アケメネス朝ペルシア王キュロスが登場する映画イントレランス(バビロン篇)


 1916年米国製作「イントレランス」は四つのパートから構成されています。その中の、アケメ ネス朝のキュロス2世よるバビロン陥落(前538年)を扱った部分の紹介です。

 バビロン攻撃を指示するアケメネス朝ペルシア帝国初代王キュロス2世(在550-529年)。連続ドラマ「オマル・ハイヤーム」に登場したセルジューク朝初代トゥグリ ル・ベク(在1038-1063年)の衣装と風貌に似ている感じ。



 こちらはナボドニオス王の息子ベルシャザール王。出陣時の軍装。



 これはヒロインのお兄さんが攻城戦に参加する時に鎧を着ているところ。左(選んでいる)→中央→右 の順番で着ていきます。魚 鱗型の金属片が皮の生地に縫い付けてある様子が良くわかる映像です。こういう映像は他の作品で見た覚えがありません。非常に参考 になりました。



 バビロン城壁。流石に300フィート(約100m)は無さそうですが、50m以上はありそうです。右側は城壁の上部から撮影し ている。城壁上部の回廊部分(右画像右側)は、戦車が通れる程、10m以上幅があると思われる。



 櫓型攻城兵器。左画像の左側の黒い塔が攻城兵器。左画像右側は城壁上の回廊部分。兵士達が近づいてくる櫓めがけて攻撃してい る。中央画像では、左奥から3つの櫓が城壁に取り付いているのがわかる。右画像の左側が城壁に取り付いた攻城兵器。丁度攻撃され て櫓の上から転落する兵士が映っている。



 櫓が倒壊する場面(左→右画像)。特撮ではなく、実物大の櫓を倒したものと思われ る。大迫力。



 バビロン側からは、左画像のような装甲戦車が出撃する。ウルトラセブンに登場するマグマライザーのような概観。側面に棘のつい た車輪がついて廻っていて、前面上部の手法は火炎を放出している。が、あまり活躍しないまま映像から消えた。右画像は、兵士の首 が吹っ飛ぶ場面。これも何か特撮のようです。



 中央はキュロス2世。右はキュロスと内通してバビロンを開城させた裏切り者のバビロンの高僧。



 上左は高僧の裏切りとキュロス軍の進撃をバビロンに伝えに走るヒロイン。後年の古代 ローマのスペクタクル史劇につきものの戦車競争のエッセンスが見て取れます。戦車のかっこよさがよく出ている映像でし た。戦車競争ものの起源も本作にあるのかも、と思った次第です。映画の中では、字幕部分でキュロスがバビロンで発布した 円筒印章であるキュロス・シリンダー(1879年発掘)にも言及していて、本作でのキュロス・シリンダーの位置づけは、 キュロスのプロパガンダという解釈となっています。

 他に起源となる映画はあるのかも知れませんが、とりあえず1907年製の「ベン・ハー」も見てみました(著作権期限は 切れているのでこちら に映像のリンクを張りました。16分の短編映画です)。1907年の「ベン・ハー」では、カメラが固定され ていて、戦車競争というよりは、オリンピックの入場行進(というといい過ぎですが)のようも感じられなくも兄味気ない映 像でした。とても競争しているようには見えない、戦車が次々と通過するだけの映像となっています。




 何頭か通過したところで突然「ベンハー勝利」と字幕が出たので、ベンハーが 勝利した、ということがわかる、という映像です。

 ところで、今回視聴したイントレランスは、The Killiam Shows Version版の176分版です。

 視聴後の印象をざっくり言えば、「カビリア」は 確かに後年の史劇映画の多くの要素が盛り込まれているものの、筋立てはシェークスピアの古代ローマ悲劇や、19 世紀に記載された古代ローマものの小説で登 場していて、20世紀初頭の「カビリア」が製作された時期には既に馴染みのあるものである筈であり、衣装もオペ ラや演劇で既に登場していることを考えれ ば、「カビリア」独特といえる部分は火山の噴火映像と人びとの合成や、数十メートルもの巨大神殿と神像のセッ ト、ローマ軍船の特撮、マチステ映画という、 その後のイタリア映画ジャンルを形成するキャラクターの登場くらいに限定されてしまうのかも知れません。しかし それでも、1960年代の凡庸なイタリア史 劇映画と比べても遜色のない完成度の作品が1913年に製作されていたという点は驚きです。

 「カビリア」と比べると、イントレランスで は、より多くの斬新な撮影技法(クローズアップ、クロスカッティング、車による移動撮影など)があり、映画史上 では「イントレランス」の方が名高い理由は 納得できるものがあります。車による移動撮影は「カビリア」にも使われているようですが、どこで使われていたか あまり記憶になく、「イントレランス」で の、汽車と平行してカメラが移動する場面など、その後のアクション映画と遜色ない利用のされ方をしています。俳 優の演技も、「カビリア」では、舞台劇調で すが、「イントレランス」では、表情がアップされ、涙が流れ唇が歪むなど、演技も舞台劇とは異なる、映画特有の 表情演技が強調されています。

 今回再視聴して気づいたことの一つは、「イントレランス」を構成する4つの時代のパートの時間配分です。キリ スト処刑と聖バルテルミーの虐殺のパートは30年前観たときにも印象が薄かったのですが、今回正確に測ったわけ ではないものの、印象的な時間配分は、

 現代米国のパート 45%
 バビロン陥落のパート 40%
 聖バルテルミーの虐殺のパート 13%
 キリストの処刑 2%

  という感じです。新しい撮影技法が盛り込まれているのも殆どが現代米国のパートで、バビロンのパートは、カビリ アを遥かに凌ぐ、百メートル近い(字幕では 300フィートと出ているが、実際は6,70m程度だと思われる)城壁と宮殿のセットと、CGが登場する以前の 20世紀後半の歴史映画と比べても遜色の無 い迫力満点の攻城戦の映像に尽きると言えそうです。「カビリア」では攻城場面ではカメラが固定されていました が、「イントレランス」では多様な方向から撮 影しています。というわけでバビロン篇について、衣装やセット、攻城戦の映像を紹介する記事を書いてみました。ご興味のある方はこちらをご参照ください。昔見たときの記憶で は、攻めて側のキュロス2世は登場していなかったように思っていたのですが、ちゃんと登場していました。キュロ ス2世の映像を見ることができたのはラッキーでした。

※キュロスの一人称小説があるようです。
I Am Cyrus: The Story of the Real Prince of Persia」(2011年)
メディア征服からバビロン征服あたりまでの話のようです。
※1961年作「ロード島の要塞」 1/30日に日本語版dvd発売
 
「イントレランス」 のIMDbの映画紹介 はこちら
「ベン・ハー (1907年版)」のIMDbの映画紹介はこちら
古代イラン映画一覧表はこちら

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