつつあった。特にバイエルン公アルヌルフは、Gera(現ドイツのチューリンゲ ン州東部)の主である、ドイツ王ハインリヒの甥を連れて進軍してきた。左がアルヌルフ、右がハインリヒの甥のようである。 谷を進軍中のアルヌルフ軍。結構なエキストラである。ちゃんと牛車もあり、輜重隊も再現されているのは素晴らしい。 国境警備隊が、狼煙火でプラハ城まで信号を送る。アルヌルフ軍はすばやく国境の狼煙を攻撃させるが、プラハ城に伝令が届き、 ヴァーツラフは各地に支援要請を送る。 弟のボレスラフの元にも伝令が送られるが、自堕落にクッションに寝そべっていたボレスラフは、使者を追い返して高笑い。 アルヌルフ軍を迎え撃つチェコ軍は、街道に大木を倒して砦とし、進軍を防ごうとするが、大群で押し寄せるドイツ軍には適わず突破 される。そこに、ヴァーツ ラフは自ら忠実な家臣軍を率いて前線に到着する。それを聞いたアルヌルフは、ハインリヒの甥に、「王子、活躍の時が来ましたぞ」 とけしかけるのだった。け しかけられた王子一隊は、森を進軍し、隠れて待ち受けていたヴァーツラフ軍に壊滅させられ、王子は捕虜になっててしまう。しか し、ヴァーツラフもドイツ兵 に刺されて負傷してしまうのだった。 ヴァーツラフはプラハ城で養生しながら、考える。そして家臣を集めて言うのだった。「これは元来が 無謀な戦争ではなかろうか?」そして、牢獄の王子を連れてくるようにいう。下記がその牢獄。岩山に掘った横穴。考えてみれば当時 の平屋一戸建ての王宮に地 下牢があるわけも無いのだった。 王子を前に、「私は殺人や戦争を希望していないから、あなたの主権を尊重しましょう」と伝えるヴァーツラフ。そこに、突然出撃し てきた弟ボレスラフが、 「半分は私が戦ってきたのだ。戦い無しでの関係などありえはしない。勝手なことをするな」とクレームに来る(彼は今回何もしてなかったと 思うんだけど)が、ヴァー ツラフは取り合わず、スケシュも、ボレスラフを、「まだこれからチャンスはある」と説き伏せる。セタの王子は配下の兵士ごと解放 され、森にいるアルヌルフ の軍営にヴァーツラフとチェコ貴族を連れて戻り、アルヌルフと肩を抱き合い、そしてヴァーツラフと貴族を「私の友です」とアルヌ ルフに紹介するのだった。 アルヌルフがどういう行動に出るのか興味があったが、あっさり納得して、チェコ貴族と握手を交わすのだった。 こちら、東フランク王ハインリヒ(ザクセン王朝のハインリヒ1世)の宮廷。場所は現ドイツのライプチヒの北150km程のとこ ろにある Quedlinburg(チェコ語Kvedlinburce)らしい) ハインリヒ王近影。若干身を乗り出して、もの珍しいものでもよく見ようとしている感じでヴァーツラフを迎える。 ハインリヒの王宮全景。王宮はもちろん石造である。 ハインリヒ王(左)とその家臣(右側がセタの王子。ハインリヒの甥だそうだから、中央の老人がハインリヒの兄(?)なのだろう か)。 そこに、チェコ王ヴァーツラフが入場してくる。 ハインリヒの手前にいるのがヴァーツラフ。この後、ハインリヒはヴァーツラフのもとまで降りていって、肩に手を当てて挨拶し、 贈り物を与えるのだった。 この後ヴァーツラフは、「プラハ城に聖ヴィートの聖遺物を保存する聖堂を建設します」と言っているので、この箱に入っているの が、どうらや「聖ヴィートの腕」のようである(ここまでで2/3)。 その頃、ボレスラフは、自分の領地内の城や教会を増強していた。アルヌフフ軍の攻撃時に出撃した時は、プラハ城と変わらない木 造の王宮と城壁だったものが、下記のように石造に変わっている。 内側から見たところも、立派な城門・城壁となっている。 教会も石造となっている。 ボレスラフの家の前に民衆を集め、「この国の王子が誰だか知っているか?」と問う。 反乱の意思を読み取った民衆の一人が、「ヴァーツラフは、王子よりも司祭だ」と答える。そしてスケシュが祭りの日にヴァーツラ フを招く陰謀を提案するのだった。 その夜、妻Radmiloはボレスラフを説得しようとする。 「彼を傷つけるの?彼はあなたを愛しているというのに」 悩むボレスラフ。しかし、Radmiloが部屋を飛び出してしまうと、妻のショールを裂いてボレスラフは怒りを示すのだった。 陰謀の日が来た。スケシュは、配下の者と(自分自身も含めて)くじ引きで暗殺者を決めるのだった。 ヴァーツラフ一行が到着し、ボレスラフの城の教会に入る。教会で肩を抱き合うヴァーツラフとボレスラフ兄弟。左手はボレスラフの 家族達。はらはらしている 妻のラドミーロ。教会建築を見ていてもだいぶ変化のあることがわかる。本作冒頭で出てきた、ヴラチスラフが洗礼を受けた小さい石 造の教会は、積み石の並び がゆがんでいた。リュドミラの教会は木造だった。このボレスラフの教会は、プラハ城の昔の教会と比べると、積み石がずいぶんきれいに均 等になってきていることが わかる。これだけでもずいぶん変化してきていることがわかる。 はらはらしてみている妻のラドミーロ。しかしヴァーツラフは、驚いたことに、「国の管理はお前に委任する。私は聖都ローマに行こ うと思う」と口にするの だった。思わずのけぞるボレスラフ。しかし兄は構わずボレスラフに剣を渡すのだった。こうして暗殺は実行されること無く終わった のだった。 その夜、宴会が開かれる。王宮の中でも野外でも宴会で賑わっている。野外では踊りやレスリングも行われている。王宮内では楽師 4名が笛やハープなどを演奏している。 本作の前半部で、ドラホミールが乾杯した時の王宮は木造だったが、こちらは積み石で規模も大きいことがわかる。時代は進んでい るのだった。下画像の、右下の子供の耳宛付きの白い帽子のようなものを被っているのがヴァーツラフ。左手後方に楽師が見えてい る。 このまま終わるかと思っていたら、スケシュが、次々と人を宴会場から出し、気づいてみれば、ボレスラフとヴァーツラフとスケシュ の手下達以外は数名の泥酔 した貴族達だけとなっているのだった。それに気づいて、宴会場を出る時心配げなラドミーロは、一度宴会場を出てから様子を伺い、 父のスケシュが剣を取りに 戻るのを見てしまうのだった。緊張の時間が続きます。 盲目の吟遊詩人の詩に耳を傾けるヴァーツラフ。それは、死の床の老翁が、三人の息 子達に、三本の弓を合わせたものを折らせてみせ、三本あわせれば折れることは無い、という、本邦にもある毛利元就の三本の矢の伝 説なのだった。父王の死 後、結局兄弟は仲たがいして殺しあってしまう(この部分は映像が登場していた。この伝説は、モンゴルやブルガリアなど、ユーラ シア中部を中心にあちこち にあるらしい)。 最後に主の名において、愛と平和とに乾杯をしてから、ヴァーツラフ王はボレスラフの肩に手をおいてから、宴会場を去って野外 へ出る。出口で剣を持って待っていたスケシュも王に頭を下げ、何事も起こらなかった。 ああ良かった。このまま何事も無く終わればいいのに。と思ったがそうはいかなかった。野外で夜風にあたっていると、ラドミーロが 出てきてヴァーツラフと出 くわし、「逃げてください」と告げるにもかかわらず、更に言えば、詩人の語った三本の矢の話は恐らくヴァーツラフがボレスラフに 聞かせる為に詩人に語らせ たものと思われ、ヴァーツラフは暗殺の脅威に気づいていると思われるのに、そのまま宮殿内に引き上げてしまうのである。で、もっ ともわからないのは、その 後、ヴァーツラフの背にむけて駆け寄ろうとしたラドミーロが、転んで失神してしまう展開である(ラドミーロの仕草からすると、王 を背後から刺し殺そうとし たようにも見えてしまうのだが、それだとどうにも理解しがたいので、転んだ拍子に両手を上に上げてしまった、と判断するしかない)。 宴会場に残ったスケシュ一味は、再度ボレスラフを説得するのだった。 お国の為です、と言っていたような気がしますが、とにかく 再度その気になったボレス ラフとスケシュ一味が宴会場を出てゆくと、気絶しているラドミーロを発見し、ボレスラフは激高するのだった。ヴァー ツラフがやったと思い込ん だのだろうか。どうしてそう思うのか、それも無理がありそうな展開である。とにもかくにも、窮地を脱した筈の王は、翌朝のんびり 聖書を抱えて教会に向かう のであるが、城内の中庭を通過しているところでボレスラフ王とスケシュ一味に取り囲まれる。下記はボレスラフの王宮。プ ラハのヴァーツラフの王宮 は、石造部分が無く、全部木造なのとはが大きな違い。 朝、気持ちを整理して部屋を出るボレスラフ。部屋に立派なベッドがあることがわかります。 そのボレスラフは、剣を抜いてヴァーツラフの前に立ちふさがるわけですが、ヴァーツラフは「昨夜のもてなしはありがとう」などと 御礼を口にし、のんびりし たものである。やはり兄を殺すことができず、剣を奪われてしまう。兄は剣を持ってスケシュ一味をひとしきりにらむと、そのまま教 会に向かおうとするが、ス ケシュ手下の、道義心もへったくれも無い暴漢まがいの連中には王殺しの意識も低いらしく、ヴァーツラフの霊威も通じず、ついに ヴァーツラフにきりつける。 ここにいたって漸くことの次第を認識したらしきヴァーツラフは教会に逃げ込もうとするが、内側からスケシュが扉に錠をかけて閉め てしまう。スケシュ配下の 手勢に切られ終に絶命して果てるのだった。この時白目を剥いて死んだヴァーツラフの顔はちょっと怖かった。 ヴァーツラフを殺した後、ボレスラフの城に強風が吹きつける。二日酔いのヴァーツラフの家臣達も、嵐に目を覚ますが、そこにボ レスラフ配下の兵が切りつけ、全滅してしまう。荒れ狂う強風の中、チェコ王国旗高々とかざすボレスラフ。 スケシュが扉を開けて出てくる。ヴァーツラフの家臣が遺体を教会内に運び、奥の十字架の前のテーブルの上に乗せる。そこに一人の ベールを被った女性が入っ てくる。それは、追放された母ドラホミールだった。ヴェールを外したドラホミールは、スケシュをにらみ付ける。スケシュは逃げ出 し、城壁から身を投げてし まう。ヴァーツラフの遺体にすがり付いて、「許しておくれ」と何度も口にするドラホミール。 ボレスラフが兵士を従えて入ってくる。ドラホミールは両手を挙げて行く手をふさぎ、「跪きなさい!」と一喝すると、あっさりと ボレスラフは地べたに這い蹲り、許しを請うのだった。 ラドミーロも遺体のもとにやって来る。思わず、イエスの昇天画像を思い出してしまう。母マリアがドラホミールで、マグダラのマリ アがラドミーロ。しかもラ ドミーロは、ヴァーツラフの顔に白い布をかけたかと思うと、それを外して胸に抱きしめるのである。これは、まさにイエスの顔を転 写したとされる聖骸布では なかろうか。暗い教会の中、アプシスの十字架が白く浮き上がっている。 空にヴァーツラフの姿が浮かぶ映像で終わる。 〜幕〜 |