2010年スペイン・ブラジル製作。スペインの黄金の世紀の詩人・劇作家ロペ・デ・ベガ(ローペ・デ・ベーガとも(Félix Lope de Vega y
Carpio)(1562-1635
年)の若かりし頃を描く。本作、スペインの映画賞である2011年度ゴヤ賞の7部門(助演女優・美術・衣裳・メイク・歌曲・特殊
効果・プロダクション)に
ノミネートされ、衣裳と歌曲賞を受賞しています。歌曲はちょっと私の趣味には合いませんでしたが、美術・メイク・衣装・特殊効果
といった、歴史映像の再現
に関する賞にノミネートされたのは当然と思える程素晴らしい出来栄えです。こういう作品だと知っていれば、ユーロが値上がりする
前に買っておきたかった。
現在1ユーロ126円と、この2週間で10%も高騰してしまいましたが、再びユーロ安になるのが待てず、ESアマゾンに注文して
しまいました。今月末のイ
タリア総選挙の結果によってはまたユーロ安に振れるような気もしているのですが。。。商品6,78ユーロ、送料10,57ユー
ロ、計17,35で送料の方 が高いという。。。 本作の見所は、16世紀末マドリッド市街の再現映像ですが、助演女優賞にノミネートされたロペの愛人エレナ・オソリオを演じたピラール・ロペス・デ・アンジャラ(下右)の演技も見応えがありました。 顔立ちが若い頃のシガニー・ウィーバーと大竹しのぶに似た感じ。特に、顔の各筋肉を自在に動かせるのではないかと思える程、微妙 な感情を表現する繊細な演 技は大竹しのぶを思わせるものがありました。「女王ファナ」でファナを演じた女優さんだとは見ている最中は気がつきませんでし た。上画像の左が主役のロ ペ。二枚目な上に人懐っこい笑顔のみならず、女性を称える詩作のプロなので、大変なプレーボーイです。その割には不倫が嫌で(そ もそもエレナが既婚者だと 知らずに関係を持った)別れようとしたりします。中央は、ロペの最初の妻となるイサベル・デ・ウルビーナ。この三人が主役。一言 で言えば、三角関係の話で すが、当時の演劇の様子も描かれています。ピラール・ロペス・デ・アンジャラは日本でも知名度がある筈だし、昨冬公開された映画「もうひとりのシェイクスピア」などで16世紀末の欧州演劇への関心も高まっ ているかも知れないので、本作、日本でもdvdが出て欲しいところです。日本語版dvdが出る可能性もありそうな作品なので、今 回はあらすじは省略します。少し調べたところでは、だいたい史実に沿っているようです。 クセジュ文庫「世界演劇史」に よれば、1635年頃のマドリッドには40の劇場があり、慈善院が、募金の為劇団に中庭を提供していたそうです(p63)。本作 で登場する劇場は、まさに 慈善院の中庭にあり、同書に記載がある通りに、中庭の一方に庇があり、その下に舞台があり、舞台は木の机を四脚並べ、その上床板 を渡す構成とのこと。だい たいそのような構造となっているように見えます。 下層民はアレーナに並べた長椅子に座り、中流層以上は中庭を囲む建物の上部の窓から観劇する構造。下左は、映画後半で、ローペ新 作「新世界の征服」上演の 様子。コロンブスの新大陸発見を描いたもの。舞台に観音開きの扉を設置し、扉が開くと、扉の内側に描いた絵が両側に展開するとい うもの。ゴンドラの手前 は、水色の布を下から吹き上げて海に見せる演出が行われています。斬新な演出に観客は大喜び。 上右は、上流層の夜会の様子。薄暗くて地味な感じがリアルな印象を与えています。映像の感じは、汚いといわれた昨年のNHK大河 ドラマ「平清盛」の映像に 似た感じ。ロペの家は、マドリッドの裏通りにあるのですが、家の前の道は、ごみや塵が堆積したのか、元々舗装されていないのかわ からないほどです。通りで 遊ぶ子供達は浮浪児かと見まがう程。 楽屋の小道具係りの顔は汚れているし、窓ガラスは歪んでいて、上流階層のイサベル・デ・ウルビーナのベッドの黄金飾りは、枠線が 不揃い。屋根瓦は青苔むし ていてもう最高です。下左は、劇作家で劇団経営者ジェロニモ・ヴェラスケス(エレーナの父親)の家の中庭。瓦の苔がいい感じ。下 右はヴェラスケスの家の二 階廊下。欄干から屋根に伸びる柱の頭頂部は、日本や中国の建築で斗栱とか組物と言われているものに似ています。日本や中国建築史 ではポピュラーなのに西欧 建築史では言及されているのを見たことが無いので、この映像には大いに興味を刺激されました。そのうち西欧建築での斗栱について 調べてみようと思います。 下左もヴェラスケスの家の屋根。右は当時のマドリッドの俯瞰映像。俯瞰映像は二度出てきて、二度目は、この画像よりも更に遠望 となっていて、もう卒倒しそう。感激です。 最後のこれはリスボンの映像。右は駆け落ちしたロペとイサベラが、リスボンに到着したところ。左は市場。 この時代のリスボンの映像は、ヴァスコ・ダ・ガマを描いたインド映画「秘剣ウルミ」でも一瞬登場していましたが、「ウルミ」よ り本格的な映像が嬉しい限り。 ロペの劇作がどのように革新的だったのか、映画でも若干触れられていますが、クセジュ文庫「世界演劇史」では、「人間個人の明晰 な情熱の諸相について、 ローペがもたらしたものは殆ど無い。シェクスピア的宇宙とラシーヌ的人間像は論じられるが、「ローペ的」宇宙と「ローペ的」人間 は語られない(p66)」 と手厳しい扱いです。ま、著者がフランス人だからかも知れませんが。。。 ローペの作品は邦訳が出ているのも初めて知りました。 「スペイン黄金世紀演劇集 牛島 信明訳」 「バロック演劇名作集 (スペイン中世・黄金世紀文学選集)」 「オルメードの騎士 (岩波文庫) ロペ・デ ベガ 著」 取りあえず、今までスペインの黄金の世紀の作家はセルバンテス以外知らなかったので、「オルメードの騎士」あたりから読んでみよ うと思います(※その後、 「オルメードの騎士」を購入し、解説を読んでみたところ、当時、劇作家の著作権は、劇場主に原稿を渡した時点で譲渡される習慣に あったことが記載されてい ました。本作の中で、劇場主ヴェラスケス演出の練習中の劇を見たロペが、台本が変更されていることに難色を示し、ヴェラスケス が、著作権は俺が持ってい る、これは俺の作品だと主張する背景が、解説を読んでよく理解できました。※※更にその後、図書館で佐竹 謙一 著「 スペイン黄金世紀の大衆演劇―ロペ・デ・ベーガ、ティルソ・デ・モリーナ、カルデロン (南山大学学術叢書)」 を参照しました。本映画の背景を知るにはまさにうってつけの書籍でした。冒頭30頁強で、この時代のスペイン演劇の流れと概要が 記載され、続いてロペの演 劇理論、セルバンテスの演劇論が解説され、続いてなんと、当時の劇場について約50頁にわたって解説されています。白黒ですが、 当時の劇場の再現CGが掲 載され、実際にあった劇場の図面や構造図、入場料(当時の物価や労働者の給与まで紹介されている)、観客や劇団、役者、劇団・劇 場経営などが詳細に解説さ れていて、これは欲しい!と思いましたが、ちょっと高額すぎて当分手が出ないのが残念です。とりあえず2/16日に岩波文庫から「スペイン文学案内」が出版されたので、購入しました。なんてタイムリー 。ざっとめくってみたところでは、同著者の、2009年研究社から出版された「概説 スペイン文学史」に近い内容です。是非「スペイン黄金世紀の大衆演劇」も復 刊して欲しいと思います。復刊したら絶対買います)。 ところで、この記事を書きながら、久しぶりにオスマン朝スレイマン大帝時代を描いたドラマ「壮麗なる世紀」(第八十三話/1月 23日放映)を見てみたとこ ろ、宰相イブラヒームが遂に処刑されてました。これまで何度も夢落ちだったので、今回も誰かの夢なんじゃないの、と最後まで見ま したが、完全にお亡くなり になっています。このドラマでは、あまりの人気ぶりに、最後まで死なない設定なのかも、と思っていたのですが、これでなんとか歴 史ドラマに踏みとどまった ように思えます。 IMDbの映画紹介はこちら。 スペイン歴史映画一覧表はこちら。 Amazon dvdはこちら(英語字幕あり) |