オスマン朝歴史ドラマ「オスマン帝国の復活(Bir Zamanlar Osmanlı Kıyam)」(1)第一話から六話

  2012年3月12日からトルコTRTテレビで毎週月曜日放映。一話約90分。1729年か ら開始。現在一応10話まで視聴したところでは、陰謀アクション作品という印象です。登場人物達を紹介後、あらすじを 「More」以下で紹介したいと思います。

主人公ムラト(演:Cemal Hünal)とその妻ゴンサニギャール(Goncanigar)

ムラトは元イェニチェリ。第一話の回想場面でスルタンから剣を受ける儀式の場面が出てくる。ゴンサニギャールがシェイク(尊師) 暗殺を目撃したことと、ムラトがカーズマの妹を刺客たちから救ったことで、ムラト夫妻は陰謀に巻き込まれてゆくのだった。


カー ズマ(カーシム)・エフェンディ(発音としてはカースィムなのだろうが、耳ではカーズマ或いはカースマと聞こえる)。ユダヤ人の 地下組織(組織の会合場所 はスライド式本棚の後ろの秘密通路からゆく地下にある)の首領で政府高官(ユダヤ組織は利用しているだけかも知れないので、彼が ユダヤ人とは限らない)。 陰謀を計画・実行中。処刑された父親の復讐を企てている。秘密の証拠を入手した尊師を暗殺者を雇って殺害させるが、現場をムラト の妻が目撃してしまうの だった。。。

ムラトが助けた追われている女(カーズマの妹ジャンセーザ(またはジャンセーデとも聞こえる・Canseza/演Aslı Tandoğan))とその連れ。雰囲気峰不二子。

どうやらサファヴィー朝王が差し向けた陰謀の実行担当者らしい。

左 からシェイク暗殺事件を追う官憲アセスバシ・エフェンディ。アセスとは夜警という意味らしい。個人名はラフマン。その右、暗殺主 犯センジャーデ。カーズマ の指示で動く。その右は暗殺主犯の仲間パトローナ・ハリル(恋人がチェスミディル)。身代わりに一時牢獄へ入り、ゴンサニギャー ルの面通しで欺いた。右端 はカーズマ兄妹の仲間ミールザー。妹が刺客に襲われた時刺客を刺殺して助けた。


左からアフメド三世(1729年当時56歳)、その娘ハティジェ・スルターン、更にその娘?ファトマ・スルターン。イブラヒム・ パシャの愛人(史実では1717年頃イブラヒム・パシャと結婚しているとのこと)。ハティジェ・スルターンを演じている役者さんTürkân Şorayは1945年生まれの66歳。老けすぎの30歳から若作 りの50代のいずれにも見えるが、少なくともアフメドの娘というより母か妻に見える。

時の大宰相ネヴシェヒルリ・イブラヒム・パシャとその妻ハヌマン。ハヌマンが愛人のファトマを睨みつけている場面なので、インパ クトのある顔つきになってます(史実ではファトマが正妻で、このハヌマンはまったくのフィクションか側室だったと思われます)。


以下、あらすじです。

第一話

 サファヴィー朝の都イスファハーンの御前会議から開始。

左下中央、及び右画像が国王タフマスブ二世(在1722-1736年)

結構カラフルな衣装の高官達。後で出てくるオスマン宮廷と比べると大分原色強い衣装。

 理由は不明だが、会議中、突然高官の一人が王にナイフで首を切られ殺害される。恐怖の宮廷。タフマスブ王は最後にジャンセーザ がどうとか言っているので、ジャンセーザはサファヴィー朝が差し向けた間諜の模様。
 会議終了後、宮廷をジャンセザと連れが出発したところでカメラが天空にアップし、宮殿を中心とするイスファハーンが上空から俯 瞰される。続いて場面はイスタンブルの宮廷に。西南方面から宮廷を見たところ。宮廷の向こう側はボスポラス海峡だと思われます。

 左下がアフメド三世(在1703-30年)と御前会議。彼の時代はスルタンは御前会議に出ていなかったとされているのですが、 本作では出席しています。

タフマスブの宮廷と比べると色彩的に若干地味加減のオスマン高官。

オスマン宮廷からガラタ地区方面を見たところ。

イスタンブル市街。わずかですが、中央屋根の向こう側に城壁と金角湾が見えています。手前の建物は、一階部分が門となっていて、 市民が出入りしています。

これはガタラ地区のガラタ塔から宮廷方面を眺めたところ。一応街角のイメージのわかる画像となっています。

これはビザンツ時代の戦車競技場跡だと思われます。左側はブルー・モスク。


  今は30歳くらいに見えるカーズマが15歳くらい、妹のジャンセーザが8歳くらい(あくまで見た目)の頃、つまり15年程前に、 二人の父親は突然官憲に連 行され公開の場で斬首刑に処せられる。今はオスマン朝の高官に取り立てられ、イブラーヒーム・パシャの引きでスルタンにもお目見 えする地位に上がったカー ズマは、秘密組織を編成し、妹ジャンセーザとともに父親の復讐計画を開始する。ある家の書棚をずらすと、その後ろに地下に通じる 秘密通路があり、その地下 室で秘密組織の会合が持たれたり、政府の会議の後、密かに伝書鳩を飛ばしたりと、本格的な暗躍ぶり。

 一方元イェニチェリのムラトは今は 引退し、5歳くらいの息子と、次男を身ごもっている妻と幸せに暮らしているが、妻ゴンサニギャールが尊師(シェイク)が暗殺され る場面を目撃してしまい、 暗殺者センジャーデに命を狙われることになる。しかも、ゴンサニギャールは、尊師が手に持っていた秘密の暗号メモを託されてしま う。遺体が発見され、調査 に来た官憲アセスバシは、風呂焚き職人のパトローナ・ハリルを連行し、ゴンサニギャールを牢獄に呼び出し面通しさせるが、その男 はゴンサニギャールが目撃 した男とは違う男だった。ハリルは釈放されるが、彼はセンジャーデに雇われた身代わりなのだった。その暗殺者センジャーデは、目 付き、顔を下げて目だけ上 目で相手を見つめる仕草、顎がだらりと下がるように笑う不気味さ、両手を蜘蛛のように広げる仕草など、いかにも壊れたテロリスト という雰囲気が出ていてい い味出てました(下記画像左側)。

  この場面は、センジャーデとハリルが居酒屋で朝飯をとっている場面ですが、酒屋の壁に女性の絵が描かれているのがわかります。全 然いかがわしくないんです が、当時の社会(今の厳格過ぎる一部のイスラム国でも)では充分いかがわしいのだと思われます。この居酒屋の 場面は度々登場す るのですが、客席ばかり で、ようやく第十話になり、客席の反対側にある調理場が登場。真ん中が店の主人の模様。


 更に一方、ムラトは森で馬に乗った女が数人の騎馬隊に追われているのを見かけ、後を追いかけ女性を助ける。この女性はカーズマ の妹ジャンセーザでメフメトという名の少年を連れていた。

 こうしてムラトとその妻ゴンサニギャールは、宮廷内の陰謀計画に巻き込まれてゆくのだった。


第二話

  ゴンサニギャールが暗殺された尊師から受け取ったメモは、人を介してイブラーヒーム・パシャの手に渡される。一方、ジャンセーザ を襲った男の一人が生きて いて、たまたまジャンセーザの泊まっている宿の隣の部屋に宿泊してしまう。それに気づいたジャンセザは男を殺そうと忍びこむが、 逆に反撃にあってしまう。 あやわというところで仲間のミルザー(ミュザーと聞こえる)が男を刺殺し、その場を脱出する。そして調査に来たのはまたもアセス バシなのだった。2つの事 件を掛け持ちとなって大変そう(もちろん彼はまだ2つの事件がつながっていることは気づいていない)。

 妻の危険を察知しているムラト は、妻の警護をしながら市中を歩くが、センジャーデとその仲間が街中で喧嘩さわぎをお越し、ムラトが仲裁に入った瞬間に、セン ジャーデがゴンサニギャール を刺殺してしまうのだった。えーっ!奥さんのゴンサニギャールは存在感が強かったので、こんなに早く退場してしまうとは思わな かった。

  ムラトと知人達はゴンサニギャールの葬儀を行い、墓地に遺体を埋める。その墓地には、 ジャンセーザも父親の墓参りをしていて、 ジャンセザはムラトに気づ いて声をかけるのだった(ジャンセザは、ゴンサニギャールが目撃者であり、以前尾行をしていてムラトの妻であることは第一話で気 づいてる)。

  夜。灯りの無い、暗い自宅に戻ったムラトは(あれ?息子はどうしたんだろう)、イェニチェリ時代にスルタンから下賜された剣を箱 から取り出し、阿片宿で喧 嘩騒動を起こした刺青の男を発見し、ナイフをさして仲間を白状させる。刺青男から居場所を聴きだしたムラトは、宴会中の別の男を 襲う。逃げようとする男の 背中にナイフを投げ背中を刺し、一気に殺害したのだった。次く相手は娼館のセンジャーデ。しかし娼婦が悲鳴を上げたところで、セ ンジャーデは窓から逃走。 ところがムラトはセンジャーデの足を弓で射て足止めし、拷問。クズリバン(?)という言葉を聴きだしたところで殺害し、遺体を市 場に吊るすのだった。

 翌日遺体は町中に知れ渡り、知らせをうけたハリルは駆けつけ衝撃を受ける。

と まあ、第一話はサスペンス、第二話は復讐譚という感じで少しドラマの毛色が変わって展開している感じです。それにしても、もっと も強烈なキャラクターであ る(タイプは違うけど、「ブラックレイン」の松田優作のような)ちょっといちゃっている虚無的なテロリスト・センジャーデをあっ さり葬ってしまうと は。。。。ゴンサニギャールも結構存在感があったし、存在感のあるキャラを二人もこんなに回の浅いうちに退場させてしまって大丈 夫だろうか。今のところ、 この二人についでキャラが立ってるのはジャンセーザくらいで、ムラトもカーズマもイブラーヒーム・パシャもいまいち。ハリルに 至っては全然普通だし。どう なるのだろうか(まだ少ししか登場していないけど、ファトマ・ハトゥンもかなり腹黒そう。この人も外見峰不二子みたいだけど、海 槌麗巳(スケバン刑事の) を期待)。


第三話

第一第二話とも面白かったので、この勢いがとどまで続くかと思っていたら、三話で失速してしまいました。第三話は90分もあるわ りにはあまり筋が進展しませんでした。

  センジャーデの遺体をパトローナ・ハリルが深夜回収し(それまで役人が放置しておいたのは不思議)、密かに墓地に葬り、復讐を誓 う。広場で遺体を発見した 時、イブラヒム・パシャ、アセスバシ、カースマがやってきて*1、ハリルの嘆きを目にするが、ここでカースマはハリルを陰謀に利 用することを考え、仲間の ミルザーと妹のジャンセーザにハリルを呼び出させる。目隠しされて秘密の場所に案内されたハリルはカースマ(逆光でハリルに顔は 見えない)の囁きに乗って しまうが、ジャンセーザは兄の計画に反感を持ったようで、ハリルとミルザーが引き上げた後、兄妹で口論となってしまう。

一 方、官憲はセンジャーデ殺害がムラトの仕業だと気づき(随分早いが)、ムラトは官憲に追われることになる。日中町中の逃走劇とな り、官憲に肩を射られムラ トは捕まりそうになるが、そこでジャンセーザが官憲の頭を陶器で不意打ちし、ムラトを救うのだった。そして兄の計画に疑問を持っ たジャンセーザはムラトに 兄の計画を漏らしてしまう。ところが、ジャンセーザの行動に不信を持ったミルザーが、ジャンセーザを尾行し、ムラトに計画を漏ら しているところを立ち聞き してしまう。ムラトは夜間墓地を掘り返すハリルを急襲し、ハリルを生き埋めにしてしまう。が、カースマと官憲が包囲していて、ム ラトを逮捕、ハリルを救い 出すのだった。牢獄につながれたムラトをイブラヒム・パシャとカースマが訪問するところで終わる。

*1 これは、たまたま高官が町を歩い ていたわけではなく、 当時のオスマン朝の大宰相は、イスタンブル市街を定期的に巡察し、町の様子を把握し、民衆の声に耳を傾け る、という定期業務があっ たとのこと。17世紀頃は毎週水曜日だったとのこと。この番組で初めて社会史ネタを確認することができました。他にも、ハリルが 投獄されている時に、イブ ラーヒーム・パシャが市内でハリルの恋人から直訴される場面もありましたが、これも巡察だったのだと納得。

第四話

盛り返すかと思ったけど、駄目そうな展開。が、最後だけ盛り上がる。90分もあるのに、延々間延びした演出を見せられた後、最後 だけ翌週につなぐために盛り上げるという。今後もこんな展開が続くのだろうか。

今回の話のポイントは、4つ。

1. ムラトはイブラヒム・パシャの命令であっさり釈放される。ムラトを危険人物として葬りたいカースマはアセスバシを抱き込む。ムラ トとアセスバシの間でアフ メト三世が観覧する御前試合が行われることになり、カースマは毒薬をアセスバシの剣に塗りつけておくが、ムラトは最後にはアセス バシの剣を奪い、カースマ につきつける。

カースマは短剣でムラトのつきつける剣を払いのける。その後、イブラヒム・パシャが両者を裁定するような感じで終わる。

2. カースマは秘密をムラトに漏らした妹を叱責し、妹はムラトに近づく。手始めにムラト不在中にムラトの家に行き、両親を篭絡する。 ジャンセザを気に入った母 親はゴンサニギャールの服を着せてあげるが、そこに帰宅してきたムラトは激怒し追い返すが、結局連れ戻す。ジャンセザはムラト母 がハティジェ・スルタンに 納品する刺繍作りの手伝いをし(ムラト母は昔女官だったのかも知れない)、ムラト母と一緒にハティジェに面会し、刺繍を納品す る。すっかり信用を得ていつ の間にかムラトの家で暮らすようになったジャンセザは、ある夜短剣をもってムラトの寝室に侵入する。脳裏には兄に命令された時の 回想が浮かんでいるのだっ た。

これはハティジェの宮殿らしいが、実在の建築だろうか。よく見るオスマン朝様式と少し異なっている感じ。

3.すっかりすさんだ生活となったハリルは、ある日、酒場で偶然昔の友人と再会する。いつの間にか酒場で隣にいる男を無意味に刺 し殺す程荒んでゆくハリルの様子が描写される。

4. カースマとジャンセザの仲間のミルザーは、サファヴィー朝王直命を受けた間諜だったことが判明。まあ、そもそもジャンセザがメフ メトとイスファハンの王宮 から馬で駆け出す場面が第一話の冒頭にあったし、一連の陰謀にサファヴィー朝がかんでいることは視聴者には薄々わかるようには描 かれていたのだが、今回で はっきりする。

 というわけで、ムラトまたも危機一髪なところで今回は終わり。ジャンセザは兄とムラトの間での葛藤がありありと見て取れ るのはいいんだけど、キャラ的に平凡な感じになってしまいつつあるのが残念。パトローナ・ハリルもどんどん荒んでいく様子はわか るけど、とてもまだまだ壊 れぶりはセンジャーデには遠く及ばないのだった。

第五話

 益々低調。ああ「Kuruluş」で見せてくれたトルコ人の迫 力ある非凡な乗馬技術はどこにいってしまったのだろう。近代化すると伝統技術も廃れてしまうのだろうか。流鏑馬場面をスローモー ションでやらないで欲し い。市街のセットも段々カットが尽きてきて、ムラトの家の前が何度も使いまわされているのがわかるようになってきてしまった。今 回目についた場面はファト マとハティジェが会話している時の衣装くらい。

グ ダグダな展開だ。そのメロドラマヤメレ とか思っていたら、最後の場面だけ注意を惹かれました。夜、カースマとムラトが双方の自 宅から剣を持って出てゆく 場面で終わるのですが、ムラトを見送った後、ジャンセザはなんと、火に向かって祈るのでした。まさか。。。。ゾロアスター教徒?



第六話

  予想通り森でムラトとカースマが対決するが、ジャンセザが割って入りウヤムヤで終わる。ジャンセザは兄に呼び出され、カースマ は、父親処刑の時の話をし、 恨みを忘れるなと煽る。惚れたムラトと兄の間で悩むジャンセザ。という具合に今回もグダグダな進行が続くが、若干進んだ場面もあ る。ひとつはパトローナ・ ハリルが、民衆に向かって街頭や茶屋で扇動演説を開始し、ついにデモ隊を組織し、オスマン朝初の印刷所をつくったイブラヒム・ ミュテフェッリカ・エフェン ディの自宅(印刷所も自宅に開設していたとのこと)に詰め寄せ投石する(ミュテフェッリカは、彼の工房を、以前の回でもアフメド 3世が訪問していて、そう じゃないかと思っていたのだけれど、イブラヒム・ミュテフェッリカと名前が登場したのは今回初めてだと思います)。右 側がミュテフェッリカ。印刷機は映っていないけど、白紙の紙が大量にテーブルの上にいてある。

  なんでミュテフェッリカがパトローナ・ハリルの標的になったのかはよくわからないんですが。自宅に突入されるよりは、とミュテ フェッリカは表にでて民衆達 にひったてられてゆくのだった。ミュテフェッリカは1729年に「アフガン人の登場の説明及び大サファーヴィー朝君主国家崩壊の 政治史」という本を印刷し ているので、サファヴィー朝にとっては面白いはずはあろうもなく、ひょっとしたらミュテフェッリカを弾劾対象に設定したのはサ ファヴィー朝かも知れない。 もともと、イスタンブルの書写職人にはミュテフェッリカの印刷所は反感を持たれていたようなので、ハリルがうまく煽ったというこ となのかも。

 下はイスタンブルの街角。


第七話から十三話の紹介はこちら

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