近世ベルギー歴史映画「ブリューゲルの動く絵」

 2012年日本公開済み(日本公開 用公式ホームページはこちら)。
 日本公開されているとは知らないまま記事を書いてしまいました。記事を廃棄するのも勿体ないので、このところフェリペ二世時代 のスペイン映画の紹介続きと いうことで、宣伝を兼ねて紹介したいと思います。この作品で興味を惹かれたのは、製作国がポーランドとスウェーデンという点で す。ブリューゲルは、スペイ ン支配時代の現ベルギーの画家なのに。しかも作中カトリック・スペインによるプロテスタント弾圧らしき場面も出てきて、この内容 をカトリック国ポーランド とプロテスタント国スウェーデンが映画化したという点も興味を惹かれます。「ブレードランナー」でハリソンフォードを追い詰める 人造人間を演じたルドガー・ハウアーがブリューゲルを演じているのは、彼がオランダ出身であること と関係しているのでしょうね。ルドガー氏は、「グレート・ウォリアーズ/欲望の剣」なんていう、変わった中世歴史映画に登場して いましたが、変わった映画への出演が目立つのは、本人が好んで出演しているからなのでしょうね、きっと。

IMDbの映画紹介はこちら(配役表に151名も記載されている。IMDbの配役 表は通常10名程度なので、IMdbの配役表としては、私が知る限り最多数)。

〜紹介〜

 冒頭、1564年作「The Procession to Calvary(ゴルゴダの丘への行進)」 製作場面から開始。市村民100名以上がカルスト岩山の麓でモデルとなっている。以下は聖母マリア役の女性の衣装を調製させるブ リューゲル(右手、カンバスを持っている人物)。

 CG製作とはいえ、ブリューゲルの絵そのままに再現された、絵画製作風景。基本的に人々は静止しているが、一部、奥の方で輪に なって踊っている人々がいたり、馬のしっぽがたなびいていたりと、人々はあくまで役の上で静止していることがわかる画像となって いる。

 ここで話は戻って、ブリューゲルがこの絵を描くことになる以前のエピソード(というか、人々の日常生活)となる。

  上記絵の左手奥の、頂上に水車のある岩山は、内部に空洞があり、内部には水車に登ってゆく階段(下記左)や、巨大な木造の粉挽き 器がすえられていて、粉屋 が経営している。下右画像は、水車を回す粉屋が写っている(なお、本作の原題は「The Mill and the Cross(水車と十字架」)。

 下絵を描くブリューゲル。水車岩の麓は、村人が開く市場でもあるようで、閑散としているが、商品を持って集っている人々がお り、その景色を見ながらブリューゲルが下書きを書いている。

 殆ど台詞は無く、淡々と人々の日常生活が描かれる。この映像の進み具合からして、人々の生活の描写を細かく描いたブリューゲル の絵画風。下左は、回転研ぎ器で剣を研ぐ兵士。下右は農民の食卓。子供たちに食事を与える母親。どこをとっても絵画的な映像が続 く。

 (恐らく)スペイン官憲が、プロテスタントを弾圧している場面。魔女とでもされたのか、女性が生き埋めにされている。これも、 (ブリューゲルでないかも知れないが)、こんな感じの近世絵画をどこかで見たような既視感に襲われます。

  市街と、市の城門。中央騎兵はスペイン兵。本作は厳密には歴史映画では無いのだろうけれども、ブリューゲルの絵画そのものが、当 時の文物を描いたリアルな 絵画とされていることから、ブリューゲルの絵画の映画化=当時の風物を描いた歴史映画と言えなくも無く、思わず風物の画面ショッ トをとってしまう。

 こちら、市外にある農村地区。木造の家も出てくるが、このあたりは、石造の家が立ち並んでいる。

 水車のある岩山の全貌。粉屋が神を象徴しているとのことで、水車の後ろには後光が射しているのだった。


  筋らしい筋があるわけではなく、絵画の部分部分について、その描写に至る経緯が、それぞれ描かれ、最後に絵画の右下にあるキリス トの磔に至る経緯が描かれ て終わり。台詞も殆どなし。とはいえ、本作は、スペインによるプロテスタント弾圧を、キリストの処刑に重ねあわせて描いており、 フェリペ二世支配時代のベ ルギーの様子を描いた歴史映画としても見れるものと思います。

 ところで、最後にウィーン美術史美術館に展示されている「バベルの塔」 と、その隣に展示されている本作「ゴルゴダの丘への行進」が映るのですが、ウィーンに訪問当時、これを見ている筈なのですが、全 然記憶にありませんでし た。バベルの塔の方はよく覚えており、予想(縦横数メートルあるのだと思っていた)していたよりもかなり小さい(114 x 155 cm)のに驚きましたが、本作も、124 cm × 170 cmしか無いとのこと。書籍などではスケール感を誤ってインプットされてしまうことが多く、現物を見て自身の先入観に驚かされることがありますが、これも その一つでした。劇場で、大画面で見てみたい作品です。

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