第一部に
続き、映画「ア
スパルフ汗」第二部「移住」です。109分の全てが、移住の場面です。アスパルフに率いられたブルガール族は、665年のクブ
ラットの死から、ドナウ河を
越えて現在のブルガリアの地に定着するまで15年間程移動生活を送っていますが、その長さが良く伝わってくる内容となっていま
す。 今回ブルガリア歴史映画について知ることができましたが、制作年代と上映時間を並べてみると、面白いことがわかりました。題名 ではなく、主人公の王別に並べてみました。 〜付録:古代・中世ブルガリア歴史映画豆知識〜 (1)製作年 カロヤン(1963年) イヴァイロ(1964年) テルテル・スヴェトスラフ(1970年) イヴァン・アセン2世(1975年) アスパルフ(1981年) ボリス一世(1984年) シメオン(1984年) クルム(1986年) ラテン帝国を打ち破ったブルガリア第二帝国のカロヤン(在1197-1207年)が最初に来ているのは、ラテン帝国が当時共産主 義ソ連と敵対していた西欧 (西側)の象徴なのではないでしょうか。更に、民衆の階級闘争の勝利というべき、反乱を起こして帝位についた貧民出身のイヴァイ ロ(在1278-80年) も、共産主義好み。テルテル・スヴェトスラフ(在1300-1322年)は、キプチャック汗国の属国だったブルガリアを独立させ た王。モンゴル帝国は 100%悪だった社会主義時代のソ連に媚びるには相応しい選択です。イヴァン・アセン2世(在1218-1241年)も、ラテン 帝国を破った君主ですか ら、これも東側陣営の英雄。アスパルフなんかは、建国1300年という建前が無かったら製作できなかったかも(でも何故か米国資 本が入っているんですよ ね。私は、米国に移住したブルガリア人実業家が噛んでいるのではないかと推測しているのですが。。。)。 (2)上演時間順 シメオン(約550分) アスパルフ(323分) ボリス一世(約240分) イヴァン・アセン2世(161分) クルム(141分) テルテル・スヴェトスラフ(約100分) カロヤン(約95分) イヴァイロ(約80分) 比較的、ブルガリアにおける人気度を反映している値となっているようです(ちょっとカロヤンが低すぎる気がしますが。イヴァ ン・アセンとカロヤンを入れ替えれば、人気度ランキングにほぼ比例する内容となるものと思います)。 第二部のあらすじと画面ショットにご興味のある方は「More」をクリックしてください。 第二部 移動中のアスパルフ族。 草原の中に、下記のような目印を見つける。遊牧民族が、停留地として使える場所に残す印らしい。ここでキャラバンは、草原に広が り、天幕を張り出す。 アスパルフはハガネを妻として扱おうとしたが、ハガネは拒絶する姿勢を見せる。長老会議が開催され、参加した6名全員が、ハガネ との結婚を否認するどころ が、巫女としての職務に背いたとして、ハガネをタングラに捧げられる儀式が執り行われることになる。タングラに背くことは誤りで あるとブルガリア人は学ぶ だろうと、ハガネに布をかけて殺し、犠牲にする儀式を行う。アスパルフは、逍遙として犠牲の儀式に向かうパガネに、「人身御供な んて無意味だ!」と止めよ うとするが、パガネも長老達も聞き入れず、犠牲式は執り行われるのだった。痛ましく見入る人々。タングラは喜んでいる!と叫ぶ司 祭。タングラ!と皆叫ぶ。 ここで一瞬、都に戻ったベリサリエに戻る。書斎の机に座り、原稿用紙を前に昔を回想している様子。その後再び回想に戻る。 移動中、羊、男は騎兵、女は馬車と歩き。パオも解体しないでそのまま運んでいる。ハガネの謀殺にもっとも熱心だった長老(司祭で もある。第一部の儀式の場 面では、ハガネと並んで司祭を務めていた)の目的は、娘をアスパルフに嫁がせることだった。父は「タングラのもとに行った」とい うが、娘は、「(パがね は)アスパルフの中に残っている」と難色を示す。娘の名はエルミキエ。「私に何を望んでいるのお父様」「待っていろ」などという 会話を牛車の中でしている のだった。 伝令が来る。4年前にファナゴリアも大ブルガリアも滅亡した、と告げる。 結局エルミキエと結婚することになったア スパルフ。エルミキエ(エルミキ)が「何か用意しますか?」と言っても、無言で冷たいアスパルフなのだった。一緒に暮らしている のに毎晩一人で寝てしまう アスパルフ。ところがある日、着替えている妻をみて、思わず抱いてしまう。そして娘の妊娠がわかると、父親は牛車の中で娘に、 「よくやった」というのだっ た。ベリザリエが各天幕を見回っていると、出産をしている夫婦がいた。難産のようだ。夜、ベリザリエはアスパルフに呼び出され る。アスパルフの私設相談役 のようになっているベリサリエ。ベリサリエが到着すると、二人にしてくれ、と追い払われてしまうエルミケ。この時のエルミキのお 腹は目立つ程大きくなって いる。天幕内ででエルミキがアスパルフの着物を繕っていると、「そのままにしておけ」と着物を取り上げようとするアスパルフ。相 変わらず冷たい。 しかし、ベリサリエに注意され、天幕に戻り、妻に向かい、翌日皆に発表しよう、と言う。涙を浮かべるエルニケ。でもその後、 「お前はいい妻だから、そうしなければならない」と付け加えるところが、やっぱりちょっと冷たい。 伝令がやってくる。ハザールが発見されたとのこと。移住隊の中から騎兵が一気に散開する。丘の向こうからハザールの大軍が。装備 はどっちも変わらないが、 モンゴル帽子をかぶっているのが敵軍で、ブルガール族の方は帽子なしか、円い鉄兜と鎖帷子と、少しだけ装備が異なる。野原で激 突。ブルガール族が勝利す る。もう襲わないように、と言い放つアスパルフ。 冬。雪になった。平原をゆくキャラバン。川へいたる。 冬場の野営地。 雪の中、池で釣りをしている時、ベリサリエは何者かに矢で射られ、助けてくれた現地の女性に好意を持つ。相手もベリサリエに更意 を持ったようで、手を握っ てキスすると、女は驚いたように、「何してるの?きれいな人には皆キスするの、あなたは?」と言われるベリサリエ。その女性は母 親と弟と暮らしていた。雪 遊びをしたりして、ベリサリエにもやっと青春が来た感じ(英語版では、この女性はパガネの妹と自己紹介する。名前はヤナ。完全版 ではディエとなっているも のと思っていましたが、聞き違いかも)。 ベリサリエが天幕に戻ると、彼ところにアスパルフが来て、「エレニケは死ぬと思う」という。出 産でちゃんとした子供が生まれなかったらしく、エレニケは産褥熱かなにかで亡くなってしまう(。アスパルフトベリサリエが天幕に 戻る直前に、産婆と思わし き老婆が走り出てきて、自分の天幕に向かい走り去り、生まれたばかりの子供をくるんだ血の付いた布の塊を抱えて出てくる男とすれ 違う。エレニケは、父親の エゴで結婚させられ、アスパルフからは冷たく扱われ、それでも甲斐甲斐しく夫の面倒を見るなど、可哀想な女性であった。 ようやく川の氷 が砕け、春が近づく。2人で流れ行く流氷を見ながら、もう一度緑の土地を目指す、とベリサリエにいうアスパルフ。このとき、アス パルフは、さあ、という感 じでベリサリエの肩を叩いたので、ベリサエリエが痛がる。まだ傷は痛むのか?と聞くと、ベリサリエは、射たのはブルガリア人の矢 だ、とアスパルフに告げ、 持っていた鏃をアスパルフに見せる。それを見たアスパルフは、エレニケの父を呼んで、パガネを殺したのも、妻を殺したのもお前 だ、と告げる。「ばかな!俺 は娘を失ったんだぞ。お前の愛が足りなかったから死んだんじゃないか」というエレニケ父。それに対し、エレニケの死んだ夜の不審 な状況から、「私は妻だけ ではなく、子供も失った」と、エレニケの父を一気に攻め立てるのだった。そして留めに、ベリサリエを負傷させた矢尻を見せる(本 当はもっと鋭い言い合いな のだろうけど、細かいところはわかりませんでした)。 雪が解け、完全に春になる。再度移動開始する一行。ベリサリエは、現地の例の女性 を娶って連れて行くことにしたのだった(母親は置いてきぼりでかわいそうかった。一緒につれていってやれない理由のナレーション が入ったのですが、あまり よくはわかりませんでした。どうやらもう年なので、過酷な旅に耐えられないことから、残ってもらうことになったようです)。女性 の母に、事情を告げる二 人。 ここでまた、ベリサリエの回想場面に戻る。 また長い行軍が続く。バスケットで運ばれる幼児。可愛い。最初は馬に乗っていたベリサリエの妻は、途中から馬車に子供とともに 乗っている。この行軍の場面で、数年間が経過したようである。 ある日、一行は、一人のスラブ人を捕縛する。アスパルフのもとに連れてこられて、「お前らの指導者は?」と聞くと、「指導者はい ない」という。彼を解放す るアルパルフ(アスパルフもすっかり「ユビギ」と呼ばれるようになっている)。そして、しばらくして、スラヴ人の長老達が集団で アスパルフ一行を訪ねるの だった。下記がその邂逅場面 スラブの長老と会話(お互い何者で、どういう考えをして、何を目指しているのか、などを話したあと、お互いの利点についての会話 にはいったようである)し た後、また冬になり、駐留地に今度は別のスラブ族の長老たちが来る(スラヴ側には王や指導者という概念が無いようで、アスパルフ の天幕を訪問した時も、 「第一人者は誰だ」という尋ね方をしていた)。そして交易が始まる。ベリサリエにも子供ができている。そのままここで越冬するこ とになる。馬が凍死してい る。ベリサリエの子供も風邪をこじらせ死んでしまう。錯乱して子供の遺体を抱えて雪の中を走り回る妻(このあたりで妻の名がディ エであることがわかる)。 追いかけるベリサリエ。やっと母親から遺体をもらい、墓を作る。越冬中結構な死人が出る。墓地の場面*1。 *1 短縮版では、ベリサエリエの妻のヤナが亡くなったことになっていた。妻の遺言は、「あなたのお国へ戻って」だった。これで 短縮版については第三部のラストは説明がつくが、完全版では妻は最後まで生き残っているので説明がつかないのだった。 また春が来た。まだ雪が溶けない野営地で民衆が抗議にアスパルフの元にやってくる。もう限界だ。もう嫌だ。休みたい。と口々に抗 議する民衆たち(既に旅を 開始してから15、6年間経っているらしい(アスパルフがそう民衆に言っていた)。アスパルフは答える。「北は不毛の地だ。南は バシレフサの土地だ(ビザ ンツ帝国のこと。バシレフサ=バシレウス(皇帝))。だから中間にいるんだ*1」 しかし民衆は限界に来ていた。家臣達も「ここ じゃ駄目だ」というが、特 に何も決まらずに終わったようである。下記はアスパルフの天幕。 *2 どうもこれまでの経緯を見ていると、一度北に向かい、その後南西に向かいだしたように思える。そこで、地図を良く見てみると、 アゾフ南岸のタマル半島に あるファナゴリアから、ドナウ河付近に出るには、一度アゾフ海を迂回する為に北に行かなくてはならないのである。この演説でアス パルフが「北」を口にして いるのも、途中で北部に立ち入ったからなのではないかと推測される。 夜、松明が付き、監視塔が盾を叩いて警鐘を鳴らす。次次と篝火が付く。現在のルーマニア領の、ドナウ川河口付近にいるらしい。 洪水が来たのだった。 羊も泳いでいる。死人が出たりしている。夜のうちに増水したのだろう。家畜が流され、子供が死んだりしている。部落が一気に湿地 帯となった。排水する 人々。とうとう、本格的な定住を目指し、砦を作り出すと、スラブ人がまたやってくる。どういう交渉をしたのかわからなかったが、 とりあえず容認されたよう である。 砦完成。ドナウ川を渡ったところに絶壁がある。それらを調査にいくアスパルフ。森と崖の滝があり、ずいぶん地形がこれまでと違う 地域入る。アスパルフがい う、「ここが国境だ」つまり、ドナウ河の河口の湿地帯より、50km程上流ということになるのだが、何故かアスパルフとベリサリ エは馬で渡河できてしまう ので、別の場所かも知れない(ドナウ川は、スイスの源流、ドナウエッシンゲンでも馬で渡河は困難である)。 二人はずいぶんと肥沃な土地に来る。スラヴ人の村を見かける。洞窟に入ってゆくスラブ人たちに出会う。下記画像の左下にアスパル フとベリサリエがいて、そ の間に映っている灰色のものは、古代ローマ時代の水道で、石造の排水溝から水が出ている。ちなみに、アスパルフとベリサリウスは ビザンツ人の身なりをして いる。これは、ベリサリエが昔の服を木箱から取り出してきたもの。取り出すときに、妻のディエが、「あんた。子供ができるのよ。 出て行かないで」と誤解す る一幕があった。 洞窟の中は神聖な場所となっていて儀式が行われていた。そこに、村を焼き討ち、略奪・強姦しにビザンツ軍が襲撃。村民は洞窟に 避難してくる。まるで後のオスマントルコのようなビザンツ軍。 生き残っている人々は、崇拝している木の周りに集まり、神に祈りを捧げる。馬の頭骨がかかっているのも、古代のアニミズムな宗 教の感じ。 しかしその崇拝している木も燃やしてしまうビザンツ軍。ところが、恐らく付近の村の住民だと思われるが、襲撃を終え、撤退してゆ くビザンツ軍を、森から出 てきた武装したスラブ人が襲うのだった。襲撃の去った村を見て回るアスパルフ(よく見ると、アスパルフの頭髪には白髪が混じって きている)。 河を渡って戻ると、迎えに来た家臣から、ラサーテという名の家臣がエレニケの父(最後まで名前がわからなかった)に殺された、と 伝えられる。陣営に戻っ て、エレニケの父に話を聞くと、どうやら、ビザンツとの戦争を恐れており、ラサーテは推進派で危険だったので殺害するに至ったよ うである(聞き間違いかも 知れない)。ラサーテの遺族の天幕を訪れるアスパルフ。下記はその時の遺族の夕食の場面の映像。 この後も、重臣会議でエレニケの父は一人、タングラを持ち出して反対意見を述べるなど、既に固まっているような方向性に異を唱え るのだった(彼は、第一部 において、クブラットが行った儀式で、司祭のような役割をしていたから、宗教指導者の一人でもあるらしい。英語版では 「Priest(司祭)と呼ばれてい た))。 森での狩の場面。様々に音のでる器具を用いて鹿を追うブルガールの男達。狩にまぎれて、アスパルフはエレニケの父を射殺するの だった。家臣を集め、「本日以降タングラは私を通して語る」と宣言して第二部は終わる。 |