現代欧州の金融と通貨の起源(3)

 

デ・ローヴァー「為替手形発達史-14世紀から18世紀-」の目次 

 

 

    前回の続きです。

5.レイモンド・デ・ローヴァー「為替手形発達史―14世紀から18世紀―」(
楊枝,嗣郎氏訳)の目次の紹介。

序文 (フェルナン・ブローデル執筆)
 謝辞
序章
 第1節 本書の課題
 第2節 先行研究の検討 
 第3節 為替手形の発展段階
 第4節 為替契約と徴利をめぐるキリスト教の教義

第1章 14世紀の為替手形の起源
 第1節 ジェノアその他における銀行と為替の始まり
 第2節 ジェノアの公証人の公証記録に基づく初期の為替契約
 第3節 為替手形の原型である「為替を原因とする契約証書(“instrumentum ex causa cambi”)」
 第4節 ジェノアとシャンパーニュ大市間の為替取引:貨幣市場の生成
 第5節 シエーナでの為替契約:同一地域内で結ばれた期限付き為替
 第6節 「為替を原因とする契約証書」から為替手形へ
 第7節 「為替を原因とする契約証書」と為替手形の純粋に形式上の差異

第2章 14、15世紀の為替手形と貨幣市場の発展
 第1節 為替手形;為替契約とその証明・実行手段
 第2節 ダチニ文書に基づく為替取引の典型的な事例(1399年)
 第3節 手形文言、為替の価格・相場、銀行所在都市の相場決定
 第4節 為替相場と利子;スコラ学説
 第5節 為替相場変動の他の要因;貨幣の通用価値変更と正貨現送点の役割
 第6節 為替相場と国際収支
 第7節 為替相場と為替投機
 第8節 中世貨幣市場の一般的特徴

第3章 16世紀における貨幣市場の転換
 第1節 貨幣市場の拡大と交易の増大
 第2節 スコラ学説-その普及と発展-
 第3節 中世的伝統の残存
 第4節 大市は新種の為替を生み出したのか?振替と相殺による決済、エク・ドゥ・マルク、戻し為替付き為替
 第5節 スペインの特殊事情

第4章 手形裏書の生成
 第1節 問題の状況
 第2節 中世に於ける債権譲渡
 第3節 ネーデルラント、特にアントワープでの裏書の先行事例
 第4節 イタリアでの裏書の起源
 第5節 スペインでの裏書の端緒
 第6節 特別な事例-インフランド-
 第7節 フランスとドイツにおける裏書の普及
 第8節 裏書の法的・経済的影響

第5章 割引業務
 第1節 「割引」という言葉の歴史
 第2節 割引と利子に関する教会の教義
 第3節 為替と利子
 第4節 割引と銀行制度の構造
 第5節 付随的問題-自筆為替手形から印刷用箋使用へ-

結論
書類証拠-さまざまな都市や時代の為替手形-
訳者あとがき

以上のうち、
1章までが、佐賀大学経済論集 19巻1号通巻47号 (1986年)
2章が佐賀大学経済論集 42巻2号, 通巻175号p29-63(2009年7月)
3章が佐賀大学経済論集 42第4号,通巻177号p117-143(2009年11月)
4章3節までが佐賀大学経済論集 42巻6号 通巻179号 ,p83-108(2010年3月)
4章後半 佐賀大学経済論集 43巻1号 180号 ,p74-100 (2010年5月)号

 

5章が181号(2010年7月号)には掲載されておらず、180号で、「以下次号」、と記載されておらず、5章の翻訳計画があるのかはまだ未確認です。

 わざわざ目次まで紹介するのは、今となっては古い著作とはいえ、なにより面白かったことと、章立てや記述の加減が丁度よく(詳細過ぎると読み進める根性が無くなるし、浅いと満足できない。わかまま)、個人的には名著だと思えたから。

  第1章は「14世紀の為替手形の起源」となっているものの、「第1節 ジェノアその他における銀行と為替の始まり」は、12世紀中頃のジェノヴァ商人のビザンツとの取引文書からはじまり、公正証書が次第に為替手形に成り代 わってゆく様が、「第4節 ジェノアとシャンパーニュ大市間の為替取引:貨幣市場の生成」では、シャンパーニュ大市での取引の実例が描かれ、13世紀中頃のプロヴァンス貨とジェノ ヴァ貨の取引での為替決済での「安全装置」の仕組みが描かれています。まさに知りたかったことを知ることができました。
 (なお、第4節の掲載さ れている19巻1号p14012行目の「プロヴァンス貨12デニエの1スーあたりジェノヴァ貨1デニエ」は、「プロヴァンス貨12デニエの1スーあたり ジェノヴァ貨19デニエ」の誤植ではないかと思われます。借受時、プロヴァンス貨1スーをジェノヴァ貨17デニエのレート借りて、返済時、ジェノヴァ貨 19デニエのレート返済するので、ジェノア商人は必ず1スーあたり、2デニエの差益を得る、という原初の頃の「安全装置」一例です。これ以外にも、12世 紀のコンスタンティノープルとの取引以降、多くの取引例が引用され、各種通貨との取引時のレートがわかります)

 地域毎の為替相場の相違を利用した利益生成の実態は
第2章で扱われています。また、こちらのサイトに、ユーザンス日数と商業郵便の、各地間の一覧表が掲載されています。なんとも便利な時代になったものです。

  それにしても、手形について殆ど何も知識がなかったのですが、よみ進めていくと、徴利禁止の教説を潜り抜ける為の「安全装置」とはいえ、その部分について は、為替振替や帳簿決済などの発達を招いただけで、利益を得るにしてもイスラーム商業と大きな違いがあるように思えません。4章に入って裏書についてくど くどと述べているので、「ひょっとしてイスラームでは手形譲渡や、無関係な他人が手形を引き受けることはできないのかも」と、少しネットで調べてみたら、 どうもその通りですね。。。イスラーム金融関連の記載を見ると、手形やコマーシャルペーパーはOKだが裏書不可。イスラーム金融にまったく興味が無かった ので知りませんでした。商業の発達していたイスラームと近世西欧の分水嶺の一つが債権の譲渡性にあるとは思ってもみませんでした。そうなると、本書の後半 の大半を占める裏書については当初はぜんぜん興味が無かったのですが、段々興味が出てきて結局4章前半まで読んでしまい、続きも読みたくなってしまってい るのでした。ちなみに、前回ご紹介した佐藤圭四郎著「イスラーム商業史の研究」のp62では、イスラームは、貸付による利子は禁止しているが、投下資本か らの利益(資本利潤)は容認している、とあり、これによると、イスラームは資本主義と矛盾するものでは無いようです。何故資本主義が発達しなかったのか、 疑問は増える一方なのでした(アブダビ投資庁がシティを救済したのはいいんですかね。色々調べるネタは尽きないのでした)。

 

なお、2章から4章はインターネットで購読できます。こちらの佐賀大学機関リポジトリページの左上の「検索」にて、「楊枝,嗣郎」と入力して検索してみてください。



 記事が長すぎるので分割しました。以降の書籍は次項をご参照ください。

 

その3(現代欧州の金融と通貨の起源(4) その他参考になった資料 に続く

 

 

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