14世紀初頭のポーランド歴史映画「鷹の紋章」(1308-1331年)

  本作品は、分裂状態にあったポーランドの再統一と、ポーランドに侵攻してくるブランデンブル グ辺境伯との抗争を巡る、1308年から1331年の間を 扱った、各話30分・全14話・1977年ポーランド製作の、全7時間程のテレビドラマです。当時のポーランドは分裂状態にあ り、背景となる事情は結構複 雑です。これを理解するには、当時の地図(1300年当時)の領土を参考にするとわかり易いものと思います。下記地図は、欧州歴 史地図サイトHistory and Geography of Europe1300年のページからブランデンブルグとポーランドのあたりを引用しました。
 


 ブランデンブルグは、真ん中の薄桃色の部分で、そのように文字が書いてあるのでわかり易いものと思いますが、当時のポーランド は分裂状態にありました。水色の部分が、 ヴェリコ・ポルスカ(大ポーランド)といわれる分領公国、その左下の薄桃色の「リーグニッツ(1241年にバトゥ率いるのモンゴ ル軍に敗れた古戦場のある ところ)」と書いてある領域が、有名なシュレジェン地方(ポーランド語でシロンスク)、水色の右が、マゾフシェ分領公国、その下 の灰色の部分が、 (クラクフを中心とする)マウォポルスカ分領公国です。基本的にはこれらの公国全土を合わせた「ポーランド王国」があったのです が、1079年のボレスラ フ2世の廃位後、王号を失い、ボレスラフ3世の死後(1138年)、王の遺言によって、王国は実質的に各地の公国に分割相続され ていました。1300年頃 は、シロンスク地方はボヘミア王国(地図真ん中下の灰色の部分)の領土となり、ポーランドの公式的な王はボヘミア王ヴァーツラフ 2世であり、1320年に 王位を回復するヴワディスワフ1世は、マウォポルスカのクラクフ公でした。このように地図を参照しながら情勢を見てみると、当時 のポーランドが、チェコや ブランデンブルグのような、一見小国と思える地域に大きな影響と脅威を受けていた理由が良くわかります。以上の背景を踏まえた上 で、本作の概要をご紹介し たいと思います。

 「鷹の紋章(原題Znak Orła(Znakが紋章)」とは、海に面した東ポモージェ地方のある下級貴族が組織した、騎士を主体とする、ブランデンブルク辺境伯への抵抗運動組織の 紋章のこと。根拠地である城館の首領の部屋の壁に、下記のような紋章が掲げられている。

 この紋章は符牒としても使われ、組織の者は常に携帯している。主人公も、第五話の最後に、首領から、このペンダントを首にかけ てもらい、正式に組織の一員となる場面が出てくる。

  本作は、第一話と第二話が1308年、第三話が1309年から12年、4話から6話が1318年、7話以降14話が1331年と なっていて、主人公の少年 が12歳の頃、組織の一員として働き始めた時から35歳で、(恐らく)プウォフツェ村での戦闘での勝利に貢献し騎士に叙任される 時までを扱っている。主人 公の名前は、Gniewko。ポーランド語になれない私としては、グネイコ、ミニェシュコ、ニェシュコ、ニェフコ、ギニィェフ コ、グニィェフコ、グニェフ コ、ギネフコ、グィニェフコなど、様々に訛って聞こえる。第四話(1318年)の前半、少年が22歳の前半まで、12歳の時の少 年が演じていて第四話では 少々無理がある感じだったが、第五話(1318年後半)から青年が演じるようになった。しかしその青年役も、35歳まで容貌に殆 ど変化が無かったのには 少々違和感を感じたところであるが、まあ細かいところである。なお、こちらのWikiに配役表が あるが、中年の老けた写真であり、参考にならない。1977年放映当時の主人公は、「スターウォーズ」のマーク・ハミルのような 容貌である。彼以外の登場 人物たちは、年が進むにつれ、白髪が段階的に増えていったりして、一応それなりに説得力がある。下記は、組織の一人、 Sulisław(スリスラフ)。常 に暖かく主人公の成長を見守ってくれた騎士(左が1312年まで、真ん中が1318年、右下が1331年)。ショーン・コネリー みたいな雰囲気で、結構お 気に入りのキャラでしたが、最後の戦いで戦士してしまったのが残念。



  本作は、毎週か毎日かはわかりませんが、毎回30分なので、ポーランド語が理解できるか、日にちを分けてみれば気にならないのか も知れませんが、7時間分 を連続して見ると相当冗長な感じがします。前半は結構見るのが苦痛でした。120分くらいにまとめたバージョンがあると嬉しいか も。6話くらいからだんだ ん面白くなり、11話ではじめて、退屈せず、気が付いたら終わっている、というような感じ。以下各話を2,3行で簡単にご紹介し てゆきたいと思います。各 話の題名の邦訳は、Google翻訳で翻訳した(一つしか訳が出ないので、他に意味があった場合、不適当な訳語となる)ものなの で、おかしな感じがします が、第一話の、素人目にも「教育」との意味のわかる題名も、少しいまいちな感じなので、各話の題名も、ひねりすぎているのかも知 れません。なお、番組の冒 頭クレジットの背後には、鷹が出てきます。




第一話 Edukacja/教育期 1308年
  グダニスク郊外の海岸の漁村が、10名のブランデンブルグ騎士団の襲撃を受け、抵抗した者は殺され、残りは奴隷として連れ去られ る。漁師の息子 Gniewkoは、沖合いまで泳いで逃げ切り、その後、反ブランデンブルグ派の城館に赴き、城館の主たちに訴える。城館に受け入 れられる少年。東ポモー ジェがドイツ騎士団に占領された事件を背景としているようである。

第二話 Słowo Zakonu/語順 1308年
 この回だけ、6分しかネットにあがっていなかった為、略。冒頭では、城館での主人公の少年時代の暮らしぶりが描かれていた。

第三話 Pierścień/リング 1309-1312年
  城館で新馬が生まれ、少年に与えられる。ヤンカと名づける。やがて成長したヤンカに乗り、騎射の練習に励む。海辺で見かけたボー トに、馬を置いて乗って遊 んでいるうちに、馬が一人で城館に戻ってしまい、帰宅後、心配したスリスラフに怒られる。城館を訪れた僧を、城館の一員が尾行 し、その後、僧の遺体が発見 されるなど、陰謀の気配が感じられ始まる。

第四話 Niezałatwione rachunk/卓越した法案 1318年

 城館に来て10年が経ったが、主人公まだ少年役のまま。前回怪しげだった男が、少年を、ある商人かなにかの家の地下に閉じ込め る、という怪しげな行動に出る。少年は地下水路を泳いでなんとか脱出する。

第5話 Wici/鞭毛 1318年

  漸く青年役になった。22歳。ロビンフッドな装備である。森で5歳くらいの幼女アグネシュカと出会う。その後はじめて少年が、城 館の騎士たちと一緒に出兵 する場面が出てくる。しかし、森の中で敵のゲリラに遭遇し、愛馬ヤンタを射殺されてしまう。大して活躍したようには見えないが、 青年が最後に「鷹の印章」 のメダルを首領から首にかけてもらった場面で終わる。

第六話 Sprzymierzeńcy/連合国 1318年 

  前回の続き。怪しげな行動をとっていた城館の一員は、どうやらブランデンブルグ側の内通者のようである。外れたものの、主人公の 青年に向かってナイフを投 げた。ナイフは外れ、誰が投げたかは気づかれずに終わった。その後近くの廃屋にひそむブランデンブルク騎士と密会する場面が出て くるので、彼が内通者であ ることが視聴者には明らかになる。グニェフコ青年は、森の中で、森に住むゲリラ部隊と遭遇する。どうやら、ブランデンブルグ騎士 団に村を追われた農民たち が、森に住み、ゲリラ部隊を結成したようである。森の隊に「紋章を見せろ」と言われて見せる場面が出てくるので、ゲリラ部隊は、 城館の騎士と連携している ことがわかる。森を出たところにある廃屋で、一人の敵騎士と遭遇してしまい、両者斧を手にして格闘になる。グニェフコ青年にとっ ては、(恐らく)はじめて の殺人だったのではないだろうか。十字を切らせてくれ、と死の間際に頼む敵。敵の手をもって十字を切らせてやる青年。この場面は 少し感動的。

第七話 Zaproszenie/招待 1331年

  成長したヒロイン・アグネシュカと主人公が再開する。第六話から13年たつのに、老けた気配の無い青年。物語の中でも30歳くら いなはずだが。。。装備も いまだ、ロビン・フッドである。しかし他の役者はちゃんと老けている。城門そばの絨毯屋の親父が何気に入城してくる不審者の監視 役なのが印象に残る。特に 話に進展はなく、ずっと青年を思い続けていた少女の心に、どこか応じきれない、煮え切らないといった青年の様子。下記はポー-ラ ンド側騎士の装備。


第八話 Gdyby zdradził/裏切られたGdyby  1331年

  前回の続き。13年ぶりに再会したのにも関わらず、なんとなく冷たい青年だったが、葛藤の後、結局アグネシュカに駆け寄り抱き合 う。この回では、ゾンビの ような化粧をして、森で死んだふりをして、ブランデンブルグ騎士の様子をさぐる森のゲリラが面白かった。青年は、葦の原(当時の 東ポモージェ地方は湿地帯 だったことが良くわかる)で敵方に捕らえられるが、機を見て沼に飛び込んで逃げ延びる。

第九回 Komu służycie/誰が役立つか

 新しい馬にもヤンタと名付けたらしい。グニェフコ青年は、敵騎士団の城に忍び込む。下記は敵方(ブランデンブルク方)の幹部た ち。これまであまり十字架などは登場していなかったが、この場面では、宝石を埋め込んだ大きな十字架と、実物大のキリスト像が出 てくる。

 今では南米的な印象のあるキリスト像が気になってしまい、大写しになったところの画面ショットをとってしまいました。会議で は、ヴラディスラフという名前が出てくるが、これは、1320年に王位についた、ヴラディスラフ・ウォキェテク(短身公)のこと だと思われる。

  会議が終わり、青年が隠れている部屋に参加者の一人の騎士が戻ってくる。喉元にナイフをあてる青年。しかし、その騎士はどういう わけか、誰かが入ってこよ うとするのを、ドアを開けさせないでうまく時間を稼いでくれる。3階くらいの高さのある窓から中庭に飛び降りる青年。下記写真の 真ん中の窓に見える人影が 青年。結構な高さである。よく無事だったものだ。

 飛び降りた拍子に、遂に兵士に気づかれるが、見に来た一人の兵士を捕まえて騎士団のユニフォームに変装。そのユニフォームは下 記。上級騎士以外は、皆こうした統一されたユニフォームを着ている。

 続いて城壁の壁のつる草を上って逃げる。

 二手に分かれた騎士団が、それぞれを、侵入者と間違えて叩きのめしてしまうおとぼけ場面。

  追跡を振り切った青年は、地下で奴隷労働場を見つける。そこでは、誘拐された東ポモージェのポーランド人が働かされていた。労働 場の監視人が離れた隙に、 皆と会話し、その中の二人を伴って、一緒に門から脱出しようとするが、失敗し、奴隷の一人が殺される。しかし、残ったもう一人と 青年が脱出に成功するの だった。下記はブランデンブルグ側拠点の城館の城門と建物の様子。こういう14世紀初頭の建築物の映像が見れるのも嬉しい限り。 城門上部は木造である。


第十回 Ostrzeżenie/警告 1331年
  見回りをするる騎士団を森のはずれの野原で見かけたグニェフコ青年は、一人の隊長格の騎士を格闘の末、捕虜にすることに成功し、 城館に連行し、首領に引き 渡す。しかし、内通者が捕虜と連絡を取る。このあたりで、ルクセンブルグという言葉が出ていたので、チェコ最初の王家、プシェミ スル家が1306年に断絶 したことをうけてチェコ王位を獲得したルクセンブルク家のことであろう。いよいよ情勢が緊迫してきた感じで終わる。

第十一回 Będziecie go mieli/あなたはそれを持っている 1331年

  アグネシュカ含めたポーランド側騎士団体の一行が野原に出ると、野原の中心の木に、味方の男が縛り付けられていた(顔が良く見え なかったが、恐らく内通 者)。そして、森の中隠れていた敵騎士団に囲まれ、伝令を一人おくるのがやっと。殆ど殲滅し、アグネシュカは捕虜となる。しか し、ブランデンブルグ側の陣 営にいた内通者が助けてくれ、一緒に脱出する。

第十二回 Cena milczenia/沈黙の価格 

 葦の原を逃げる アグネシュカと内通者。野営した折に、アグネシュカに眠り薬を飲ませる内通者。このあたりで漸く内通者の名前がわかる。ハイン ツ。アグネシュカを眠らせた 後、合図の火をたくハインツ。それを見た、探索に来たクネシュコたちは、待ち伏せしていた敵騎士に捕まってしまう。一方、アグネ シュカは、幸運にも、森の ゲリラに助け出される。アグネシュカは、森のゲリラ立ちと救援にでて、あろうことか、ハインツを助けようとしてしまう。なかなか 正体がばれない内通者ハイ ンツ。

第十三回 Dwa podarunki./二つのプレゼント 1331年

 敵騎士団城館。捕らえられ、荷車に縛り 付けられているグィニェフコ。ところが、深夜誰かがグィネフコの手足の縄を切ってくれる。そしてグィネフコをど川の船に載せる。 翌朝、いつの間にか森のゲ リラに橇で運ばれ助かる。グォネフコを助けてくれえたのは、敵城館に侵入したときに助けてくれた騎士Hanke von Elmer, rycerz krzyżacki’(略称ハンク)で、彼は味方の騎士を2人をしとめ、公然と裏切りに出る。遺体を発見する騎士団。一方、グィネフコは、追ってきた騎士 団に対して、木に縄をつけ、しならせ、音を出して騎士団の気をそらせ、2人倒し、相手の幕営地に侵入する。

第十四話 Najwyższa godność 最高の尊厳

  敵騎士団と決戦すべく、鷹の紋章の騎士団が出兵する。グネフコ青年は、相変わらずロビン・フッド装束で遊軍である。青年が廃屋の 井戸で顔を洗っている時、 背後から内通者ハインツに襲われ、気絶してしまう。そこにハンクがやってくる。グネフコを隠し、青年のことを気づかれまいかと、 ハインツが後ろを振り向い ている隙にコップに薬を入れているところを、一瞬振り返り見たハンクが気づく(もともとハンクはブランデンブルグの騎士団の幹部 だったので、最初からハイ ンツの正体に気づいていて、警戒していた可能性が高い)。ハインツが勧める水を、ハンクは「自分で飲め」、といい、ついに正体を 顕すハインツ。ハンクは内 通者をたたきのめす。下記はその廃屋。

  一方、登場した時はお姫様的だったアンジェリカは、すっかり森の兵士の一員という感じ。森のゲリラと一緒に、ブランデンブルグ騎 士団を森の際で襲撃する。 一方、意識を取り戻したハインツとグネフコが、ついに小屋で対決。青年が勝つ。その後、青年が戦場に到着すると、そこには、敵と 味方双方の屍が累々と広 まっていた。。戦闘場面自体は登場し無かったのだが、屍累々の戦場跡だけは出てきた。スリスラフの遺体を見つけ、嘆く青年。森の ゲリラとともに、アグネ シュカがやってきてグニェフコを見つけて抱きしめる。
 戦いはポーランド側の勝利だったようで、捕虜となった敵騎士団長から、奪われていた紋章のメダルを返してもらうグニェフコ。メ ダルを公(ひょっとしたらこちらの紹介ページの配役一覧に 名前が出ているので、ヴワディスワフ1世ウォキェテク自身かも知れない)に捧げ、再度、公からかけてもらう青年。そしてベルト と、スリスラフのものだった 剣ももらう。ついにポーランド騎士に叙任されるグニェフコ。そしてアグネシュカとグニェフコを王が祝福して終わる。最後に黄色の 石を掲げる青年(これは、 物語の冒頭、海岸で青年が拾った、琥珀と思われる石である。これがどういう意味を持っているのかは最後までわかりませんでし た)。下記、叙任を受けるグ ニェフィコ。


〜おしまい〜

 この時代のポーランド情勢は複雑すぎて、ポーランド史の本を読んでもなかなか頭に入らなかったのですが、本作は、作品としては ともかく、理解の助けになりました。 

ポーランド歴史映画一覧表はこちら

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