本作は、全7作から成る(予定だった)、古代ブルガール族を扱った、珍しい連作シリーズ
です。シリーズ名は、ズバリ、「Сага древних
булгар」(古代ブルガル族の物語)。2005年から製作・発表されているロシア映画です。とはいえ、本作は歴史映画と言い切れるのか微妙なところが
あるのですが、ある一つの理由がある為にご紹介するものです。理由は後ほどお伝えします。 当初の予定では、今頃既に完結している筈です が、少なくとのネット上には、四作目以降の情報が殆ど無いため、何らかの理由で中断しているか、計画変更になったか、題名そのも のが変更となってしまった のかも知れません。個人的には、興行的な失敗の為、製作を続けられなくなってしまったのではないかと推測しています。 各タイトルは下記の通りです。いづれも興味深い内容です。 1 ― «Сага древних булгар. Сказание Ольги Святой» ― 2005年 「古代ブルガール族の物語 - 聖オリガの伝説」 -キエフ大公国第2イーゴリの妃の話。キエフの支配層として最初にキリス ト教の洗礼を受けた人物。 2 ― «Сага древних булгар. Лествица Владимира Красное Солнышко» ― 2005年 「古代ブルガール族の物語 - 階梯を上るウラジミール・赤い太陽」 -第五代キエフ大公(在980-1015年) 3 ― «Сага древних булгар. Сага о любви дочери Чингисхана» ― 2005年 「古代ブルガール族の物語 - チンギス汗の娘の愛の物語」 4 ― «Сага о Волжской Булгарии» 「ヴォルガ・ブルガール族の物語」 5 ― «Сага о любви Урана» 「愛するウラノスの物語」 6 ― «Сага об Аттиле» 「アッチラの物語」 - ローマ帝国に攻め込んだフン族王アッチラの話だと思われる 7 ― «Сага о Кубрате» 「クブラットの物語」 - 大ブルガリアのクブラット汗(在632-652年)の話だと思われる 最初の二作はキエフ大公の話なのですが、東隣にあった、ヴォルガ・ブルガール国とは深い関係にあり、映画でも頻繁に登場するの で、「古代ブルガル族の物 語」というシリーズ名がついているものと推測されます。現在のロシア連邦内のタタールスタン共和国とチュヴァシ共和国の人々は、 ヴォルガ・ブルガール国の 末裔だとの学説がある為、ロシア人と末裔の人々両方に売り込める題名・内容としたのかも知れません。三作目がチンギス汗の娘の話 となっているのは、ヴォル ガ・ブルガール国はチンギス汗に滅ぼされた為。四作目はズバリ、ヴォルガ・ブルガール族の話。5作目はちょっとわかりませんが、 6作目とブルガル族との関 わりは、古代ブルガール族は、フン族の最盛期、フンの支配下にあったため。アッチラに率いられてローマ帝国に攻め込んでいます。 七作目のクブラット汗の時 代、ブルガール族は最盛期を迎え、黒海北岸・現在のウクライナに大きな国家を作った時代。彼の死後、ブルガール族は分裂し、北東 へ向かったブルガール族 は、ヴォルガ・ブルガール族を建国し、西方で向かったブルガール族は、移住先の民族に吸収され、南方へ向かった集団は、移住先の スラヴ人と混合し、現在の ブルガリア国を建国しました。 こういう非常にレアな内容なので、全部見てみたかった気もするのですが、現時点で唯一ネットで視聴できる 第二作ウラジーミル聖公の話を見てみて、これは微妙だと思いました。こういう時代・民族を扱う作品は、最初から興行的な難しさを 抱えているので、娯楽冒険 の要素を強めるなど、なんらかの工夫が必要となるものと思うのですが、あまり成功しているようには思えないのでした。寧ろ、どう せ失敗するなら、思い切り リアルな歴史映画にしてしまった方が良かったかも、少なくとも私のような歴史マニアにとっては。それでは、第二作、キエフ大公ヴ ラジミール公の物語の特徴 をご紹介します。今回あらすじはなし。 なお、ヴラジーミル聖公の映画として、アニメの「Prince Vladimir(Wiki)/Knyaz Vladimir(IMDb)/2006年」もあります。 〜「古代ブルガル族の物語 - 階梯を上るウラジミール・赤い太陽」〜 本作の特徴は、二つ。ディズニーランドな映像と、映像の不安定さ、でしょうか。映像の不安定さというのは、例えば、下記は、 ヴォルガ・ブルガール国の都のCG画像(二次元)なのですが、結構良くできています。 町全体の映像は全て二次元なのですが、ノヴゴロドの映像等、悪くないものがある一方、明らかにオスマン建築と思われるモスクが背 景い登場し、しかもそれ が、ありありと写真とわかる(写真を机の上において、それを撮影すると、光の影が映ってしまいますが、まさにそういう映像。しか もその写真は古いようで、 画像の粗さもありありとわかります。映画の中で映写機で映した時の映像にも似ている)。演出としての実験なのかも知れませんが、 ヴラジーミルがスウェーデ ンに亡命していた時期、スウェーデンの町は、中世に描かれた町の俯瞰図の絵の中で、川の上の船が動いている、というアニメーショ ン。 下 記は、ヴォルガ・ブルガール国の宮殿から見たヴォルガ川。豪華な宮殿つきの、かなり特殊な構造の船が出てきて、しかもこれは静止 画ではなく、ミニチュア か、あるいは現物と思われる程良くできている映像なのですが、一瞬出てくるだけで、この船の中で宴会がなされるとか、そういうわ けではありません。 戦争場面など、時代が下っているのに、※まるで同じ※映像が登場しているのでした。どうも、予算の使い方が不安定な感じ。これ が映像の不安定さの意味です。 「ディズニーランドな映像」というのは下記の通り。 これは、ヴォルガ・ヴラジーミル国のアミールを訪問したキエフの人々。この後シーソーで遊ぶ場面が出てくるのですが、本当にディ ズニーランドな感じ。なの で、下記の、ヴォルガ・ブルガール国の都にいる時のアミールと家臣の映像も、「イスラーム最盛期の文化の洗練度」というよりは、 子供向けディズニーか童話 映画に見えてしまうのでした。 これも同じ。誰だったか忘れましたが。確か左側がスウェーデン王だったような気がします。 それではどうしてこのような映画をわざわざご紹介するのかといえば、下記映像があるから。これは、ヴラジーミルの妻、アンナ。つ まり、ビザンツのバシレイ オス二世の妹。私は、もっとも興味を持っている時代・地域の一つ、マケドニア朝最盛期のビザンツを扱った映画(教育番組の再現映 像ではなく)を、なんとか 死ぬまでには見てみたいと思っているのですが、本作は、最盛期ビザンツににかすっている点で、私にとっては見るべき価値のあった 作品になってしまったので した。しかも、ここだけリアルっぽいんですよね。ウラジーミルもアンナも童話的な衣装ではなく、ヴラジーミルなんか、「キエフの カガン」と自己紹介してい たりします。アンナはウラジーミルに髪を触られそうになって嫌そうに避けたりする。 ビザンツを舞台とした、15世紀に書かれたカタルーニャ文学の映画化である「ティランテ・エル・ブランコ」で 初めてビザンツの映像を見ることができ、今年、一連のブルガリア歴史映画を見ることで、大分ビザンツ映像に触れることができまし たが、ユスティニアヌス朝 とかイサウリア朝とかパラエオロゴス朝とか、ニカイア帝国とか、ビザンツ帝国の端っこばかり。どうしてマケドニア朝を正面から 扱った映画が見つからないの だろう。もう、じらさないで早く見せてよーーーという感じ。いずれにしても、本作のアンナの映像を見て思いました。 さあ、また一歩ヴァシレイオス二世に近づきました。 ロシア歴史映画一覧表はこちら。 |