サーサーン朝時代の食事はどのようなものだったのか、教育はどうだったのか、学校はあったのか? 庶民はどのように暮らしてい たのか?などなど、サーサーン朝の生活風景でわからないことはまだまだ沢山あります。 『ホスローと小姓』は、サーサーン朝末期(ホスロー1世か2世の時代)に書かれたと推測されているる小品で、中世パフラヴィー 語版とアラビア語版が残っています。中世パフラヴィー語版は125行、アラビア語版も3頁しかありません。しかし、この小品には 大変貴重な情報が掲載されています。 1917年に出版された英訳書のリプリント版が2010年7月に出版されているのを見つけたので早速入手 してみました(本書は、受注してから印刷する方式かも知れません。注文を出したのが今年(2014年)の8月27日で、受け取っ た書籍の奥付け には8月30日と記され、更にインクが生乾きな感じで、新聞のようにインクで文字がぶれたりした箇所もありました)。 その短さは予想していたものの、驚かされた点が多々あります。まさに、百聞は一見に如かずです。 ・アラビア語版の存在。更にアラビア語版と若干内容に異同がある点 ・楽器の情報があること。ペルシア古典音楽の解説CDに、ササン朝時代の楽器や音楽について、他で見たことの無いほど詳しい情報 (といっても数行程度)があったので、その出典が気になっていたのですが、どうやら本書も、資料のうちのひとつらしいことがわか りました。 ・食事の情報が他の情報と比べて多い ・小姓の身の上話なども僅かに触れられていて、当時の貴族階級の生活の一端が垣間見れる などなど。本書のおかげで雑然とした情報の箇条書きでしかなかった『古代イランの生活』のページが漸く少しきれいにまとめられそうです。 今回、『ホスローと小姓』の中世パフラヴィー語文書とアラビア語版の食事と音楽に関する部分を、英訳版から翻訳してみました。 パフラヴィー語版は全体の3/4、アラビア語版は半分程の翻訳となります。 本書はサーサーン朝末期(ホスロー1世か2世の時代)に書かれたと推測されているる小品で、中世パフラヴィー語 版とアラビア語版が残って います。中世パフラヴィー語版は125行、アラビア語版も3頁しかありません。しかし、この小品には大変貴重な情報が掲載されて います。 当時の上流階級が最善のものと見なしてる料理、菓子、デサート、フルーツ、ワイン、花、香り、楽器、水、衣服、、寝台、女性な どについて記載されているのです。 アラビア語版と中世ペルシア語(パフラヴィー語)版では、一部の項目が異なっていて、更に、同じ項目でも、内容に異なっている ところが多く、アラビア語版は単なる翻訳ではなく、それぞれに価値のある内容となっています。テキストは、皇帝ホスローが、小姓 に、それぞれの項目について、知識を確認する、皇帝の近侍採用の口頭試問の問答として記載されています。皇帝は、ペルシア語版で は、ホスロー1世、アラビア語版ではホスロー2世とされていて、小姓の名前は、ペルシア語版ではヴァースプル、アラビア語版では フース・アルズーという名前となっています。アラビア語訳は11世紀前半のサ アーリビーによるものとのことです。 料理の情報が特に多いのですが、他にも地方地主階級と思われる小姓が受けた教育など、他の史料では見られない情報が多く掲載さ れているのが最大の特徴といえるのではないかと思います。今回、パフラヴィー語版は3/4、アラビア語版は料理と音楽に関する部 分(全体の1/2程度)の部分を訳出してみました。 以下、【】は私が付加した小題で、( )は私が付けた注釈、「?」は、英語版の記載のまま「?」としています。 ホスローと小姓 アラビア語版
【料理】 最後にホスロー・アバルヴィーズは若い青年で輝かしいデフカーンの家系に所属している小姓フォース・アルズーに会い、そし て彼に奉仕された。誰もこの少年のようにおいしい味の料理や人びとに楽しみを提供する料理を作る方法をこの少年のようには知らな かった;そして誰も人 生の楽しみや気楽さをどのようにして描くかというよりよい方法を知らなかった。ある日アパルヴィーズは彼に尋ねた;最高の最も健 康によく、もっと も気持ちのよい食べ物は何だろう?小姓は答えた:よい健康状態で、よい精神状態にあり、ユーモアのある時にあなたが食べるとき、あたなが非常に空腹なとき に、あなたのお気に入りの人びとや友人達と一緒に食べるときが最高の食事です。”非常によい”と王は答えた。 ”四足動物の中で最高の肉はどれか私に教えてくれ” 「それは子羊の肉で、それは二頭の牝羊の乳を二ヶ月間飲ませ、火で炙った 後、オーブンで焼くものです。或いは、若い太った子山羊の肉を、それ自身の肉汁で調理したもの、更に加え て、若い雌牛の胸の肉を酢で調理したものです」 「完ぺきだ!では、私にそれらの中でももっとも最高の食事がどれかを教えてくれ」 「それは骨髄と卵の黄身です」 「それはどの鳥がもっともよい肉であるのか?」 「それは太った雉の肉、冬ヤマウズラの肉、太った若い鳩、麻の種とオリーブオイルを塗られた小麦の穀粒のうえに載せられてもって こられる鶏です」 「最高の冷たい前菜はどれか?」 「若い子牛の、柔らかく、多肉で、非常に強い酢とぴりっとしたマスタードで擦り込まれたものです」 「では最高のゼリーは?」 「若いカモシカの肉で、やわらかく、長くカットし、薄くスライスして酢とマスタード、塩漬け、イノンド(香辛料)、ガーリック、 ヒメウイキョウとクミンでマリネーにしてあるものです」 「最高の練り菓子を教えて欲しい」 「米粉で作った菓子に新鮮なミルクや、ガゼルの脂肪と砂糖飴、それからクルミのパン生地(を用います)。生地はアーモンドのオイ ルと蜂蜜を混ぜます。(別のものは)アーモンドのパン生地で作ったケーキで、氷砂糖(クリスタルシュガー)や薔薇水をかけます。 また、Fâloûdhadjは、砂糖と蜂蜜であえます。 【ワイン】 「どのワインが最高で、もっとも美味しいワインなのか?」 「それは葡萄のワインで、それは、もっともよい色をしていて、非常に 澄んでいて、少し薄く、心地よい香りがし、最高の味わいがある時期のもので、すばやくほろ酔い気分にします。最高のワインは、バ ルフ、及びMarwarroûdh、Boûshandj、ボスト、Djoûr、Qanâras、そして、Dardhan産のもの です。しかし私は、SoûrとQotrabollaのワインを、他のすべてのワインよりも好みます。 【デザートのためのフルーツ】 「最高のデザート用のフルーツは?」 「アーモンドの実で、それは皮をむいたもので、クリルタルシュガーをかけてあるもの。新鮮なココナッツの果実に氷砂糖がかけてあ るもの。甘いザクロの実とすっぱいザクロの身に薔薇水をかけたもの。乾燥djollâb、シリアやクミスの林檎、新鮮 なアザーダーのナツメヤシとアーモンド和え。石で割って果肉を出したアルメニアの桃、タバリスターンのシトロンです」 【花】 (略) 【植物の香り】(略) 【楽園の香り】(略) 【音楽】 「どれがもっとも心地よい音楽か?」 「それは弦楽器により生み出されるもので、その音は歌を集め、歌の抑揚が楽器の音を集めま す。 権威者は言っています、「この韻律においては、ターヒルの息子のアブドゥッラーの息子のオバイダッハーに霊感を与えたと 考えられていると。 −なぜ、友よ、そなたの技術は、我々の統合をもたらさなかったのか? 喜びが欠落しているのではなく、これらの人々は今、喜びにあるのだ」 一方、いくつもの杯が歌い手の廻りを回りながらフルートのような音を出し、その甘さは彼の抑揚、そして若いフルート奏者は歌を 披露した。 アバルヴィーズは小姓に言った、「この楽隊の詳細を説明せよ」 小姓は言った「四弦のフルート、よく合わされたツィター、よく 調 整されたマンドリン、そしてシンプルなフルート、それはイスパハーンのメロディー、ニハーヴァンドの歌、Naïsâboûrの歌 の(同じ間隔での)モードで、概して歌は口ひげのある口から発せられたものではない歌です。 【水】(略) 【衣服】(略) 【寝台】(略) 【女性】 「どのような女性がもっとも美しく、もっとも望ましい女性なのか?」 「彼女は、その心が自分自身に対して正直な人であり、自分自身を愛し、可愛がる女性です。最高なのは、あまり歳をとっておらず、 若すぎもせず、背が高すぎず低すぎず、やせ過ぎでもなく太りすぎでもなく、優美な姿で、美しい姿をしており、彼女の全ての個人的 外見は魅力的で、まっすぐな額をしており、眉毛は曲線を描き、眼はアーモンド型、良く釣り合いのとれた鼻、唇は薄く、紅玉髄のよ うに紅く、細い口、真珠のような歯、優雅な笑顔、丸いあご、長くて緩やかな起伏のある首、彼女の姿はザクロの実の色をしていて、 やわらかい絹のような肌、彼女の髪は黒々としていて、彼女のふたつの胸は林檎のように丸く、スズメバチのような形をしており、腰 は細く、おへそはくぼんでいて、肉付きのよいお尻、小さい足、好感の持てる吐息、甘い声、小声で話し、大変寛容な女性です」 王は笑いはじめ、そして言った。「素晴らしい!完ぺきだ!」 この小姓は王の命により、12000ミスカール*1の銀を送られ、以前とは大きく異なる扱いとアバルヴィーズの厚遇を受け、王の 親友となった。 *1重量単位 カワードの子ホスローと小姓 中世ペルシア語
版
1 エーラーン国にカワードの家系に生まれたヴァースプル(Vāspur)という名の少年が、両肩の下の手を下ろ して諸王の王の 前に立っていた。 2 そして彼は賞賛と慈悲を贈られた。 3 そして彼はいった、「諸王の王よ、世界7つの諸地方の主(あるじ)、希望の満る不滅の魂に拝し奉ります! 【小姓の出自と受けた教育の話】
4 丁寧に尋ねてください、私の出た家系に対し、神の加護とあなたの先祖にお礼を申し上げ、令名を称え、よきこと をなす、その独 立性を称えます。 5 そして彼らは(私の家系は)彼らの必要に応じた富を持っていた。 6 そして私の父は私が子供のころに死去していて、私の母は私以外に他に子供がいなかった。 7 私は彼らから、私の父の管財人を通じて先祖代々所有してきた財産を現金で受け取り、多くの種類の食糧や美しく 素晴らしくよい 衣服などを受け取った。 8 その時に、私は学校に入れられ、学校教育の間、私は熱心にしっかりし取り組んでいた。 9 そして私は次々と学んだ、ヤシュト、Habōxt(ハードフト)、ヤスナ、Ēhrpadのようなウェンディー ウダードを学 び、順々に解釈を行なった 10 そしてより高い教育では、私は素晴らしい文学や、知識の渇きや歴史の友を吟じ、学んだ演説で良い朗誦を行 なった。 11 そして私の技能は乗馬やアーチェリーがあり、その他、馬の頭の背後で弓を放って逃げることが出来ます。 12 もうひとつの標準的な私の技能として、乗馬があり、不幸にして敵と出会って戦闘となった場合、騎乗したまま 剣を使うことが でき、競技コースでのボールゲームに精通しており、短時間、私の下に横たわっている敵対者の肩の上に載っていることができ、矛を 誤りなく投げることができる。まるでそれが、バターつきの雄羊の顔や、戦闘斧や矢がひとつの場所に常に当たっているかのように。 13 そして?や、竪琴、ギター、ツィター(弦楽器)、その他どんな歌でさえ、私が優勝者である と、答えを与え、必要とする回答 を(与えることができる)。 14 そして、星々や惑星に関することでも、私はよく通じ、この(占星術師の)団体の中では私に並ぶものはない、 という価値を私 は有している。 15 そしてチェスゲーム、ネーウ・アルダクシールやAštəpādについて、わたしは仲間内で優れていた。 16 そして他には2つの方法でSamb(ゲームのひとつ)を行なうためにvindāt-vušnaspの髪の下 に座った(意味 不明、ゲームのルールと関連があるものと思われる)。 17 しかし、今や私の家族は滅び、貧乏で惨めな境遇となってしまい、私の母もこの世を去ってしまいました。 18 そこでもしあなたの神聖なる崇高さであなたを喜ばせようとお考えであれば、なんであれ試験を私に課していた だけますでしょ うか」 【料理】
19 諸王の王はその少年に尋ねた:少年よ、そなたが素晴らしい、娯楽を望む時、すばらしき料理に関する知識や、 美しく優美な服 装がそなたにとって馴染みである時は、答えよ:どの料理がもっともすばらしくもっとも風味があるものなのか? 20 少年は答えた。7つの世界の主たる不滅の魂に拝し奉ります。ご意思を満たさんことを!もっとも素晴らしく もっとも風味のあ る料理とは彼らが若いころに、体が健康で危険への免疫があるときに食べるものであります。 21 一方で もっとも風味のある料理とは生後2ヶ月の子羊で、母親から乳をあたられたものです。特にオリーブ ジュースで内臓を もみこんである牝牛の肉も。また、牛肉の肉汁で調理した太った雄牛の胸で、砂糖と砂糖飴と一緒に食べます。 22 諸王の王は彼に同意し、回答を正しいと宣言した。 23 2問目に、彼は丁寧に訪ねた:どの鳥がもっとも素晴らしくもっとも風味がよいだろうか? 24 少年は答えた:寿命長久にましませ。野鳥は全体的にしすばらしいです 25 ?鳥と雉と雌鳥とヤマウズラと白い尾の灰色ヤマウズラと赤い羽根の?と?と ヒバリと太った?と雄の鶴と、Tirの月 (6/22-7/22の月の名前)にみつけたもの、とさかのついたčarz、そして黒いムクドリと水鳥。 26 しかし、雄の家畜の鳥は麻の種と?のオイルとオリーブのバターでも食べられ、これにはどんな 野鳥もかないません。最初に、 その日にそれを追いかけて恐れさせて殺し、首をもってつるさなければなりません。2日目首のところでそれを吊るし、それをスライ スして焼きます。よい鳥であれば、そのスライスした肉は後ろの皮がもっともよく、背中から尾のあたりがもっとも美味です。 27 諸王の王は彼に同意し、回答を正しいと宣言した。 28 三問目、彼は丁寧に尋ねた:その肉をゼリーに横たえるにはどの肉がよいのか? 29 少年は答えた:寿命長久にましませ!すべての肉が素晴らしくかつ適しています。 30 雄牛と野驢馬、山牛、イノシシ、一歳の?、駱駝、水牛、野驢馬、家畜豚。 31 しかし、アルファルファと大麦を食べた雄の野驢馬は太り、すっぱい乳にそれを横たえて、異なった種類の風味 を香らせ、それ らの風味の後ろに肉がゼリーの上に置かれる、このゼリーが最高でもっとも素晴らしいものです。 32 諸王の王は彼に同意し、回答を正しいと宣言した。 33 四問目、どんな季節肉のシチューがもっとも柔らかいか? 34 少年は答えた:馬の内臓からあしらえた肉野菜シチューがもっとも風味があり、クロテンのシチューがもっとも 風味がある。雉の頭がもっとも消化によい。 35 雌のやせたガゼルのゼリーは脂肪が乗っていてこれと並ぶシチューはありません。 36 諸王の王は彼に同意し、回答を正しいと宣言した。 【菓子】
37 五問目、彼は丁寧に質問した:もっともよい練り菓子は? 38 少年は答えた。寿命長久にましませ!この練り菓子は全体として素晴らしくかつ良いものです。 39 夏にはアーモンド菓子、クルミ菓子、クルミの乾し葡萄パン、太さとの(大きさくらいの)練り菓子をつけたク ルミ乾し葡萄パ ン、或いは太ったガゼルやクルミバターで揚げたもの。 40 冬には、アーモンド菓子、ピーチ菓子、膨れた菓子、砂糖飴、 41 しかし、フルーツ・ゼリーはりんごジュースや銀マルメロから作られ、この練り菓子に並ぶものはありません。 42 諸王の王は彼に同意し、回答を正しいと宣言した。 【フルーツ】
43 六問目、彼は丁寧に尋ねた:とろ火で煮たフルーツはどれがすばらしいか? 44 少年は答えた:寿命長久にましませ!この煮たフルーツは全体的に素晴らしくかつ良いものです。 45 食べる時皮を剥くもの、とげのあるレモン、マルメロ、?、ミロバラン、新鮮なクルミ、レモ ン、白いvahuman。 46 しかし、中国の生姜と混ぜたり、保存されたミロバランには、これに並ぶものはありません。 47 諸王の王は彼に同意し、回答を正しいと宣言した。 48 7問目、彼は丁寧に尋ねた:どの殻付きフルーツがもっとも素晴らしいか? 49 少年は答えた:寿命長久にましませ!これらの殻付きフルーツはすべて素晴らしくかつ良いものです。 50 ココナッツ(というもの)は、砂糖と一緒に食べると良いもので、インドの言葉でココナッツといい、ペルシア 語ではインドク ルミと呼んでおります。 51 ヒュルカニアのピスタチオは、それを新鮮なレンズマメとともにグリルで炒め、食べる時にオリーブジュースと 一緒に食べま す。 52 ヘラートのなつめやしはクルミや新鮮なピスタチオやアルメニアの桃、ドングリ、栗を、砂糖や砂糖飴と一緒に 詰めます。 53 しかし、ニーシャプールの麻の種は、山育ちの太ったヤギで揚げます。これに並ぶ殻付きフルーツはありませ ん。何故ならば、 これらは食べやすく、口あたりがよい風味で、胃によく消化によく、その他の目的にも最高なものです。 54 諸王の王は彼に同意し、回答を正しいと宣言した。 【ワイン】
55 八問目、彼は丁寧に尋ねた:どのワインが最高でもっとも素晴らしいものか? 56 少年は答えた:寿命長久にましませ!すべてのこれらのワインはよく、素晴らしいものです。 57 よく潰してあるKangのワイン、Arengのワイン、Marurōtのワイン、Bustのワイン、 Alcendのぶどう 酒。 58 しかし アッシリアのワインと?のワインは他に並ぶものがないに違いありません。 59 諸王の王は彼に同意し、回答を正しいと宣言した。 【音楽】
60 九問目、彼は丁寧に尋ねた:どの楽師がもっとも素晴らしく最高か? 61 少年は言った、:寿命長久にましませ!これらの楽師達はすべて素晴らしく良いものです。 62 ハープ演奏家、リュート演奏家、ダチョウの卵の形をしたリュートの演奏家、そして、彼は?を 演奏し、両手の拳で吹く演奏家、そしてリュート演奏家、(マウスピースをつけない)長フルートの演奏家、ハンド・ドラムの演奏 家、彼は?と?と二種類の楽器(シンバルのようなものか?)を演奏する。そして鎖の演奏家、木製の リュート、(蛇使いに使う)笛の演奏家、タンバリンの演奏家、矢の演奏家、ケルトドラムの演奏家、リードの演奏家、エアロハープ (ハーモニカ)演奏家、彼は?と?と大リュートの演奏家であり、盾を(シンバルのように使う)演奏 家、(通常は武器を意味する)sēnの演奏家、小さなベルの演奏家、シンバルの演奏家、剣の演奏家、彼は?と?と 演奏する。そして4弦のバイオリン、(猿または孔雀の形をした)弓の演奏家。すべてこれらの楽師は素晴らしく良いものです。 63 しかし美しい少女とともに後宮で演奏されるハープ、その少女が演奏するハープは最高で、彼女の声は高く、美 しい声調で、しかもvinの演奏家であるべき他の良い目的のためでもあるこの音楽に並ぶものはありません。 64 諸王の王は彼に同意し、回答を正しいと宣言した。 65 十問目、彼は丁寧に尋ねた:そなたは、ワインでもっとも重要なこと、二番目に重要なこと、三番目、四番目、 五番目、六番 目、七番目に重要なことはなんと呼んでいるのか? 【花の香り】
68 11問目、彼は丁寧に尋ねた:どんな花がもっとも甘い香りなのか? 【女性】
95 12問目、彼は丁寧に尋ねた:どんな女性が最高なのか? 96 小姓は答えた:寿命長久にましませ!男性を友人だと考える女性が最高の女性であり、身長に関していえば、中く らいで、胸は広く、頭とお尻と首はよい形をしていて、足は小さく、腰は細く、足の裏は少しくぼんでいて、そのつま先は長く、彼女 の体はしなやかでひきしまっていて、マルメロの実のような胸で、彼女の爪は清くて白く、彼女の容貌はざくろの実のような色をして いて、彼女の瞳はアーモンドのよう、眉毛は黒い子ヤギの革から作られたようであり、歯は白くて、きゃしゃであり、?、 髪の房は黒く、陽光のもとでは赤みがかり、そして長く、男性の衣服については不作法にも言葉を発することない女性です。 97 諸王の王は彼に同意し、回答を良いと宣言した。 【動物】
98 13問目、彼は丁寧に尋ねた:どんな乗るための動物が最高なのか? 102 諸王の王は言った、:そなたがもっとも望ましいと想う物品は何か? 104 諸王の王は彼に同意し、回答を良いと宣言した。 【ここで質問終了】
105 諸王の王はアノーホスロー(Anōshuṡrav)の息子マーホスロー(Māhhusrav)に命じた: この少年に一つのテストを課せよ。即ち少年が述べた料理の皿、1万2千ドラム分を準備して置き、少年が言ったことは毎日テストさ れるように。少年が言った皿を毎日送るように:「良い服装をさせ、素晴らしい服装をさせよ」 私の前で。つまり私はそれをテスト するのだ。 106 そして彼は小姓に4ディナールを毎日与えた。 107 その月の後、少年は諸王の王の宮廷にやってきて諸王の王前で護衛の主任を送った(任命された、の意味だと 思われる)。 108 彼は次のような手紙を書いた:「寿命長久にましませ!おお、最も賞賛される人よ!諸王の王が私に授与して くれた宝物に感謝いたします。私の健康を傷つけないすばらしい栄養のある料理の力を得ています。 【ライオンを仕留める試験】
109 そしてあなたを喜ばせる時、丁重に我々に適当な方法でどんなことでも行なうというテストを我々に課してく ださい」 110 侍従長が諸王の王の前に彼を連れてきて、言った、:「寿命長久にましませ!おお、もっとも賞賛される男 よ!丁重にこれを受けよ、それは二頭のライオンがここに来て、馬の群れを怖がらせる。 111 もし、汝を喜ばせるなら、ライオンを捕らえて馬の群れから引き離してみて欲しい」 112 諸王の王は直ちに少年を彼の面前に呼び、そして彼に言った、「汝の技能と能力で二頭のライオンを生きたま ま余の前に連れて来なくてはならない」 113 そして少年はライオンの方へ向かう途中で同時に 114 非常に美しい女性を見た。 115 少年は女性に言った、「もしあなたと楽しめるなら、私を許してください、私はあなたと楽しみたいという願 いを持っています」 116 その女性は少年に答えた、「もしあなたが罪を得ようとするのであれば、その罪は今日、私を裁くでしょう、 そして私によき行いをするのであれば、あなたは実行し、そして、私はあなたを許し、あなたはあなたの私への願いをかなえるでしょ う。 117 そして少年は直ちに彼女のもとから取って返し、彼女から離れても彼の願いを持ち続けた。 118 彼は二頭のライオンが暴れているところにゆき、ライオンの暴れている前に座って縄でライオンを捕らえて、 生きたまま諸王の王の前へと連れて行った。 119 諸王の王にとって驚くべきことであり、彼は言った、:「行きてライオンを殺せ」 そして少年は行ってライ オンを殺した。 120 そして 彼は丁重に少年を大きな町の長官(margrave)にした。 121 その後諸王の王の元にその報告が達し、少年がライオンを捕まえに行く時、その途中で女性を見て、その女性 のところに行ったとき、彼が女性に言ったこと、女性が彼に答えたこと、そして少年がそこから離れて、彼の願いをやめなかったこ と、が王に報告された。 122 この話を諸王の王が聞いたとき、彼は言った、:「少年は非常に分別があり、彼は罪を彼自身にもたらした り、目的を放棄したりせず、中断したりもしなかった。 123 このこと以上に、彼はすべての語られた功績を実行した。 124 そして彼は少年に高い地位と尊厳と彼自身の近くで時間を費やすようにさせた(王の近侍に侍られた)。 125 諸王の王カワードの子ホスローと彼のすばらしい希望と小姓に永遠の生命あれ!そうであるように! すべては歓喜と喜びと繁栄のうちに終わった。 (了) 今回翻訳してみて思ったことがあります。パフラヴィー語(中世ペルシア語)版は非常に翻訳しにくいのです。勿論私の英語力の低 さもありますが、アラビア語版は、まだ文章として読みやすく訳しやすい感じです。もしかしたら、これこそが、文学語として練りあ がっていない言語の文章というものなのかも知れない、と思いました。ペルシア語は、近世ペルシア語になり、文学語として成立した とされていますが、もしかしたら今回訳した英語訳の文章が、文学語以前の中世パフラヴィー語の雰囲気を、実はよく伝えているので はないか、と思ったりした次第です。 なお、青木健氏『ウラマー・イェ・イスラーム』 写本の蒐集と校訂』p309によると、パフラヴィー語書籍として、サーサーン朝時代の学校テキストに利用されたと思われる、学校に通う少年達への格 言集『少年達の義務』というものもあるそうですが、残念ながら英訳版はなさそう。もし英訳版が出たら、是非読んでみ たいと思います。 |