朝鮮歴史映画「神弓」(1636年の清の朝鮮侵攻)

  機会が来たら記事を掲載しようと思っていところ、気がついたら来週日本公開となっていまし た。いづれは映画館で公開されるか、dvdが発売されるだろうと思っていたので、画面ショットは前半部分しか取っておらず、あら すじではなく、映画の宣伝を目的として書いています。

 物語の背景は、1636年の清の朝鮮侵攻・丙子胡乱と呼ばれる事件です。

 朝鮮代16代国王仁祖(在 1623-49年)が即位時に起こしたクーデターの夜、光海君(在1608-23年)側の官吏であったナミとジャイン兄妹の父親 は、反乱軍の犬に追いかけ られる兄妹を助ける為に犬を射るが、このため、二人の子供の目の前で反乱軍に殺されてしまう。父は息を引き取る前に、ナミに「外 交的危機にも関わらず人々 はこれを無視している。戦争になるだろう。死ぬまで妹を守るように」と言い残す。兄妹は、地方都市の知事である父の親友キム・ ムー・ソンを頼り、キムの元 に引き取られる(キムの息子セオグンの名付け親がナミの父親で、ジャインの名付け親がキム)。ナミは弓の名手だった父の言葉、 「虎の尾を引くように引き絞 り、山を押すように押し出す」を守り、弓の名手に成長する。そして13年後(1636年)、いつの間にか恋仲にあったジャインと セオグンの婚礼の日に、こ の年、大清と号するようになった満州軍が10万の軍を以って朝鮮に侵攻し、兄妹の住む町もまた急襲されるのだった。。。。。


 実 は、韓国歴史映画・ドラマをちゃんと見るのは、本作が2作目なのでした。韓国に旅行したのはもう18年も前のことで、例によって 古代の文物を重点的に見学 してしまい、中近世の文物は駆け足で見ただけなので、殆ど記憶がありません。なので、映像を見ても、時代考証がどうとかあまり言 えないのですが、ネットの 予告編や、テレビで史劇度を判別するために10分程度見た他の韓国時代劇の印象と比べると、時代劇よりも、かなり歴史劇に近い作 品のように思えました。映 画としても、最後までボルテージが落ちず、一気に見れました。あまりCGが使われていないのも良かったかも。ワイアーアクション も見た限りでは一箇所以外 無く、アクションも人間として無理の無い範囲に収まっており、私の中では歴史作品に分類できる作品です。

 例によって建築物や衣装中心の画面ショットですが、一応ご紹介します。

  最初のこれは、酒楼。セオグンが、ジャインとの結婚したいとナミに告白するところ。前期朝鮮王朝では、商店街などはまだあまり発 達していなかったようです が、伎芸文化は発達していたとのことなので、こんな感じだったのかも。あまり芸妓ものは興味が無いのですが、朝鮮王朝時代の芸妓 映画「ファンジニ」を見る 気になりました。

  左側がナミ。右端がセオグン。セオグンは両班階級装束で、ナミも本来は両班階級だと思うのですが、すっかり狩人みたいな格好に なってます。ナミは、こころ もち、「ディアハンター」のロバート・デ・ニーロに似た雰囲気があります。どうせなら、もっと「ディア・・・」のデ・ニーロ風 に、一発必中の弓哲学などを 語りダンディズムを強調しても良かったかも。セオグンや妹と比べると、少し個性の描きぶりが乏しい感じ。とはいってもジャインが メリル・ストリープな感じ なわけでも、セグオンがクリストファー・ウォーケンなわけでも無いですが。

  結婚式のジャイン。下は、役所(儒教寺院かも)に行列をなして移動する一行。ジャインは中央の輿に乗り、輿の右手で騎乗している のがセオグン。出典を忘れ てしまいましたが、何かで見た朝鮮王朝時代の結婚装束や結婚行列もこんな感じだった記憶があるので、見た感じはリアルっぽい印象 を受けました。映像を見た 限りでは商店街も登場していないし、当時の都市は政治都市であった様子が出ているように思えます。

  役所(または儒教寺院)で結婚式の最中に、突然清国軍が襲撃してくるのだった。左は、式の参加者達が警鐘に聞き入るところ。右 は、都城に攻め入る清軍。街 の全体像がわかる映像となっています。左画像の手前の布は、式場の庭にはってあった巨大な布。どういう意味があるのか、そのうち 調べる予定。

  右が名目上の司令官。清の王子。左が実質的な司令官。中学時代、最初に後金について学んだ頃は、ローマ侵入当時のゲルマン民族み たいなみすぼらしく野蛮な 民を想像していたのですが、博物館で遺物を見ると、少なくともホンタイジの時代は既に中国文化を取り入れ洗練されてきていたこと を知りました。本作の清軍 も装備は洗練されています。

  布製の鎧の下に、鉄製の鎖帷子をつけています。清朝時代の軍装は、博物館で実物を何度も見ているのですが、鎖帷子があったかどう か記憶にありません。布製 の鎧は、雨中で鎧が水を吸って重くなったりしないように、水を含ませて徹底的に叩いて固めて中に鉄辺を入れたり、鉄の鋲で留めた りしていて、布とはいえ結 構な装甲性能がある、と読んだことがあるので、今回、下に鎖帷子を着ているのを見て少し驚きました。これもそのうち調べてみたい と思っています。
 上の下画像は、一般人の家。この藁葺き屋根も、写真集「目でみる李朝時代(国書刊行会)」に掲載されている、李朝末期の家屋と 同じ作り。

 朝鮮側の軍装の画面ショットも取りたかったのですが、あっという間にやられてしまったので、朝鮮軍の装備の画面ショットを撮る 間もありませんでした。。。。見た感じ、清国との関係が緊迫している割にはちょっと軽装過ぎで、油断もし過ぎな感じでした が。。。。

 野蛮で残酷な描かれぶりなのだろうなあ、と思っていた清軍は、意外に普通でした。整然と組織だっている点が特に印象に残りまし た。

  総勢50万人が捕虜・人質にされ、鴨緑江(Aprok川)の北に送られることになり、長い行列が北へ向かって続く。戦争捕虜で あっても、国境である鴨緑江 を渡ると、再入国時には、犯罪人・裏切り者として処罰される、という台詞が何度か出てきます。渡河する直前に、清軍は朝鮮捕虜に 向けて、「どうするか、決 断せよ」と迫り、躊躇する民衆達。その民衆の衣服には白地が多く、これも、李朝末期の写真集に写っている民衆の装束に近い感じ。
 

 一度鴨緑江を渡って戻ると犯罪者、という国法は相当拘束力があるようで、民衆の躊躇ぶりは相当なもの。遂に捕虜となっていた、 セオグンが反旗を翻し、清の将校の剣を奪い、無謀にも戦いを挑むのだった。。。

 宙返りしたり、飛び上がったり、ライダーキックをかましたりということが無く、ガンガン叩き合う打合は、見応えがありました。 画面ショットではわかりにくくなっていますが、この場面の夕日に逆光で戦うセオグンの勇姿はカッコ良かった。

 このあたりで前半終わり。三人の運命やいかに。。。

 テレビドラマの時代劇のような、チープな映像かとの先入観もあり、まったく期待していなかったこともありますが、見た当初は拾 い物だと思ったのですが、2011年韓国No1ヒット作ということを知り、納得しました。
 
  ところで、これまで見た唯一の韓国歴史作品は、「善徳女王」なのですが、、これも、3年越しで見て、最終回を見終わったはつい先 週のことなのでした。33 話までは2009年放映時テレビで見て、33-36話はネット、37-40話はツタヤ、41-59話は今年春テレビ東京で放映さ れた一話65分を45分に 縮約したもの、60-61話は先週ツヤタ。という具体に、2009年5月から見始めて、3年3ヶ月近くかかって漸く最後までたど り着きました(正確には 2,3話程まだ見てない回もあり、全部見たわけではないのだけど、私の中では一応終わり)。25話くらいまでは、史実が不明な前 半生ということで、少女時 代をタクラマカン砂漠で過ごしたり、ローマ人交易商人から教えてもらったラテン語を話したりと、荒唐無稽なストーリーが面白かっ たのですが、女王に即位し てからの後半は、舞台が宮廷に限られてしまったこともあり、いまひとつではありましたが(特に30-50話は、当初予定の50話 を、視聴率が良いからと 62話に伸ばしたこともあり、10話分のネタのまま、単純に20話に引き伸ばしたことがありありとわかる水増しぶりでダレた内 容。50話を過ぎたら急に面 白さが戻ってきた。当初予定の通り50話で終わらせておけば、後半ももっと面白かったかも)、リアル史劇とは程遠いとはいえ、時 代劇と割りれば、大変面白 い作品だと思う次第です。

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