2014年英国製作。初期キリスト教の殉教者で聖 人聖カテリーナ(285年頃-305年頃)の生涯を描く。とい う内容となっていますが、フィクション度非常に高く、コンスタンティヌスとカテリナが幼馴染だったり、イタリアや現チュニジ ア・リビアあたりを支配していたマクセンティウスがエジプトを支配していたり、マクセンティウスがカテリナを自由にしようと したり、コンスタンティヌスが、僅かの側近及び改宗キリスト教徒であるスコットランドの原住民を引き連れ、カテリナに会うた めに小部隊でエジプトに上陸し、最後は民衆と一緒にコンスタンティヌス自らカテリナの墓を作るなど、見ていて、聞き間違いか な、とか見間違いか、とか、記憶違いかな、とか、度々見返す必要があり、大して面白い作品でもないのに結局ほぼ2回分視聴し ていしまいましたが、上述した内容の通りでした。もしかしたら、この作品は、聖カテリナの聖人伝説を忠実に映像化したものな のかも 知れません。聖カテリナの伝説は、「レ ゲンダ・アウレア」(LEGENDA AUREA)という、中世ジェノヴァの大司教ウォラギネ (Jacobus de Voragine,1230-98年)が編纂した聖人伝に登場するらしいのですが、この聖人伝にも、コンスタンティヌスと幼馴染で、彼がカテリナを探して エジプトに来る話は載っていないようなので、この部分は、本作品独自の脚色かも知れません。 本作の舞台は、エジプトとスコットランド(ハドリアヌスの城壁付近)の2つに絞られていて、冒頭部分でローティーンのカタ リナが、(幼児5-7歳くらいに見える)コンスタンティヌスに、海岸で一緒に本を読んでいる場面から始まり、見回りにやって きたローマ人将校マクセンティウスに、子供なのに弁が立つことから、カテリナがアレクサンドリアのローマ宮廷に連れ去られ、 そこで育ち、一方コンスタンティヌスは、父とともに、ブリタニアに赴任して成長し、ハドリアヌス城壁付近で国境警備の任務に つく、という形で、2つの舞台で進んでいきます。以下はアレキサンドリアのCG(3Dではありません)。街の概観の場面はほ とんどこれだけで、あとは宮廷内の映像や、劇場でカテリナが説教する場面程度。衣装は比較的凝っている感じですが、宮廷の柱 が凹凸や傷一つないなど、低予算な感じ。 以下は4枚ともカテリナのもの。出てくる場面によってはあまりに印象が異なります。伝説では20歳くらいで殉教したとのこ と ですが、左画像などでは40歳くらいに見えます。ドラマ『聖アウグス ティ ヌス』に登場した、アウグスティヌスの母親モニカを連想してしまうような感じ。中央は、ヒロインに相応し い美少 女な感じですが、角度によっては、欧米系というより、エジプトやパレスチナの現地人(のおばさん)に見えなくもない、どうか すると、右端のように中南米のマヤ族の女性のように見えなくもないカットも出てきます。右から2枚目は法廷で賢者を論破する カテリナ。 拷問の場面は無かったのに、突然目の周りに痣ができて、衰弱しています。 左から、コンスタンティヌス、コンスタンティウス・クロルス、その妻テ
オドラ、マクセンティウス、ヴィタ(ガルスの妻だと思われるが、はっきりしない。画面ショットはとって
いませんが、Hellenaという名の老婦人がガルスの妻かも知れません。なお、Hellenaはコンスタンティウ
スの前妻のヘレナなのかは、映画の中では何も言及がないので不明です)、右端が貴族ガルス。
〜あらすじ〜 少女(ローティーンくらい)カテリナが、コンスタンティウス(5-7歳くらい)と海岸で本を読んでいると、ローマ軍がやっ てきて、徴税しようとする。ローマ人の一人が、ラテン語かギリシア語らしき言葉で問いかけると、カテリナも同じ言葉で返す。 これに興味をもったローマ人は、カテリナをアレクサンドリアに連れ去る。アレキサンドリアのローマ人貴族ガルス(ピーター・ オトゥール:本作は、彼の最期から2番目の出演作)に引きとられたカテリナは、彼のもとで学問を身につけ、成長する。 15年後、市の有力者の会合では、カテリナが書いた本が問題となっていた。禁書にするかどうか、ローマに送付して伺いを 立てることになる。 一方、カレドニア(スコットランド)のハドリアヌス城壁付近では、ローマ軍と現地住
民の間で死者を出す程の紛争が耐えなかった。現地人は、映画『第九軍団のワシ』や、『ギング・アーサー』に登場するよう
な、全身刺青のエキゾチックな容貌ではなく、服装だけが蛮人っぽいだけの人びと。何故か殆ど女性(もしかしたら全員女性
かも)。
将校として勤務しているコンスタンティヌスは、副皇帝コンスタンティウスに呼び出され、昇進を拒否していることなどを 問いただされる。ここでの会話から、コンスタンティヌスは、コンスタンティウスの子供ではなく、エジプトで家族を殺さ れ、コンスタンティウスに引き取られてきたらしい、ということがわかる。 場面はアレクサンドリアに戻り、ガルスは、十年以上のカテリナへの教育も無駄だっ
た、と嘆き、皇帝マクセンティウスは、カテリナを牢獄に入れる(結構唐突な展開で戸惑う)。
その頃、ハドリアヌス国境付近では、蛮族がローマ軍に奇襲をしかけてきた。なぶ
り殺しにされるローマ兵。死体をあさる野犬。結構残酷でリアルな戦いの描写。戦いの後、現場を訪れたコンスタンティ
ヌスは、カテリナが砂浜の上に書いていた太陽のような図案のメダルを捕虜の蛮族が身につけているのを見つける。メダ
ルについて捕虜に問いただすが、返答はなかった。
軍営に戻ったコンスタンティヌスは、増援を主張する兵士に反対する。、これに対し、コンスタンティウスは数だけ増 やしても蛮族は平定できないとコンスタンティウスに主張し、結局コンスタンティウスは国境から撤退する。部族に交渉 に出向いたコンスタンティヌスは、年老いた族長(これも年老いた女性)に、カテリナのことを知っているのなら、なぜ 助けに行かない?と正され、彼女の消息は、コンスタンティウスが知っている、と指摘される。 アレクサンドリアでは、当初ガルスの妻ヴィタがカテリナの教養を試し、大したものではない、と無力化しようとする が、逆にカテリナの硬い信仰と深い知識が顕かになってしまい、ローマ(の似非知識人にとって)に脅威となるような存 在である、ということが明らかになり逆効果になってしまう(しかし実際のところ、このヴィタという人が、何を意図し たのかがあまりよくわからない)。カタリナを劇場に集まる民衆の中に連れ出し、そこにマクセンティウスが2人の奴隷 をつれてやってきて、その前でカテリナを棒で打つ。怒りに燃える奴隷をカテリナが制すると、奴隷はおとなしくなり、 マクセンティウスは奴隷を解放し、引き上げてしまう。なんでこういうエピソードが挟まれたのかがよくわからない。カ テリナのカリスマ的な側面を描こうということなのだろうか。続いてコンスタンティウスの軍営から逃亡してきた兵士が ヴィタとアレクサンドリアの有力者のところにやってくる。彼は、コンスタンティウスはローマの神を信じるのをやめた と報告する。ヴィタは、コンスタンティウスの話が出た後で、カテリナを殺すのはまずい、彼女を公開討論会に引き出そ う、と提案する。この部分もよくわからなかったのですが、カテリナを信じるエジプトの人びとと、コンスタンティウス の両方が脅威となるとまずい、という話なのかも知れません。それにしても、カテリナが民衆を教化している場面はまっ たくないのに、どうしてこういう展開になるのか、いまひとつわかりにくい展開です。 以下はカタリナと市の有力者かつ知識人が議論をする会場。ここでのカテリナは、冒頭の画像で紹介したように、目の 周りに痣をつくり、杖にすがりついて討論をする、討論というよりも裁判のような感じです。 ここでなされる議論は、神というものに関する知識の深さを競う内容となってい
て、議論をリードしたルフスという都市参事会議員は、カタリアの学識が低いことを証明し、「これで議論は終わりだ」
と、穏便に済まそうという感じだったのですが、カタリナは、古代ギリシアの知識を披露して、ホメロスでさえゼウスを
こき下ろしている、全てを越す全能の神は、ギリシアやローマの神とは別にいるのだ、と論破してしまい、最後には、義
父ガルスが立ち上がり、「カテリナは真実を語った。私を許してくれ」とカテリナに近づいたところ、議場の天井2階回
廊に潜んでいたローマ兵がガルスを射殺してしまうのだった(ガルス射殺という展開もいまひとつよくわかりませんでし
た)。
結局カテリナはローマ兵に連行されてしまう。 その頃ブリタニアでは、コンスタンティウスが死の床についており、コンスタンティヌスを呼び寄せ、マクセンティウ スがカタリナを処刑したとの報告を告げ、更にコンスタンテイウスは、コンスタンティヌスに、後継者(西のローマ正皇 帝)となるよう、強要し、渋っていたコンスタンティヌスも遂に折れるのだった。 続いて処刑の場面。巨大な鉄車に手足を縛られ、城壁に吊るされるが、紐が切れて墜落してしまう。そこで、今度は、 手足に釘を打ち付けて、再度吊るされる。 更に、ローマ兵に「イエスのように」と茨の王冠を被せられる。茨の棘で皮膚が傷つき、顔に血が流れ、更に手首に打 たれた釘から腕に血が流れるカタリナは、まさにキリストのよう。そうして、カテリアの目に、天国からの声が聴こえる のだった。 そうして、再度車輪は落下し、その鉄輪の下敷きとなってカテリナは命を失うの
だった。
どういうわけか、早くもカタリナ殉教の知らせがブリタニアにも届く。コンスタンティヌスは、単身マクセンティウス と交渉に向かう。コンスタンティウスは単身で、マクセンティウスも数名の側近がいるだけで、野原での会見(右下中央 がマクセンティウス)。 しかし、会見したとき、子供の頃(この作品の冒頭)、徴税に来て家族を殺した男がマクセンティウスだと気づいたコンスタン ティヌスは、マクセンティウスの側近2人瞬時にナイフで殺害すると、驚いたマクセンティウスは逃げ出してしまう。残った側近 は、コンスタンティヌスに降伏。コンスタンティヌスは、単身マクセンティウスを追撃し、追い詰めて殺す。 こうして、軍隊による戦闘もなく、ローマ帝国の単独皇帝となった(とてもそんな感じには思えないが)コンスタンティヌス は、ブリタニアの蛮族の元に戻るが、蛮族に、カテリナに会いにエジプトへ行こうと奨められ、数名のローマ人と蛮族とともに、 エジプトへ向かう。上陸した一行は、カテリナを探して旅を続け、ついに、カテリナの遺体を運んで旅する信者一行に出会う。コ ンスタンティンは、信者たちに告げる。 「私は、王ではない。君たちは自由だ」と宣言し、人びとと一緒カテリナの墓を作るのだった。 〜おしまい〜 この作品は、2010年頃に予告編が出た時には、2011年完成予定となっていたのですが、延期を重ね2014年に公開と なった作品です。題名も、製作国UKでは、公開時には、「帝国の没落:アレクサンドリアのカテリーナ ( Fall of an Empire: The Story of Katherine of Alexandria)」に、米国では「帝国の衰退(Decline of an Empire)」と変わっていて、製作が相当紆余曲折を辿ったであろう様子が題名の変化からも偲ばれます(いっそのこと、『帝国の滅亡』という題名でもよ かったかも。ラスト付近でコンスタンティヌスが、はっきり「私は王ではない。君たちは自由だ」と発言していることですし)。 予算はIMDbによると12億ポンドとなってい て、1ポンド200円とすれば24億円で、それほど低い額ではありません。ピーター・オトゥールなどの出演料と、度重なる延 期に大半が消えてしまったのでしょうか。聖人伝の映画化なのだから、カテリナを守護聖人として祭っている地域の人びとは、ま た違った感想を持つのかも知れませんが、私にとっては、イマイチな作品にしか思えませんでした。こんなに長い記事を書くほど の作品でもなかったのですが、映画の紹介記事を書くのはほとんど1年ぶりなので、勘が鈍っていたようです。2010年前後 は、ヒュパティアを扱った『アゴラ(邦題アレクサン ドリア)』)や、『聖アウグステシヌス』など、古代 末期の聖人や学者を扱った良作が製作されていたので、本作も、その流れにあるものと思っているのですが、作品の完成度からす ると、『アゴラ』や『聖アウグルティヌス』とは大きく差がありそうです。 なお、エンドクレジットで、カテリナ由来の、エジプトのシナイ・半島にある聖 カテリーナ修道院(世界遺産にも登録されている観光地の画像が紹介され、聖カテリナは、1965年に教会から非 難されたが、2000年に名誉回復されたことなどが紹介されています。 IMDbの映画紹介はこ ちら Amazonのdvdは こちら |