2009年チェコ製作。本作は、歴史映画ではなく、チェコの伝説を扱った作品です。歴史作品
ではないので、今回の歴史映画紹介とは別に扱おうと考えてい
たのですが、チェコの近代以前の歴史映画が全然見つからないことから、チェコの歴史に関する本では良く扱われている有名な伝説で
もあることだし、ロシア語
版がネットにあったので、取り合えず視て見ることにしました。チェコ映画といえば、歴史映画より歴史っぽい御伽噺話映画が豊富な
お国柄。本作も、伝説のリ ブシェ女王を扱った作品なので、「Three Gifts for Cinderella(Tři oříšky pro
Popelku/
邦題「シンデレラ/魔法の木の実」(日本ではビデオ発売のみ)/1973年」のような正統派御伽噺的歴史映画を想定していまし
た。最初の30分は、予想通
りの映像でしたが、次の30分で気分が悪くなり、ブログの記事に取り上げることは止めようかと思い、ラストに至り、あまりな終わ
り方に、一体チェコ人はどういうつもりでこんな映画を作ったのか、と疑問に思えてしまいました。IMDbの紹介を
読むと、「このアプローチは、チェコでは、映画の上映期間中、大きなスキャンダルとなった」と、記載されており、「やっぱり
ねー」と思ったものの、
IMDbの平均評点がたったの2.8点/10点満点、USアマゾンでも星2.5/星5という評点を見て、今度は逆に、「この評点
はあまりに酷すぎ」だと思えてきて、
今まで散々お世話になりながら、ログイン登録が面倒だったので、手続きをしていなかったIMDbに登録し、10点評価をつけ、更
には英語版dvdも購入してしまいました。 IMDBの評点分布を見ると、本日(2011年7/2)現在、302投票中、86が10点、101票が1点となり、極端に評価が 分かれています。しかし、 2点評価も36あり、平均すると2.8点と低い結果となってしまっています。また、若い人(20歳以下)は2.5点以下、30歳 以上は3.0点以上と、年 齢が行っている方のほうが、受け入れることができるようです。更に、本作のWikiの記事では、米国では好意的に受け止められた、と記載があります が、IMDBでも、US在住者は4.2点、その他の国は2.7点となっています。 リプシェの伝説は、ネット上の日本語でもいくつも記事が掲載されていますが、本作でテーマとなっている重要な部分が抜け落ちて います。その部分を、ヴラスタ・チハーコヴァー「プラハ幻影」p10から引用します。 「あなたたちは、女性より、鉄の刃を振り回すきびしい支配者の方を心の中で欲しているようです。あなたたちは、現在の自由を大 事にしない。奴隷になりたいようだし、君主に税金を払ってもよいというのだから」 本作は、この、リブシェの予言が実現すると、どうなってしまうのかを、ある意味忠実に映画化したものといえます。本作は、あらす じ中心ではなく、リブシェ 女王時代と、プシェミスル王(チェコ初代王朝プシェミスル家開祖)時代を、ポイント毎に画面ショットで対比させる解説をしたいと 思います。ご興味のある方 は「More」をクリックしてください。本作は、多くの人の共感を得ることは難しいと思えるので、日本語版dvdの販売を望むも のではありませんが、それ でも、一部の人、これを受け入れられる人には大きな指示を受ける可能性があります。IMDbで高評価している方々や、私のよう に。できれば、日本語版も (ネット有料視聴でもよいから)出て欲しいと思います。 IMDb映画紹介はこちら。 チェコ歴史映画一覧はこちら 冒頭、下記テロップが流れます。 - チェコ・プラハのモルダウ川を望む高い崖の上に、紀元700年頃のヴィシェラッド城(Vyschrad)の遺跡が残ってい る。賢者であった族長クロク(Krok)は、彼の三人の娘達と生活していた、その三人の娘とは、 治癒者カズィ 司祭のテラ 未来を見ることができるリブシェ である。これは、彼らの生活と、伝説と、知恵の時代の終幕を描いた話である。 - 映画は、クロク王の死の床から始まります。リブシェは、死神(白いフードを被った若い美女)が、段々と王に近づいてくるのを見て 不安になるが、どうにもし ようがなく、遂に死神が王に口付けをした時、王は召される。そしてリブシェが王につく。リブシェ王の時代は、戴冠式は、下記のよ うに、森の中に人々が集ま り、素朴な雰囲気でした。 リブシェも、王というより、村長さんという感じです。下記は裁判の様子。これも戴冠式と同じでいつもの場所。 ところが、相続を巡った兄弟間の殺人事件の裁判を巡って、高官達が不満を持ち、リブシェに夫を迎える形でプシェミスルが王につ いてからは、以下のように変わる。 砦ができ、民衆は砦の中には入れなくなる。護衛が民衆に槍を向けていることがわかる。右手に、砦に入ってゆくリブシェの後姿が 映っているが、リブシェにもどうにもできない。そして下記は、木造の宮廷内の王。 プシェミスル王は、ふんぞり返って貢納品(税金)を受け取り、話も聞かずに判決を下し、罪人の手を斧で切ったりする冷酷な統治 を行う。その王の戴冠式も、リブシェとプシェミスルでは全く異なる。 リブシェの戴冠式は、いつものように森の中で、姉のカズィが、リブシェに王冠を載せる。一方のプシェミスルの戴冠式は、薄暗い 宮廷内。真ん中が王、左がリブシェ。 リプシェ時代は、三姉妹が移動する時は、荷馬車に三人が乗って、護衛も2人だけ。異民族に襲われれば戦うが、軍装というものは 無かった。例えば、下記のような、ハザール人に三姉妹の乗った馬車が襲撃されたりしている。 しかし、彼らを裁くのは、公開の宗教裁判で、長女カズィが、捕らえた敵の喉を切り、その血を神に捧げる儀式を行う。 この、トーテムを中心とする祭儀場では、前王クロクの葬儀も盛大に行われた。下記、トーテムの横にある、木で作った船が国王の 荼毘ようの棺であり、これを燃やすのである(この船型棺を燃やす場面は、「原初 のロシア」でも登場 しているので、古代スラブ人には共通して見られた祭式なのかも知れない) しかし、プシェミスル時代には、裁判は王個人の即決であり、トーテムのある祭儀場は使われなくなり、廃墟のようになってしまう。 姉カズィも、最期は、病気 となり、このトーテムの元までたどり着いて、うずくまるようにして死ぬのである。やりきれない場面だった。そして、軍事も、下記 のような軍装がなされるよ うになるのである。中央はプシェミスル王。背後は武装した兵士。 更に、リプシェ時代、女王の護衛隊長は、ヴラスタという、リブシェと幼馴染の女性で、リブシェに密かに恋心を抱いているが、それ を表に出せるわけもなく、 一時は、リブシェの隠れた恋人である王位に着く前のプシェミスルに半分強姦のような形で襲われ、愛人にまでさせられてしまう。プ シェミスルが王位について からは、洞窟で女だけの盗賊団のようなものを組織するようになり、どんどんすさんでゆくのである。下記は洞窟で、プシェミスルの 独裁にたまりかねた貴族の 話を聞くヴラスタ。 何かをむさぼり食べながら、だらしなく、尊大な態度。そしてこの貴族の目玉を抉り取って、ペットのハゲワシに食べさせるので あった。 そのヴラスタも、リブシェが王の時代は、二人、川原に並んで、おしゃべりしたものである。この場面を思い出し、映画とはいえ、 泣けてきてしまった。そのヴラスタは、映画ラスト近くで、リブシェを守ろうと、無謀にも王と対決し、無残にも殺されてしまうので ある。 そして、リブシェ。下記は映画冒頭でのリブシェ。まさにチェコ御伽噺映画そのものといえる、美しい映像。 彼女は、美しいままなのだが、隠れて愛人(プシェミスル)を作り、一時は肉欲のままに性に溺れる日々を送り、遂にはプシェミスル を王にして国を荒廃させ、 姉も親友も失い、絶望するに至る。そして冒頭同様、川原で、白いフードを被った美しい女性 − 死神 − を見て、川に飛び込み 自害するのであった。 救いようの無い結末だった。まるで共産主義時代の反封建映画。これが米国の方が高い評価というのには皮肉としかいいようがな い。それにしても、川原で笑顔の、ヴラスタとリブシェの姿が焼きついて離れない。 関連書籍:チェコの伝説と歴史(アロイス・イラーセク 著) 19世紀末から20世紀初頭のチェコ人作家、アロイス・イラーセクの書いたチェコの伝記物語。原典は子供用のイラスト入りな童話 物語とのことだが、訳本は 挿絵を少なくし、大人向けの文章がぎっしりつまった580ページの大著となっている。リブシェ伝説は、従来は中世の「コスマス年 代記」などに記載されてい たエピソードとのことだが、本書では、かなり構想を膨らませて書いてあるので、非常に参考になる。主にフス戦争までを描く(以 降、18世紀までは分量が減 る)。 |